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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第306話

イーセリアの事を突っ込まれて、ギルバートは落ち込んでいた

ジェニファーならば、少しは理解してくれると思っていた

しかし実際に返って来た言葉は、キチンと責任を取れという事だった

婚約を破棄とまで行かなくとも、相談ぐらいは乗ってもらえると思っていたのだ

それがあっさりと切り捨てられてしまった

ギルバートは落ち込みながらも、上目遣いで母の顔色を窺った

しかしジェニファーは、澄ました顔をしてお茶を飲んでいた

この様子では、下手な言い訳をしても無駄だと悟った

ギルバートは覚悟を決めて、ジェニファーみ話を始めた


「母様…」

「先ほども申したでしょう

 私はもう、あなたの母ではありません」

「ぐっ…」


「それでは、ジェニファー様」

「はい

 何でしょうか?殿下」

「私の様な者が、セリアの夫になってよろしいのでしょうか?」

「そうね

 あなたがまだ、その様な事を言っている様では問題がありますね」

「そうですか…」


「逆に聞きますよ

 ギルバート殿下

 あなたはセリアの事をどう思っていますか?」

「どうって…」

バン!


ジェニファーは怒りの形相で、机を激しく叩いた。

こんなに怒った顔をしたのは、アルベルトが街で酔っ払って帰った時以来だった。

あの時は酔った勢いで、若い女性に肩を借りて帰って来ていた。

それで怒ったジェニファーに、アルベルトは頭から冷水をぶっ掛けられたのだ。


「え…っと?」

「いい加減にハッキリしなさい

 セリアが他所の男に取られていいの?」

「それは…」

「嫌なんでしょう?」

「はい」


「まったく

 そういう所はアルベルトに似なくても…

 いえ、ハルもそうでしたね

 はあ…」

「え?」


ジェニファーは盛大に大きな溜息を吐いた。


「あなたはどうしたいの?」

「それは…

 セリアは大事だと思うけど、結婚なんて…」

「まだ考えられない?

 それでもあなたは王族なのよ」

「はい」

「戴冠式を終えれば、王太子として国営を学んで行く必要があるの

 その横では、誰かがあなたを支える必要がある」

「それが…セリアだと?」


「逆に、セリア以外に居るの?」

「いえ」

「だったら何で?」

「いえ…

 そのう…」

「なあに?」


ギルバートはもじもじしていたが、意を決して話した。


「国王様は早く子供を作れって」

「そうね

 それも立派な王族の仕事ですよ」

「しかし私は、セリアとそんな事が…

 そんな事を…」

「はあ…

 何を悩んでいるのかと思ったら」


ジェニファーは頭を抱えた。


「そういった事は、時期が来れば自然とそうなります

 焦ってみても嫌われるだけですよ」

「え?」

「当たり前でしょう

 子供を作るのは仕事だと言いましたが、本当に仕事にして良いもんですか

 セリアの気持ちもあるでしょう」

「はあ…」


「一体、何をそんなに焦っているの」

「それは…」


ギルバートはここで、アーネストに渡された本の事を話した。

最初は笑顔で聞いていたジェニファーも、内容を聞いて青筋を浮かべていた。


「まったく

 アルベルトにしても、アーネストにしても

 どうしてムードとか考えないのかしら」

「ムード?」

「それは正しい本では無いわよ

 男女が子供を作るのは、お互いが好きだからよ

 その好きって気持ちを確認する事が重要なの」

「はあ…」

「あなたにはそういう知識が乏しいのね」

「はい」


ジェニファーはメイドに目配せして、本を何冊か持って来させた。


「これは?」

「女性が恋愛に憧れて、心をときめかせる為の本です」


それは所謂、女性向けの恋愛小説だった。

ジェニファーはそれを渡して、もっと女性を知りなさいと叱った。


「しかし、父上もそういった事は教えてくれなくて…」

「当たり前です

 大体アルベルトは、そういうところはズボラなのよ」


ジェニファーはアルベルトの事を思い出して、怒った顔をしていた。


「そんな所は似なくて良いのに」

「はい…」

「良いから、もう少しは学びなさい

 その本はあなたに貸しておきます」

「はい」


ジェニファーはお茶を飲むと、落ち着きを取り戻そうとした。

メイドに新しいお茶を淹れてもらって、ゆっくりと話し始める。


「それで、どうするの?」

「そうですね

 上手く出来るか…」

「ハッキリしなさい!」

「はい

 婚約をします」

「違うでしょ!」

「ええ?」


ギルバートは暫く考えてから、そもそもが話す相手が違う事に気が付いた。


「あ…」

「分かったの?」

「はい」


ギルバートは立ち上がると、跪いてから口上を述べた。


「ジェニファー様

 イーセリアと結婚したいと思います」

「それは本気と受け取って良いのね?」

「はい」


ジェニファーは真剣な顔をしてギルバートを見た。


「どうかこの婚約をお許しください」

「はい

 それでは我が娘、イーセリアとの婚約を認めます」

「ありがとうございます」


ギルバートは礼をしてから、改めて席に着いた。


「はあ…

 こういう事なら、最初から教えていただければ…」

「あら?

 私はセリアの母と言ったでしょう?」

「そうですが…」


「それにね

 あなた達の結婚に関しては、以前に認めると言ったでしょう」

「そうですが、あの時は冗談かと…」

「最初から本気よ

 精霊の女王様と王太子

 これほどお似合いの二人は居ないでしょう?」

「そうでしょうか?」


「それよりも、イーセリアを大事にしてあげてね」

「はい」

「あの子はずっとあなたを待っていたのよ」

「そうなんですか?」

「ええ

 ずっと信じて待っていたの

 だからあなたが迎えに来てから、綺麗になったでしょう?」

「う…」


最近セリアが綺麗になった気がしていたが、それは間違いでは無かったのだ。

単に意識したからでは無く、実際に綺麗になっていたのだ。


ギルバートは葡萄酒を飲み干すと、立ち上がって帰ろうとした。


「あら?

 セリアには会って行かないの?」

「ええ

 さすがに疲れました」

「そう?

 それなら仕方が無いわね

 でも、こういう時にも会っておくのは必要なのよ」

「参考にさせていただきます」

「ふふふ…」


ギルバートがドアに手を掛けた時、ジェニファーは明るく声を掛けた。


「今度来る時は、アーネストも連れて来なさい」

「アーネストですか?」

「ええ

 フィオーナの事をどうするのか、確認をしておきたいから」

ゴン!


ギルバートは思わず、ドアに激しく頭をぶつけた。


「いや

 あいつは私の事を、兄と呼びたくないと言っていましたよ」

「そうねえ

 でも、フランドール様が亡くなられたからねえ

 嫁ぎ先が無いのよ」

「それは…」

「アーネストにキチンと責任を取る様に伝えてちょうだい」

「ええ!」

「嫌そうな顔をしないの

 頼んだわよ」

「はあ…」


ギルバートは溜息を吐きながら、離宮を後にした。


「そういう訳でな、近々離宮に行く事になるぞ」

「あのなあ…」


アーネストは頭を抱えていた。

ここはアーネストの私室になった、塔にある1室だった。

ギルバートは離宮を出た後、すぐにこの部屋に向かった。

近頃はアーネストは、この部屋で魔導書の研究をしていると聞いたからだ。


「だからってここに来るなよ

 ボクは魔導書の解明に忙しいんだ」

「そう言って、フィオーナの事から目を逸らしているんだろ?」

「ぐぬう…」


ギルバートの一言に、アーネストは返す言葉が無かった。

何とか誤魔化しているが、フィオーナの事は気になっているのだ。

しかし叙爵を受けていないので、どうするか迷っているのだ。


「それで?

 どうするつもりなんだ?」

「それは…」

「ハッキリしろよ」

「自分が決まったからって…」


しかしギルバートの言う事も尤もなのだ。

こうして逃げていれば、いずれはフィオーナの婚約話も纏まるだろう。

そうしてから慌てても、アーネストだけではどうにも出来ないのだ。

今なら対抗馬も居ないので、ジェニファーさえ説得出来れば、可能性は十分にあるのだ。


「今のボクには、資格が無いんだ」

「子爵の叙爵予定なのにか?」

「ああ

 あくまでも予定だ

 もう一つぐらいは実績を作らないと」

「なら、オーガでも狩に行くか?」

「馬鹿か!

 そんな簡単に狩れるか

 ボクは魔術師だぞ」


魔術師だから、同行者が居ないと迂闊には外に出れない。

そして同行者が居れば、単独で狩ったとは認められないだろう。

ギルバートみたいに単独で討伐は、普通は出来ないのだ。


「だったらどうする気なんだ?」

「だから魔導書の翻訳をしているだろう

 これをギルドに提出して、宮廷魔導士の資格を証明するんだ」

「ふうん」

「自分から聞いといて、興味無さそうにするな!」

「だって私では、そういうのは分からないから」

「くうっ!」


アーネストは頭を掻きながら、怒ってギルバートを睨んだ。


「大体な

 何であの本の事をバラした」

「え?

 マズかったか?」

「マズいだろう

 ジェニファー様は恐らく呆れてるし、フィオーナにバレたら…」

「どうなるんだ?」

「軽蔑した目で見られるだろうな」

「ぶふっ」

「笑うな!」


アーネストは涙目でギルバートを睨んだ。

しかし元々は、アーネストが貸したのが原因である。

それをギルバートに怒るのは、筋違いであろう。


「まあ、フィオーナには一緒に謝ってやるから」

「そういう問題じゃあ無い

 フィオーナに軽蔑されるなんて…」


「まあまあ、まだバレたわけじゃあ無いんだから」

「お前なあ…」


アーネストはこれ以上は集中出来ないと踏んで、諦めて魔導書を閉じた。


「そもそも

 何で本の話をした」

「それは…

 私が知っているのは、あの本ぐらいしか無いからな」

「はあ…

 そもそも、お前が女性に興味が無いのが問題だぞ」

「そうか?」

「ああ

 そのせいで変な噂も立つし」

「変な噂?」


変な噂とは、ギルバートとアーネストの仲を勘繰った噂だ。

しかしギルバートは、それも知らないのだ。


「はあ…

 知らないなら、知らない方が良い」

「何だよ

 教えろよ」

「だから知らない方が良いんだよ」

「気になるだろ」


なおも食い下がるギルバートの肩を掴み、アーネストは真剣な顔をした。


「良いか?

 世の中には知らない方が幸せな事もあるんだ」

「そうなのか?」

「ああ

 だから絶対に詮索するな!」

「あ、ああ…

 分かったよ」


アーネストの圧に負けて、ギルバートは頷くしか無かった。


「それで?

 フィオーナの件はどうするんだ?」

「うーん

 もう少し待てないのか?」

「ああ

 早目に行った方が良いぞ

 母上の目は本気だった」

「うへえ…

 怒ったジェニファー様は怖いからな…」


アーネストもギルバートに倣って、覚悟を決めるべきなのだろう。

気は進まないが、一度は話しておく必要があるのだろう。


「分かった

 明日にでも時間を作るよ」

「ああ

 昼過ぎにでも向かうとするか」

「そうだな

 昼食時だと気を遣うから、その方が良いだろう」


アーネストも了承して、挨拶に行く事にした。

話しは終わっただろうと、アーネストは再び魔導書を開いた。


「それは何の本なんだ?」

「ん?

 エルリックに貰った魔導書だよ

 こいつが解明出来れば、ギルドの魔術師にも使える魔法が増える

 そうすれば魔物との戦闘も楽になるだろう」

「攻撃用の魔法か?」

「ああ

 火・水・風・土の4大属性の基礎魔法だ」


「あれ?

 火の魔法は無かったか?」

「ん?

 そういえば説明して無かったか

 あれは後期の魔導王国時代の魔法だ」

「どう違うんだ?」


「後期魔導王国時代とは、所謂帝国に滅ぼされる直前の魔法なんだ

 だから帝国に伝わった魔法と大差無いんだ」

「それで?」

「帝国に伝わったのは、魔導王国の中でも簡略化された魔法なんだ

 これはその前に主流になっていた、世界の根幹に訴えかける魔法なんだ」

「だから、どう違うんだ」

「ん?

 ああ…」


アーネストは羊皮紙を取り出すと、簡単に2本の線を引いて説明を始めた。


「魔法って元々は魔力と呼ばれる力を使うんだ

 これは前期の魔導王国でも同じなんだ

 違うのは名称がマナになっているのと、使い方の違いだな」

「ん?」

「今に伝わるのは、大気中に漂う魔力を集めて、人間の身体に貯め込む

 それを呪文とイメージを使って、無理矢理現象として起こすんだ」

「よく分からん…」

「すまん

 お前が馬鹿なのを忘れてた」

「この!」


「分かった、分かった

 これならどうだ」


アーネストは指先から火を出してみせる。


「呪文を唱えるか、繰り返して呪文とイメージを覚える

 そうして詠唱無しで火が着けれる」

「ああ

 火点けの魔法だな」


「これを火を点ける呪文では無く、火の根源に呼び掛けてマナを火に変える

 これが魔導王国の魔法なんだ」

「ん?」

「あー…

 つまりは火を点けるでは無く、火にしてしまうんだ」

「分からん」


アーネストは一旦火を消すと、呪文を唱えた。

まだ慣れていないので、詠唱が必要だったのだ。


「火よ

 原初より燃え盛る火よ

 汝の力を示せ

 ファイヤー」

ボッ!


「これは火を点けるでは無くて、マナを直接火に変えてしまう

 だから消費する魔力も少なくなるし、形や大きさも自由に出来る」


そう言ってアーネストは、火を輪っかにしたり大きな四角にしてみたりする。


「おお…」

「こういう事だ」


火はアーネストの指先を離れて、空中を漂う。


「任意の場所に点ける事も出来る

 コツは必要だけどな」

「凄いな」


「これは元々は、古代王国時代に主流だった魔法なんだ」

「へえ…」


アーネストは自慢げに胸を反らしていた。

まだまだ続きます。

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