第304話
ギルバートは風呂に入ってから、食事をする為に食堂に向かった
そこではドニスが用意を済ませて、アーネストと待っていた
アーネスト自身は食事を済ませていて、単純に会いに来ただけだった
彼はギルバートの向かい側に座って、ギルバートが座るのを待っていた
彼の手元をよく見ると、酒の入ったグラスを持っていた
アーネストは葡萄酒をチビチビと飲みながら、ギルバートが食事を終わるのを待っていた
食事は王宮ではよくある、スープと白パンにサラダが用意されていた
サラダには刻んだ干し肉が載せられて、野菜を煮込んだソースが掛かっていた
それらを食べながら、ギルバートはスープにパンを浸す
食事が終わったところで、お茶が用意された
「ふう
やっと一息着けたよ」
「お疲れさん」
アーネストはニヤリと笑うと、グラスをテーブルの上に置いた。
「先ずはダーナ…
いや、オウルアイか?
再建おめでとう」
「ああ
まだまだ問題は山積みだが、取り敢えずは一段落だな」
「問題とは魔物の事か?」
「ああ
食料は精霊の加護がまだ効いているだろうから、大丈夫だろう
むしろ加護が効いている内に、魔物の討伐に慣れて欲しいよ」
「それは難しいだろう
オークまでは何とかなるだろうが、オーガに関しては称号やスキルが必要だろう?
いくら兵士が訓練しても、そこは時間が必要だろう」
「そこなんだよな
何度も討伐を繰り返さないと、魔物には勝てないだろうな」
「兵士の人数は足りているのか?」
「騎兵が50名ほどで、歩兵でも50名だ
とても足りないよ」
「王都から向かった兵士は帰還したからな
彼等が加わっていれば違ったんだろうな」
「そこなんだが…
冒険者を回している」
「冒険者を?」
ギルバートは冒険者達を、低ランクの魔物の討伐に回している事を告げた。
そしてこの方法を、王都でも採用するべきだと説明した。
「なるほどね
確かにゴブリンやコボルトなら、冒険者でも対応出来るだろう
しかしオークやワイルド・ボアに関しては、それなりの腕が必要では?」
「そこで冒険者にも、ランクを作るべきだと思うんだ」
「冒険者にランクを?」
「ああ
魔物のランクみたいに、このランクではここまで討伐を受けれる
この魔物の討伐には、このランクの実績が必要だ
そんなランク付けだな」
「ふむ…」
アーネストはその話を聞いて、ある事を思い出していた。
「それは…
過去に魔導王国で使われていたランクの事か?」
「魔導王国の?
それは何なんだ?」
「はあ…」
アーネストは頭を抱えていた。
偶然とは言え、ギルバートが言っている事は、過去に魔導王国でも採用されていた。
冒険者ギルドでランクを作って、各種依頼をランク別に受けさせていたのだ。
今の冒険者ギルドでは、そこまでの依頼は受けていなかった。
実績は新人とベテランんで分けていたものの、その分類は登録者のみの曖昧な物だった。
「今のギルドでは、簡単な依頼を受けれる新人と、ある程度危険な依頼を受けれるベテランの2つに分けられている
護衛や採掘等の危険な仕事は、ギルドでベテランと認められないと受けられない
その程度のランク分けだな」
「ああ
それぐらいは知っているぞ」
「魔導王国では、AからIまでの9段階に分けていたんだ
Iは新人で、今のギルドの新人と同じ扱いだな」
「へえ」
「Hは討伐依頼を除く、採取や採掘までを受けれるランクだな
戦闘は出来なくても、採取や採掘は出来るからな」
「なるほど」
「ランクGから討伐を受けられる
まあ、ランクGでは野生動物やゴブリンぐらいだな
コボルトやオークだと、ランクFからが推奨になっていたみたいだ」
「それはどうやって知ったんだ?」
「エルリックから貰った書物に書かれていたんだ
国王様にも写本を渡している」
「そういえば、私がランク付けを提案した時に、国王様は何か知っている感じだったな」
「そうかもな
サルザート様には提案をしておいたからな」
「そうか…」
ランク付けが具体的になれば、無謀な討伐は行われなくなる。
そうすれば怪我人や死者も減るので、その分腕利きの冒険者が増えるだろう。
無謀な挑戦はせずに、地道に討伐を繰り返せば、冒険者でもオーガを倒せる筈なのだ。
実際に、ダーナの冒険者はオーガを倒せる者も居たのだ。
王都の冒険者でも、訓練次第では可能な筈なのだ。
「オーガを討伐となれば、ランクFになる必要があるのか」
「そうだな
魔物のランクより上のランクで無いと、討伐の依頼を受けられない
これを統一しておけば、兵士や騎士にも当てはめれるだろう」
「なるほど
何も冒険者に限る必要も無いのか
兵士や騎士にもランクを…」
「ああ
だが気を付けないといけないな
魔導王国では、このランク付けが人間のランク付けにまで広がった」
「人間のランク付け?」
「職業やスキル、能力で格付けをしたんだ
それに選民思想が持ち込まれた」
「あ…」
「ランクの低い人間はまともな仕事にも就けないし、差別される事になった
そうなると、どういった弊害があるか想像が付くな」
「ああ
奴隷や人を人として扱わない…」
「そうだ
それが原因で大きな内戦が起こった
魔導王国が滅びたのは、この内戦が原因とも言われている」
人の格付けは危険である。
誤った格付けは、その人の人格や地位を否定する事になる。
現にそれが原因で、事件を起こした者も居た。
ガモン商会のガモンも、誤った価値観の格付けをした者だった。
「ガモンやベルモンド卿の様な者が現れれば…」
「危険だな」
「ランクに関しては、どこまでを参考にすべきだろう?」
「今考えられるのは、訓練の内容と討伐実績だろうな
指定のランクの依頼を規定数こなすとか、そんなものだろう」
「なるほど
その考えでギルドマスターと相談する必要があるな」
「ああ
詳しくはサルザート様と相談した方が良いだろう」
「助かったよ
後で相談してみる」
ギルバートは有力な情報を得て、アーネストに感謝していた。
「ところで…」
「ん?」
「お前は何をやらかしたんだ?」
「へ?」
「セリアとの婚約だよ
責任を取ってと書かれていたぞ?」
「あ!
ううむ…」
「まさか!
無理矢理…」
「何もしていないぞ!
何も…」
「ん?」
ギルバートは新年に起きた事を、素直にアーネストに話した。
最初は不信感で睨んでいたアーネストも、話を聞き終わる頃には笑い出していた。
「ぎゃはははは
それは災難だったな」
「笑うなよ
こっちは最悪な気分だったんだぞ」
「そうか?
セリアと一緒に寝てたんだろ?
お前はセリアの事を好きなんだから、ドキドキしてたんじゃないか?」
「そりゃあ好きだけど…
妹としてだぞ」
「ん?」
「お前なあ…
セリアもお年頃だぞ
いつまでも子供扱いをしていると、間違いを犯すぞ」
「間違い?」
「今回の添い寝がそうだ
年頃の女の子と一緒に寝るなんて羨ま…けしからん」
「そうか?
少し前まではフィオーナとも…」
「それがいかんのだ!
なんて羨ましい…」
「何だ?
お前はフィオーナと一緒に寝たいのか?
それなら…」
「馬鹿者!
お前は!
お前は…」
アーネストは泣きそうな顔をしながら、唇を噛んでいた。
「恋人でない若い男女が、一緒に寝る事は問題があるんだ
子供の作り方は教えただろう」
「あの本の事か?」
「ああ
愛し合う男女が、如何にして子供を作るのか…」
ギルバートはアーネストから渡された、いかがわしい本を思い出した。
「私はセリアと、あんな事をしたいとは…」
「全く無いとは言わんよな」
「それは…」
「お前がそうやって意識するって事は、セリアを女として見ている証拠だ
それとも、セリアに迫られても誤魔化せるのか?」
「セリアはそんなはしたない事は…」
「させたら男としては最低だぞ」
アーネスト真剣な顔をして、ギルバートを睨んだ。
「セリアはお前の事を、兄としてでは無く男として見ている
それぐらいは分かるだろう?」
「それは…」
言われてみれば、最近のセリアの視線が、以前とは違っている気がしていた。
それが何とも言えない視線で、見詰められると頬が紅潮するのを感じていた。
「急に変われとは言わない
ただ、セリアを悲しませる事はするなよ」
「あ…
うん」
「取り敢えずは、婚約おめでとうと言っておこう」
「おう
ありがとう」
ギルバートは礼を言いながら、ふと質問をしていた。
「なあ
アーネストもフィオーナの事が…」
「言うな
今のボクでは、フィオーナを幸せに出来ない」
「え?」
「だからと言って、諦めるつもりは無い
いずれ実績を積んで、正式に求婚するつもりだ」
「アーネスト…」
「だが!
お前を兄と呼ぶつもりは無いからな」
「はあ?」
「お前をお兄さんと呼ぶなんて…」
「ぷっ
くくくく…」
「笑うなよ!」
ギルバートはアーネストが、自分の事をお兄さんと呼ぶ姿を想像した。
そうして思わず吹き出していた。
「安心しろ
フィオーナとは兄妹では無くなる
少なくとも戴冠したら、私は王太子だからな」
「ああ
そうなって欲しいよ」
「私は国王様の息子だからな
フィオーナは従妹になる」
「試しにお義兄さんって呼んでみるか?」
「呼ぶか!」
ギルバートが揶揄うと、アーネストは顔を真っ赤にして怒った。
しかしギルバートは、アーネストが義弟というのは満更でも無かった。
ニヤニヤ笑いながら、さっきの仕返しを楽しんでいた。
「それ以上言うと、こっちも仕返しするからな」
「それは勘弁してくれ」
二人は互いに見合いながら、どう言い負かそうかと考えていた。
あんまり仲が良いので、ドニスが横で咳払いをした。
「ん、おほん」
「あ…」
「そろそろお茶が冷えております
代えを出しましょうか?」
「お願いします」
「ボクは果実水を頼む」
二人は飲み物を頼んで、改めて話を再開した。
「そういえば、魔術師が足りていないんだよ」
「オウルアイの街か?」
「ああ」
「魔物の討伐は無理でも、付与の魔法やポーション作りが出来る者が居ないんだ」
「それは困ったな
当ては無いのか?」
「ああ
だからアーネストの方で、ギルドに照会してもらえないか?」
「そうだな
あそこまで行ける者は少ないだろうな」
「ああ
魔術師って体力が無い者ばかりだもんな」
「そこは否定出来ない」
ギルバートに誰か居ないかと聞かれても、推薦出来る様な者は居なかった。
「せめて魔術師だけでも、生き残っていればな…」
「そうだよな
犠牲になった者が多過ぎる」
ヘンディー将軍や騎兵部隊の隊長達はみな亡くなっている。
魔術師にしても、ミリアルドやミスティといった有能な魔術師が全滅している。
各ギルドのギルドマスターも亡くなっていたし、仲の良かった住民達もみな死んでいた。
彼等の一部でも、生き残っていれば随分と違っていただろう。
「おじさんも…
ボクがこの手で…」
「ヘンディー将軍は喜んでいたと思うぞ
お前に看取られたんだからな」
ヘンディー将軍は死霊と化していたが、アーネストに止めを刺された。
その時に将軍は、一瞬笑っていたらしい。
アーネストは見間違いだと言っていたが、多分本当に笑っていたのだろう。
心まで魔物に囚われていたのが、最期にアーネストによって解放されたのだ。
彼にしては嬉しかっただろう。
「それで?
これからどうするんだ?
ギルドにでも行くか?」
「ああ
国王様からは、待機しておく様に言われている」
「例の冒険者のランクだな」
「恐らくな」
ギルバートは答えながら、大きく伸びをした。
「それにな
旅の疲れがまだ残っている」
「ああ
そういえば戻ったばかりだったな」
「おい
さっきお疲れ様って言ってただろう
忘れるなよ」
「はははは」
ギルバートは少し横になると言って、そのまま自分の部屋に戻って行った。
アーネストも肩を竦めると、裏の離宮に向かって行った。
そこにはフィオーナ達が住んでいて、今頃セリアが帰って来て騒ぎになっているだろう。
フィオーナの手助けをしようと、アーネストは離宮に向かった。
ギルバートは自室に入ると、鍵を掛けてから寝台に横になった。
食事をしたばかりなのもあって、すぐに睡魔に襲われる。
抗いがたい眠気に負けて、そのまま夕刻までぐっすり眠っていた。
そして夕刻を過ぎた頃、ドアのノックの音で気が付いた。
「殿下
宰相様が呼ばれております」
「分かった、すぐに行く」
ギルバートは支度を済ませると、自室のドアを開けた。
そして兵士に案内を任せて、そのまま国王の執務室に通された。
「サルザート様
殿下をお連れしました」
「入っていただいてくれ」
「はい」
「失礼します」
ギルバートは礼をして入ると、中には国王と宰相、そして冒険者ギルドのギルドマスターが待っていた。
国王はギルバートに座る様に促して、話を始めた。
「謁見の間で挙がっていた話じゃが
実は前例はあるのじゃ」
「魔導王国でのランクですね」
「知っておったか」
「いえ
アーネストから聞きました」
ギルバートはアーネストから聞いた事を話して、ランクの付け方も提案した。
「なるほど
基本はランクより下の魔物しか討伐出来ない」
「ええ
それならば、誤って無茶な戦いを挑む事は無いでしょう」
「しかし素材が欲しくて、無謀な挑戦をする者は出ませんか?」
「それはあるでしょうね
しかしギルドの依頼以外を受けるのは、あくまでも自己責任でしょう?
ギルドでは勝手に受けない様に伝えているので、そこまでは責任は取る必要はありません」
「そうでしょうが…
勝手に向かいますよ?」
「それは止めれないでしょうね
勝手に受けるのを違反として処罰しますか?」
「それも一つの手でしょうね…」
こうしてギルドマスターを交えて、冒険者のランク付けが決められる事になった。
宰相が草案を記して、各自で問題点を挙げて、確認する事となった。
まだまだ続きます。
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