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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
303/800

第303話

ギルバート達の帰還は順調に進んだ

竜の背骨山脈は1週間で登り切り、出立10日目で山脈の頂上に着いた

魔物は出現せずに、無事に頂上まで辿り着けた

魔獣も野生動物も出ないので、順調に進む事が出来た

1週間後には山を下りる事が出来て、麓の村の近くに出る事が出来た

ボルの近くでは、コボルトの痕跡が発見された

しかし精霊の加護が効いていて、魔物は付近から逃げ出していた。

そのまま公道に出て、2日ほどでボルの町に入った

そこで隊商は別れて、別行動になる。


「殿下

 ここまでありがとうございました」

「いや

 こちらもあなた達が居たから、安心して進めたよ」


ここからは馬車を中心にして、親衛隊だけで向かう事になる。

しかし公道では魔物は見掛けられないので、安心して進めた。


途中で町に立ち寄り、食料の補給を受ける。

その他の場所では、そのまま野営をしながら進んだ。

そして何とか出発して4週間で、王都の城壁が見えて来た。


「とうとう帰って来れたな」

「はい」

「さっそく国王様に報告するか」


ギルバート達が王都に戻った時刻は、昼過ぎであった。

リュバンニから帰還の報告が届いているので、城門には騎士達が集まっていた。

そして住民も大通りに集まって、王子の帰還を祝っていた。

よく見ると、建物に垂れ幕がつるされていて、そこには婚約おめでとうと書かれていた。


「げっ!

 あれは…」

「イーセリア様との婚約の件でしょうな」

「何で広まっているんだ」

「隊商も来ていましたしね

 王都にも伝わったのでしょう」


王都民は王子の帰還と婚約に沸いていて、大通りは賑わっていた。

初春の収穫を祝う時期でもあり、通りはお祭り状態だった。


「だからって…

 何でこんな騒ぎに…」

「それは王子の婚約ですから

 それだけ目出度いんですよ」

「そんなものか?」

「そりゃあそうでしょう

 なんたって殿下は人気がありますからね」

「私が?」


ギルバートには実感が湧かなかった。

セリアとの婚約もだが、何よりもこんなに祝われるとは思わなかったのだ。

しかしギルバートが兵士達を訓練したり、魔物を退治している事は有名だった。

何よりもダーナを魔物から解放して、新しい街を作ったのは大きかった。

これからの統治を期待して、住民達は歓待していたのだ。


「殿下のこれまでの実績ですよ」

「私の?」

「ええ

 魔物の討伐や兵士の訓練

 何よりもダーナを救った事が大きいでしょう」

「ダーナを救った?

 あれは私の我儘だぞ?」

「それでもですよ

 その手腕を期待しているんでしょう」


「陛下もお年を召しております

 殿下が実績を作られているので、国王になった際の統治も期待されているのでしょう」

「統治だなんて…

 私はそこまでの能力は無いぞ?」

「そうではございませんよ

 実際の統治は宰相や国防を担う将軍が行います

 国王というものは、それを如何に上手く纏めるかです」

「そういうものなのか?」

「ええ」


国王に何でも出来るとは思わない。

むしろ細かい事は、それぞれの部署が上手に行えるだろう。

国のトップとは、それを上手く纏めて操作する技量が問われる。

そういう意味では、有能過ぎない方が良いのだ。


「さあ

 宰相殿がお待ちですよ

 王宮に向かいましょう」

「ああ」


二人は事後処理を任せて、サルザートの元へ向かった。


「殿下

 無事のご帰還、お疲れさまでした」

「ああ

 魔物にも出くわさなかったのでな

 王都では何事も無かったか?」

「ええ

 その事で急ぎ陛下の元へご案内致します」

「ん?」


サルザートは何か言い含む様な感じで、ギルバートを案内した。

そこは謁見の間で、既に有力貴族は集まっていた。

入り口には騎士が集まっており、厳重に警戒されていた。

最初はギルバートの帰還を祝ってかと思われたが、それにしては厳重過ぎるだろう。

それに、いつもにも増して、騎士が警戒をしていた。


ギルバートは謁見の間に入ると、先ずは入り口で軽く挨拶をする。


「王子、ギルバート殿下がご帰還しました」

「ギルバート

 只今戻りました」

「うむ

 よくぞ戻って参った

 先ずは前に、近う寄りなさい」

「はい」


ギルバートは促されて、国王の前まで移動する。

そこで再び跪くと、深々と頭を下げた。


「うむ

 そこまで畏まらんでも良い」

「はい」


国王から許可を得て、ギルバートは立ち上がった。


「先ずは報告から頼む」

「はい」


そこからギルバートは、ダーナへ向かった行程を話した。

精霊の加護は暈して、魔物が出なかった事にする。

しかし魔物は存在するので、周囲では討伐した事も説明する。


「うむ

 行きは問題無く通れたのだな」

「はい」

「それで?

 街の様子はどうじゃった?」


ここで街の立て直しの件も報告して、鉱山にも人手が必要だと説いた。

今は何とか冒険者が集めているが、安定して採掘するには、どうしても鉱夫が必要だった。

その為には、ノルドの町の再建も必要である。

そういう意味では、先ずはオウルアイの街を安定させる必要があった。


「ふむ

 やはり人手が不足しておるか」

「はい

 職人もですが、魔物を狩る為の戦闘が出来る者も必要でしょう」

「そうじゃなあ

 こちらも兵士はギリギリじゃ

 何とかならんものか…」


さすがに国王も、兵力の不足は実感していた。

しかし人口に関しては、すぐにどうこう出来るものでは無い。

少しずつでも徴兵で増やして、訓練で鍛えるしか無かった。


「それと…」

「他にもあるのか?」

「ええ

 ポーションや薬草を作る者が少ないので

 出来れば魔術師を何名か派遣したいです」

「魔術師か

 アーネスト卿にも打診したが、なかなか旅に出れる者がおらんでな

 次の移民に同行させるつもりじゃ」

「はい

 よろしくお願いします」


移民の予定があると聞いて、ギルバートは安心した。

これで少しでも人口が増えれば、街は活気が出るだろう。


「次の移民には女性も加わる予定じゃ

 そうしなければ街は廃れるからのう」

「はい」


「それで?

 街の名前の変更の届けが来ておったが?」

「はあ…

 それが、そのう…」

「イーセリアとの婚約か?」

「はい…」


ギルバートは思わず言い淀んでいた。

しかし国王は、すかさずそこに切り込んだ。


「誠に目出度い事じゃ

 ワシも改名には賛成じゃ」

「国王様」

「よいよい

 二人の仲は、前々から王宮では有名な事じゃった

 婚約が決まって、ワシも安堵しておったところじゃ

 ふはははは」


国王は婚約に賛成であると示して、喜んでいた。

しかし当のギルバートは、困った顔をしていた。


「何じゃ?

 イーセリアでは不満か?」

「いえ

 不満では無いのですが…

 実感が湧きませんで」

「そうじゃろうな

 妹として育てておったからのう

 しかしイーセリアなら、ワシも家臣一同も、問題は無いと思っておるぞ」

「はい」


ギルバートは、これはいよいよ逃げ場は無いと思った。

国王が反対を述べれば、何とか白紙に戻せるかと思ったが、賛成を示したからだ。


「オウルアイの街か

 街の発展も慶事ではあるが、婚約も喜ばしい事じゃ

 今年は目出度い事が重なるのう」

「はい

 後は戴冠とご成婚が叶えば…」


国王に目配せされて、宰相も賛同した。

これで戴冠までが、今年の行事に組み込まれる事が決まった。

さすがに結婚式はずらされるだろうが、国王はそこまで考えている様子だった。


「さて

 目出度い報告は聞いたが、街の状況はどうじゃ?」

「そうですね…」


ギルバートは未だに魔物が現れる事も報告した。

精霊の加護があったとはいえ、森に出れば魔物は住み着いて居た。

それを思えば、加護が無くなった今は、街の周辺にも現れているだろう。


「早急に兵力を上げる必要はあるかと…」

「ううむ

 そこが問題じゃのう」


国王は貴族達の方を向いて、どうにか出来ないか確認する。


「オウルアイに向かわせる兵士はおらんのか?」

「ええ

 我々も手一杯です」

「私も周辺に魔物が出ますので」


「一度に出せなくとも良い

 少しずつでも融通出来んかのう?」

「それならば

 各領地から50名ぐらいずつではどうでしょう?」

「それぐらいでしたら…」


「具体的な数は、宰相の方で纏めるとするか」

「はい

 後で纏めておきます」

「うむ

 頼んだぞ」


多数の派遣は出来ないが、少数ならと決まって、何とか派遣も現実的になった。

後は移民の移動の際に同行する事にして、部隊の編成が求められるだろう。


「魔物に対しては、こんなものじゃろう」

「はい

 後は必要に応じて、冒険者の派遣をお願いしましょう」

「冒険者じゃと?」

「ええ

 ゴブリンやコボルト程度なら、冒険者でも討伐出来ます

 兵士が必要になるのは、フォレスト・ウルフやオーク等でしょう」

「ううむ

 そちらは兵士でも厳しいからのう」


「オーガに関しては、熟練した兵士でしか戦えないでしょう

 ですから、なるべく負傷者を出さない様にするべきです」

「それは、強い魔物は兵士が戦って、熟練度を上げるべきじゃという事か?」

「ええ

 弱い魔物まで相手にしていては、兵士に負傷者が増えてしまいます

 そうすれば、いざという時に兵士が足りません」

「うむ

 確かにそうじゃな」


これは以前から問題視されていて、兵士が足りなくなる原因だった。

しかし安易に冒険者を向かわせるのも、命の軽視に見えて問題だったのだ。


「冒険者達にも、魔鉱石の武器を回すべきです」

「しかし強力な武器を渡せば、それだけ犯罪が増えんかのう?」

「それもありますが、彼等が落命するのは装備の問題があります

 少しでも良い武器があれば、命が助かる場面が多かった筈です」

「ううむ」


「それに、冒険者が戦える様になれば、簡単な魔物の討伐を依頼できます

 そうすれば、兵士が一々討伐に向かわなくて済みます」

「それはゴブリンやコボルトは、冒険者に依頼するという事か?」

「ええ

 ゆくゆくはオークまでも任せれるかと」

「ううむ

 それは宰相と相談してみる」

「はい

 よろしくお願いします」


ギルバートは懸念していた事を相談できて、ホッと溜息を吐いた。


「他には何かあるか?」

「そうですね

 街での問題はそれぐらいでしょう

 後は公道の魔物の問題でしょう」

「公道か

 帰還の際に、何かあったのか?」


「具体的にはありませんが、やはり魔物の痕跡が多く見られました」

「そうじゃな

 未だに魔物の被害は多い」

「冒険者が討伐を出来る様になれば、それだけ警備も楽になります」


「実際に公道に現れるのは、主にコボルトです

 一々警備兵が相手にするよりは、冒険者が向かった方がよろしいでしょう」

「うむ

 そういう意味でも、冒険者が必要になるか」

「はい」


ギルバートは冒険者の腕を、高く買っていた。

しかし国王からすれば、冒険者にもピンからキリまで居ると思っていた。


「中には未熟な者も居るのでは?」

「未熟ですか?」

「うむ

 冒険者が全て、戦闘が出来るとは限らんじゃろう?」

「ですが、そこは自己責任で…」

「いや

 稼ぎが良いとなると、みなが魔物の討伐を目指すのでは?」

「そうか…

 確かにそれもありますね」


ここで問題が提起されて、ギルバートも悩んだ。


「いっその事、魔物みたいに冒険者にもランクを作れば…」

「ふむ

 冒険者にランクか?」

「ええ

 貢献や実績からランクを設けて、魔物を討伐するには相応のランクを必要にしてみるのはどうでしょう?」

「それはランクに応じて、討伐出来る魔物も変わるという事か?」

「ええ

 コボルトぐらいなら低ランクでも受けれますが

 オーガやワイルド・ベアなら高ランクでないと受けれない

 そうすれば無謀な討伐は出来ないでしょう」

「それは面白い」


この案には国王も賛成して、さっそく書類に纏める事にした。


「具体的な事は、ギルドマスターと相談せんとな」

「ええ

 サルザート様さえよろしければ、後日話を纏めましょう」

「そうですな

 それまでに草案を纏めておきます」


サルザートは文官にメモを渡して、何事か指示を出した。


「報告は以上でよろしいか?」

「はい」


ギルバートは頷くと、再び跪いた。


「私からの報告は、以上になります」

「うむ

 此度の任務、ご苦労であった

 追って指示を出すまで、自室で休むがよい」

「はい」


ギルバートは返事をすると、そのまま謁見の間を退出した。

そして執事のドニスを見付けると、風呂の支度を頼んだ。


「ドニス」

「殿下

 食事は済まされましたか?」

「いや

 だが、先ずは風呂に入りたい」

「ではすぐに支度をします」


ドニスは足早に去って行き、ギルバートも自室に向かった。

風呂で旅の汚れを落としてから、ゆっくりと食事にしたかった。


ギルバートが自室に向かっている頃、国王は執務室に向かっていた。


「サルザートよ

 先の話はどう思った?」

「冒険者の件ですか?」

「ああ

 今の問題にちょうど良いと思わんか?」


「そうですね

 殿下も知ってらっしゃったんでしょうか?」

「それは無いじゃろうな

 知っておれば、先ずはその事を聞いておったじゃろう」

「では偶々でしょうか?」

「そうじゃろうな」


「以前から考えておったのじゃろう

 それが具体的な案が出来て、此度の話しなのじゃろう」

「でしょうな

 えらく具体的でしたから」


「冒険者にランクか…」

「偶然ですかね?」

「そうじゃろう?

 まさかあの事を知っておるとは思えん」

「ですが、そのままですよね」

「ああ

 ギルドに渡す書類も、あれを元にしても良い」


二人は何事か頷き合い、話を纏めるのであった。

まだまだ続きます。

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