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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第298話

12の月に入って、いよいよ外は寒くなってきた

ダーナの街の中は、精霊の加護もあってそこまで寒くは無かった

しかし雪は降って来たので、加護もそこまでは万能では無い様だった

街路には雪が積もり、大通りの人通りも少なくなってきた

しかし商店には、食料が並べられていた

セリアは雪を見て喜び、外で雪を丸めていた

そのまま雪の玉を運んで、もう一つの玉の上に乗せる

そして小石を拾って来ると、上の雪玉に埋め込んだ

満足行く物が出来上がったのか、セリアは雪玉の前で喜んでいた


「お?

 これは何だ?」

「雪の人形さん」

「へえ…」


ギルバートは目しか着いていない雪の人形を見て、感心した様に頷いた。

そして商店に向かうと、人参を買い求めた。

この時期でも野菜が採れるのは、精霊の加護のおかげだった。


「ほら

 これでどうかな?」

「うわあ…」


ギルバートが人参で、人形の鼻と口を作ってあげる。

雪の人形は、すまし顔で二人を見ていた。


「人形さんが笑ってる」

「そうだな」


どちらかと言うとすまし顔だが、セリアが喜んでいるので賛同していた。

道行く人々も、二人の遣り取りを見て微笑んでいた。


すると雪の人形が、すっくと立ち上がった。


「!!」

「うわあ」

「ひっ!」


急に雪玉の人形に、白い手と足が生えた。

そして片手を挙げると、すたすたと走り始めた。


「な…んだと?」

「動き出した」

「ひいっ」

「雪が動き出したぞ」


雪玉の人形が走って来ると、人々は驚いて道を開けた。

そして雪玉の人形は、広場の方に向かって走って行った。


「待てっ」

「お兄ちゃん」


ギルバートは雪玉人形を追って、広場を駆け抜けて行った。

往来には人々が、信じられ無い光景を見て呆けていた。

その先を見ると、雪玉人形が雪を集めていた。

そして同じ様な雪玉が重なって、人形が増えて行く。


「な!」


その光景に驚いている内に、さらにもう一体を作る。


「もしかして…

 魔物か?」


ギルバートは武器を持って来なかった事を後悔していた。

今持っているのは、護身用の短剣だけだった。


「くそっ

 これで倒せるのか?」


ギルバートは短剣を抜くと、身構えて狙いを定めた。

しかし雪玉人形は、そんな事にも目をくれずに、仲間を増やしていた。

このままでは危険だと判断したギルバートは、短剣で切り掛かろうとした。


「ダメ!」

「セリア?」


その前にセリアが走って来て、両手を広げて立ち塞がった。


「セリア

 危ない」

「いじめちゃダメ!」

「虐めって…

 危ない」


セリアの後ろに、雪玉人形が1体近付いた。

そのまま人形は、セリアの後ろに回った。


「ダメなの

 この子は精霊さんなの」

「へ?」


よく見ると、雪玉の人形はセリアの後ろに隠れて、ブルブルと震えていた。


「精霊…?」

「うん

 この子は雪の精霊さんなの」


ギルバートが短剣を仕舞うと、安心したのか人形が集まって来た。

そして雪玉の人形達は、集まって陽気なダンスを踊り始めた。


「え?」

「何だ?」


広場に駆け付けた兵士達も、人形達が踊っているのを見て呆然としていた。

人形達が踊る陽気なダンスを見て、人々もいつしか笑い出していた。


「ぷっ」

「これは…」

「魔物じゃあないな」

「何て可愛らしいんでしょう」


人形達は仲間を増やして、いつしか20体のダンスが繰り広げられていた。

見守る人々も歓声を上げて、人形に目鼻を付けてあげていた。


「これは…

 一体何なんだ?」

「この子達は雪の精霊さんで、いつもここに降りていたの

 今年は精霊の力が高まっているから、姿を見せてくれたの」

「雪の精霊…

 人騒がせな」

「お兄ちゃんが追い掛けたからでしょ」


セリアはむうっと膨れっ面になって、ギルバートを睨んでいた。

ギルバートは頭を掻きながら、セリアに謝った。


「それはすまなかった

 しかし急に動き出したから、みんなも怯えていただろう」

「むう…」


「しかし、何でこんな事を?」

「それはね、いつも人間の暮らしを見ていたんだって

 そして、一度で良いから仲良く遊びたかったんだって」

「そうか…

 遊びたかったのか」


雪玉の人形達は、いつしか人間達の周りで踊っていた。

そうして人々が笑顔になると、嬉しそうに跳ねていた。


「悪い奴じゃ無いんだな」

「うん

 人間と仲良くしたかったんだって」

「そうか…」


「毎年来ているのか?」

「そうみたいだよ」

「そうか…」


ギルバートは兵士達に事情を説明して、危険で無い事を伝えた。

そして、雪玉を壊さない様にお願いをした。


「分かりました

 危険で無く、友好的なのなら大丈夫です」

「住民達にもそう伝えます」


ギルバートは説明を終わると、セリアの近くに戻った。


「なあ

 この精霊は雪なら何でも良いのか?」

「うにゅ?」

「例えば、雪で大きな人の形にしても、動かす事は出来るのか?」

「うーん…

 大丈夫みたいだけど?」

「よし!」


ギルバートは再び兵士の元へ行き、何やら指示を出した。

そして雪かき用のシャベルを持って来ると、雪を掻き集め始めた。

暫く雪を集めると、それをシャベルで固めながら、上へと積み重ねて行く。

そうしてある程度の高さにすると、今度は腕や足の形を作り始めた。

そうして1刻半ほど掛けて、大きな雪の像を作り上げた。


それは不格好ながら、人の様な形をしていた。

それに目鼻を着けると、ギルバートは満足そうに頷いた。


「なあ

 こいつに入る事は出来るのか?」

「待って…

 うん

 そう…

 出来るって」

「そうか」


話していると、雪像がゆっくりと動き始めた。


「おお!

 これは凄い」


雪像は不格好な腕を曲げて、器用に挨拶をして見せた。

さすがに重くて踊れそうに無かったが、その姿は力強く見えた。


「こいつが居れば、街の入り口も安心だな」

「もう!

 この子達はそういうんじゃあ無いよ」


セリアはそう言って膨れていたが、雪像はセリアをひょいと掲げると、そのまま肩の上に乗せた。


「うわあ…」

「はははは

 精霊様も気に入った様だな」


そうして暫く、雪像はセリアを乗せて歩いた。

この事が記録に残されて、後にダーナの冬の風物詩となる。

そして毎年冬になると、子供達が雪の人形を作る。

大人達は雪像を作って、誰の像が一番精霊に気に入られるかを競う事になる。

しかしその話は、また別の話になる。


ギルバートは精霊の扱いについて、セリアから注意を聞かされた。

雪の精霊なので、熱い場所や熱した物は苦手である。

そして臆病なので、脅かしたりしたら逃げ出してしまう。

これは先程の追い駆けっこでも明白だった。

そう言った注意事項を聞いて、兵士達に伝えておいた。

精霊に悪意は無くても、酔っ払いが怖がらせる心配があったからだ。


こうして、この日から暫くは、街の住民達が物珍しさに見に来ていた。

精霊達も人間が喜ぶのを見て、嬉しそうに踊っていた。


街の住民達が精霊に慣れる頃には、彼等は街の隅っこに集まっていた。

時折近付く住民達に触れ合うが、その他は大人しくしていた。

基本的には大人しい精霊で、人間の暮らしを眺めるのが好きだったのだ。


精霊騒動が収まる頃には、雪は本格的に降り始めた。

12月も半ばになったが、結局ギルバートは王都に戻らなかった。

竜の背骨山脈も本格的に積もっていたし、これから越えるのは無理である。

それに山脈を迂回したとしても、王都に着くのは年も明けて1月の後半になるだろう。

それを考えれば、帰還するなど今さらであった。


「そういうわけで、もうこの話はお終い」

「しかしですな…」

「ジョナサンの言いたい事は分かる

 しかしダーナの現状はこうだ

 今はまだ戻れない」

「はあ…」


ジョナサンは本日何度目かの溜息を吐いた。


「なら、せめて

 ここで新年を祝う行事を行ってください」

「しかしなあ…

 食料だって、そこまでの余裕は無いぞ」

「それでもです

 侯爵と相談していただいて、何か行事を行ってください

 そうでないと示しが付きませんから」

「分かった

 明日にでも相談してみるよ」


ギルバートはそう言うと、執務室の椅子に座り直した。

ジョナサンもそれ以上は言えないと判断して、執務室を出て行った。

ギルバートは書類の束を掴むと、続きを読み始めた。

それは今月の魔物の動向で、先ほどまで読んでいた書類だった。


ギルバートは自宅の執務室で、魔物の動向の確認をしていた。

雪が降る様になっても、一部の魔獣は出現していた。

その事を確認して、来年からの対策を練っていたのだ。

そこへジョナサンが、王都に帰らない事への小言を言いに来たのだ。


「ジョナサンの気持ちも分かるが…

 この時期でもフォレスト・ウルフが出ているからな」


フォレスト・ウルフは素早いので、侯爵の兵士では苦戦していた。

死者こそ出ていないが、未だに怪我人が出ていた。

その上ワイルド・ベアも出る事があるので、兵士だけでは危険だった。

現状は親衛隊が出ているが、侯爵の兵士ではまだ力量不足だった。

その上、王都からの兵士達も帰還している。

本音を言えば、オーガを倒せるまでは鍛えたいのだ。


「来年の春でも…

 無理だろうな」


最終の期限は夏までだが、それでも厳しいと思っていた。

予定通り、第2回目の移民を入れる必要がありそうだった。

だが、肝心の移民の候補が集まらないらしい。

貧民街の住民も、そこまでの人数は居ない様だ。


「住民の追加もだが、兵力の増強も必要だな…」


別の書類を見て、兵士が3名退役して、4名が重傷になっている。

退役した者も、怪我で戦えなくなった者だった。

これ以上増える様なら、どうにか兵士を増やす必要があった。


「どしたもんだか」


住民台帳の入居記録を見ても、これ以上兵士に回せそうな者は居なかった。

そうなってくると、どうしても兵士になれそうな者の移住者が欲しかった。

しかし、そうそう都合の良い者が居るとは思えない。

所詮は追放されていた者か、貧民街の住人ぐらいなのだ。

現役の兵士など来てはくれないだろう。


ギルバートは住民台帳や職歴記録を見ながら、うんうんと唸っていた。

しかし、悩んでみても良い答えは見付からない。

明日侯爵の元に向かった際に、相談する事にした。


それから書類を纏めたりしている内に、すっかり夜になっていた。

セリアを誘って夕食にしてから、その日は就寝した。


翌日になり、予定通り侯爵の元へ向かった。

侯爵の仕事が一段落着くまで、ゲストルームで庭園を眺めていた。

ここは元領主邸宅で、今は侯爵の屋敷に改装されていた。

侯爵の意を汲んで、外見は豪奢に見えるが、内装は落ち着いた雰囲気に造られていた

庭園はなるべく以前の形にして、セリアが世話をしていた。


今日もセリアが来ていて、鼻歌を歌いながら剪定や水遣りをしていた。

ギルバートはその姿を見ながら、のんびりと侯爵を待っていた。


「殿下

 お待たせいたしました」

「いや

 侯爵もお忙しいのに、すまない」

「いえいえ

 それで?

 遂に婚約でも発表されますか」

「はへ?」


ギルバートは思わず、出してもらったお茶を溢しそうになる。


「何の話ですか?」

「え?

 てっきり殿下とイーセリア様のご婚約が決まったのかと…」

「ぶほっ

 ゲホゲホ…」


落ち着こうとお茶を口にしたギルバートは、盛大に吹き出していた。


「何でそんな話に…」

「え?

 ここ数日は、いつもイーセリア様をお連れになられていましたよね?

 それも仲睦まじく手を握って歩いてらっしゃたときいております」

「それはセリアが迷子にならない様に…」

「しかし、精霊様と踊ってらっしゃたとも聞きましたよ」

「それはセリアが怖がりな精霊様と言ってて、怖がらせない様に…」


ギルバートが言い訳をしていると、侯爵は肩を竦めていた。


「何でそんな話に…」

「いえ

 お二人の様子を見ていると、いつ決心されるかと」

「どうしてそうなった

 セリアは妹だぞ」

「ですが、血は繋がっていないと…

 確か集落の生き残りで、養女にされたとか」

「ですが妹として育ちました」

「そんな事は無いでしょう

 血は繋がっていませんし

 お二人の様子は…

 まるで初恋を知った若い恋人たちの様でしたよ」

「止めてくれ」


ギルバートは真っ赤になって、両手を振って否定した。

しかしそうすればそうするほど、二人の仲が事実にしか見えなかった。


「そうですかな?

 どうにもお似合いなお二人に見えましたが?」

「勘弁してくれ」

「ふむ?

 それでは他に婚約者でも?」

「いや

 それは無いが…」


「でしたら、そろそろ決められませんと

 いつまでもイーセリア様は待ってはくれませんよ?」

「それは?

 どういう意味だ?」


「イーセリア様は殿下をお慕いしております

 それは傍から見ても分かるほどです」

「それは…

 兄としてでは無いのか?」

「いえ

 あれはどう見ても、子供の初恋とはいえ恋をする者の顔です」

「そう…なのか?」

「ええ

 年寄りの忠告は聞くものですよ」


「殿下も満更では無いでしょう?」

「それは…」

「自覚されていないんですね」


「分からないんだ…」

「そうですか」


侯爵は溜息を吐いた後に、優しく微笑んだ。


「それならば、今の関係を大切にしてくだされ

 そして愛おしいと思えたなら…

 どうかそのお気持ちを忘れないでください」

「分かった

 気を付けるよ」


「それと

 自分の気持ちは素直に伝えた方がよろしいですぞ」

「え?」

「後悔は先に出来ません

 終わってから…

 失って初めて気付く物なのです」

「失ってから…」


侯爵は自嘲気味に笑うと、首を振って気持ちを切り替えた。


「さて

 年寄りの繰り言は長くなります

 先に殿下のお話を聞かせてください」

「あ…

 忘れるところだった」


ギルバートは要件を思い出して、侯爵に話し始めた。

まだまだ続きます。

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