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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第292話

ギルバートは騎兵達を二手に分けて、左右から集落に向かわせた

そして左右から奇襲を仕掛けて、一気に倒そうと考えていた

騎兵達は左右に展開して、静かに集落に向かって行く

魔物はオークなので、コボルトみたいに鼻が利かない

そして動きが遅くて、コボルトの様な連携も取れなかった

騎兵達が集落に近付いたところで、ギルバートは合図を送った

騎兵達は一斉に駆け出して、集落の柵を飛び越える

オーク達は不意を突かれて、何も武器を持っていなかった

一気に駆け込んで、剣で魔物を切り裂いて行く


「はいやあ」

「せりゃあ」

ザシュッ!

ズバッ!

グガアア…


「一気に攻め立てろ」

「はい」

「なるべく数人で攻撃しろ

 そいつは膂力も強いからな」

「はい」


騎兵に声を掛けながら、ギルバートは魔物の動きを見ていた。

斥候の報告が正確ならば、まだ建物の中に魔物が居る可能性があった。

粗雑に木を組み合わせた家だったたが、オークが隠れるには十分だった。


「気を付けろ

 家の中にも居る可能性がある

 先ずは周りの魔物から始末しろ」

「はい」


隠れている魔物にも配慮して、魔物の討伐を進める。

数は32体と多かったが、1時間ほどで何とか魔物を倒す事が出来た。

後は柵の中に居る魔獣だけだった。


「魔獣は1、2…

 ん?」

「殿下?」

「あの一際大きいのはアーマード・ボアだ

 肉も素材もワイルド・ボアより上だぞ」

「え?」

「しかし…

 強そうですね」


「アーマード・ボアはランクFの魔獣だ

 強さで言ったらオーガと同等だろう」

「オーガと同等…

 そんな恐ろしい魔獣が…」

「あいつは私が倒す

 君達は残りの3体の魔獣を頼む」

「良いんですか?」


「ああ

 あいつ等は魔物の血の臭いで気が立っている

 柵にぶつかられては壊されるだろう」

「そうですね

 慎重に近付いて倒しましょう」


ギルバート達が柵に近付くと、魔獣たちは鼻息を荒くした。

飼い主を殺したからではなく、血の臭いに興奮しているのだ。

魔獣は人間の肉も食う雑食だ。

騎兵達を餌と認識して、食い殺そうと興奮していた。


「牙が危険だから、刺されない様に注意しろ」

「はい」


ギルバートはハレクシャーから飛び降りると、走り込んで軽々と柵を飛び越える。

そして背中の大剣を引き抜きながら、一気にアーマード・ボアに向かって走り込んだ。


「ちょ!

 殿下」

「危ないですよ」

「そっちは任せた

 はあっ」

ガコン!

ブヒイイイ


ギルバートは駆け出そうとしたアーマード・ボアを、大剣を盾にして押さえ込んだ。


「ふん、ぬうっ」

「げ!

 あの巨体を抑え込んだ?」

「感心してるんじゃねえ

 今の内に他を倒すぞ」

「はい」


「殿下みたいに身体強化を使うんだ」

「え?

 あれって身体強化で?」

「ああ

 我々もワイルド・ボアぐらいなら、押さえる事が出来る筈だ」


ロナルドも馬を降りると、柵を飛び越えて中に入った。

皮鎧を着ていても、身体強化なら素早く動く事が出来た。

そのままワイルド・ボアの横に着くと、首根っこを押さえこんだ。


「今だ

 突き刺せ!」

「はい」

ザス!

ザシュッ!

ブギイイイ


先ずは1体を倒して、残りが2体になった。

2体をギルバートに近付けない為に、大声で魔獣を挑発する。


「来い!

 この豚野郎」

「剣の錆にしてやる」


ロナルドも剣を引き抜くと、手を前に突き出して挑発する。

それに触発されて、1匹が突進して行く。


プギイイイ

ドドドド…!

「甘い」


ロナルドはギリギリまで引き付けてから、躱し様に剣で薙ぎ払った。

剣先が頭を掠めて、魔獣の目を切り裂いた。


ピギイイ

「良し

 今の内にこいつを倒せ」


ロナルドに片目を切られて、魔獣はバランスを崩しながら柵に突っ込んだ。

そこに騎兵達が近づいて、剣を突き立てていく。

中には切り付けた者もいたが、毛皮が固くて弾かれていた。


ガイン!

「くっ

 硬い」

「馬鹿

 剣を突き立てろ

 殿下が仰っていただろ」


「ふっ

 なかなかやるな」

ブヒヒン!


ギルバートは大剣で押さえながら、騎兵達が戦っている姿を見ていた。

アーマード・ボアも、ギルバートに押さえられて苛立っていた。

足元を必死に掻きながら、突き放そうと首を振るっていた。

しかし大剣でしっかり押さえられて、なかなか上手く引き剥がせなかった。


「さあ

 来いよ」

ブギイイイ

ドドドド…


ロナルドは再び躱して、2匹目の頭を狙った。

しかし先ほどのを見ていたのか、魔獣は首を振って躱した。

そして地面に踏ん張ると、方向を変えて再び突っ込んで行った。


「ロナルド様

 危ない!」

「ふん」

ズシャッ!


ロナルドは身体を捻りながら、バックステップで突進を躱した。

それから踏み込んで、後ろから魔獣の足元に切り掛かった。


「せりゃあ」

ズガッ!

ブギイ


切り飛ばす事は出来なかったが、後ろ足に切り傷を与えた。

魔獣はよろめいて、突進が途中で止まった。


「今だ!

 せりゃああああ」

ズドッ!

ブギイイイ…


突き出した剣は腹から胸に向かって突き刺さった。

魔獣はその場で足を掻いて、藻掻いていた。


ブギイイイ

ドドドド

「何!」

「ロナルド様!」

ズガン!


最期の1匹が向こうから突進して来た。

魔獣越しとはいえ、ロナルドはもろに突進の衝撃を受けた。


「ぐはっ」


吹っ飛ばされたロナルドは、もんどり打って頭から地面に落ちた。


「ぐ…ぬう…」

「ロナルド様!」

「くそお」


「マズい!

 このっ」

ブギイイ

ゴガゴン!


ギルバートは大剣に体当たりを噛ますと、そのままアーマード・ボアを吹き飛ばした。

アーマード・ボアは不意討ちを喰らって、衝撃で脳震盪を起こしていた。

その間にギルバートは、騎兵を助けようと振り返った。


「大丈…夫だな…」

「うおりゃああ」

「こなくそおお」

「ロナルド様を守れええ」


一気に8名の騎兵が集まって、ワイルド・ボアに剣を突き立て、振り下ろしていた。

斬撃は弾かれていたが、衝撃で魔獣も怯んでいた。

そして数本の突きが入って、魔獣も絶命していた。


ブギ…

「どうだ!」

「ロナルド様の仇だ」

「お…

 オレはまだ…死んでい…」


仰向けに倒れたロナルドを他所に、騎兵達は魔獣に止めを刺していた。


「あっちは大丈夫そうだ

 こっちも終わらせるぞ」

ブギイイイ

ズザッズザッ…


アーマード・ボアが地面を掻いて、姿勢を低くする。

次の瞬間に、猛然と突っ込んで来た。

このまま正面で受けたなら、いくら身体強化を施していても、無事では済まないだろう。

しかしギルバートは、大剣を横に構えて半身に身構えた。


「すーっ、はー…」

ブギイイイ

ドガッドガッドガッ…


魔獣は牙を前に向けながら、猛然と突っ込んで来る。

それに合わせて、ギルバートは大剣を振り抜いた。


「スラーッシュ」

ガゴーン!


ギルバートの真横を、魔獣が駆け抜けて行く。

魔獣が何歩か進んだところで、その上側がズレて行く。

そうして突進が止まると、魔獣は上下に切り分けられていた。


「す、凄え!」

「あの突進を切るだなんて」


「はあ、はあ…

 さすがに手が痺れたな」


ギルバートは大剣を地面に突き刺すと、それにもたれ掛かった。


「殿下

 さすがですね」

「いや

 ロナルド殿の方が凄いだろう」

「そうだ!

 ロナルド様!」

「ロナルド様

 生きていますか?」

「お前…ら

 後で…覚えてろ」


「ああ

 生きてた」

「まあ、ロナルド様だから」

「くっ

 この野郎…」


騎兵達に助け起こされながら、ロナルドは柵の外に運ばれた。

そこで武装を解かれて、マントの上に仰向けに寝かせられる。


「大丈夫ですか?」

「ええ

 死んではいませんから」

「むしろ一度死んで、馬鹿を直して欲しかったです」

「いや、それは…」


部下に愛されているのか、無事を確認されてからは酷い扱いだった。

しかし手当ては慎重にされる。

どうやら打ち身だけでは無く、肋骨にもひびが入っていそうだった。


「ロナルド様

 沁みますよ」

「ぐ、があっ」

「ほらほら

 暴れないで大人しくしてください」


ポーションが掛けられて、ロナルドが苦悶を上げて苦しむ。

しかし容赦なく押さえられて、包帯を巻かれる。

包帯には念の為に、薬草が巻き込まれていた。


「どうやら骨にもひびが入ってそうですね」

「ええ

 あ!

 暴れないでください」

「もう

 子供じゃないんですから」

「ぐぬっ

 貴様等…」

「はいはい

 苦情なら帰ってから聞きますから」


「今の内に遺骸を回収してくれ」

「はい」


騎兵達が傷の手当てをしている間に、兵士達が魔獣の死体を回収する。

オークの死体も使えるので、何とかオーガの載った馬車に載せる。

それが終わったら、負傷者も馬車に乗せる事になった。

ロナルドの他に、足を牙で裂かれた騎兵もいた。

二人は魔獣の死体が載った馬車の、空いてる隙間に寝かされた。


「何だか死体と一緒なのは、生きた心地がしないな」

「贅沢言わないでください

 もう乗せる場所が無いんですから」

「そうですよ

 馬には乗れないんですから

 それともここに放置した方が良かったですか?」

「おま!

 それは酷いだろう」

「無茶をした罰ですよ

 怪我の事で怒られるのオレ達なんですよ」


騎兵達は膨れっ面で怒っているが、内心はロナルドを怒っているわけでは無かった。

自分達が未熟な為に、ロナルドが無理して怪我した事に腹を立てていた。

ただ、素直にそれを言えない為に、照れ隠しでそう振舞っていただけだった。

その様子を見て、ギルバートは身に積まされる思いだった。

親衛隊の騎士達も、こうやってギルバートを心配していたのだと気付かされたのだ。


「さあ

 魔獣の遺骸も回収しました

 今度こそ帰還しますよ」

「はい」


怪我人は出たが、被害は最小限に押さえれた。

むしろ素材以外に肉も手に入ったので、成果としては上々だった。

そのまま公道を南に向かって、一行は一気に駆け抜けた。

幸い魔物は出なかったので、夕刻前には城門に辿り着いた。

そこには心配したジョナサンと、親衛隊が待ち構えていた。


「殿下

 御無事でしたか」

「ああ

 私は無事だがロナルド殿が怪我した」

「大丈夫なんですか?」

「ポーションを使ったから大丈夫だろう

 それよりも早く休ませた方が良い」

「はい

 おい!

 ロナルド様を運ぶぞ」

「はい」


親衛隊も手伝って、ロナルドを兵舎に運んで行く。

まだ医者も療養所も無かったので、怪我をしてもポーションか薬草しか無かった。

だから兵舎に運んで、兵士が手当てするしか無かった。


「医者が居ないのは不便だな」

「そうですね

 しかし医者になれる様な、魔術師や司祭はおりませんよ」

「ああ

 今後の為にも手配しておくか」


アースシーでは医者というのは、ポーションや女神への祈りで病を癒す者である。

その為には魔術師としてポーションを作成するか、司祭としての実績が必要だった。

司祭は以前に経験のある移民が居たが、彼しか資格が無かった。

そして魔術師は、今回の移住では連れていなかった。

魔法を使える者は居たが、こちらもギルドから認定されていなかった。


「ギルド職員の召還もしています

 彼等が来れば、資格も得られるでしょう」

「しかし資格を得るには、それ相応の知識も必要ですよ

 彼等のほとんどが、碌に字も書けないんですよ」

「そうですね

 その辺の改善も必要ですね」


ダーナには学校は無くて、教会で勉強を教えていた。

今回も学校という物を作るには、人も子供も不足していた。


「学校か…

 まだまだ先だな」

「え?

 殿下には早く行っていただけないと」

「いや

 私の事じゃ無いよ

 ここに建てる学校の事だよ」


「何で先なんですか?」

「それは子供が居ませんから…」

「子供でなくても、大人でも良いんですよ」

「え?」


「学校とは学ぶ為の場所ですから

 修練場と同じです

 大人でも通っている人は居ますよ」

「そうなんだ」

「ですから殿下も、恥ずかしがらずに通ってくださいね」

「私はどちらかと言うと、面倒臭いだけなんだけど…」

「え?」

「何でも無い」


ギルバートは誤魔化す様に、その場を後にした。


「早く王都に戻らないとな…

 陛下も大分苛ついていたからな」


ジョナサンは溜息を吐きながら、ギルバートの後ろ姿を見送った。


魔物の素材は、さっそく工房に運び込まれた。

今回の素材を使って、侯爵の兵士用の剣が新しく制作される。

今回作られる剣は、統一規格のショートソードになる。

使い勝手と重さを考えれば、これが妥当な装備だった。

そして魔獣の素材を使って、鎌も作られる事になった。

騎兵に装備させるのに必要だと考えられたからだった。


魔獣の肉も、その日の内に剥ぎ取られた。

さっそく夕食の為に焼かれて、兵士達に配られた。

兵士達は喜んで、今日の成果を噛み締めていた。


「こんなに美味いのなら、毎日でも狩りたいな」

「そうだな」

「でも、魔獣は魔物よりも少ないんだろ?

 なかなか見掛けないって聞いたぞ」

「そういえば、殿下もそんな事を言っていたな」

「毎日食えれば良いのにな…」


兵士達は肉を噛み締めて、肉の旨味を味わっていた。

今度はいつになれば味わえるのかと、しっかりと味わっていた。


ギルバートは夜の内に侯爵の元を訪れて、今日の成果を報告した。

その上で孫を怪我させた事を謝罪した。

侯爵は兵士からの報告も聞いていたので、謝罪を快く受けた。

その上で孫の非礼と無謀な行動を謝罪した。


「はははは

 これでお互い様ですな」

「ええ

 ですが怪我に関しては、私の見通しが甘かった事もあります」

「止してください

 無事に戻って来たんですから」


「それより、夕食はもう食べられましたか?」

「いえ

 この後向かいます」

「でしたら一緒にどうです?

 お話したい事があるんでしょう?」

「バレていましたか」

「はい」


ギルバートは侯爵と一緒に、広場の食堂に向かった。

まだまだ続きます。

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