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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第291話

ギルバートは騎兵を引き連れて、公道を北へと向かった

その先はノルドの森の北側になり、大型の魔物が住むエリアになる

油断していると、オーガやワイルド・ベアが襲い掛かって来る

ギルバートは森に入る前に、一度斥候に付近を探させた

先制されては、彼等では一気に全滅もあり得るからだ

斥候は付近の森を捜索して、魔物の痕跡を探した

幸い痕跡はすぐに見付かり、斥候はすぐに戻って来た

しかしその顔は真っ青で、心なしか震えていた

他の騎兵達は、そんな彼を臆病だと揶揄っていた


「何だよ

 そんなにビビッてちゃあ、腰の剣は振れないぜ」

「そうだぞ

 何を怖がっているんだ

 はははは」


「お前達はアレを見ていないから…」

「あん?」

「複数の魔物の骨が残っていた」

「それは人食い鬼ってぐらいだから、他の魔物でも食ったんだろ?」


「いや、そうじゃあない

 そうなんだけど、そうじゃあない」

「はあ?」

「それは大きな歯形が着いていた

 そして途中で噛み切った様に、一部が欠損していたんだ」

「へ?」


「つまり大型の魔物が、コボルトか何かを食ったんだろう

 3m近い巨人がうろついていた跡だ」

「え?」

「3m?」


騎兵達はギルバートの言葉を聞いて、近場の木を見上げた。

その木でも2m50㎝ぐらいしか無かった。

3mと言えば結構な高さになる。

急に相手の大きさを意識して、数人の顔色が悪くなった。


「え?

 でも、騎士達は倒したんだよな」

「殿下?

 そうなんですよね?」


「ああ

 デカいと言っても、動きはそこまで早くない

 要は馬で躱しながら、足を切り裂けば良いんだ」

「でも、腕もありますよね?」

「そうだな

 膂力があるから、まともに食らえば一撃だな」

「う…」


騎兵達は今更ながら、魔物の姿を想像して怖じ気付いた。

普通に考えれば無理も無い事だった。

自分達の倍ぐらいの大きさの魔物が、大木の様な腕を振るって来るのだ。

それは普通に怖いだろう。


「どうした?

 怖じ気付いたか?」

「そ、そそそ、そんなわけ、ねえ」

「ロナルド様

 声が震えてますよ」

「う、うるせえ!」


ロナルドはギルバートに、怖じ気付いたと言われてムキになった。

そして強がって虚勢を張っていた。

しかし騎兵達は怖がって、ほとんどの者が帰りたがっていた。


「どうしたんだ?

 さっきまではあれほど自信満々だったのに」

「うるせえ

 こ、怖くなんか、ないぞ」


ロナルドは虚勢を張ると、震える手で剣の柄を握っていた。


「食事跡があるのは分かった

 それで足跡はどうだった?」

「足跡は森の中に向かっています」

「そうか

 それでは付近には居そうに無いな」

「はははは

 オレ達に恐れをなして、逃げ出したんだろうぜ」

「それは無いな

 恐らくは、まだその辺に居るだろう

 警戒して進むぞ」


「え?

 森の中を進むのか?」

「無茶ですよ

 見つかったら逃げられませんよ」

「大丈夫だ

 奴等が動き回れば、それだけ木が折れて空き地になっている

 だから馬で追い掛けても大丈夫だ」


ギルバートはそう言って、魔物がへし折ったと思われる木の跡を追った。


暫く折れた木を目印に進むと、地響きの様な揺れを感じた。

それは微かだが、等間隔で揺れている。


「魔物だ

 近いぞ」

「へ?」

「あ…

 揺れてる?」


揺れの間隔から、恐らく2体は居ると感じられた。

ギルバートは身体強化を使って、木々の隙間から向こうを見る。


「居たぞ

 2…3体か?」

「3体?」

「いきなりそんなに!」


魔物が3体と聞いて、ロナルドも及び腰になった。


「安心しろ

 まだ距離があるから気付かれていない

 慎重に進むぞ」

「はい」

「大丈夫なのか?」


「良いか?

 姿が見えたら一気に切り込むぞ

 振り回す腕に気を付けながら、足を先ず攻撃するんだ」

「はい」

「腕はどうするんだ?」

「先ずは足を切り裂いて行動不能にする

 腕はそれからだ

 それまでは馬を操って避けるしかない」

「くそっ

 どうにでもなれ!」


一行は物音を立てない様に気を付けて、慎重に前進する。

次第に地面の揺れは大きくなり、それが魔物の歩く振動だと気が付く。

そして木々の向こう側に、遂に魔物の頭が見えた。


「で、デカい…」

「あんな大物と?」

「一気に突っ込む

 気付かれる前に切り込むぞ

 続け!」

「はい」


ギルバートが声を掛けて、一気にオーガの足元に向かう。

本当は1体ずつ戦いたかったが、足止めする魔法も罠も無い。

それならば、3体が離れている内に動けなくさせる必要があった。


「私が左を狙う

 みんなは右を狙ってから奥を頼む」

「はい」

「後続は動けなくなった奴の腕を狙ってくれ

 くれぐれも正面に立たずに、振られた腕を切り落とすんだ」

「はい」


ギルバートは指示を出しながら、ハレクシャーに手綱を当てる。

ハレクシャーは合図を受けて、左のオーガの足元に向かった。


グガア?

ゴアアアアア


「ひっ、ひいー…」

「あわわわ…」

「恐れるな

 侯爵の兵士の腕を、存分に見せつけてやれ」

「くっ

 言われなくとも!」


「はっ、せりゃあああ」

ザシュッ!

グガアア…


ギルバートが先制に、オーガの左足を切り裂いた。

横薙ぎに切り裂かれた足は、骨まで傷が達していた。

オーガはバランスを崩して、腕を振り上げたまま倒れた。


それを見て、右側の騎兵も決死の覚悟で突っ込んで行く。

振るわれた右拳を躱しながら、ロナルドが右足に切り込んだ。

続いて左足にも騎兵が向かい、よろめいたオーガの左足を切り裂いて行った。


「ひいいい」

「うわあああ」

ズガッ!

ザス!

ガアアアア


鈍い音がしたが、何とか左足も切り裂いていた。

オーガは痛みに左足を上げて、バランスを崩して倒れた。


ズズン!

「うわあああ」

「く、食らえええ」


後続の騎兵達が突っ込んで、腕を上げる前に切り込んで行く。

左のオーガにも、騎兵達が向かって行った。


「奥のは私が倒しておく

 みんなはその2体を倒してくれ」

「は、はひ」

「うわあああ」


騎兵達が必死に向かうのを確認して、ギルバートは残る1体に狙いを定めた。

オーガは両腕を構えて、いつでも振り下ろせる体制になっていた。

そして大きく吠えると、威圧をしてきた。


ゴガアアアア

「ふっ

 そんなものは効かんぞ」


ギルバートは大剣を引き抜き、ハレクシャーから降りた。


「ハレクシャー」

ブルルル…


ハレクシャーは応えると、少し離れた場所に移動した。

それを見届けてから、ギルバートは前傾に構える。

一気に集中して、周囲の音が聞こえなくなる。

オーガも殺気を感知したのか、拳を握って構えた。


「ふっ!」

グガ?


身体強化を使った前進で、一気にオーガの近くまで踏み込む。


「せりゃあああ…」

シュバッ!

ガ…


跳躍しながら懐に飛び込んで、一気に右足を切り落とす。

オーガがふらつく間も与えずに、今度は着地から切り返した。

再び跳躍すると、腰から肩まで駆け上がる。

そしてそのまま、一気にオーガの首を跳ね飛ばした。


「すりゃあああ」

スパーン!

グ…ガ…


ほとんど声を上げる間も無く、オーガの頭は宙に舞った。

ギルバートが元の場所に着地すると同時ぐらいに、オーガの頭が地面に落ちた。


ドサッ!

「す、凄え!」

「あの化け物を瞬殺だなんて」


いつの間にか残りの2体も倒されていて、騎兵達はギルバートの戦いを見ていた。

そしてオーガを倒す瞬間も見ていた。

特にロナルドは放心していて、ギルバートが立ち上がってもじっと見つめていた。


「うわあああ」

「オーガを倒せたぞ」

「さすが殿下だ

 まさかの一撃だなんて」


騎兵達は歓声を上げて、剣を高々と掲げていた。


「うわあああ…」


戦いが終わって、静けさに包まれていた森が歓声に沸いていた。

騎兵達は喜んで、ギルバート近くに来ようとしていた。


「待て!」

「へ?」

「え?」


「あまり騒ぐんじゃあ無い

 魔物を呼び寄せるぞ」


ギルバートが注意したので、騎兵達は慌てて騒ぐのを止めた。

ここは森の中だから、何処に魔物が居るのか分からないのだ。

そして油断していれば、いくら騎兵でも簡単に殺されてしまう。

ギルバートは周囲の警戒を促すと、馬車を呼ぶ様に伝えた。


「勝って嬉しいのは分かるが、ここは魔物の住んでいる森だ

 周囲の警戒を怠るな」

「はい」

「それから馬車を呼んでくれ

 オーガの遺骸を運ばなければならない」

「はい」


「しかし殿下

 あの様な大きな魔物を一撃だなんて」

「いや、一撃じゃあ無いぞ

 足を切ってから首を狙っている

 いきなり首を狙ったら、警戒されて防がれるからな」


ギルバートは最初に足を切って、意識を下に向けさせていた。

だから背中を駆け上がっても、すぐには対処されなかったのだ。


「オーガは力強いが、動きはそんなに早くない

 攻撃さえ躱せれば、後は倒し易い魔物だ

 だからランクFなんだけどな」

「いやいや

 躱せるって殿下ぐらいですよ」

「そうですよ」


騎兵達は負傷した兵士と馬の方を見た。

直撃こそ躱せたが、周囲に飛び散った石や木片に当たった者は多かった。

中には致命傷になる一撃を受けた馬も居て、その場で殺すしか無かった。

兵士は涙を流しながら、愛馬の首を掻き切ってやった。


「オーガは倒せる魔物だと、理解してもらったと思う」

「はい」

「しかし損害も出ています」


「そうだな

 怪我人だけで済んだが、油断していたら死人も出ただろう」

「はい」

「それに…

 戦闘中よりも、その後が危険だと

 理解してくれたな?」

「はい…」


ギルバートは勝利に浮かれていた者達に、釘を刺しておいた。

今後同じ事が行われれば、間違いなく魔物に囲まれるだろう。

そうした時に、彼等だけでは逃げきれないだろう。

だからこうして注意をしているのだ。


「それでは遺骸も回収した様だし、移動するぞ」

「はい?」

「何処へですか?

 帰還では無いのですか?」


「まだ時間はある

 今の内に魔獣も狩っておきたい」

「魔獣?」

「狼や猪の魔獣ですか?」

「いや

 オーガが狙っていたぐらいだ

 美味そうな魔獣が居るんだろう」


「オーガが?

 アレは人食い鬼では無いんですか?」

「ああ

 確かに人型を好んで食べるが、それは肉が多いからだ

 基本的には肉なら、魔物も魔獣も食うぞ」

「うえ…」

「つまり獲物が近くに居るんですね」

「ああ

 あれだけ動いていたんだ

 恐らくは魔物の集落があるだろう」

「集落ですか?

 さっき魔獣と仰ってませんでしたか?」


「魔物が集落を作っているのなら、家畜を飼っている可能性がある

 魔物が飼う家畜となれば?」

「ああ

 魔獣を飼っている…」

「それならば狼ではなく、猪ですね」

「ああ

 ワイルド・ボアでも居れば、今夜の食事が豪勢になるぞ」

「それは魅力的です」

「是非にでも狩らねば」


騎兵達はワイルド・ボアと聞いて、目の色が変わっていた。

それだけあの猪の肉は、騎兵達にとっても美味だったのだ。

しかしロナルドだけは、さっきから浮かない顔をしていた。


「ん?

 ロナルド殿

 如何なされたかな?」

「あ…いえ…」


ロナルドは何か言いたそうだったが、良い澱んでいた。

代わりに近くで並走していた騎兵が、こっそりと小声で伝えて来た。


「ロナルド様は自信を失われているんですよ」

「自信を?」

「ええ

 殿下が圧倒して人食い鬼を倒しましたからね」

「そうですよね

 殿下に対抗意識を剝き出しにしていたのに、あっさりと負けましたからね」

「ふうん…」


「ロナルド様は自分より年下の殿下が、式っているのが気に食わなかったんです」

「それが自分がビビった魔物を、一刀両断にしましたから」

「べ、別にビビッてねえし」

「そうですよ

 それに一刀両断だなんて…

 首を刎ねただけですよ」


「それでも十分に凄いですよ」

「そうそう

 ロナルド様は腰が引けていましたからね」

「くっ…」


ロナルドは反論が出来なくて歯噛みしていた。

しかしそれを見て、ギルバートは冷たく言い放った。


「恐れていたから何なんです?

 君達もオーガを見た時は、恐れて腰が引けていたでしょう?」

「え?」

「それはそうですが…」


「ロナルド殿はその後、自ら前に出て戦っていましたよね」

「え?」

「殿下?」


「負傷した部下を守る為に、降り掛かる瓦礫の中に突っ込んでいました

 あなたにそれが出来ますか?」

「それは…」

「出来ないでしょうね

 だからこそ、ロナルド殿は負傷もしていた」


ロナルドは飛び散った小石を受けて、左手に軽傷を負っていた。

今はポーションが効いているので、痛みは感じていない。

しかし石で切り傷を負って、包帯を巻いていた。


「あなた達の気持ちも分かりますが、もう少し上司を敬ってはどうですか?」

「はい…」

「すいません…」


「殿下…」

「ロナルド殿も

 分不相応な誇りは感心しません

 しかし正面から戦った勇気は尊敬しますよ

 もう少し自信を持ってください」

「は、はい」


ロナルドは感動したのか、深々と頭を下げた。


「さあ

 どうやら集落に近付きましたよ」


周囲に獣の独特な臭いが漂い始めた。

どうやら運良く風下に回ったらしく、こちらは気付かれていない。

斥候に指示を出すと、ギルバートは集落を探らせた。


斥候は頷くと、馬を静かに進めた。

集落にはまだ距離があるらしく、斥候はゆっくりと進んで行った。


それから10分少々、斥候は帰って来なかった。

そろそろ心配になってきた頃に、斥候は静かに引き返して来た。

その目には何か収穫があったらしく、自信に満ちていた。


「魔物はオークが居ました」

「何体ぐらいだ?」

「そうですね

 正確には数えれませんでしたが、約30体ぐらいかと

 建物が18個ありましたので間違い無いかと思います」

「うむ

 そうなると奇襲が良いかな?」

「はい

 魔獣は柵の中ですので、オークだけを狙えます」


斥候の情報を元に、ギルバートは集落に奇襲を掛ける作戦を練った。

そしてそれを実行させる為に、騎兵は2部隊に別れて移動を開始した。

まだまだ続きます。

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