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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第289話

ギルバートは騎兵を引き連れて、ダーナの南の平原に向かった

その後方には兵士が乗った馬車が4台続いていた

馬車に乗った兵士達は、魔物の遺骸の解体と、素材の回収を任されている

その側には、不貞腐れたオウルアイ卿の孫のロナルドが続いていた

彼はギルバートが指揮しているのが気に食わない様子で、不貞腐れていた

平原に向かって進むと、そこにはゴブリンが集まっているのが見えた

ゴブリンの周りには数匹のワイルド・ボアの姿も見えた

ギルバートは魔物から見えない距離から、騎兵達に指示を出す事にした

このまま進んだのでは、魔物に気付かれて逃げられるからだ


「このまま進んでは駄目だ

 左右に分かれて進むぞ」

「どうされますか?」

「左右から囲んで、一気に攻め立てよう」

「分かりました」


「ロナルド殿もよろしいですか?」

「ふん

 好きにしろ」


ロナルドはまだ不満そうで、あまり積極的に参加していなかった。

騎兵達の後をゆっくりと追って、剣を抜いて構える。

他の騎兵達は剣を構えて、ゆっくりと魔物の周りを囲んで行く。

そしてギルバートの合図で、一斉に攻撃に転じた。


「今だ、行け」

「おう」


騎兵達は剣を振り上げて、一気に駆け込んで行く。

ゴブリンは騎兵達の接近に慌てて、棍棒を振り被って騎兵の方を向いた。


「気を付けろ

 ワイルド・ボアは突進して来る

 十分に間合いを取って攻撃しろ」

「はい」


ギルバートはワイルド・ボアが身構えているのを見て、突進に注意を促した。

騎兵達はワイルド・ボアの突進を躱しながら、ゴブリンに攻撃をしていく。

ワイルド・ボアはゴブリンの血に反応して、益々興奮して突進を繰り返した。

しかしゴブリンが次々と倒されて、気が付けばワイルド・ボアだけになっていた。


「よし

 上手く逃げられずにすんだな」


ギルバートはそのまま攻めると、ワイルド・ボアに逃げられると想定していた。

だからゴブリンを攻めさせて、興奮させる事にした。

興奮していれば、ワイルド・ボアも逃げ出す事は無い。

それを想定しての一斉攻撃だったのだ。


「今だ

 ワイルド・ボアを狩るぞ」

「はい」


ギルバートは指示を出しながら、ワイルド・ボアを追い込んで行く。

数が5匹と少なかったので、すぐに倒す事が出来た。


「ふう

 何とか狩れたな」

「ええ

 これで肉が手に入りました」


ギルバートが騎兵と話している間に、ロナルドは魔獣の死体を見ていた。

ギルバートが簡単に魔物を見付けて、自分の指揮も必要としないで倒したのだ。

内心は驚愕していて、魔獣の死体を呆然と眺めていた。


「ロナルド殿?」

「ん?

 ああ…」


「どうされましたか?」

「いや

 実際に魔物を狩るなんて…」

「いやあ

 この辺りは魔物が多いですからね」

「しかし多いからと言って、こんなに簡単に狩るなんて…」


「騎兵達の練度は十分です

 それにコボルトは何度も狩っていたでしょう?」

「ああ

 だが、この小鬼は初めてだったし、魔獣なんて初めて見たぞ」

「あれ?

 そうでしたっけ?」


「殿下

 ロナルド様は全ての討伐に参加していません」

「領主の仕事の手伝いもしていますから」

「なるほど」


ギルバートは騎兵達から聞いて、改めてロナルドが経験が少ない事を知った。


「ロナルド殿

 騎兵達の実力は、既にオークと戦える力量です」

「オークって豚の頭の魔物だろ

 あれって強いのか?」

「少なくともこいつ等よりは強いですよ

 動きは遅いのですが、膂力がありますから」

「そうか…」


ギルバートは視力を身体強化で上げてから、少し離れた平原を見る。


「あそこにオークが…

 5、いや7体居ますね」

「何!

 何処に居るんだ?」

「あっちですよ

 あれをロナルド殿の采配で倒してください」


「な!

 馬鹿な事を…

 私は戦った事が無いんだぞ」

「大丈夫ですよ

 数も少ないですから」


騎兵は2部隊24名居たので、オークを7体倒すには過剰なぐらいだった。

しかしロナルド殿は、自信が無いのか首を振った。


「ここからは見えないが、私が見た事も無い魔物だろ?

 そんな物に勝てるとは…」

「誰でも、魔物退治は初めてな事ばかりです

 戦った事が無いからと逃げていては、守れる物も守れませんよ」

「しかし…」


なおもロナルドが迷っていると、騎兵達が声を掛けた。


「大丈夫ですよ」

「そうですよ

 ロナルド様が勝てなくても、オレ達が倒しますから」

「な!

 貴様等…」


「まあまあ

 どうですか?

 やってみますか?」

「くそっ

 そこで見ていろ!」


吐き捨てる様に言うと、ロナルドはオークが見える位置まで移動した。

騎兵達もそれを追うが、騎兵の一人がギルバートに近付いた。


「ロナルド様は、年下の殿下に負けているのが悔しいんですよ

 何たって人食い鬼を倒す英雄ですからね」

「はははは

 オーガぐらいなら、君達でも倒せる筈だよ」

「え?

 本気で言っていますか?」

「ああ

 装備と訓練さえしっかり出来ていれば、十分に倒せるよ

 現にダーナの騎兵達も、数人で倒していたからな」

「はあ…

 数人でですか」

「ああ

 さすがに単独は無理だろうが、3、4人集まれば倒せるだろう」


「人食い鬼って巨人ですよね

 それを数人で…」

「良い武器があれば、足を切り裂いて転ばせる

 後は腕を切り落としてしまえば簡単だ」

「簡単って…」

「動きは遅いからな

 だが、その分膂力は強力だぞ

 簡単に巨木をへし折るからな」

「ひっ

 巨木をへし折るって」


さすがにそれを聞くと、騎兵も顔色を変えた。

しかしギルバートは安心させる様に言った。


「攻撃をまともに受けなければ平気さ

 君達は騎兵なんだろう?」

「あ…」

「それに…

 強い魔物を倒せば、それだけ強い武器の素材になる

 だから今回は魔物を討伐しに来たんだ」

「なるほど

 肉が目的では無く、素材なんですね

 それならオレも…」


理由を理解して、騎兵は手綱を握り直した。


「オレも倒しに向かいます

 殿下、ありがとうございました」


騎兵は馬の腹を蹴ると、一気に駆け出した。

その先では、既に騎兵達がオークに切り込んでいた。

ロナルドは自信無さそうだったが、騎兵達は上手く突進を繰り返していた。

彼が向かう頃には、大勢が決しているだろう。

ギルバートもハレクシャーに合図を送ると、一気に駆け出した。


オークは丸太や棍棒を振り回していたが、予想通り動きが遅かった。

騎兵が上手く躱しては、素早く切り込んで行く。

ギルバートが合流する頃には、全ての魔物が倒されていた。


「はあ、はあ

 倒したぞ…はあ、はあ」

「お疲れ様です、ロナルド殿」


ギルバートの後ろから、馬車も到着した。

ギルバートが話し込んでいる間に、ワイルド・ボアの遺骸も積み込み終わっていた。

ゴブリンの死体には価値が無いので、そのまま打ち棄てられていた。


「さあ

 オークの死体も回収しよう

 これで少しは武器が作れるぞ」

「武器ですか?」

「ああ

 魔鉱石の武器だ

 騎士団ほどでは無いが、今の剣よりは数段上になるぞ」


「騎士団の武器は何なんです?」

「あれはオーガを使った魔鉱石だ

 今王都で使われている武器では、一番強力になるな」

「オーガですか

 我々も作れますかね?」


「職人は連れて来ている

 後は素材が手に入れば出来るぞ」

「え?

 あの職人達が?」

「ああ

 魔鉱石を作れる職人を選んできた」


それを聞いて騎兵達は騒然としていた。

まさかそんな腕利きの職人とは思っていなかったのだ。


「彼等は住居や家具作りは並みだが、魔鉱石の加工は得意だ

 君達が良質な素材を集めれば、それだけ良い武器が作られる」

「なるほど

 それで鉄鉱石を急がせたんですね」

「ああ

 魔鉱石が作れれば、武器もだが工具も良くなる

 それに魔物の素材は、外壁や魔道具の素材にもなる」

「へえ…」


「さあ

 遺骸を積んだら帰還するぞ」

「はい」

「今回は私が率いたが、次回からはロナルド殿が指揮官になるだろう」

「おお

 ロナルド様、一気に出世ですね」

「馬鹿

 そんなわけあるか」


ロナルドはそう言っていたが、恐らく侯爵はそのつもりだろう。

だから今回は、わざわざロナルドを入れて来たと思う。

ギルバートの側に居させて、指揮官の素養を見てもらおうと思ったのだろう。

ギルバートもそれを見抜いたので、敢えてオークと戦わせてみた。

まだ少し不安は残るが、問題無く討伐出来ていた。

後は回数を熟して、経験を積むしか無いだろう。


馬車に魔物の遺骸が積まれたのを見て、ギルバートは出発を促した。


「さあ

 早く帰って職人に渡そう

 良い武器が出来れば良いんだが」

「はい」


騎兵達は上機嫌で帰途に付いていた。

新しい武器が貰えるとなると、喜ばないわけが無かった。

問題は素材になる魔物が少ないので、数が揃わない事だろう。

今回のオークの素材では、精々20名分ぐらいしか出来ないだろう。


「さすがに全員の分は出来ないだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ

 恐らく1体で、3本出来れば良い方だな」


「まあ、何回か狩に行ってもらう事になるだろう」

「分かりました」


ギルバートが帰還した頃には、すっかり日が暮れていた。

途中で昼食を取った事もあるが、帰りにコボルトの集団に遭遇したのだ。

数は20体ほどだったので、魔石は数個しか手に入らなかった。

それでも魔石が手に入った事で、職人達は喜んでいた。

それから遺骸を引き渡すと、さっそく工房に運んで行った。


「ふう

 すっかり遅くなったな」

「殿下がコボルトの群れを追うからですよ」

「いや

 そうは言ってもな、放っておくと増えるんだぞ」

「そりゃあそうですが…

 まさか森の中まで追いかけるとは…」


騎兵達は魔物との追いかけっこで、すっかり疲れていた。

しかし魔物の集落を見付けて潰した事で、安心もしていた。

これで少しでも、魔物が増えるのが遅くなるからだ。


「さあ、殿下

 食事の準備が出来ております」

「ああ

 ありがとう」

「後…

 イーセリア様が拗ねておられます

 どうにかしてください」

「え?」


「殿下が構ってくれず

 しかも夕方になっても帰って来ませんでした

 すっかり拗ねておられます」

「あ、はははは…」

「私達ではどうにも出来ませんので

 殿下の方で責任を取ってください」

「はあ…」


ギルバートは溜息を吐きながら、すぐにセリアの住んでいる家に向かった。

それはギルバートが住んでいる家の隣で、一応家は別にしていた。

同じ家に住んでいると、色々と変な噂を立てられるからだ。

ただでさえ家が別になり、昼間も忙しくて構っていないのだ。

その上夜になるまで帰らなかったので、すっかり拗ねてしまった様だ。


「セリア

 起きてるか」

「…」

「寝てるのか?」

「知らない」


「おい

 拗ねるなよ」

「お兄ちゃんは森で魔物狩る方が大事なんでしょ」

「はあ…」


こうなるとセリアは、なかなか機嫌を直さない。

ギルバートは秘策を用いる事にした。


「折角美味そうな果実を持って来たのにな」

「…」

「セリアが喜ぶと思って、森で探して来たのにな」

「本当?」


実は木の実は、偶然コボルトの集落の近くで見付けた。

後で食べようと思って、いくつかもいで帰ったのだ。

しめしめ掛かったぞと、ギルバートは内心ほくそ笑んでいた。


「折角セリアが喜ぶと思って、プラムを持って帰ったのにな」

「うみゅう

 しょうがないなあ」


ドアが開いて、セリアが抱き着いて来た。


「ほら

 機嫌は直ったか?」

「んみゅう」


頭を撫でながら、そう聞いてみる。

セリアはまだ頬を膨らませていたが、機嫌は直っている様子だった。


「プラムは?」

「向こうで食後に食べさせてやるよ

 夕食はまだだろう?」

「むう…」


少し膨れたセリアの手を握って、食事を取る為に広場に向かった。

まだ食材が不十分なので、食事は広場でみんなで食べていた。

セリアも一緒で、広場でメイド達が用意していた。


「さあ、行くぞ」

「うん」


「もう少ししたら、小麦も採れる様になる

 そうしたら家でパンも食べられる様になる」

「野菜も育ってる?」

「ああ

 精霊様のおかげで、すくすくと育っているぞ」

「良かった」


やっと機嫌が直った様子で、セリアはニコニコと笑っていた。


精霊の力の影響で、作物は通常より早く育っていた。

そのおかげで、何とか小麦の収穫も間に合いそうだった。

他の野菜も早く育っていて、徐々に食事事情は改善されていた。

もう一月もすれば、各家庭に食材が提供されるだろう。

そうすれば備蓄も出来る様になるし、安心して食事が出来る様になるだろう。


「セリア」

「んみゅう?」

「ありがとうな

 何とか食事もまともになってきた」

「うん」


「この調子で行けば、そのうちクッキーや焼き菓子も作れる様になる」

「本当?」

「ああ

 だからもう少しの辛抱だ」

「うん」


焼き菓子と聞いて、セリアの瞳が輝いていた。

なんだかんだと言っても、まだまだ子供だ。

美味しい焼き菓子と聞いたら、輝く様な笑顔になっていた。


「さあ、食事にしよう」

「うん」


二人が席に着くと、メイドが夕食を持って来る。

今日は獲れたてのワイルド・ボアのステーキと、採れたての野菜のサラダが用意されていた。

それといつもの野菜のスープと、黒パンが運ばれて来た。

パンは少し固くなっていたが、まだ食べれる固さだった。

早く小麦が採れないと、パンの在庫も少なくなっていた。

収穫が間に合わないと、食事が豆を入れたスープになってしまう。

それだけは避けたいと思っていた。


ギルバートはメイドにプラムを渡すと、食べ易い様にカットしてもらった。

そしてそれをセリアに渡すと、美味しそうに食べるのを見ていた。

まだまだ続きます。

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