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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
287/800

第287話

オーガを狩ってから3日が経っていた。

ギルバートは騎士達に、鉱山までの地図を渡した

出来れば一緒に行きたかったが、それはジョナサンに断られた

だから代わりに、今回は冒険者を連れて行く事になった。

その間は資材を集める者は少なくなるが、それだけ鉱石は重要だった

鉱石を求めて、冒険者達が城門を潜って行く

行先はノルドの森の奥にある、ノルド鉱山になる

片道だけで2日は掛かったが、無事にノルドの町の外壁が見えて来た

ノルドの町の跡から、山脈に入らずに崖の下を進んで行く

その先に小さな関所があって、そこから鉱山に入って行く


「隊長

 ここが関所ですか?」

「うむ

 殿下の話ではそうだったが…」


そこには崩れた木材の山と、外壁の崩れた跡が残されていた。

どうやらここも襲撃されて、外壁も崩された様だ。

警備をしていた者も、恐らくは全滅したのだろう。

ジョナサンは騎士達に指示をして、瓦礫を撤去させた。


「これで通れます

 どうされますか?」

「もう少し片付けてくれ

 これでは馬車が通れないだろう」

「分かりました

 おい、こっちに来てくれ」


騎士達が片付けをしている間に、ジョナサンは広場に入ってみた。

ここは鉱石を運び出して、馬車に積み込む場所だった。

鉱石を保管する箱も、魔物に襲撃されたのか無くなっていた。

魔物が欲しがるとは思えないが、鉱石は全て持ち出されていた様だった。


「魔物が鉱石を欲しがるとは思えない

 一体何の為に持ち出したのやら…」

「武器を作るのでは?」

「魔物がか?」

「確かに変ですね

 魔物が武器を作るとは思えないですね」

「しかし武器を持った魔物は居ましたよ」


騎士達が言う通り、武器を持った魔物も居た。

棍棒だけではなく、粗雑だが小剣や斧を持った魔物も居た。

てっきりどこかで拾って来たかと思っていたが、魔物が作った可能性もあるのだ。


「魔物が武器を作る…」

「そうですね

 確かに見た目では、人間が作ったとは思えない物もありますね」

「粗雑な鉄を加工した剣とか見た事がありますよ」

「私は棍棒に鉄を叩き込んだ物も見ましたよ」

「確かに魔物が武器を作らないとは限らないな」


ジョナサンも魔物が武器を振り回す光景を見た事がある。

それを考えれば、鉱石の需要もあるのかも知れない。


騎士達が片付けたのを確認して、ジョナサンは奥に進む事にした。

崖の道に沿って、坑道への入り口が開いている。

入り口は3つあって、先ずは手前の入り口に入ってみる。


「気をつけろよ

 魔物が居るかも知れない」

「こんな所にですか?」

「ああ

 長い間放置されていたんだ

 魔物が鉱石を欲しがっていたのなら、中にも居るかも知れないだろう?」

「そうですね…」


馬は入り口に繋いで置いて、数人ずつで入って行く。

少し進んだら、奥に開けた場所があった。

どうやらここで、鉱石を掘り出していた様だ。

足元にはピッケルが転がっていて、ハンマーやノミも見付かった。


「ここで採掘していたんだな」

「冒険者には採掘の経験者は居るのか?」

「ええ

 みな経験はあるみたいで…

 中には鉱山労働を専門に手伝っていた者も居ます」

「よし

 彼等をここに呼んでくれ」

「はい」


騎士の一人が、冒険者を呼びに向かった。

その間にジョナサンは、さらに奥も調べてみる。

坑道の穴は、一つは真ん中の入り口に繋がっていた。

残りの一本は、そのまま奥へと続いている。

その奥には、もう一つの採掘場が広がっていた。


「うわあ…」

「これは凄いな」


冒険者達は、採掘場を見て驚いていた。

どうやら王都の近郊に比べて、ここは本格的な採掘場だった様だ。


「手前の採掘場は、ほとんど掘り終わっていました

 これ以上掘るなら、もっと丈夫な工具が必要ですね」

「こっちはどうだ?」

「ここは…

 銅が主になりますね

 鉄も少し混じっていますが、あまり期待は出来ません」

「そうか…」


欲しいのは鉄鉱石なので、一行はそのまま外に出た。

そして残りの一本に向かって、騎士達が入って行く。


「こっちがどうやら新しい坑道の様ですね

 さっきの場所より大きい…」

「気を付けろ!

 魔物だ」

グルルルル

ガウルル…


騎士達が入って来ると、そこにはコボルトが待ち構えていた。

数は12体と多かったが、武器は持っていない。

慌ててノミやピッケルを拾うが、武器としては不十分だった。


「構えろ」

「はい」


騎士達はショートソードを引き抜くと、隙が無い様に構えた。

それと同時に、外でも声が上がっていた。


「魔物だ

 魔物が出たぞ」

「くそっ

 外は冒険者だけだ

 ここは任せたぞ」

「はい」


騎士達は小剣を構えると、魔物に向かって行った。

ジョナサンは騎士3名を引き連れて、慌てて坑道の外に出た。

暗がりから急に出たので、視力が回復するまでに少し時間が掛かる。

そうしている間にも、向こうで剣劇の音が聞こえた。


「くそお

 魔物なんぞに負けるか」

「くっ

 思ったより素早いぞ」

「だが、殿下の扱きに比べれば…」

ギャワン

キャイン


魔物の悲鳴が聞こえて、倒れる音がする。

どうやら冒険者の方が優勢で、魔物の侵攻を抑えていた。


「騎士殿

 大丈夫ですか?」

「大丈夫だ

 ようやく明るさにも慣れて来た」


ジョナサンが周りを見回すと、既に大勢は決していた。

魔物の死体が転がっていて、生きている者も3体だけであった。


「思ったよりやるな」

「いえ

 騎士殿には心配を掛けました」

「いやいや

 たった20名で魔物を倒せたんだ

 十分な成果だよ」


ジョナサンはそう褒めながら、魔物の死体の数を数えた。

外に居たコボルトの数は、総勢で32体も居た。

しかし冒険者達は、崖を使って少数ずつで戦った。

結果として怪我人は数人程度に収まり、魔物を無事に倒す事が出来た。


「すいません

 いくらか逃がしてしまいました」

「それは仕方が無いよ

 ここは開けた場所になるからね」


魔物は鉱山の外に逃げたので、今頃は何処に潜んで居るか分からない。

騎士達を外に集めて、半数で外を警戒する事になった。

その間にもう一度中に入って、今度は冒険者達に採掘場を見てもらう。

ここも開けた採掘場で、奥に続く道が2本あった。


「ここは鉄鉱石が豊富ですね

 ただ…」

「ただ?」

「魔物が掘った様子はありませんね」


「変だな

 魔物はここに居たぞ

 それに木箱に鉱石もある」

「あれは拾ったんじゃないですか?

 掘ったにしては、ここの跡は古過ぎます」


鉱石の採掘をした跡は、変色して時間が経過していた。

この事から見ても、採掘してからそれなりの時間が経っている様だ。


「恐らく魔物は、採掘した後の鉱石を拾っていたんでしょう」

「それよりも、ここに居た筈の鉱夫がどうなったのかが気になります」

「うむ

 この先がある

 進んでみよう」


騎士達を先頭にして、一行はさらに奥へと進んだ。

右の道は暫く進んで、そのまま行き止まりになっていた。

そこには大した鉱石は無く、鉱夫も採掘は諦めていた。

いくらか掘った跡はあったが、工具も回収されていた。


もう一方を進むと、その先にもう一つの採掘場があった。

こちらは拡張途中らしく、あちこちが掘られていた。

そしてこの場所に、嘗て鉱夫だったらしい骨が散らばっていた。


「酷え…」

「鉱夫は殺されて、ここに放置されたんだな」

「せめて埋めてやりましょう」

「ああ、そうだな」


騎士達は木箱に骨を集めると、それを外に運び出した。

そして外の広場に穴を掘ると、そこに遺骨を埋めてやった。


「名も知らぬ鉱夫達よ

 せめて安らかに眠り給え」


ジョナサンは胸に手を当てると、騎士の祈りを捧げた。

これは騎士が女神に祈りを捧げる時にする物だが、死者の冥福を祈る時にも使われる。

後ろに並んだ騎士達も、同様にして祈っていた。


「さあ

 照明用の魔石を持って、採掘を手伝うぞ」

「はい」


騎士達は荷物の中から、照明用の魔石を取り出した。

これはコボルトの魔石を加工した物で、簡単な呪文で輝く事が出来た。

鉱山で松明を使うと、息苦しくなって危険だと言われている。

だからこうした魔石を使って、坑道の中を照らすのだ。

坑道には既に、魔石が配置されて輝いていた。

しかし暫く交換されていない為に、魔力は尽きかけていた。


カンカンカン!

「冒険者達が先に掘っていますね」

「ああ

 魔物が居ない事が確認出来たんだ

 彼等も安心して掘っているだろう」


「魔物は引き返して来ませんかね?」

「どうだろな?

 だが私が魔物なら、ここで戦うより帰りを襲うだろうな

 その方が油断しているだろうし、持ち出す手間が省ける」

「なるほど

 それなら帰りが危険ですね」

「そのつもりで警戒しておいてくれ」

「はい」


騎士達は採掘場に入ると、冒険者が掘りだした鉱石を拾った。

それを木箱に集めると、抱えて外に運び出す。

後は外の馬車に載せて、ダーナまで持ち帰るだけだ。

その場の木箱を全て使って、残りは持って来た木箱に入れた

そうして何往復かして、結構な量の鉱石を集めた。


「ほとんどが鉄鉱石ですが、中には銅鉱石も混じっています」

「後は職人に渡すだけです」

「ああ

 それでは帰還しよう」


ジョナサンが宣言して、さっそくノルドの町に向かって引き返した。

町の跡地には魔物は居なかった。

しかし日が陰り出したので、野営をする事となった。

行きと違って魔物を見た後だったので、騎士達は警戒を強めていた。

折角鉱石を回収したのだ、魔物に襲われて無くしては意味が無い。

魔物に急襲されない様に、馬車を囲む様に野営地を作った。


「魔物は来ますかね?」

「さあな

 しかしどこかで見ているかも知れん

 引き続き警戒してくれ」

「はい」


騎士団も警戒していたが、冒険者も警戒をしていた。

慣れない見知らぬ土地での野営だ、気が張って眠れそうに無かった。

だから武器の手入れを済ませると、順番に横になって休んでいた。

残りの者は警戒をして、焚火の番をしながら見張っていた。

しかし1日目は、魔物は襲って来る事は無かった。

何者かが見ている気配はあったが、野営地に現れる事は無かった。


翌日になって、一行は森から公道に出た。

そこで待ち構えていたのは、50体近くのコボルトの群れだった。


「居たぞ

 コボルトだ」

「ここで待ち構えて居ましたか」

「騎士殿

 ここは我々が」

「いや

 この数では無理だろう?

 私達も戦うよ」


ジョナサンはクリサリスの鎌を引き抜いた。

騎士達も鎌を抜き放つと、身構えながら魔物達を睨み付けた。


「1対1では危険だ

 なるべく複数人で囲め」

「はい」


騎士達は馬を操って、コボルトの周りを囲んだ。

そうして魔物に逃げる場所を与えない様に、一気に駆け込んで行く。

冒険者達も馬車から飛び出すと、コボルトに向かって駆け出して行く。

その手にはショートソードと、片手用のバックラーが握られている。


「うおおおお」

ザシュッ!

キャイン


冒険者の先頭を走る男が、先制の一撃を加えた。

魔物の振るった棍棒を避けながら、器用に右の脇腹から胸にかけて切り上げる。

振るった剣先は、見事に魔物の腹を切り裂いた。

それを見た他の魔物が、その冒険者に向かって棍棒を振り上げる。

それを躱しながら、冒険者は剣と盾で器用に攻撃をいなした。


「ふっ、ぬおっ

 今だ!」

「おう」

「せりゃあああ」


後方から駆け寄って来た冒険者達が、コボルトの背後から切り掛かる。

その間にも、騎士達が鎌を振り回して攻め立てる。

コボルト達は逃げ場を失って、追い詰められて鎌に切り裂かれる。

そうして戦っていくうちに、魔物の数は次々と減っていく。

気が付けばコボルトは、残り1体になっていた。


「これで止めです」

ザシュッ!

ギャウン


ジョナサンが振るった鎌が、コボルトの左肩から胸まで切り裂いた。

ジョナサンは鎌を振るうと、刃にこびり付いた血漿を振り払った。

他の騎士達も、鎌に残った血を拭っていた。


「魔石は…

 こっちは無いか」

「ありました

 これで2個目です」

「くそ

 あいつだけ良いな…」


冒険者達は魔石の確認をしながら、魔物の遺骸を切り裂いていた。

死霊として起き上がらない様に、四肢や首を刎ねる必要があるのだ。

魔物の遺骸を処理し終わると、冒険者達は馬車に戻った。

騎士の様に馬があれば良いのだが、冒険者の懐事情からすれば馬は持てなかった。

だからこういう遠征では、馬車か徒歩での移動になる。


魔物の遺骸を載せる余裕は無いので、そのまま放置される事になった。

本当は回収もしたかったが、持ち帰っても加工する余裕が無かった。

ギルバートからも、回収するならオーク以上と指示があった。

だから勿体ないが、遺骸はそのままにされていた。


「このまま置いておいて大丈夫ですか?」

「そうだな

 他の魔物が食いに来るだろう」

「うえ

 食うんですか?」

「ああ

 オーガだと喜んで食うだろな」


「それでは今度来る時に魔物が居ませんか?」

「そうだな…

 森の中に隠すか?

 それとも燃やしてしまうか…」

「どっちも時間が掛かりますね」

「そうだな

 だからこそ、放置しかないんだ」


ジョナサンとしては、魔物といっても埋葬ぐらいはしてやりたかった。

しかし時間が無かったので、そのまま放置する事になったのだ。

ジョナサンは騎士達を連れて、公道を再び進んだ。

まだまだ続きます。

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