表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
285/800

第285話

ギルバート達がダーナに入ってから、1週間が経とうとしていた

街では少しずつではあるが、建物が立て直されていた

職人達は崩れた建物から、使えそうな資材を見繕っていた

しかしほとんどが腐っていて、新たに石材や材木を集める必要があった

外には出れないので、職人達は街の中で資材を探していた

城門が建て直されていたら、もう少し安心出来ただろう

しかし住む場所も安定していないので、城門は後回しにされていた

それに騎士達も、城門の警備だけで済むので安心していた

唯一の問題は、森に資材を集めに行けない事だった

職人が同行出来ないので、兵士が向かっても満足な資材が集まらなかった


「殿下

 どうにか職人を連れて行けませんか?」

「いや

 城門が不完全な以上、魔物に出遭った時が危険だ

 逃げ戻るわけにもいかんだろ」

「それなら魔物を倒せば…」

「職人が居るのに戦闘か?

 出来れば避けたいんだが」

「それはそうですが…

 これでは満足な資材が集まりません」


兵士からの訴えで、ギルバートは頭を抱える。

確かに資材が足りない為に、作業は遅れていた。

このまま作業が遅れれば、住民の健康にも影響が出るだろう。

ここは無理をしてでも、資材を集める必要があった。


「分かった

 明日は騎士を着ける事にしよう

 そうすれば森の入り口までは安全だろう」

「ありがとうございます」

「ただし職人達の安全が最優先だ

 資材の目星が着いたなら、職人は街に戻してくれ」

「なるほど

 場所や材木の指定が出来たのなら、職人は必要は無いか

 分かりました、資材を指定していただければこちらで回収します」


「頼んだよ

 それと冒険者も連れて行ってくれ」

「冒険者ですか?」

「ああ

 職人に同行させて、資材選びを教えてもらうんだ」

「冒険者にですか?」

「ああ

 冒険者なら、資材集めの経験もある

 どういった物が必要か知れば、彼等でも探す事が出来るだろう」


「冒険者に探させますか…」

「ええ

 彼等が資材探しに慣れれば、これからの資材集めにも役立ちます

 先ずは同行させてください」

「分かりました

 他の者達にも相談してみます」

「では、お願いしますね」


兵士達は翌日から、冒険者と職人を連れて森に入った。

森の入り口までは、騎士達が同行していた。

騎士達は森の入り口で警戒をして、魔物が出て来ないか見張っていた。

街の周辺では魔物が出なかったが、森まで来るとコボルトが現れる様になっていた。

ギルバートが警戒しているのは、コボルトが街に近付く事だった。


騎士達が警戒していると、職人達が向かった方向と、反対側の繁みがガサガサと音を立てた。

騎士達は警戒して、クリサリスの鎌に手を掛けた。

緊張しながら、繁みから敵が出るのを待つ。

小さな繁みでも、馬に乗っていては接近が難しかった。

迂闊に突っ込むよりは、待ち伏せした方が安全だった。


「良いか

 左に3人、右に3人で回り込め」

「はい」


騎士達は移動して、魔物が飛び出すのを警戒した。

しかし次の瞬間、繁みから飛び出したのは猪だった。


「うわっ」

「猪か」

「せい!」

ズガッ!

プギー!


騎士は無事に仕留めたが、繁みはまだガサガサしていた。

そこを覗いて見ると、猪の子供が居た。


「しまった

 子供が居たのか」


猪の子供は、人間に慣れていないのか不思議そうに見上げていた。


「連れて帰るか?」

「そうですね

 大事に育てれば、肉にもなるだろう」

「肉って…」

「食べるの前提かよ」


心なしか、猪の子供もその騎士を警戒していた。

他の騎士達が、慌てて猪の子供を抱える。


「可哀そうだろ、食うだなんて」

「いや、育ててからだろ」

「それでも…」

ピギー


猪の子供は、抱かれるのには慣れていなくて、じたばたと藻掻いていた。

その声に反応したのか、繁みからもう2匹顔を出した。


「まあ、連れて帰るのは賛成だな

 今の街には何も無いからな」

「そうだな

 廃材で飼育小屋ぐらいは作れるだろう」


騎士達はすっかり飼う事にして、猪の子供に縄を掛けた。

苦しくならない様に、きつくは結んではいない。

しかし慣れない縄に、猪の子供達はすっかり大人しくなっていた。


職人達は森に分け入ると、木材と石材を集める場所を探した。

木材は木に目印を付けるだけなので、比較的簡単だった。

しかし石材に関しては、なかなか大きな石が見付からなかった。

暫く森を捜索するが、満足な石材は見付からなかった。


「やはり山に入らんと、良い石は無いのう」

「そうですね

 私達の目から見ても、これでは…」

「ええ

 精々基礎の石にしか使えませんね

 必要なのは切り出した岩や壁に使う石ですから」


職人も冒険者も、なかなか良い石が見付からなくて困っていた。

このまま見付からない様では、住居は木造限定になってしまう。

それでも取り敢えずは良いのだが、やはり火災の事を考えると不安であった。

出来れば石材を集めて、石造りの住居にしたかった。


「やはり石材は、専用の石切り場に行く必要がありますね」

「しかし石切りは職人でないと…」

「そうだな

 我々では無理だな」


冒険者達も、岩を砕く事は出来た。

しかし建築物に使うには、それなりの大きさの石が必要だった。

それを切り出すには、それなりの大きさの岩が必要だった。

ダーナの専用の石切り場なら、そういった物も見付かるだろう。


「しかし、ワシ等はここには不慣れじゃ」

「そうじゃのう

 何処にあるかなんて、ワシ等じゃあ分からんのう」


こればっかりは、職人でもお手上げだった。

後はギルバートが、何か知っているか確認するしか無かった。

職人達は木に目印を付けて、良い木の見分け方を教えた。

これによって冒険者達は、職人の目利きを学んで行った。


冒険者達が森から出ると、騎士が2人減っていた。

不審に思った冒険者は、騎士に事情を確認した。


「何かあったんですか?」

「ええ

 実は猪が出まして」

「猪?

 魔物では無くて?」

「はい

 魔物でも魔獣でもありません

 猪です」


「それで街に戻ったんですか?」

「猪の死体もですが…

 子供が居まして」

「子供?

 それで戻ったんですか?」

「ええ

 折角ですから、育てようという話になりまして」

「はあ…」


冒険者は呆れていたが、これは貴重な資源でもあった。

上手く育てて増やせれば、食肉の確保が出来る。

それを思えば、子供の回収は需要だった。


連れて帰られた猪の子供は、さっそく移民達に預けられた。

移民達は廃材を集めて、小屋と柵を作った。

そこに猪の子供を放すと、余った食材を与えてみた。


「お兄ちゃん

 この子達可愛いね」

「え?

 可愛いか?」


ギルバートは子供の猪を見ても、特段可愛いとは思えなかった。

しかしセリアが喜んでいたので、ギルバートは微笑ましく思って見ていた。

セリアは嬉しそうに微笑むと、猪の子供達を撫でていた。


冒険者達は帰って来ると、さっそくギルバートに会いに来た。

石切り場について確認する為だった。


「殿下

 少々聞きたい事があるんですが」

「どうしたんだい」


「殿下はこの周辺で、石切り場があるかご存知ですか?」

「石切り場?」

「ええ

 崖や丘になっている場所で、大きな岩が出て来る場所です」

「そう言われてもな…」

「大事な事なんですよ

 近場の森にはありませんでした

 そうなると、専用の石切り場があった筈です」

「それは何をする場所なんだ?」

「石材を作る場所です

 岩を砕いて石材を作るんです」

「なるほど…」


ギルバートは一生懸命に思い出して、そんな場所があったか考えていた。

確か主な石の生産は、竜の背骨山脈の近くの鉱山から持って来られていた。

それ以外の場所となると、すぐには思い当たらなかった。


「確か…

 城門が壊された後に修復した時は、向こうの丘を削っていたな」

「ええ

 しかしそこには、もう石材は残っておりません」

「うーん

 他の場所か…」


ギルバートは必死になって思い出そうとした。


石材

石を運び出す…


「あった!

 北東の森だ」

「北東の森?」


ギルバートは地図を出すと、森に目印を書き込んだ。


「この辺りに岩山があります

 そんなに大きくはありませんが、鉱石が出ないので放置されています」

「こんな場所に…」

「崖になっているので、少し回り込まないと

 危険ですから明日にしてください」

「分かりました

 職人達に話しておきます」


候補が見付かったので、さっそく冒険者達は職人に相談しに行った。

そして翌日には、ギルバートも同行して向かう事になった。


「殿下

 大丈夫ですか?」

「ああ

 代わりに騎兵達に見周りは頼んでいます

 今日一日ぐらいは問題無いでしょう」

「いえ

 そこではなくて魔物が…」

「それなら尚更です

 私が魔物に負けると?」

「そうではありませんが…」


ギルバートはハレクシャーに跨ると、騎士達を引き連れて先行した。

魔物が居たら討伐して、兵士達が安心して進める様にする為だ。


森の入り口に到着すると、ギルバートは冒険者と職人を連れて森に入った。

そのまま進んで行くと、小さな崖が見えて来た。

そこから回り込んで、崖の下に行ってみる。

そこには崖を掘り進んだ跡があり、洞穴の様になっていた。


「ここがその、石切り場だと思います」

「確かに石が豊富にあるな

 こっちにも岩が埋まっている」


職人はさすがに分かるのか、地面を撫でて確認する。


「しかし建材に使えるのは…

 こっちの岩になるかな?」

「何でです?」

「そっちの穴は、道や石段を造る為の石じゃ

 建物に向いておるのはこっちじゃな」

「足りそうですか?」

「うーむ

 微妙じゃな」

「掘ってもっと出てくれば良いがな」


さっそく職人は工具を出すと、岩に目印を刻んで行く。

そこからノミで掘り進めて、岩を砕き易くする。

ここで上手く刻まなければ、大きな石材は取れなかった。


「良いか?

 ここをこうして刻むんじゃ」

「こうですか?」

「違う!

 その向きじゃあ岩が砕けるわい!」


冒険者達は職人に教わりながら、岩を砕く方法を学んでいた。

ギルバートはこれで大丈夫だと判断して、先に街に戻る事にした。

職人達にコツを教わりながら、冒険者達は石材を切り出して行く。

職人達よりも膂力があるので、冒険者は簡単に岩を切り出せた。

しかし力が強いので、端が欠けてしまっていた。


「もう少し力加減を覚える必要があるな」

「はあ…」

「石を切り出すのは、ただ力任せでは駄目だ

 こうやって優しく砕く事も必要じゃ」


職人は丁寧に教えて、冒険者に学ばせていた。

これは石材を、冒険者に任せる為だった。

その代わりに、職人は街での作業に集中する。

大きめに切り出した石材を加工したり、木材を加工する必要があるのだ。


「ワシ等も忙しいんでな

 あんた等に任せるよ」

「はい」


冒険者達は返事をして、石を切り出していった。

その間に職人達は、他に石材が取れないか調べていた。

崖やその下以外にも、この辺りには岩が多かった。

職人が調べて分かったのだが、この辺りは山脈の崖が崩れて、流された跡だった。


「上手く掘る事が出来れば、ここから石材が取れるじゃろう」

「しかしワシ等では、ここを掘る力は無い」


職人達は冒険者達の方を見る。

そこには期待している様子が伺えた。


職人達は、その日から資材集めは冒険者に任せた。

その分の給金は、当然侯爵の資金からになる。

しかし当面は、食料等の現物支給になる。

まだまだ給金が出せる様な、売り物が無かったからだ。

だから冒険者達も、黙って街造りに精を出していた。

ここが自分達が暮らす街になるので、彼等も力が入っていたのだ。


「このまま順調に進めば、1月で半分ぐらいの家屋が出来るな」

「いえ

 さすがに時間が足りません」

「え?

 資材はあるんだろう?」

「いくら魔法が使えても、木材が使い物になるまで1週間は掛かります

 それから切って加工しますから…

 1月では3分の1ぐらいですな」

「そのぐらいか…」


「ええ

 街が完成する頃には、冬が来てしまうでしょう」

「そうだな」

「それまでに並行して、農場や加工場も作ります

 それで何とか、冬は越せましょう」

「分かった

 私が出来る事があれば、何でも言ってくれ」


「そうですな

 出来ればオーガの素材が欲しいですな」

「オーガの?

 どうしてだ?」

「それは手に入ってからのお楽しみです

 ですが…

 肝心のオーガが見当たりませんのう」

「それなんだが」


ギルバートはセリアの素性は隠して、精霊の加護があるとだけ話した。

その聖霊の加護で、魔物が近寄り難いのだと。

そして街から離れれば、魔物は襲って来る事も話した。


「どうしてもオーガの素材が必要なら、騎士団を率いて討伐して来るが?」

「そうですな

 なるべく早めにお願いしたいです」

「分かった

 その代わりに、城門の修復をしておいてくれ

 私が居ない間に、何かあったら困るからな」

「分かりました

 数日中にどうにかしておきます」


職人は胸を張って答えた。

どうやら上質な石材が取れる様になって、城門の修復も出来る様になったらしい。

頑丈な城門に立て直す為に、明日から工事に取り掛かる事になった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ