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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第281話

ギルバートはドニスを捕まえて、噂について聞いていた

ドニスはギルバートの前に、正座をさせられていた

そしてその表情は、非常に焦っていた

噂を持ち込んだのはドニス自身だったが、これは失敗したと思っていた

ドニスが持ち込んだ噂は、ギルバートとアーネストについてだった

どうやらメイド達の間では、二人が愛し合っているという噂だった

どうやら先ほどのアーネストの行動も、それを懸念しての行動だったらしい

しかし慌てて追い掛けた為に、却って噂に尾鰭が着いた様子だった


「そうすると、アーネストと私が男女の様に愛し合っていると?」

「ええ

 そういう噂が出回ってまして」

「まったく…」


ギルバートは溜息を吐いていた。

メイド達は王城に勤めている間、ほとんど街中に出れない。

そういった事もあって、噂話に敏感になっていた。

それぐらいしか楽しむ事が無かった為だった。


「どうしてそういう噂が出るんだ?

 私とアーネストは男同士だろう?」

「ええっと…

 女性の間では、見目の良い男性同士の艶話が人気でして…」

「はあ?

 艶話?」

「そのう…

 男と女の夜の営みと申しますか…」

「営みと言うのがよく分からないけど、男と女だろ?

 それで何で男と男なんだ?」

「それは…」


ドニスは説明に困っていた。

どうやら主であるギルバートが、そういった話に詳しく無かったからだ。

どうやって変な知識を植え付けない様に教えるか、それを悩んでいた。


「殿下は…

 男女の営みを知りませんか?

 そのう…子作りとか」

「子作り?

 え?」

「その様子では、まともな子作りは知っておいでの様で

 良かったです」

「あ、ああ…」


ギルバートは何とか動揺しながらも、誤魔化す事が出来た。

以前にアーネストに貰った本が、さっそく役に立った。

あの本にも、男女が子供を欲して、夜毎何をしていたか書かれていた。

大人向けの本らしく、詳しく書かれていた。

何の為に渡されたのか疑問だったが、こういった時に知識が必要なので助かった。


「大人の女性の中には、見目麗しい男性同士が、男女の様に愛し合う本も喜ばれています

 それも夜毎の営みも含めて」

「え?

 本気ですか?」

「ええ

 そういった本も含めて、腐女子と呼ばれています

 殿下はどうやら知らなかった様ですね」

「ああ

 始めて聞いたよ」


どうやらアーネストの様子から、彼は知っていると想像出来た。

そしてあの様子から、以前から知っていた様子だった。


「なあ、ドニス」

「はい」

「いつからそんな噂が出回っている?」

「え?

 それは…」

「アーネストは知っていた様子だぞ」

「わ、私が聞いたのは今日が初めてでして」

「聞いたのは?」

「あ!」


「その様子だと以前からあったな」

「は、はい

 いつからかまでは分かりませんが」

「そうか」


「今後その噂を聞いたら、すぐに注意してくれ」

「注意ですか?

 処罰は?」

「処罰は良い

 どうせ処罰をしても、噂は収まらんだろう?」

「そうですが…」


「ただな、注意ぐらいはしておかないと

 なんせ王子とその親友の噂だ

 外聞が悪いだろう?」

「ええ」

「だから、噂だけを注意してくれ

 これ以上外聞を悪くするような、変な噂を立てない様に」

「はい」


ギルバートは処罰を与えるよりも、噂を立てない方向で決めた。

どうせ処罰をしたって、噂を消す事は出来ないだろう。

むしろ変に騒ぎ立てれば、余計に信憑性を与えてしまう。

そう思って、噂をする者を注意する事にした。


「しかし、変な噂が立つものだ

 婦女子だっけ?」

「いえ、腐女子です

 腐った妄想をするという意味です」

「はあ…

 腐ったねえ」


腐ってるのは死霊で十分だ


ギルバートはそう思って、溜息を吐いた。


「噂はそれぐらいか?」

「は?

 はあ…」

「他にもあるのか?」

「え…

 まあ」


ドニスは顔を引き攣らせて、それが真実だと知らしめていた。


「どうやったら、噂を消せるかな?」

「それは…

 いっそイーセリア様と婚約されては?

 そうすればその噂は…」

「セリア?

 何でそれが噂に?」

「あ…」

「ドニス…」

「あははは…」


「イーセリア様との事は、妹以上のご関係と噂されております

 ですから陛下も心配されておりまして」

「それでどうせなら、本当に婚約しろと?」

「ええ

 お二人の仲をみておりますと、どうやらあながち間違えでは無いと…」

「はあ…」


確かにギルバートは、セリアに惹かれていた。

それが恋だとは、本人も自覚をしていなかった。

しかし親友だけでなく、国王や執事までそう思っていた。

ギルバートはセリアとの関係を、ハッキリしなければならないと思い始めていた。


「分かった

 考えておくよ」

「おお!

 ではさっそく…」

「勘違いするなよ

 まだそうだと決まったわけではない」

「はははは

 それでも、決心されたみたいですね」

「ああ

 国王様には、ダーナから帰還してから発表すると伝えてくれ

 それまではもう少し考えてみる」

「はい」


ドニスは頷いてから、ギルバートの私室を出た。

暫く正座をしていたので、足は痺れていた。

それでもギルバートの決心を聞けたので、足取りは軽かった。

ドニスはそのまま、国王に報告に向かった。


それから1週間は、王都では何事も無く時間が過ぎていた。

アーネストとギルバートの甘い醜聞も、数日で収まっていた。

さすがに女官庁に注意されては、変な噂話をする事は憚られた。


王都ではダーナへの移住の準備が進められて、後は出発を待つだけとなっていた。

食糧に関しては、道中の町の領主に補充の申請がなされた。

その分馬車に余裕が出来て、多めに種子が積み込まれた。

後は土地の浄化をして、農地を耕すのみだった。


「準備は十分な様だな」

「ええ

 後は明日の出立のみです」

「出立の前には、陛下から出陣の挨拶もあります

 式は朝の9時の予定です」

「分かった

 その前にはここに来るよ」


ギルバートは翌日の予定を確認してから、自分の用事をする事にした。

私兵達には武器は用意してたし、ギルドにも話は通してあった。

後はアーネストに会って、最後の資料を受け取るだけだった。


「ジョナサンは親衛隊の様子を見ておいてくれ

 必要な物があれば、私の方で手配しておく」

「分かりました」

「ドニス

 アーネストには何処に向かったか分かるか?」

「そうですねえ

 魔術師ギルドに向かうと言っていましたが」

「分かった

 魔術師ギルドだな」


ギルバートはアーネストに会う為に、魔術師ギルドに向かった。

街中はダーナの復興に向かう兵士達を見て、士気が上がっていた。

ダーナが復興すれば、また国外との交易が再開される。

そうすれば国内も潤い、王都の市場も活性化するだろう。


街はそんな期待を胸に、住民達を生き生きとさせていた。

商店も客が集まり、屋台も景気良い声が上がっていた。


「街はすっかり活気付いているな」


ギルバートはギルドに着くと、ドアを開けて中に入った。

しかしギルドの中には、アーネストの姿は見当たらなかった。


「ようこそ、魔術師ギルドに

 あれ?

 殿下?」

「ああ

 アーネストは来ていないか?」

「アーネストさんですか?

 さあ?」

「先ほどまで居ましたけど

 ギルマスと何か話していました」


受付で聞いてみたが、アーネストがどこに行ったかは分からなかった。


「アーネストはギルドマスターと何を話していたんだ?」

「さあ?」

「確か魔術師の派遣がどうとか…」

「派遣?」

「ええ

 何名か声を掛けて、どこかに派遣して欲しいって」


「ふうん

 それでアーネストは?」

「さすがにそこまでは…」

「そうですね

 私も姿を見てませんので」

「そうか

 ありがとう」


ギルバートはカウンターを離れると、そのまま外に出た。

ここに居ない以上は、王城ぐらいしか思い当たる場所は無かった。

ギルバートは取り敢えず、王城に戻る事にした。

しかし王城に戻っても、アーネストの姿が見当たらなかった。

どうやら戻ってはいるらしいが、何処に居るかまでは分からなかった。


「弱ったな

 先ずは私室に行ってみるか」


先日の事から、私室に向かうのはあまり気が進まなかった。

しかし話をする為にも、居場所を探す必要があった。

さっそく私室に向かったが、ドアをノックしても反応が無かった。


「参ったな

 留守なのか寝ているのか…」


アーネストは翻訳は終わったらしいが、今度はダーナの資料を纏めるのに忙しかった。

頼んだのはギルバートだったが、寝不足な様子を見て申し訳なく感じていた。

しかし寝ているにしては、これだけノックしても起きないのは不自然だった。


「うーむ

 結構強めに叩いたが、それでも反応が無いか

 これはここには居ないかな」


ギルバートは部屋には居ないとみて、今度は食堂に向かってみた。

しかしここにもアーネストは居なかった。

それから謁見の間の待合室や、談笑室も覗いてみたが居なかった。

いよいよ探す場所も無くなってきて、ギルバートは困っていた。


「仕方が無い

 先ずはセリアに会いに行くか」


明日からのダーナ行きには、セリアも同行する事になっている。

旅にはアーネストのメイドのサリナとアリサが着いて行く。

その辺の準備が出来ているか確認が必要だった。

セリアが住んで居るのは、王城裏手の離宮だった。

ギルバートは離宮に向かって、王城の裏手に向かった。


「お兄ちゃん」

「おお、セリア

 良い子にしていたか?」

「うん」


ギルバートが来た事を聞くと、セリアは奥から駆け出して来た。

良い子にしていた割には、部屋の中で走っていた。

本当は注意すべきだが、可愛いから許してしまっていた。


「駄目ですよ、お兄さま

 良い子は家の中では走りません」

「ふみゅう

 走ってないもん」

「いいえ

 走っていたでしょう

 淑女は走ってはいけませんよ」

「うみゅう…」


フィオーナに叱られて、セリアはしょげていた。

そんな二人の様子を見て、ギルバートは思わず笑っていた。


「はははは

 すっかり元の調子に戻ったな」

「もう

 お兄さまがセリアを甘やかすからですよ」


そう言いながらも、フィオーナも笑顔でセリアを見ていた。

彼女の天真爛漫さを見ていると、ついつい頬が緩んでしまう。


彼女達が王都に戻ってから暫くは、フィオーナはセリアを敬っていた。

何せ相手は妖精の王国の女王である。

それにダーナでは、フィオーナ達を守ってくれてもいた。

それを思うと、どうしても敬語で話し掛けていた。


しかし数日もすると、昔の様な関係に戻っていた。

それはセリアが、とても女王などといった存在に見えなかったからだ。

また、本人やギルバートが、普通に接する様にお願いした事もあった。

特にギルバートは、セリアが特別な存在である事がバレる事を懸念していた。

そうした理由もあって、今では普通に家族として接していた。


「セリアは支度は出来たのか」

「んみゅう?」

「いや、明日からダーナに行くだろう」

「大丈夫よ

 私が服や身の回りの品を纏めておいたから

 後はサリナに持たせるだけ」


「本当に大丈夫か?」

「ええ

 服もちゃんとお出掛け用と式典用も用意しておいたわ」

「はあ…

 フィオーナがしっかりしていて良かったよ」

「そうだな

 おかげでフィオーナと、ゆっくり話も出来なかったよ」

「あれ?

 ここに居たのか」


離宮の奥の部屋から、アーネストが出て来た。


「ああ

 部屋ではゆっくり出来ないからな」


アーネストは眠そうに眼を擦って、欠伸をしていた。


「寝不足か?」

「ああ

 誰かさんのお願のおかげでな」

「すまん」


アーネストは1冊の本の様な資料を取り出した。


「ほら

 これが近年のダーナでの収穫と税収の資料だ」

「ありがとう」

「ただし、それは滅びる前のダーナの資料だ

 当面は人口は5分の1ぐらいに下がる

 だから資料も参考程度にしろよ」

「ああ

 なんせ1000人程度の人口だ

 食料や商品の供給量も、大幅に下がるだろうな」

「ああ

 そのつもりで見てくれ」


ギルバートは資料を受け取ると、それを小脇に抱えた。

反対側の腕は、セリアが抱き着いて離してくれなかった。


「ねえ、お兄ちゃんも遊んでよ」

「すまないが、私はこの後も用事がある

 明日からは一緒に旅に出るからな」

「うん

 そしたら一杯遊んでね」

「ああ」


ギルバートはセリアの頭を撫でると、そのまま離宮を後にした。

そしてそのまま、資料を持って王城の中に戻った。

今日は明日の支度もあって、兵士達が忙しく動き回っていた。

ギルバートも支度は済ませていたが、馬や荷物の用意が必要だった。

アーネストの用意してくれた資料を、馬に載せる荷物の中に加える。

明日の夜にでも、オウルアイ卿に渡す必要があったからだ。


「これで準備は終わったな」


ギルバートは荷物の詰まった背嚢を、自分の厩舎に運んだ。

そして厩舎で待っていた、ハレクシャーに挨拶をした。


「明日から長旅になるからな

 頼んだぞ」

ヒヒーン

ブルルル


ハレクシャーは元気に嘶くと、顔をギルバートに擦り付けた。

それはまるで、任せてくださいと言っている様だった。

ギルバートはハレクシャーの顔を撫でてから、背中を優しく叩いた。

そしてブラッシングをしてから、厩舎を後にした。

まだまだ続きます。

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