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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第279話

アーネストはセリアを離宮に送り届けてから、ギルバートの私室に向かっていた

その口元には笑みを浮かべながら

あの堅物だと思っていた友人が、まさかセリアを意識しているとは

それもあの様子からは、本人は気付いていないが相当な様子だった

一体全体、何が起こればああなるのか?

正に驚きの展開だと思った

ギルバートは書類を書きながら、必死に雑念を払っていた

少しでも気が緩むと、あの子の温もりを思い出しそうだった

それほどセリアが一緒に寝ていた事は、ギルバートに衝撃を与えていた

昔はよく一緒に寝たりしていたのに、今さらながらセリアを女の子と意識していた


ギルバートが書類を書き終わったところに、ドアがノックされた。


「誰だ?」

「ボクだよ」

「何だ、アーネストか」


ギルバートは鍵を外して、親友を招き入れた。


「何だとは何だよ

 セリアを連れて行っただろ」

「ん?

 ああ」

「感謝しろよ

 あのままじゃあヤバかっただろう」

「な、何がヤバいんだ」


ギルバートが動揺する様子を見て、アーネストははニヤニヤしていた。

それを見て、ギルバートは膨れっ面になった。


「何だよ」

「いや、別に」


「そうか…

 ギルがセリアにねえ」

「何なんだよ、さっきから」

「別に?」


アーネストはニヤニヤしながら、手近なソファーに腰掛ける。

ギルバートはそれを見ながら、ギリギリと歯軋りをした。


「んで?

 どうして意識し始めたんだ?」

「何の事だ」

「セリアの事だよ」

「セリアがどうしたと言うんだ」

「にふふふふ」


アーネストは気味の悪い笑い方をする。


「セリアに何も感じていないと?」

「当然だ

 あいつは妹だぞ

 お前も国王様も、セリアと結婚しろだなんて…」

「へ?」

「だからそういう話だろ」


アーネストはギルバートの言葉を聞いて、改めて気が付いた。


「そうか…

 国王様がねえ…

 気付いちゃったか」

「え?」

「いや、お前がセリアを好きだって事だよ」

「馬鹿な

 妹だから好きなだけだ

 決してやましい感情では…」

「何がやましいんだ

 お前とあの子は、血の繋がりも無いんだぞ」

「それはそうだが

 だからと言って…」


「じゃあ、他の女なら結婚するのか?」

「はあ?

 私はそんな事を考えている暇は…」

「ギル

 お前は王子なんだぞ」

「だから何だ」

「だから結婚は重要なんだよ

 戴冠したら、さっさと結婚して後継ぎを作らなきゃ」

「またその話か

 国王様も言っていたな

 だけど私は、結婚する気なんぞ無いぞ」


ギルバートはそう言うと、膨れてそっぽを向いた。


「そう言ったってな、王族は結婚して世継ぎを残す

 これも重要な仕事なんだぞ」

「そうは言ってもな、ここにはキャベツ畑は無いんだぞ」

「え?」


「だから

 ここにはキャベツ畑は無いんだ

 結婚とかしても、子供は出来ないだろう」

「…」

「そもそも、なんでセリアなんだ」

「そりゃあ好いた女と子供は作るべきだろう」

「だから、何でセリアなんだ」


「そりゃあお前が好きだからだろう」

「違う」

「違わないよ

 お前はセリアの事が好きなんだ

 いい加減に気付けよ」


アーネストはそう言うと、ギルバートの目の前に本を放った。

それにはある貴族の恋愛事情を書き綴った、生々しい内容が書かれていた。


「それを読んで勉強しろ」

「はあ?」

「良いから読んでおけ

 お前は知らな過ぎる」

「何なんだよ」


ギルバートは放り出された本を拾った。


「それは貴族の恋愛を書いた本だ

 本当はお前がもう少し、大人になってから渡すつもりだったけど…

 さすがにキャベツ畑は子供過ぎるだろう」


アーネストは笑いながら部屋を出て行った。

ギルバートは一人残されて、その本を手に取っていた。

そして中身を読み始めると、慌てて本を閉じた。


「な、何だこれは?

 これが…ゴクリ」


もう一度本を開くと、次は熱心に読み始めた。

中身は大人向けな恋愛小説で、男女の睦事も詳細に書かれていた。

いつしかギルバートは、興奮しながらそれを読んでいた。


翌日の朝には、ギルバートは寝不足で眠そうにしていた。

そしてメイドを見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

しかし周りの者は忙しそうで、それには気付いていなかった。


ギルバートは、昼間にオウルアイ卿に会いに行って、昨日の話の続きをした。

昨日の問題になっていた、予算不足の打開策を持って来たのだ。

魔物の素材を手に入れて、それを売って収入に当てるという話だ。


「なるほど

 魔物の素材を売るんですね」

「ええ

 そのままでも売れますし、加工すれば値段も上がります」

「それで?

 その加工は誰がするんです」

「それは職工ギルドに相談しています

 上手くいけば、有能な鍛冶師が同行します」

「そうですか」


「それから、旅には同行者が居ます

 その者の経費は私が持ちますし、面倒も見ます」

「同行者ですか?」

「はい

 誰かは事前に話せませんので」

「分かりました

 ワシも詮索はしませんですよ」

「その様にお願いします」


ギルバートはそう言って、昨晩書いた書類を手渡した。

オウルアイ卿は書類を受け取ると、その中身を読み始めた。


「なるほど

 これは良い案ですね」

「でしょう?

 これなら問題無く行きそうです」


オウルアイ卿は中身を読んで、改めてギルバートにお願いした。

ギルバートは正式な依頼として受けて、ギルドに斡旋する事にした。

こうすれば侯爵の押印も取れて、ギルドも安心して斡旋出来るからだ。


「それでは

 内容をよく読んでから、押印してください」

「分かった」


オウルアイ卿は書類を注意深く読んでから、書類に押印した。


「これで良いかな?」

「ええ

 それでは私がギルドに提出しておきます」

「よろしくお願いします」

「はい」


「それと、兵士の訓練は必要ですか?」

「訓練ですか?」

「ええ

 新兵には出来ない訓練があります

 私兵に魔物対策にしましょうか?」

「そうですね

 そちらもお願い出来ますか?」

「分かりました

 明日からでも始めますね」


ギルバートは身体強化を教える為に、オウルアイ卿の私兵に訓練を着ける事にした。

訓練は身体強化をしながら、走り込みや素振りを主に行われた。

そうしてある程度訓練してから、魔物の討伐も訓練に取り入れた。

ここ最近では、近隣にも魔物が現れる様になっていた。

だからコボルトやゴブリンを討伐する事を、訓練に取り入れた。


最初は王都近郊に現れたゴブリンを討伐に。

慣れて来たところで、近郊の森にコボルトを討伐に向かった。

最初は怪我人も多く出たが、数度に渡る遠征で、私兵達も戦闘に慣れて来た。

そして6の月の半ばには、私兵だけで討伐出来る様になっていた。


「あれから3月ですね」

「ええ

 当初は怪我人ばかりでどうしようかと思いましたよ」


ギルバートは、今日もオウルアイ卿の屋敷を訪ねていた。

コボルトを討伐した私兵達が、王都に帰還したからだ。

無事に帰還した私兵達を見て、オウルアイ卿はしみじみと呟いた。

中でも孫の成長が目覚ましく、今では隊長を任せられるかと言われていた。


「週に1度の討伐

 これだけでも大きな成果が出せます」

「ええ」

「問題は、ダーナの魔物はもっと強力である事です」

「え?」


「今相手にしているのは、魔物の中でも一番下の存在です

 上には上が居ます」

「それではどうすれば…」

「それはダーナで鍛えるしかありません

 ここには雑魚しか居ませんから」


ギルバートの言葉に、オウルアイ卿は悩んでいた。


「孫は…

 ロナルドは大丈夫でしょうか?」

「そうですね

 最初に比べれば、我儘や突出する事も少なくなりました

 後は経験ですね」

「そうですよね…」


オウルアイ卿の孫は、ギルバートより3歳年上だった。

その為か、最初はギルバートに対しても態度が悪くて、なかなか言う事を聞かなかった。

しかし遠征を繰り返すうちに、自分の未熟さを痛感していた。

そしてその事からも、次第に態度を改めて行っていた。


「まだまだ危なっかしいですが…

 私もついつい突出してしまいますので、彼の気持ちは分かります」

「そうですな

 若い内はどうしてもそうなります」


オウルアイ卿も身に覚えがあったのか、微笑みながら見ていた。


「次の遠征はどうされます?

 今度はタリアにでも向かわれますか?」

「うーん

 そうすると5日は掛かりますよね

 それよりも、そろそろ出立の準備をしませんと」

「では、これでダーナに向かう事にされますか?」

「ええ

 そろそろでしょうね」


ギルドでも人選は出来ており、武器も新たに作成されていた。

後は直前で食料を集めて、兵士達と調整するだけだった。


「兵士の準備は将軍が行います

 オウルアイ卿は私兵の装備と、食糧の準備をしてください」

「はい」

「それと、ギルド職員や移民を乗せる馬車は?」

「そちらは用意出来ております

 長旅用にと、職工ギルドに新たに造ってもらいました」

「そうですか

 それなら良かった」


移民たちは馬車に乗せて、一緒に食糧等も運ばれる。

その為に1台に10名ほどしか乗れず、馬車の数もそれだけ多くなっていた。

それに歩兵用の馬車と、騎兵が馬に乗って同行する。

これだけで大規模な移動になっていた。


「新兵達以外に、歩兵から100名ほど追加になります

 それから新兵も300名加わりますので、大所帯になりますね」

「殿下も同行されるんですよね?」

「ええ

 私は親衛隊を連れて行きます」


オウルアイ卿はざっと人数を数えて顔色を悪くする。

魔物が出にくくなるとあって、当初よりは兵士を減らしていた。

それでも1000名以上の食糧を運ばなければならない。

それだけの金額を考えると、とてもじゃ無いが予算が足りなかった。


「これは…

 陛下にお借りせねば無理ですね」

「いえ、食糧は国庫から賄いますので

 問題は暫くの税収でしょう

 折角立て直しても、税を払っていてはもちません

 陛下からは、3年を目途に税を免除すると承りました」

「本当ですか?

 それならば何とか出来そうです」


食糧以外にも、足りそうに無い職人を雇う給金も、国庫から出されていた。

その代わり、オウルアイ卿には必ず成功させる様に打診があった。

なかなかに厳しい事だが、ダーナは是非とも再興する必要があった。

だから国王も、予算をケチる事は無かったのだ。


「先ずはダーナに無事に着く事を考えましょう

 予算なんかはそれからです」

「え?

 よろしいのですか?」

「ええ

 無理に移住をお願いしているのです

 国王様にも私から、それとなく伝えております」

「しかし…」

「税を納めるにしても、先ずは住民の生活が出来なければ

 当面はそれを目標にします」


ギルバートとしては、先ずは生活基盤を整える必要があった。

税に関しても、魔物が安定して狩れる様になれば、自然と稼げる様になる。

その為にも、先ずは戦える者が暮らせる街作りが先決だった。


「今回はアーネストは同行出来ません

 代わりに予定や計画を書類で受け取っています

 先ずはそれに従って、住民が暮らせる生活基盤を作りましょう」


ギルバートはそう言って、オウルアイ卿に書類を見せた。

それは分厚い本にしても3冊分はある、書類の束であった。


「こんなに…」

「まあ、向こうで住み始めてから、色々と変更はあると思います

 ですが、それよりも街に着く事が重要です」

「そうですな」


「兵士の数は少ないですが、それには理由があります」

「何でも魔物が寄り付かなくなる方法があるとか?」

「ええ」


オウルアイ卿は、それに関しては懐疑的だった。

最近では王都の近郊でも、魔物が現れているのだ。

それを考えると、とても魔物が出ないと言われても信用出来なかった。

しかしギルバートが、安心して良いと力強く言っていた。

だから半信半疑だが、信じてみようと思っていた。


「それで

 兵士が減った分を冒険者を補充すると言うお話でしたが?」

「ええ

 冒険者を取り敢えず、50名連れて行きます」

「大丈夫でしょうか?」


「そうですね

 彼等は基本的に荒っぽいですが、仁義を弁えています

 何か問題があれば、私が対処しますので」

「しかし、よろしいのでしょうか?」

「それも含めて、私が同行するんですよ

 任せてください」

「はあ…」


オウルアイ卿としては、冒険者は馴染みが無かった。

元々格式を重んじる騎士と、自由を求める冒険者だ。

接点も無ければ、反りも合わなかった。

それでも彼等が必要だと、ギルバートは同行を要求した。

それにはギルバートなりの考えがあったのだ。

兵士では出来ない仕事を、冒険者に任せるつもりなのだ。


「住民は最初は800名です

 しかし増えていけば色々な者が現れます」

「ええ

 そうでしょうね」

「中には荒っぽい者や、兵士には向かない者も居るでしょう

 そういった者達に、魔物討伐専用の冒険者を率いてもらいます」

「大丈夫でしょうか?」

「さあ?」


「でも、何事も試してみなければ、分かりません

 まあ、これは生活が出来る様になってからですね」

「ええ」


ギルバートは書類を預けると、写し終わったら返して欲しいと言った。

そして屋敷を出ると、その足で王城に向かった。

国王に面会して、いよいよ準備に取り掛かる為だ。


取り敢えずは当面の問題として、侯爵の予算不足の解消からだった。

兵士の人数が減ったとは言え、まだまだ予算不足で苦しい状況だ。

その辺を国庫で賄う為に、宰相と相談する必要があった。

これもオウルアイ卿の息子が生きていれば、ギルバートがする必要が無い仕事だ。

しかし彼が亡くなっている以上、ギルバートがするしか無かった。

オウルアイ卿自身が、そこまで政治的な交渉が出来なかったのだ。


ギルバートは宰相に会う為に、王城の中へ入って行った。

まだまだ続きます。

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