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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第276話

ギルバートは、オウルアイ卿に会う為に貴族街に向かった

事前にサルザートから連絡があったので、貴族街には馬車で向かった

既にオウルアイ卿は、屋敷の入り口で待っていた

すぐにギルバートの馬車の前に来て、挨拶する為に跪いた

オウルアイ卿は壮年の貴族であった

先ずは馬車に近付くと、貴族の礼をした

それから腰を屈めて、恭しく跪いた

ギルバートは慌てて馬車から降りて、オウルアイ卿の腕を取った。


「オウルアイ卿

 それは大袈裟です」

「いえ

 貴方は王子です

 私の様な古い者達からすれば、新しい希望なのです」

「参ったなあ」


ギルバートは頭を掻いて、オウルアイ卿を立たせた。


「それでは、ワシの屋敷にご案内いたします」

「よろしくお願いします」


オウルアイ卿はギルバートを、自分の邸宅に招き入れた。

そこは屋敷のホールだったが、武人らしく質素ながら落ち着いた雰囲気が作られていた。


「これは…凄い」

「そうですか?

 ワシはよくは分からんが、妻が考えてくれましてのう」

「いえ

 落ち着いた雰囲気で…

 奥様が作られたんですか」

「ああ

 金は孫達に残したくてね

 質素ながら貧しく見えない様に、そう言って飾ってくれております」


風景の描かれた絵画に、落ち着いた色柄の花瓶。

あまり派手に飾らず、それでいて手が込んでいる装飾だった。

これだけ見ても、家主の拘りが見えていた。


「派手にせず、落ち着く雰囲気をたもつ

 貴族と言うより武人の家ですね」

「ん?

 そう言われればそうですかな

 ワシは元々、陛下の騎士隊長でしたから」

「そうなんですか?」

「ああ

 じゃから二人の事もよく覚えております

 殿下は陛下よりも…

 アルベルトに面影が似ております」

「ええ

 よく言われます」


ギルバートは、恥ずかしいのか頭を掻いていた。


「さて

 殿下が来られたのは、懐かしい爺の話を聞きに来たのではないでしょう」

「ええ

 ダーナの移住の件です」

「ふむ

 どういった事でしょう?」


「そうですね

 移住に関して、私兵は少ないんですよね」

「そうですなあ

 人数はワシの私兵が100名、王都で募った兵士が300名になります」

「侯爵の私兵も居るんですか?

 それでも400名か…」


「じゃが、ダーナに向かうまでは500名の兵士が同行します

 内、騎兵が240名です

 これだけ居れば十分でしょう」

「そうですね

 行くまでは問題は無さそうです

 しかし本当に問題なのは、ダーナに住未始めてからです」

「ん?

 どういう事ですかな?」


「ダーナには未だ、魔物が多数生息しています

 それは街の周りにですが、十分に脅威です」

「ふうむ

 それは外に出ると、魔物が囲んでいるという事ですかな?」

「ええ

 ですので非常に危険です」

「なるほど」


「それに、300名の兵士に関しては、新たに募集した新兵です

 今、訓練をしていますが、半年ではそこまで戦えるとは…」

「なるほど

 それで冒険者ギルドに向かわれたんですな」

「え?

 何でそれを…」


「実はワシも、冒険者ギルドに応援を頼んでましてな

 そこで殿下がいらっしゃったと話が入って来ました

 殿下が冒険者に、依頼をされていたんですよね」

「ああ

 私の話が伝わったんですね」

「ええ

 ワシ等に同行する様に仰っていたとは知りませんでした」


「実は、冒険者以外にも声を掛けています

 職人にも同行をお願いしています」

「職人ですか?」

「ええ

 生活用の道具では無く、魔物討伐用の武器です」


「武器ですか

 ワシが連れて行く移民の中にも、鍛冶師や彫金師も居りますが?」

「ええ

 それ以外で、魔物の素材を加工出来る職人です」

「ああ、魔物の素材を

 それは便利かも知れません」

「ええ」


「しかし、ワシにはそこまでの財力はございませんぞ

 それに街にしても、今は荒れ果てていると聞いております

 そこで無事に、鍛冶等をできるんでしょうか?」

「それは難しいでしょうが、出来る人が居た方が良いでしょう?」

「勿論ですとも

 しかし本当に必要でしょうか?」

「恐らくは」


ギルバートは鍛冶師は、最低限必要と考えていた。

魔物の素材で武器を作る事もだが、修理をするにも職人は必要だ。

それを考えると、最初は一人でもベテランの職人が居た方が良いのだ。


「殿下は…

 魔物の武具が必要と考えられていますな」

「はい」

「それは何故ですか?」


「そうですね

 私は強力な魔物も居ると思っています

 それを討伐するには、それだけ強力な武器が必要だと考えています」

「強力な魔物が…

 それで探しておられるんですな」

「ええ

 今の移住者の中には、それほどの腕前の職人は居ませんよね」

「そうですな

 確かにそんな職人が居れば、安心して魔物と戦えます」


侯爵も、ギルバートの意見には賛成だった。

しかし問題は、金が無い事だった。

いくらオウルアイ卿が節制していても、元は王都住みの貴族である。

自領を持たない以上、収入は少ないのだ。


「ですが…

 ワシには生憎と、そんにお金はございませんぞ」

「お金ですか…」

「ええ

 自領を持たない王都住みの、名前だけの名誉貴族です

 騎士団を退任してからは、それほど収入はございません」

「ああ

 そうか、それで今回の話しだったんですよね」

「ええ

 陛下から、そろそろ自領を持ってみないかと

 そうすれば孫にも、遺産を遺せるだろうと」


「失礼ですが、息子さんは…」

「孫が出来た後に、魔物との戦闘で…

 騎士団には入っていたので遺族基金は頂けますが、それだけでは…」

「お孫さんは?」

「ワシの私兵の副隊長をしております

 と言っても、まだまだ未熟です

 給金も結局は、ワシの頂く予算からです」

「そうですか…」


ギルバートは暫く考え込んだ。

しかし良い案が出ないので、結局その事は後日に回す事となった。


「分かりました

 報酬の件が決まれば良いんですね」

「はい

 そうなるのでしたら、是非ともお願いしたいです」

「それではこちらで、何とか出来ないか考えてみます

 何か良い案が浮かびましたら、またご連絡します」

「よろしくお願いします」


ギルバートは後日また来る事にして、屋敷を後にした。

オウルアイ卿は職人や冒険者の移民に関しては、前向きな様子だった。

しかし肝心な予算が足りない為に、その案に賛成出来ないでいた。

要は予算さえ何とかなれば、この話は纏まるだろう。

そしてそれは、職人や冒険者側でも同じだった。


「ふうむ

 こういった事は、私の専門外だからな」


ギルバートは相談する宛てを思い出して、王城に向かった。

今日はアーネストは、私室で本の翻訳をしている筈だ。

また邪魔するなと怒られそうだったが、彼にしか出来ない相談だろう。


「…という訳なんだ」

「という訳じゃない

 何でボクの所に来るんだ」


アーネストはイライラしながら、机に書物を叩き付けた。


「大体、何でボクなんだ

 それこそサルザート様に相談すれば良いだろう」

「サルザート様は多忙だ

 こんな話で煩わせるわけにもいかんだろう」

「あのなあ

 ボクも忙しいんだが?」


アーネストは苛立ちながら、書物の上で指をトントンとする。

それは先の遠征で、エルリックから授かった書物だった。

色々な魔法が載っている本は、魔術師達にとっては希少な物だ。

これを早く翻訳して、ギルドに納める必要があった。

そうすれば多くの魔法が広まり、魔術師がより魔物と戦い易くなる。


魔術師が魔法を覚えれば、それだけ魔物との戦闘が楽になる。

それは兵士や騎士のたすけにもなり、ひいては犠牲者を少なく出来るのだ。

宮廷魔導士としては、是非ともやっておきたい急務であった。


「それにな

 こんな事を簡単に解決出来るのは、アーネストぐらいだと思う」

「何だ?

 急に」

「お前ぐらいしか、この問題を片付けられないだろう

 なんせ頭を使う問題だからな」

「お、おう

 そりゃあ当然だろう」


アーネストは急にやる気を見せて、ギルバートが話した事を箇条書きにした。


「要するに、予算が無い侯爵がどうやって雇い入れるかだな

 そんなの簡単だろう」

「そうか?

 私には思い付かなかったぞ」

「当然だ

 ボクの優秀な頭脳に掛かれば、こんなもの簡単さ」


ギルバートは感心するふりをしながら、内心ではチョロいと思っていた。


「で?

 具体的にはどうやるんだ?」

「先ず確認だが

 侯爵は雇い入れる予算も無いんだったな」

「ああ

 息子さんは亡くなり、お孫さんも私兵でまだまだ未熟

 兵士の力量はまあまあなんだけど、それでも人数が足りていな」

「おいおい

 逆にそれって、大丈夫なのか?」


「ああ

 ダーナに向かうまでは、兵士が同行する事になっている

 まあ、将軍は出れないので、他の部隊の騎兵になるとは思うけど」

「ふむ

 それでギルは、陛下にダーナに行かせてくれと言っていたんだな」

「ああ

 せめて落ち着くまでは、ダーナの周辺の警備をしたかったんだ」

「気持ちは分かるが、駄目だろう

 お前は王太子として、戴冠する義務がある

 今ダーナに行ったら、それが遅くなるだろう」

「ああ

 国王様も怒っていらした」

「そりゃあそうだろう」


「んで?

 職人や冒険者は、納得して着いて行きそうか?」

「ああ

 ちゃんと報酬が出るのなら、逆にお願いしたいって」

「ん?」

「序でにギルドの建て直しをしたいんだって」

「ああ、そうか」


ダーナの住民は全滅した。

そうなると、当然ギルドの人間も全滅している。

ダーナのギルド職員だけでなく、ギルドマスターも含めてだ。

一から職員を募って、やり直す必要があった。


「そうなってくると、報酬が必要だな」

「ああ

 手っ取り早く稼ぐ方法は無いかな?」

「無理だな」

「そうなのか?」

「ああ

 無理と言うより、根本的に間違っているな

 向こう数年は、先ずは食料を自給する体制を整える必要がある

「食糧の自給?」


「ああ

 移民たちはこちらから、最低限の食料は持って行く」

「そうだな」

「しかしそれでも、保存の面を考えればギリギリだろう」

「そうなのか?」

「当たり前だろう

 そんなに長く食材はもたない

 それを考えたら、早急に食料を自給する体制が必要になる」


「そこで向こうの農地だが…

 ダーナの農地はどうなっていた?」

「あ…」

「そうだ

 魔物の影響で荒れ果て、とてもすぐに収穫は出来ない」

「そんな

 それならどうやって…」


「先ずは井戸を綺麗にして、水の流れも直さなくてはな

 その上で森に入り、木の実や果実、自生する野草等を集める必要がある」

「しかし魔物が居るだろう?」

「ああ

 だから兵士達には、早急に魔物と戦える力を身に着ける必要がある」

「うーん

 そんなに上手く行くかな?」

「上手くやらないと、漏れなく住民は餓死だな」

「う…」


「何か方法は無いのか?」

「そうだな

 一つは商人を頼る

 隊商が行き来すれば、それだけ食料も入るだろう」

「何だ、それなら…」

「だが、問題があるんだ」

「問題?」

「商人に売る、売り物が無い」


「何でだ

 ダーナには色々な特産品が…」

「ダーナは滅んだ

 作物もだが、作られた武具等も消失していたよな」

「…」


アーネストが言っている事は真実で、ダーナには今、何も残されていなかった。

かろうじて建物は残されているが、それも多くが崩れかけていた。

移民が向かった頃には、どれだけまともな建物が残っているのやら。


「売り物が無いのは分かった

 しかし無いのなら、作ったらどうだ?」

「それが出来るまでの間、どうやって食い繋ぐんだ?」

「ぐ…」


「それに、例え作物が出来たとしても、先ずは住民の食糧だろう

 備蓄出来る様になって、初めて商人と取引が出来る様になる」

「じゃあ、どうやって」

「まあ待て

 二つ目は、森で獲れる物だ

 木の実や茸もだが、野生動物も居るだろう

 鹿や兎といった動物の肉は、貴重な食料になるだろうな」

「何だ、驚かせやがって」


「それに皮は商品になる

 木を伐採すれば、木工品も出来るだろう」

「それなら商品に?」

「ああ

 だが、これだけでは駄目だ

 大した金額にはならないし、食糧に使えば残らないだろう」

「ええ

 それじゃあ振り出しじゃないか」


「そうだな

 それに森に行くにしても、ここでまた魔物が問題になってくる」

「ああ、そうだった」


「そこで冒険者だ」

「ん?」


「冒険者が魔物を狩り

 その素材を売り物にする

 魔物の素材なら、商人も喜んで買うだろう」

「おお!」

「それに職人が居れば、加工して商品にも出来る

 勿論住民が優先だが、余ってくれば商品として販売出来るだろう

 そうすれば他の商品も売買出来る様になる」

「なるほど…」


アーネストは得意気に胸を張ってみせた。

しかしここで、ギルバートは腑に落ちない事があった。


「ん?

 しかしそれなら、そもそもの報酬はどうするんだ?

 冒険者や職人が必要なのは分かった

 だが、彼等を雇う為のお金はどこから出すんだ?」

「はあ…

 聞いてたのか?」

「何が?」

「報酬は自分が獲って来た、魔物の素材だよ」

「え?」


「冒険者達には、自分で獲って来た魔物の素材は、自分の物として自由に出来る

 つまり、獲れば獲るほど自分の収入になるのさ」

「なるほど」

「そして職人達は、その魔物の素材を買い取って加工する

 そうして商人に売る事が出来る

 だから職人は、移民には反対しなかった筈だ」

「そういえばそうだったな

 希望者が居るかは分からないが、中には居るかも知れないって言ってた」

「だろう?」


「こうなってくると

 後は本人達が行く気になるかどうかだ

 無事に狩れたなのなら、報酬になるんだから」

「そうだな」


他にも税やギルドでの取り分等の問題もあったが、そちらは領主の領分だ。

アーネスト達が口を出す事では無かった。


「どうだ?

 簡単だっただろう?」

「ああ

 助かったよ」


ギルバートはそう言うと、さっそくオウルアイ卿に会う事にした。

この案を伝えて、ギルドと協力体制を築くのだ。

ギルバートは侯爵の屋敷に使いを出して、面会出来るか確認した。

まだまだ続きます。

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