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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第273話

ギルバートは王城に戻ってすぐに、国王との謁見をお願いした

国王も事情は知っているので、すぐさま謁見の段取りが整えられた

ギルバートは謁見の間に案内されると、順番を待っていた

今日も数人の貴族が居て、謁見の順番を待っていた

さすがに凱旋したとはいえ、謁見の順番は守られていた

いよいよギルバートの番が来て、謁見の間の扉が開かれる

そこには宰相を始めとして、王都在住の貴族も控えていた

ギルバートの名前が読み上げられて、謁見の理由が読み上げられる

それはダーナの解放の成功と、報告が行われると言われていた


「それでは

 ギルバート殿下のご帰還と、ダーナ解放の説明を行います」

「ギルバート殿下

 どうぞ前へ」

「はい」


ギルバートは返事をすると、そのまま国王の前まで進んだ。


「ギルバートよ

 此度はごくろうであった」

「はい

 ダーナは無事に解放されました」

「うむ

 凱旋の報告も聞いておる」


ギルバートに続いて、ジェニファーとフィオーナ、イーセリアも謁見の間に入る。


「ダーナ前領主夫人、ジェニファー様とその娘のお二人です」

「ハルバート様

 お久しぶりです」

「おお、ジェニファー

 無事で良かった」

「はい

 ギルバート殿下のご尽力もありまして、こうして王都の土を踏めました」

「うむ」


ハルバートは二人の娘の方を向いて、優しく微笑んだ。

二人は臣下の礼を取り、下を向いて跪いていた。


「その方らが娘御か

 無事でなにより」

「はい

 …お父様?」

「うん?

 そんなに似ておるかのう?」


国王は苦笑いを浮かべて、フィオーナを真っ直ぐに見詰めた。


フィオーナは驚いた顔をして、暫く国王の顔を見詰めていた。

しかし気が付いて、恥ずかしそうに俯いた。

セリアも最初は大人しくしていたが、こちらは既に退屈していた。

周囲をキョロキョロと見回して、ギルバートを見付けてニコリと微笑んだ。

その様子を見て、数人の貴族は優しい顔をして微笑んでいた。


「もう一人がイーセリアかな?」

「うん

 イーセリア、9歳です」

「ほほう

 賢いのう」


セリアが元気よく返事をして、数人の文官がしかめっ面をした。

しかし国王は、優しく微笑んでいた。


「娘達には退屈であろう

 控えの間で休んでもらいなさい」

「陛下」

「ジェニファー

 大丈夫じゃ

 ここにはもう、アルベルトを狙う者は居ない」


ジェニファーは逡巡したが、頷いて二人をメイドに任せた。


「分かりました

 娘達をお願いします」

「はい、奥様」


メイド達は二人に手を差し出し、控えの間に案内した。

セリアは楽しそうに、メイド達に話し掛けていた。

その明るい声が、謁見の間の扉の向こうに消えて行く。


「久しぶりに子供の明るい声が聞けたな」

「はい

 エリザベートも最近では、すっかり大人しくなりましたからね」


エカテリーナ王妃が、寂しそうに微笑んだ。

逆にジェニファーは、恥ずかしそうに俯いていた。


「ジェニファーよ

 そんなに畏まらんでも良い

 ワシとアルベルトの仲じゃ、こんな事では何も言わんぞ」

「はい

 しかしイーセリアには、まだ淑女の嗜みが出来ておりませんでして…」

「よいよい

 その辺の事情も、ギルバートから聞いておる」


国王はそう言って、優しく微笑んだ。


「さて、ギルバートよ

 此度は大役を果たして、大儀であった」

「はい

 予め報告しました通り、ダーナの解放は成功しました」

「うむ

 詳しい報告は後程として、先ずは経緯を説明してくれ」


「はい

 ダーナは住民が死霊になっておりました」

「死霊に?」

「はい

 見た目は人間ですが、死んで魔物の支配下に下りました」

「魔物に…

 それはどんな魔物じゃ?」

「はい

 フランドール殿が魔物になり、住民達を支配しておりました」

「な!

 フランドールじゃと?」


国王は驚き、立ち上がって思わず声を大きくしていた。

事前に報告した内容は、魔物に支配されていたとしか記していなかった。

だからフランドールに関しては、既に亡くなっていると思われていた。

それがまさか、魔物になっているとは思っていなかったのだ。


「フランドール殿は、ある者に魔物にされていました」

「ある者とは?」

「魔王

 女神様が使徒として遣わせる、魔物の王です」

「魔王…

 魔物の王か…」


国王はそれを聞いて、力なく玉座に座り込んだ。


「まさか魔物の王が、女神様の使徒だとは…」

「ええ

 女神様の使徒にも、人間を導くと言うフェイト・スピナー以外に、魔物を導く魔王が居ます

 今回はその魔王が、フランドール殿を魔物にしました」

「そうか」


「どのようにして魔物にしたのかは分かりませんが、フランドール殿は強力な魔物になっておりました」

「まさかと思うが…

 ギルバートよ

 そなたは先頭切って戦っておらぬよな」

「え?

 私は参加しておりませんよ

 いくら強い魔物と言っても、私の親衛隊が居ます

 彼等にかかれば、少々の魔物でしたら倒せます」

「そうか」


国王はホッとして、安心した顔をした。

強力な魔物と聞いて、またギルバートが戦ったと思ったのだ。

いくら強いと言っても、彼は王子なのだ。

危険な戦闘には、極力参加して欲しくなかった。


「それで?

 魔物は無事に倒せたのだな?」

「はい

 フランドール殿が操っておりましたので、フランドール殿が倒されれば…」

「なるほど

 それで住民達は?」

「先ほど申しましたが、既に死んでおりました

 中にはフランドール殿の指示で、死霊として襲い掛かって来る者も居ました

 ですからフランドール殿が倒されたら、全てが灰になりました」

「灰?」

「ええ

 全ての住民が、灰になって消えました」

「な、なんと…」


国王は愕然として、力無く項垂れた。

そのまま頭を抱えて、多くの住民達が亡くなった事を悔やんだ。

そんな国王の様子を見て、王妃が優しく肩を抱いた。

そして文官達も、思わずもらい泣きをしていた。


「くっ…

 何で罪なき住民達まで…」

「陛下

 我々は、決して罪が無いわけではございません」

「何だと?」

「詳しくは後程

 ここでは話せませんので」

「重要な事か?」

「ええ

 機密にすべき内容かと」


国王は暫し悩んでから頷いた。


「分かった

 何か情報を得たのだな」

「はい」


「他に報告出来る事は?」

「そうですね

 こちらも重要なんですが…」


ギルバートは少し溜めてから、報告を始めた。


「実は我々は問題無く帰還出来たんですが、魔物がまだ沢山出ます

 それを思ったら、ダーナに移住する際には腕利きの兵士や騎士が必要になります」

「ダーナの周りにか?」

「いえ

 山脈も含めてです」

「山脈にも居るのか?」

「はい

 ですので向かう際には、騎士や兵士を集める必要があります」

「そうか…」


「それと…」

「まだあるのか?」

「ええ

 出来れば移住者の中には、腕利きの兵士や冒険者も必要かと」

「うむ

 それはワシも考えておった

 これから兵士を募集して、移民と共に送ろうと思う」

「そうですね

 早目に移民は送りたいですが、兵士を鍛える期間も欲しいですね

 そう考えると、移民が向かうのは夏以降ですかね」

「そうじゃな」


国王も同じ考えで、徴兵した兵士達を、王都で鍛えようと思っていた。


「国王様

 出来ればダーナに向かう移民達を、私に…」

「駄目じゃ

 これ以上其方に、危険な任務を任せとう無い」

「しかし陛下」

「これは国王と言うよりも、父としての願いじゃ」

「でも、ダーナの周りにはまだ、危険な魔物が…」

「だったら尚更じゃ」


国王は頑なに首を振って、ギルバートの同行を認めなかった。


「ハルバート…」

「ジェニファー

 いくらお前の頼みでも、ワシは…」

「そうね

 ジェニファー、私も反対よ」


ジェニファーも許可を求めたが、国王夫妻はギルバートの同行を認めなかった。

こうして謁見は終了して、ギルバートは謁見の間を出て行った。

報告は無事に終わったが、同行までは許可されなかった。


「だから言っただろ」

「ああ

 さすがにすぐには、認められないか」

「あのなあ…」


ギルバートが諦めていないのを見て、アーネストは呆れていた。

しかしギルバートとしては、危険な場所に向かわせるのに心配していたのだ。

いくら訓練を積んでも、半年程度ではコボルトぐらいしか倒せないだろう。


「ギル

 私もやっぱり反対よ」

「母様」

「でも、言っても聞かないんでしょうね」


ジェニファーは溜息を吐きながら、ギルバートの方を見た。


「ハルバートも心配なのよ

 あなたがあの人の息子である以上、心配するのは当然でしょう」

「それはそうなんですが…」

「ジェニファー様

 こいつは脳筋だから、真っ直ぐにしか進めません」

「そうなのよね

 アルベルトも心配していたわ」


ジェニファーはやれやれと言った様に肩を竦めた。


「アーネスト

 責任もって見張っておいてね」

「え?」

「フィオーナとのお付き合い

 許可をするわ」

「え?

 それは…

 いやいや」

「そんな

 駄目ですわよ、お母様」


聞こえていたのか、フィオーナが控えの間から飛び出して来る。

慌てていたのか、その手には木苺のパンが握られていた。


「あら

 フィオーナ、そういう事ですので」

「そういう事じゃなくて」

「あら?

 アーネストでは不満?」

「そうじゃないけど、そういう問題じゃあ…」


フィオーナは顔を赤らめて、慌てて手を振り回す。

後ろにはセリアも着いて来ていて、不思議そうに二人を見ていた。


「ふみゅう?」

「もう、アーネストはどうなの?」


フィオーナは顔を赤くしたまま、キッとアーネストを睨んだ。


「いや

 ボクはそんな事を言われなくても、ギルをサポートするつもりで…」

「そうじゃなくて

 私の事を…くっ」


二人の声を聞いて、周りのメイドや貴族達が、ひそひそと会話を始める。

二人の関係を推測して、色々噂話をしているのだろう。


「それは…」

「いい加減にはっきりしなさいよ」

「それは…」

「そこまでにしておけ」


ギルバートは周りの様子を見て、ストップを掛けた。

これ以上騒いでは、後々まで問題になるだろう。

すでに十分なゴシップになりそうなのだ、ここは頭を冷やすべきだろう。


「ほら

 痴話喧嘩が注目されている」

「痴話喧嘩だなんて」

「そうだよ」

「良いから頭を冷やせ」

「あう…」

「うう…」


ギルバートは二人の手を掴むと、そのまま控えの間に連れて行った。

ジェニファーとセリアも、その後を追った。


「そもそも、母様が悪いです」

「え?

 私?」

「ええ

 いくら二人がいつまでも曖昧だからって、こんなところで…」

「でも、こうでもしないと、いつまで経っても二人が…」

「でもですよ」

「だけどそれでは、フィオーナは他所の貴族に嫁ぐわよ?」

「それはそうなんですが…」


ギルバートは二人を見たが、両方とも顔を真っ赤にして俯いていた。


「はあ…

 これはまだまだ時間が掛かるな」

「でしょ

 私としては、早く孫の顔が見たいわ」

「お母様!」

「ジェニファー様」


二人共顔を赤くしながら、あわあわと両手を振り回す。


「はあ…

 先は長いな」


ギルバートは溜息を吐きながら、控室を後にした。

これ以上ここに居ても、建設的な話にはならないだろう。

遠征の疲れもあったので、先に風呂に向かう事にした。

その後に夕食をして、夜にでも国王と相談しようと思った。

離宮の事もあるので、なるべく早い話し合いが必要だろう。


夕食はジェニファー達も呼ばれて、一緒に会食となった。

フィオーナやセリアも着飾って、会食の席に座っていた。

しかしセリアは発育が悪いのか、ドレスは子供用しか似合わなかった。

胸のふくらみも皆無で、非常に子供らしく見えていた。


「こら、セリア

 スープはこうして音を立てずに…」

「んみゅう

 食べにくい」

「駄目だぞ

 会食はマナーが重要なんだ」


ギルバートは隣に座って、セリアにマナーを教えていた。

その様子を見て、周りの貴族達も微笑ましく見ていた。


「イーセリアはまだ子供だ

 そこまでマナーに拘らなくとも良いぞ」

「それはそうなんですが

 今から教えておかないと

 こら、手掴みは駄目だろ」

「ふはははは

 そうだな」


国王は手掴みで肉を齧る様子を見て、思わず笑いだした。

そしてそんなセリアの口元を、ギルバートはナプキンで拭ってやる。

貴族達の視線が、いつしか生暖かくなっていた。

セリアが9歳にしては、あまりにも子供っぽかったからだ。


会食はそのまま、穏やかに進められた。

この時期では、まだ子牛や子豚は産まれていない。

しかし今年の豊作を信じて、宴では肉がふんだんに振舞われた。

それだけダーナの解放は、喜ばしい慶事と思われていたのだ。


ダーナ自体の解放よりも、その先にある港町の解放が重要だったのだ。

これで港が解放されれば、再び国外との貿易が可能になる。

その為にも早く、ダーナへの移住が求められていた。


会食が終わると、セリア達は客室へと案内されて行った。

それを見届けてから、ギルバートは国王の方を向いた。


「陛下

 お話したい事がございます」

「例の話か?」

「はい」

「今日はもう、ゆっくり休んで明日とはいかんのか?」

「そうですね

 出来れば早目に話したい事がございます」

「そうか…」


「サルザート」

「はい」

「執務室に向かうぞ」

「はい」


国王は宰相を伴なって、執務室へ向かった。

ギルバートもアーネストに合図をすると、二人でその後を追った。

王都の夜は、まだまだこれからだった。

まだまだ続きます。

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