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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第272話

翌日になって、いよいよ野営地は畳まれていた

魔物も精霊の加護があって、野営地には近寄って来なかった

だから野営地では、安心して片付けをしていた

そしてギルバートは、セリアを後ろに載せていた

全員が準備が出来たところで、一行は山脈に向かって動き始めた

ギルバートは山脈に向かって、ゆっくりと進んでいた

セリアはギルバートの後ろに、フィオーナはアーネストの前に乗っていた

アーネストの乗馬技術に比べると、フィオーナの方が上手かったからだ

そしてメイド達とジェニファーは、馬車乗っていた


一行はゆっくりと進んで、翌日の夕刻頃にノルドの町に辿り着いた。

そこは既に廃墟になっていて、中に入る事は出来なかった。


「町の跡には入れないか

 外で野営にするぞ」

「はい」


周囲を警戒しながら、一行は野営の準備を始めた。

魔物は精霊の加護の力で、野営地には近付いて来ない。

野盗にさえ気を付ければ、野営地は安全だろう。


「さすがに野盗は居ないか」

「そうですね

 こっちには今、住める場所は無いですから

 野盗も襲う相手も居なければ、さすがに住めないでしょう」

「そうだな

 野盗が居ないのなら、こっちも警戒の必要が無いかな?」

「いや、野生動物がいますから、一応警戒はしています」


この辺りには主に猪が居て、偶に熊や狼が現れる。

騎士達にとっては、狼でもそう大した敵にはならないだろう。

しかし兵士やセリア達では危険だ。

そう考えれば、警戒は一応しておいた方が良いだろう。


「時期としては狼も出ないだろうが…

 分かった、警戒をしておいてくれ」

「はい」


騎士達の警備もあったからか、その夜も特に何事も起きなかった。

もしかしたら、精霊の加護のおかげかも知れない。

翌日はそのまま竜の背骨山脈に入り、崖に沿った危険な道を登る。

しかし何も起きないので、順調に進んで行ける。

5日で山脈の頂上に辿り着き、そのまま1週間ほどで下りられた。


「やはり精霊様の加護のおかげかな?」

「そうだろうね

 あまりにも何も起きな過ぎる

 だからこそ、加護なんて言われるんだろうけど…」

「これはセリアに、精霊様へ感謝の言葉を伝えてもらわないと」


ギルバートは出発してすぐに、セリアに頼んで精霊に感謝の言葉を伝えた。

その時に精霊からは、感謝の言葉よりお供えが欲しいと言われた。

お供えは果物か野菜が欲しいと言われたので、荷物の中から適当に見繕った。

季節が季節なので、新鮮な果物や野菜は無かったのだ。


「今度は山脈の途中で、木苺も見付かった」

「そうだな

 普段はなかなか見付からないが、あれは高山に育つ苺なのかな?」

「そうかも知れないな」


ギルバートは麓に着くと、さっそく野営の準備を始めた。

村までまだ少しあるし、そろそろ日が暮れようとしていたからだ。

野営の準備をしながら、ギルバートはセリアに話し掛けた。


「なあ

 精霊様に感謝をしたいんだけど」

「あの子達に?」

「ああ」


「うーん

 お兄ちゃんは目立つ事はするなって言わなかった?」

「それはそうだけど…

 魔物や野生動物に襲われない様に、精霊様は加護をしてくれているんだよな」

「うにゅ?

 そうだけど?」

「だからそれに、感謝したいんだ」

「ああ

 でも、あの子達はセリアの為にって言ってたよ

 お兄ちゃん達なら、悪い奴はやっつけれるんでしょう?」


「それはそうなんだけど、母さんやフィオーナ達も守ってくれてるだろう?」

「ついでだって言ってた」

「うーん

 それでも助かっているんだ

 これをあげてくれないか?」


ギルバートは木苺を出して、セリアに渡した。


「うん

 分かった」

「頼んだよ」

「うん

 お兄ちゃんがそう言っていたって、伝えるよ」


セリアは木苺を受け取ると、小走りで天幕を出て行った。

ギルバートはセリアの天幕を完成させると、続けて隣の天幕を作りに向かった。

天幕を作りながら、ギルバートはセリアの姿を探した。

しかしセリアは、何処に行ったのか姿が見えなかった。


その頃セリアは、側の繁みに座り込んでいた。

そこで精霊に呼び掛けて、呼び出していた。


「精霊さん

 精霊さん

 出て来てよ」

「なんでしょうか?」

「よばれましたか?」

「うん」


セリアは木苺を取り出すと、布ごと地面に置いた。


「まあ

 おいしそうないちごね」

「よろしいのですか?」

「うん

 お兄ちゃんが精霊さんにって

 感謝してるって」

「ほう…」

「かんしんなにんげんね」


「ねえ

 お兄ちゃん達の事は嫌い?」

「いいえ

 そういうわけではないんですが…」

「にんげんはわたしたちを、おそれていますから」


「お兄ちゃんと仲良く出来ないの?」

「じょおうはよろしいんですが、にんげんは…」

「にんげんたちは、じょおうのははうえをころしました

 わたしたちは、いまもゆるしておりませんわ」


「それはお兄ちゃんも?」

「そうではないんですが…」

「お兄ちゃんは違うよ

 セリアに優しいもん」

「それはじょおうがこどもだからです」

「それに…

 しょうたいをしったいまは…」

「ううん

 お兄ちゃんはそんな事は無い

 セリアを守ってくれるって」


「じょおうは、あのにんげんをしんじるんですか?」

「うん」

「そう…ですか」


「ねえ

 お願い

 お兄ちゃんと仲良くして」

「わかりました」

「ぜんしょします」


セリアはニッコリと笑って、精霊達の頭を撫でた。

精霊は実体を持たないと、触れる事は出来ない。

それなのにセリアは、精霊達を優しく撫でた。

こういったところが、精霊女王である力なのだろう。


セリアの差し出した木苺を、精霊は美味しそうに食べた。

そうして一通り食べた後、精霊達は満足して消えた。

セリアは布を畳むと、微笑みながら繁みを出て来た。


「お兄ちゃん」

「うお!

 そこに居たのか」


ギルバートは驚いて、思わず天幕の支柱を取り落としそうになる。

振り返ると、近くの繁みからセリアが出て来ていた。

ギルバートは支柱を置くと、セリアに近寄った。


「精霊様は喜んでくれたかな?」

「うん

 美味しいって言ってたよ」

「そうか

 それは良かった」

「うん」


「王都に戻ったら、精霊様には窮屈な思いをさせてしまう」

「どうして?」

「普通の人間では、精霊様は見えないし理解も出来ないだろう

 そうした時に、大体恐れられてしまう」

「うん

 あの子達もそう言ってた」


「恐れた人間は危険だ

 セリアが危ない目に遭わない為にも、精霊様には会わない方が良いのかもな」

「そんな…」

「だけど、それではセリアが寂しいだろ?」

「うん」


セリアが泣き出しそうな顔をしたので、ギルバートは何か方法が無いかと思った。

ギルバートは暫く腕組みをして考えた。


「よし

 セリアの為に庭園を造ろう」

「ていえん?」

「ああ

 精霊様とゆっくり会える、専用の庭だ」

「そこならあの子達を呼んで良いの?」

「ああ

 その為の庭だからな」


セリアの顔が明るくなり、ニッコリと微笑んだ。

ギルバートはセリアの頭を撫でながら、言葉を続けた。


「そこはセリアだけの専用の庭にするから

 それなら精霊様が現れても、問題にはならないだろう」

「うん

 あの子達もそれで良いって」


セリアの耳元で、精霊達が囁いていた。

それはギルバートには聞こえなかったが、暖かなそよ風が流れた。


「それは良いけど、どうやって造る気だ?」


いつの間にかアーネストが来ていて、二人の会話を聞いていた。


「アーネスト」

「庭園て言っても、造る場所が無いだろ」

「それは大丈夫だ

 王城の裏手に、離宮の跡があるだろ?」

「離宮?

 そんなのあったか?」


「父上と母上が、まだ王都に住んでいた時の離宮だ

 今は使われていなくて、ほとんど廃墟になっているがな」

「そんなのあったかな?」


ギルバートが王都に来てからすぐに、国王にその場所に案内されていた。

離宮は使われなくなった後も、そのまま残されていた。

それはアルベルトが、王都に戻れると信じていたからだ。

しかし離宮の庭園は、長らく放置されていた。

誰も住まない離宮の、手入れまではする余裕は無かったのだ。


「アルベルト様の離宮?」

「ああ

 母様の為の庭園がある

 あそこを国王様に解放していただこうと思う」

「そこならあの子達と遊んでも良いんだよね」

「ああ

 誰も入らない様にしてもらうから」

「やったー♪」


セリアがニコニコしているのを見て、ギルバートは満足気に頷いた。

しかしアーネストは、もっと現実的な事を考えていた。


「それで?

 そこの手入れは誰がするんだ?」

「え?」

「誰も手入れしないんじゃあ、マズいんじゃあ無いか?」

「大丈夫だよ

 ノームさんが居るから」

「それはそうだけど

 自然に庭園が綺麗になっていたら、おかしいと思うだろ?」

「そうだな…」


「誰か知っている人で、口が堅そうな者が必要か…」

「ああ

 バレない様に、手入れしている事にしなければな」

「そうなると…

 母様かフィオーナに頼むか」

「いや、二人は無理だろう

 庭の手入れなんて難しいんだぞ

 それならうちのメイドの方がマシだ」

「頼めるか?」

「頼めるか頼めないかと言えば…

 ううむ」


アーネストはそう言ったが、メイド達の天幕に向かった。

それから暫くして、アーネストは天幕から出て来た。


「一応頼んでみた

 やってくれるって」

「よし」

「だけど住むところが必要だぞ」

「それなら、離宮をセリアの住まいにして、メイド達を世話係にするか?

 そうすれば一緒に住めるぞ」

「そうするしか無いか」


「後は王都に戻ってから、国王様に相談だな」

「セリアの事はどうする?」

「私の大切な妹だ

 そういう話で離宮を使わせてもらう」

「出来るのか?」

「そうするしか無いだろう?

 まさか精霊女王であるとは言えんだろう?」

「それもそうか…」


それからギルバートは、メイド達も集めて相談を始めた。

セリアの世話をするのは、メイド達ではある。

しかしそれだけでは不十分だった。

何せまだ小さな子供だけだ、母親が傍に居るべきだろう。


「そこで母様にも、フィオーナと一緒に離宮に住んで欲しいんだが…」

「そうね

 あそこにはアルベルトとの思い出も一杯ある

 出来れば避けたかったけど…」

「お母様?」


フィオーナが苦しそうな顔をするのを見て、心配そうにする。


「大丈夫よ

 それよりも、あなたはどうするの?」


ジェニファーはフィオーナの顔を見る。


「え?

 私は…

 私は…」


フィオーナは俯いてから、ギルバートとアーネストを交互に見た。

それから決心した様に、ジェニファーを見詰めた。


「お母様

 私はお兄様の側に居たいです

 それに…」


アーネストの方を見てから、少し複雑な表情をしてみせる。


「フィオーナ

 良いのか?」

「ええ

 それに、そこにはセリアと精霊様も居るからね」


フィオーナはニッコリと笑ってから、セリアの方を見た。


「セリア

 これからもお姉さんと一緒に暮らしてくれる?」

「うん

 お姉ちゃん」


セリアは嬉しそうに、フィオーナに抱き着いた。


こうしてある程度の準備をして、ギルバート達は王都に帰還した。

既に1月以上が経過したので、王都は3月の半ばを迎えていた。


ギルバート達は王都の城門に到着すると、既に通りには人が集まって居た。

事前にリュバンニから早馬を出していた。

王城には帰還の大体の時間も伝わっていた。


ギルバート達は、ダーナの街を解放した英雄として伝わっていた。

それは国王なりの考えで、住民達はダーナがどうなっているかまでは知らなかった。

そして英雄の凱旋として、王城までのパレードとなった。

これは城門に待機する兵士に伝えられており、ギルバートも不承不承ながら従った。

どうせ騒ぎになるのなら、少しでも安全な帰還方法が良かったからだ。

感動した住民が、騒いで暴動にでもなったら大変だ。

それよりも、パレードにしてゆっくり帰った方が安全なのだ。


王城までゆっくりと戻ったが、住民達はセリアを見て首を捻っていた。

王子であるギルバートが、少女を後ろに乗せているのだ。

あれは誰だと気になるのは当然だった。


「随分注目が集まっているな」

「そりゃあそうだろう

 ダーナを解放した英雄だ

 みんな見たいに決まっている」

「それだけでは無いですよ

 イーセリア様とフィオーナに様にも注目が集まっています

 お二人が誰なのか、気になっているのでしょう」

「え?

 何でさ」


「それはですね

 お二人共婚約者が居ないからです」

「え?」

「しまった」


ギルバートは理解していないが、アーネストは慌てていた。

何せ曰くありげな女性が、アーネストの前に乗って手綱を握っているのだ。

これでは既に、手綱を握られていると誤解されるだろう。


「アーネスト

 どうしたんだ?」

「む?

 ああ…えっと」

「あら

 私は構いませんわよ」

「ボクが困るんだよ」


フィオーナは嬉しそうにクスクスと笑い、アーネストは顔を赤くして俯いた。


「変なの?」

「そうだな」


セリアも二人の様子を見て、くすくすと笑っていた。


そのまま1時間ほどを掛けて、一行はゆっくりと王城に入った。

そして兵士達は兵舎に向かわせて、騎士もその場で解散した。

ジョナサンだけが、国王に報告するまで同行する事となった。


「それでは殿下

 陛下に報告致しましょう」

「ああ

 母様も一緒に来て下さい」

「ええ」


「メイド達はどうするんだ?」

「彼女達はゲストルームに案内してくれ

 ドニス」

「はい」


執事のドニスを呼んで、メイド達の事を任せる。

そうしてジェニファーとフィオーナ、イーセリアの三人を連れて、ギルバートは謁見の間に向かった。

まだまだ続きます。

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