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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第271話

アーネストは夕方になるまで、天幕でゆっくり休んでいた

寝不足が祟っていた様子で、頭がスッキリするまで横になっていた

そしてアーネストが回復する頃には、夕食の時間になっていた。

メイド達が下ごしらえをしていたので、兵士だけでも料理は完成したのだ

ジェニファーも手伝って、兵士達に食事が配られた

食事をしながら、アーネストは書物の説明を始めた

やはりあの写しだけでは、説明が足りなかったのだ

アーネストは元になった本を出すと、ギルバートに説明を始めた

それは精霊女王と精霊信仰についての話だった


「これを話す前に、先ずはセリアの正体を確認したい」

「え?

 正体?」

「ああ

 エルリックはセリアの事を、妹だと言ったんだよな」

「ああ、そうだ」

「そしてエルリック自身は、260年も生きているハイエルフだって」

「ああ

 確かにそう言っていた」


「そうすると…

 古代王国では無く、魔導王国時代だね」

「魔導王国…

 あの魔導王国か?」

「ああ

 帝国が台頭したのが250年ぐらい昔だから、帝国が出来る前だな」

「そうなのか?

 でも帝国が出来たのは150年前じゃあ…」

「正確には帝国の元になった国は、約250年ぐらい昔って話だ

 詳しくは記録が残っていないが、そのぐらいだって…

 ってまた勉強していないのがバレるな」

「う…

 それは…」


帝国が大きくなったのは、約150年前になる。

その頃に魔導王国が衰退して、代わりに帝国が力を着け始めたのだ。

それは各国の台頭も許して、戦乱は数年に渡って続いたそうだ。

やがて帝国がこの辺りの国を併合して、一大帝国にまで育った。


「帝国が大きくなって、初代皇帝が即位した

 しかし彼は毒殺されて、帝国は一気に瓦解し始めた

 それが120年ぐらい昔になるな」

「それから各国が争い合って、30年前に遂に滅びた

 確かそうだったよな」

「ああ

 確かにそうなんだが…

 帝国が大きくなる頃には、まだ魔物が居たんだ」


魔導王国時代には、まだまだ魔物は沢山居た。

そして魔物が居たからこそ、色々な魔道具や武具が作られていた。

今は記録もほとんど残っていなかったが、その頃の栄華は物語として残されていた。


「エルリックの話していた戦争とは、魔導王国の頃の戦争かな?」

「そうだな

 当時は選民思想みたいなものがあって、ハイエルフ達も狙われてたらしい」

「そうか…

 魔導王国も、人間至上主義だったのかも」

「みたいだな

 結局エルフ達の国も滅ぼされて、エルリックはセリアを連れて妖精郷に逃げ込んだ

 それから使徒が接触して、フェイト・スピナーの仲間入りをしたって」

「そうか

 セリアの為に…」

「ああ

 セリアを守る事を約束に、フェイト・スピナーになったんだって」


「そうか…

 それでフェイト・スピナーに」

「ああ

 しかしセリアは、最近になって妖精郷から連れ出されたらしい」

「そういえば、セリアも260歳ぐらいなのか?

 それにしては…」

「いや

 妖精郷では時間の流れが違うらしい

 だからセリアは、実年齢は19歳ぐらいらしい」

「え?

 それでもボク達より年上じゃないか」


「でも、ハイエルフとしたら子供らしい

 人間にしたら9歳ぐらいに当たるらしい」

「そうなのか

 それで子供っぽいんだな」

「ああ」


アーネストは納得すると、うんうんと頷いた。


「それで?

 それとあの写しに何の関係があるんだ?」

「それなんだが…」


アーネストは写しの中の1ヶ所を指してみた。


「これなんだけど

 セリアの事に似てないか?」

「ん?」


そこには精霊女王と人間の恋の詩が書かれていた。

詳細は書かれていないが、人間の町に訪れた精霊女王が、人間の若者に恋した話が書かれている。

それを元にして、詩人が恋の詩に仕上げたのだ。

実際にあった話を元にしているらしい。


「これがどうしたんだ?」

「精霊女王は人間の町に来てたらしい

 セリアが産まれる前だから、その前の精霊女王がモデルなんだろう」

「うん」


「その精霊女王は、困っている人間の為に精霊の力を使ったらしい」

「そうなんだ」

「飢饉で苦しんでいる村を、救ったと書かれている」

「そうだな

 しかしその為に、彼女は人間の元を去った?

 何でだ?」


「考えてもみろ

 精霊の力とはいえ、町を丸ごと救う様な力を見せたんだ

 当時は魔法が発達していたとは言え、普通の人には恐れられただろうな」

「恐れて…」

「ああ

 当時は選民思想はあったのかな?

 詳細は分からないけど、それで若者との恋は終わったって」

「人間が理解出来ない力を恐れて…

 それで人間の町に居れなくなったのか」

「そうだ

 そしてそれは、セリアにも言えるんだ」


アーネストの言いたい事が分かって、ギルバートは低く唸った。


「ううん

 セリアが力を使えば、恐れられて同じ様になる?」

「ああ

 しかも古代王国時代とは違う

 今は魔法がほとんど失われているんだ

 セリアの力は、さぞ恐ろしく映るだろうな」


ギルバートは立ち上がると、セリアの元へ向かおうとした。


「どこへ行く?」

「セリアの所だ

 精霊の力を使わない様に…」

「まあ待て

 焦る気持ちは分かるが、先ずはどうするか決めないと」

「しかし…」

「それにな、ここを見ろ」


アーネストは他の作品の説明を指差す。


「これは精霊女王の事を説明している

 元は数個あったエルフの王国

 女王はそこにそれぞれ居たんだ」

「ディアーナ王国以外にか?」

「ディアーナ王国?」

「セリアの産まれた王国だ」

「それがこの辺に在ったと言うエルフの王国か」

「ああ

 エルリックはそう言っていた」


アーネストはすぐに、書物の写しにメモをした。

エルフの王国の情報は無く、貴重だったからだ。


「ディアーナ王国

 書物には載っていないな」

「その辺は分からないよ

 ハイエルフの王国がいつ出来たとか、人間とどういう関係だったとかは聞いていないんだ

 ただ…

 選民思想みたいな人間至上主義?

 それで王国は攻め滅ぼされたらしい」

「人間至上主義

 それが原因か」


「どう思う?」

「ああ

 考えられるのは、帝国の選民思想に近いんだろうな

 話を聞いた限りでは、ベヘモットが言っていた話に通じるな」

「ベヘモットの?」

「ああ

 あいつも魔物達が、人間を至上とする奴等に追いやられたと言っていただろう」

「え?

 そんな事言っていたっけ?」

「お前なあ…


アーネストは呆れた顔をする。


「ベヘモットが言っていただろう

 他にも亜人も差別していて、奴隷にしていたって」

「そういえばそんな事を言っていたな」

「ああ

 帝国の人間だけが女神様に選ばれたって

 それで他の国の人間も、捕まえて奴隷にしてたって」

「あー…

 そんな事を言っていたな」


「しっかりしてくれよ

 それが原因で、魔王は人間を恨んでいるんだから」

「そうだよな

 人間が亜人を始めとして、魔物も沢山奴隷にしたり殺したりしていた

 それでベヘモット達魔王は人間を憎んでいる」

「ああ

 それが彼の話だった」


「しかし女神様は違ったんだよな

 人間を殺す事を善とせず、魔物を結界の向こう側に閉じ込めた」

「ああ

 それが女神様の結界だった」

「それなのに

 何故今になって、女神様は人間を苦しめる?」

「さあ

 さすがにそこまでは分からない

 しかし考えられる理由はある」

「それは何だ?」


「人間は未だに、選民思想なんて掲げて殺し合いをしている

 女神様からすれば、悲しい事だろうね」

「ああ

 ここでも選民思想か…

 エルリックもそんな事を言っていたな」

「そうなのか?」

「私達が選民思想に憤っているのを見て、期待しているって」

「そうか…」


「ダーナが滅ぼされたの

 やはり選民思想が原因かな?」

「その可能性が高いな

 フランドール殿はボク達が発つ時にも様子がおかしかった

 それに…」

「それに?」

「ギルも聞いていただろう

 選民思想者がまだ多数、ダーナには潜んで居た」

「そうだな

 父上の葬儀の時に、粗方片付けたつもりだった

 しかしまだまだ潜んで居るって、将軍やハリスも忠告してくれていたな」


ギルバートがダーナを発つ直前に、選民思想者の動きが再度活発になっていた。

ギルバートは将軍に報せたが、逆に忠告もされていた。

思ったよりも人数が多く、全てを排するのは難しかったのだ。

それに執事のハリスも、危険を感じていた。

今思えば、あの時にしっかりと手を打っていれば、結果は変わったかも知れなかった。


「私がもっと注意していれば…」

「今さらだぞ

 それにフランドール殿も染まっていたんだ

 あのまま残っていれば、それこそダーナの中でぶつかっていただろう」

「しかし、そうなっていれば

 少なくとも将軍や周りの者は…

「それは違うぞ!」


アーネストは大声で否定すると、ギルバートの両肩を掴んだ。


「おじさんを侮るな

 あの人はみなを守る為に、敢えて残っていたんだ

 お前が残っていたら、あの人はもっと苦しんでいただろう」

「アーネスト」

「お前は確かに判断が甘かったかも知れない

 それでも今は、その事を悔やむより、する事があるだろう」

「する事?」

「セリアを守り、ダーナを復興させる

 その為には先ずは、王太子に就く必要がある」


「王太子…」

「お前が王太子になれば、それだけ発言に力を持つ事が出来る

 それは選民思想を押さえる事にもなるし、セリアを守る力にもなる」

「そんな事が…

 出来るのか?」

「出来るのか?じゃない

 やるんだ」


アーネストの言葉に、ギルバートも頷いた。


「分かった

 王都に戻り次第、王太子になる事を話すよ」

「ああ

 その代わり、責任は重大になるからな

 今までみたいに安易な行動は控えろよ」

「う…」


アーネストの一言に、ギルバートは嫌そうな顔をした。

責任が重大になるという事は、今までみたいに動けなくなる。

それに責任を先に考えて、迂闊に行動し難くなる。


「大丈夫だ

 問題がありそうなら、ボクが先に忠告して止めるさ

 その為にお前の側にいるんだからな」

「ああ

 頼むよ」


「それにしても、セリアにはどう説明するんだ?

 セリアは精霊の事を、どれだけ理解しているのやら…」

「そうだな

 迂闊に力は使えないよな」

「ああ

 それに精霊女王である事も、出来れば秘密にしておいた方が良いだろう」

「そうか

 それもそうだな」


「歩兵達は見ていないから、問題は騎士達だな」

「それならジョナサンが指揮しているから、箝口令は敷いてある」

「後はバレない様にしないとな」

「ああ

 セリアに会って、注意をして来る」

「ああ

 言葉はよく選んで、怒らせない様にな」

「え?

 どういう…」


「あのなあ

 セリアはお前の事が好きなんだぞ

 そんなお前の為なら、躊躇わずに力を使うだろう」

「そうなのか?」

「ああ

 だから単に使うなと言ったら、拗ねてしまうぞ」

「ううむ…」


「難しく考えるな

 お前の事が心配だからって、そう言って注意するんだ」

「それで良いのか?」

「ああ

 大好きなお兄ちゃんが心配しているんだ

 素直に従うさ」

「分かった

 ありがとう」


ギルバートはアーネストに感謝すると、さっそくセリアの居る天幕に向かった。

そこはジェニファーとフィオーナも居て、三人で食事をしていた。


「すまない

 少し良いかな?」

「お兄ちゃん」

「ギル」

「どうしたの?」


三人に一斉に見詰められて、ギルバートは照れて頭を掻いていた。


「セリアの事なんだけど」

「んみゅ?」

「イーセリア様の事?」


「そのセリアを様付けで呼ぶのは、マズいと思うんだ」

「どうして?」

「セリアが精霊を従えていると知られると…

 どんな事が起こると思う?」

「あ…」


「悪い奴に狙われるかも知れない

 人攫いやセリアの力を狙って、利用しようとするだろうね」

「ギル…」

「だからセリアには、精霊を使える事は隠しておいて欲しい」

「お兄ちゃんが困るの?」

「いや

 セリアが危険なんだよ」


「でも、セリアはお兄ちゃんの為なら…」

「駄目だ

 お前が危険な目に遭うのは嫌なんだ」

「んみゅう…」


セリアは困った様な顔をする。


「お前が私の為に、力を使ってくれるのは嬉しい

 しかしそれで、お前が危険な目に遭うのは嫌なんだ」

「お兄ちゃんは嫌なの?

 困るの?」

「ああ

 だから精霊様とお話しするのは、フィオーナや母様の前だけだ

 他の人が居る時には、お話しては駄目だよ」

「うん」


「それからね

 精霊様の力を使っては、みんなが不審に思うだろう

 だからみんなに知られない様にしないと」

「加護も使っちゃ駄目?」

「加護?」


「シルフちゃんがね、ここに悪い子が来ない様にしてくれてるの」

「悪い子…

 まさか魔物が近寄って来ないのは」

「ふみゅう?」


「セリア

 それはどれぐらいの力を持っているのか?」

「ううん

 ここの周りには来たくなくなるんだって」

「範囲は分からないのか…」


原理や効果は分からないが、精霊の力で魔物は寄って来ないらしい。

それはそれで、魔物に襲われなくて助かる。

恐らくは精霊も、セリアを守りたくて使っているのだろう。

しかしそれがバレたら、また色々と問題になりそうだった。


「セリア

 その加護って精霊様の姿が見えたりするのかな?」

「ううん

 シルフちゃんは姿を見えなく出来るから

 見えなく出来るよ」

「それじゃあ使っても大丈夫だよ

 精霊様にもそう伝えておいて」

「うん」


セリアが元気良く返事をしたので、先ずは一安心だと思った。

残る問題は、想定外の事でバレる事だろう。

セリアの無事を考えれば、精霊の事はバレてはマズい。

ギルバートはその後も、暫く天幕に残った。

セリアの話し相手になって、どういう時に精霊の力を使ってはいけないか教える為だ。

セリアに教える事は、骨が折れる事ではあったが、セリアの安全を考えれば必要な事であった。

まだまだ続きます。

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