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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
270/800

第270話

騎士達は村の跡を出て、周囲の森を探していた

魔物が生息していた痕跡と、逃げ出した原因が分かりそうな痕跡を探していたのだ

しかし魔物が歩き回った痕跡はあるものの、逃げ出した原因は分からなかった

この辺りには大型の魔物が居た痕跡は無く、死体も見付からなかった

こうなってくると、本当に原因はわからなかった

しかし魔物は居なくなっていて、それだけは確認出来た

魔物が逃げ出した原因は、大型の魔物では無い

そして女神の結界も、相変わらず効果は無くなっていると思われた

そして疫病が流行った痕跡も、死者が出た様子も無かった

ただ単純に、移動して居なくなっていると思われた


「こうなって来ると

 本当に原因が分からないな」

「ええ

 せめて魔物でも見付かれば…」


ジョナサンはそう言って、森の方に向かった騎士達の方を見た。

すでに1時間ほど経っており、帰りが少し遅かった。


「向こうは帰りが遅いですね」

「ええ

 何か見付けたのでしょうか」


そう話している時、ようやく騎士達が戻って来た。

その顔は興奮しており、すぐさま報告に駆け付けた。


「殿下

 魔物が居ました」

「おお

 でかしたぞ」

「それで?

 何処に居たんだ?」


「はい

 ここから森の中を、南東に2㎞ほどの場所です」

「魔物はコボルトで、幸いにもこちらには気付かれませんでした」

「よし

 気付かれない様に注意して近付こう」


ギルバートは指示を出して、騎士達が遭遇した地点を目指した。

コボルトは鼻が利くので、風向きに気を付けながら進む。

こちらが風下なら、それだけ気付かれずに接近出来る。

魔物にバレない様に注意して、魔物の姿が見える場所まで近付いた。


「どうです?」

「ああ

 確かにコボルトだな

 大体20体ぐらいかな?」


魔物は20体ほどで、周囲を警戒しながら何かをしていた。


「何をしているんだ?」

「さあ?

 食事ですかね?」

「食事?」

「ほら

 何かを持って口元に運んでいます」


よく注意して見ていると、確かに口元に持っていっていた。


「何を食っているんだ?」

「あれは…」


騎士は注意深く見て、魔物が何を食っているか確認した。


「手…ですね

 何かの手を食っていますね」

「そうか

 魔物か?

 人間は近くに居ないし」

「そうですね

 人間にしては少々小さいですし、ゴブリンかな?」


魔物はどうやら、他の魔物を襲って食っていたらしい。

その事を考えると、他にも魔物が居そうだ。

今までは見掛けなかったが、この辺りまで来ると魔物も居るみたいだ。

そう考えると、魔物は野営地から離れてはいるが、まだその辺には居るみたいだった。


「魔物は全部逃げ出したわけでは無い様だ

 試しに戦ってみるか?」

「殿下?

 危険ではありませんか?」

「いや

 もし魔物が我々を恐れているなら、姿を見たら逃げ出すだろう

 しかし逃げ出さない様なら、原因は他にある筈だ」


ギルバートは魔物が逃げている原因を探る為に、魔物を襲ってみる事にした。

騎士に合図を送って、一気に方を着ける事にした。


「良いな

 一気に攻め込んで倒すぞ」

「本気ですか?」

「ああ

 コボルトぐらいなら簡単だろう」

「簡単って…」

「要は集団で襲い掛かって来るから、囲まれなければ良いんです

 一気に踏み込んで、纏めて倒せば簡単ですよ」


ギルバートはそう言って、誰がどこへ向かうか決める。


「良いか?

 一気に踏み込んで、目の前の敵を切り倒す

 馬だから動きにくいけれど、しっかりと誘導するんだぞ」

「はい」

「任せてください

 我々は普段から馬を扱っています

 これぐらいの木の間隔なら、問題無く拭けれますよ」

「信頼しているよ」


魔物が集まっている場所は、木が少なくて開けた空き地になっている。

そこまで踏み込めたら、馬も動き易いだろう。

要は最初の踏み込むところまでが、馬では難しい場所になる。

それに空き地まで入れば、広いので鎌を振り回せる。

鎌が使えるのなら、騎士の方が俄然有利であった。


「良し

 行くぞ」

「はい」


ギルバートが合図を送り、騎士が一斉に駆け出した。


「うおおおお」

「わああああ」

グオ?

ガルルルル


魔物は気が付いて、一斉にこちらを向いた。

しかし前方に向けて構えられた、クリサリスの鎌の穂先で貫かれて行く。

そして怯んだ隙に、一気に数名の騎士が空き地に入り込んだ。


「うおりゃあああ」

ギャン

キャイン


騎士の振り回す鎌が、一気に数体のコボルトの胴を切り裂いた。


「せりゃああ」

キャウン


他の騎士も鎌を振り回して、一気に切り込んで行く。

ギルバートの采配が当たって、魔物は数分で全滅した。

しかし魔物は、逃げる事無く向かって来ていた。

やはりギルバート達を恐れて逃げ出したわけでは無さそうだった。


「魔物は逃げませんでしたね」

「ああ

 どうやら人間が来たから逃げたんじゃあ無いな」

「ええ

 その様ですね」


「しかし…」

「うげっ

 気持ち悪いな」


コボルトの食事跡は凄惨だった。

既にほとんどが骨になっていたが、どうやらゴブリンを食べていたらしい。

人間の子供ぐらいの大きさの骨が、そこら辺に転がっていた。


「そうなると、原因は分からず終いか」

「そうですね

 これ以上調べても、魔物に遭遇するだけですね」

「ああ

 時間も時間だし、そろそろ戻るか」

「はい」


「一応魔石だけ探してくれ」

「胸の辺りですか?」

「そうだ

 心臓の辺りにある筈だから」

「無いですね」

「外れか…」


全ての魔物の魔石を調べたが、あったのは3個だけだった。

それも小さくて、とても使い物になりそうに無かった。


「ランクが低い魔物は、魔石を持たない事が多い」

「それにしても、こいつ等は少ないですね」

「ああ

 弱かったしな

 もしかしたら、強い魔物ほど持っているのかも知れないな」


魔石を回収すると、後は死体の始末だった。

この辺りには魔物も多いので、放って置いても他の魔物の餌になるだろう。

一応首等を切って、死霊にならない様にする。


「さあ、野営地に戻るぞ」

「はい」


騎士達はやっと戻れると思って、元気に返事をしていた。


ギルバートは騎士達を連れて、森の中から出て来た。

そしてそのまま、野営地に向かった。

ここから野営地までは、馬で駆けても2時間は掛かった。

野営地に着いた頃には、時刻は昼を過ぎていた。


「これから昼食にするが…

 あの現場を見た後だ、どうする?」

「うう…

 肉を食べる気にはなれませんね」

「ではパンだけでも食べるか?」

「はあ…」


「せめてパンだけでも食べておけよ

 腹が減っては、いざという時に力が出せないからな」

「分かりました

 おい、お前達

 しっかり食べとくんだぞ」

「はい」


騎士達に食事を取らせながら、ギルバートは野営地の周囲を見て回っていた。

メイド達は洗濯や食事の準備をしていて、ジェニファーは天幕で休んでいた。

フィオーナもそこに居て、避難で疲れた身体を癒していた。

食事も果物や野菜が中心だったので、偏っていた。

そして魔物に囲まれていた事もあって、精神的にも疲れていた。


セリアだけは元気で、今も野営地でぬいぐるみを抱いて遊んでいた。

彼女が元気なのは、精霊が傍に居るからだろうか?

それとも他に理由があるのかも知れない。


ギルバートは野営地を見回りながら、そんな光景を見ていた。

騎士達が食事を終えてから、兵士達と巡回を交代する。

ギルバートもそれを見てから、自分のパンを手にした。

ギルバートも現場は見ていたが、あの程度では慣れていた。

死霊の大群を相手にするのに比べたら、魔物の食われた死体など平気だった。


「殿下…

 よく平気で食べられますね」

「ん?

 あんなの見慣れていたからな」

「え?」

「ダーナではオーガが出ていたんだぞ

 あいつの食事光景を思い出せば、あんなの可愛いもんさ」

「うっ…」


騎士はそう聞いて、想像して身震いした。

何せオーガは人食い鬼等と呼ばれている。

そんなオーガの食事風景となれば、自ずと想像出来た。


「それに死霊も見ただろう?」

「街での事ですか?」

「いや

 山に居た時のだ」

「ああ

 その時は私は、後方に居ました」

「そうか

 それでは死霊は見ていないんだね」

「ええ

 それが何か?」


「うーん

 本当は見るのはお勧め出来ないんだが…

 あれは本当に気持ち悪いからね」

「え?」

「腐った人間の死骸が、腐臭を放ちながら迫って来るんだよ

 あれは暫くは夢に出て来るぞ」

「うへえ

 それは勘弁してください」


騎士は再び、身震いしながら顔を顰めた。

腐臭を放つ死体の行進を想像したのだ。


「死霊はそれ自体は強くは無い

 しかし吐き気を催す醜悪な姿だし、腐敗の具合によっては疫病を持っている可能性もある」

「疫病ですか」

「ああ

 疫病で無くても、噛まれたりしたら病気をうつされる恐れは十分にある

 死霊の怖い所は、死なないところと病気を持っているところだな」

「病気って?」

「死体が動いているんだぞ

 何の病気を持っていてもおかしくない

 だから噛まれたり引っ掻かれた者は、すぐにポーションで治療していただろう」

「え?

 はあ…」


「ポーションには軽い病気なら防ぐ効果もある

 身体を治す成分が入っているからな、当然だろう」

「そうなんですか?」

「ああ

 だから魔物と戦う時には、ポーションを使わせているんだ」

「ポーションにそんな効果があったなんて」

「え?

 これは騎士団に入る時には知っている筈だが?」

「え?」


騎士は驚いた顔をしていたが、それはギルバートも同じだった。


「これは騎士団に入団する前に、兵役で習う事なんだけど…」

「ああ

 私は兵役は免除されていますから」

「え?」


今度はギルバートが驚く番だった。

騎士はニヤリと自嘲気味に笑いながら告げた。


「実は私は、貴族の次男なんです

 ですから兵役は免除されて、騎士見習いから始めています」

「そうなんだ」

「ええ

 王都住みの貧乏子爵ですが、一応貴族なんで」


騎士はそう言って、自嘲気味の苦笑いを浮かべていた。


「そうですか…

 それはあなただけなんですか?」

「え?」

「他にも兵役を受けないで、騎士になった者は居るのかな?」

「え?

 はあ…

 他にも数人は居ますよ

 特に近衛騎士には多いですから」

「そうか

 そういった者には別に教えないといけないな

 もしもの時に困るからな」

「はあ…」


「他人事の様にしているけど、君も危険なんだよ

 他の騎士が危険だと思っている事を、君達は危険だと認識出来ないからね」

「危険ですか」

「そう

 例えば、さっきのポーションの話、知らない者は居ますかね」

「あ…」


ギルバートはジョナサンを呼ぶと、さっそくさっきの話をした。


「ポーションの効果ですか…

 確かに知らない者は居るかも」

「他にも知らない事があるかも知れません

 王都に帰還してからでも、調べて指導した方が良いでしょう」

「しかし…

 近衛騎士団はプライドが高い

 素直に聞きますかね」

「それはうちの親衛隊だけでも

 近衛騎士に関しては、後日でも構いません

 外に出る事なんて早々無いでしょう」

「あ…

 それもそうですね」


ジョナサンはさっそく騎士達の方に出向き、手の空いた者達と話していた。


「帰還してからで良いと言ったのに」

「隊長は部下を信頼していますが、同時に心配もしています

 些細な事で命を落とす可能性がありますから、早急に手を打とうとしているんでしょう」

「そうなんだ」


ギルバートはジョナサンの姿を見ながら、頼もしいと思っていた。

この分なら、一々指示を出さなくても、親衛隊の確認は終わりそうだった。

後は任せておいて良さそうだった。


ギルバートは最期の一口を口に放り込み、昼食を終わらせた。

そして立ち上がると、再び野営地の見回りに向かおうとしていた。

そこに天幕から、アーネストが出て来た。


「お、終わったぞ…」

「おい!

 アーネスト」

「ギル

 少し休ませてくれ」

「ああ

 ゆっくり寝てていいから」


ギルバートは走って来たメイド達に、アーネストの事を任せた。

そして書物の写しを受け取ると、それを読み始めた。


「何々

 古代王国に於ける、妖精の女王の物語?


そこには妖精女王の物語と、それがどこで語られていたかが記されていた。

そして場所によって、妖精女王の役割が違っていた。

この事から、筆者は妖精女王は複数人居たと推測していた。

そしてそれぞれの女王に物語があり、それが伝承として残されていると推察されていた。


「妖精女王…

 セリアが言われている存在か」


ギルバートはさらに読み進めて行く。

内容はさらに掘り下げられて、妖精女王の名前の意味も書かれていた。

しかし妖精の住む国の女王としか書かれておらず、中途半端な終わり方をしていた。


「ん?

 何だ?

 この半端な仕上がりは…」


ギルバートは不満に思いながら、次のページを捲った。

そこには精霊信仰と、妖精の物語が紹介されていた。

先程のレポートの補足の様で、タイトルとあらすじが書かれていた。


「ふう

 これで全部か」


翻訳された書物は、20ページ以上の長いレポートであった。

これを短時間で訳したアーネストは、やはり頭が良いと思われた。


「しかし…

 これがエルリックが渡した原因か?

 それにしては内容が曖昧だな」


ギルバートはもっと、詳しく書かれた物を想像していた。

そして、だからこそアーネストが翻訳したのだと思っていた。


「これだけなのか?」


ギルバートは疑問に思い、アーネストが起きるまで待とうと思った。

詳しく知っているのはアーネストだけだ。

後は直接問い質すしか無いだろう。


ギルバートは、アーネストが十分に睡眠を取って、再び起きるのを待っていた。

まだまだ続きます。

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