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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
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第269話

野営地では、解体した魔獣の肉を焼き始めていた

それは香ばしい香りを漂わせて、騎士達の心を惹き付けた

そして焼き上がった肉は、順番に兵士達から配られた

騎士達は周囲の警戒をして、後から食べる事になっていた

そして周囲には、魔物の気配は無かった

ギルバートは久しぶりにワイルド・ボアの肉が食べれてご満悦だった

肉は上質な豚肉の様で、それでいて極上の牛の肉の様に脂身が旨かった

それを塩だけで簡単に味付けしたが、それだけでも旨かった

香辛料は高額なので、野営地には持ち歩けなかったのだ

しかし塩だけでも肉が上質なので、とても旨かった


「肉が旨いから、これだけでも十分に旨いな」

「そうかな

 ボクは香草が効いた方が好きだな」

「でも、香草は保存が利かないから、旅には持ち歩けないだろ

 それに胡椒は高くて手に入り難いし」

「そうだな

 香草を加えるなら、胡椒も必要になるからな

 いくらボクでも、持ち歩くほどは持っていないよ」


アーネストは残念そうに言うと、肉を頬張っていた。


焼き肉を食べ終わった兵士達は、満足気に休んでいた。

魔物も現れないので、そのまま横になっている。

まだ冬の寒さは残っているが、焚火の側なら十分に暖かかった。

兵士達の雑用の疲れを忘れるほど、その肉は旨かった。


「肉は旨かったかい?」

「殿下」

「はい

 とても美味しかったです」


兵士達は感激しながら、焼き肉の余韻に浸っていた。


「このまま横になっていたい」

「でも魔物が出て来たら、危険だよな」

「魔物は食べられないからな

 魔獣なら歓迎だな」

「おいおい…」


ギルバートは呆れながら、兵士達の前から去って行った。

兵士達は雑用ばかりしていた。

それを労おうと思って来たのだが、不要な心配であった様だ。


焼き肉が食べ終わった後に、片付けをしてから仮眠を取る。

問題が無ければ、明日には片付けて帰還の途につく。

今回の遠征の目的である、ダーナの解放は達成されたのである。

これ以上留まる理由も無いので、このまま帰還する事になったのだ。

兵士達の機嫌が良いのは、この事もあった様だ。


ギルバートも剣の手入れをしてから、自分の天幕で休んでいた。

そのまま眠った方が良いのだが、魔物と戦っていないせいで身体が鈍っていた。

天幕の中で、ゆっくりと身体を動かしていた。

柔軟体操みたいに、身体を曲げたり伸ばしたりする。

そうしている間に、高ぶっていた気持ちも収まって来ていた。


そろそろ寝ようと横になった時に、アーネストが天幕に訪れた。


「ギル

 これは凄い発見だ」

「何だ?

 どうしたんだ」


アーネストは書物を出して、ギルバートの方に差し出した。


「これを見てくれ」

「書物だな」

「そうだが、これが何だか分かるか?」

「ん?

 エルリックにもらった本か?」

「そうだけど違う!」


ギルバートは首を捻りながら、その書物を開いた。

そこには魔導王国文字で書かれた、何かが記されていた。

しかしギルバートにはそれが読めない。

だから何の本か分からなかった。


「一体何なんだ?

 私はこの文字が読めない

 だから何を言いたいのか分からないんだが」

「あ…

 すまない」


アーネストはここに来て、その事を思い出した様だ。

頭を掻きながら、書物のタイトルを公用文字に書き直した。


「王国に於ける神話と物語?」

「ああ

 古代王国時代の、神話や物語を解説した本だ」

「なるほど

 それは興味深いな」


それは失われた古代魔法王国の時代を知る、色々な物語が書かれていた。

しかし肝心の魔導王国の文字も、帝国によって失っていた。

帝国は魔導王国を滅ぼす時に、王国の蔵書を焼き払っていた。

その為に王国の歴史や文化も失われて、文字の解読も困難になっていた。


「これが重要な文化財なのは分かった

 しかし何を興奮しているんだ?」

「そうなんだ

 ここには古代王国の話が沢山載っている

 そんな中に妖精女王の物語が載っている

 エルリックはこれを教えたかったんだな」

「妖精女王?

 セリアの事か?」

「ああ」


そう聞いて、ギルバートも興味を持ち始めた。

しかし文字が読めない以上、それを読む事は出来なかった。


「すまないが、私には読めないんだ

 何とか出来るか?」

「翻訳か

 任せろ」

「頼んだぞ」


ギルバートは翻訳をアーネストに任せた。

魔導王国の文字は、それなりの教養がある者なら読めなくは無い。

しかし時間は掛かるし、こんな場所にはその様な人物は居ない。

内容を知るには、アーネストに翻訳してもらうしか無かった。


「どのぐらいの時間が掛かる?」

「全文は読んでいないが、分からない文字さえ無ければ、明日の昼頃には終わると思う」

「早くないか?」

「ん?

 妖精女王の物語だけだぞ

 全文を訳すなら、それこそ数ヶ月は掛かるぞ」

「なるほど

 重要なところだけ訳すのか

 まあ、その方が良いのかもな」


ギルバートは納得すると、明日も野営地に残る事にした。


「出発を延ばすか」

「良いのか?」

「ああ

 セリアの今後を考えると、そこに何が書かれているのか気になる

 あのエルリックがわざわざ出向いて来たんだ

 余程の事が書かれているんだろう」


「そうだな

 ボクも気になるから、さっそく翻訳に掛かるよ」

「おい

 それは明日からで良いぞ

 ちゃんと休める時に休んでおけ

 それこそ寝不足で失敗しない様にな」

「分かったよ

 翻訳は明日の朝から取り掛かるよ

 夕方までで良いか?」

「ああ

 それで頼むよ」


アーネストは書物を手にすると、そのまま部屋を後にした。

ギルバートは明日までは休むだろうと、それ以上は追及しなかった。

しかしアーネストは、天幕に戻ってからも翻訳をしていた。

それは妖精女王の物語では無く、本の目次であった。

先程は妖精女王の文字を見て、慌ててここに来たのだ。

まだ翻訳の途中だったのだ。


「あのエルリックが、それだけで渡すとは思えない」


エルリックは確かに、妹であるイーセリアを溺愛していた。

しかしイーセリアは、何者かによって森に連れ出されていた。

しかもご丁寧に、人間に姿を変えられていた。

エルリックも耳を隠していたが、イーセリアは髪や目の色も変えられていた。

それが誰の仕業かも分かっていなかったのだ。


「セリアの事も気になるが…

 問題はそれだけの為に渡したとは、思えないんだよな」


アーネストは物語のタイトルが書かれた目次を開く。

そこには神話と物語のタイトルが書きだされていた。

しかし妖精女王の物語は、物語の項目の前半に書かれていた。

その後には、魔導王国でも有名な神話が書かれていた。

そしてそのタイトルの中には、興味深い文字も見えていた。


「狂王シバの伝説…

 これは古代王国を滅亡に招いた神話だよな

 何でここに載っているんだ?」


シバ王は突如発狂して、自分の妻や子供を殺した。

そしてその事に怒り、王国その物を滅ぼす為に7昼夜を暴れて回ったと言われている。

自分で殺しておきながら、それに対して怒り狂って王国を滅ぼす。

少し変な話だが、それが狂王だからと納得されていた。

そして愚かな王だとして、未だに話が残されていた。


「変だよな…」


アーネストはそう呟きながら、引き続き翻訳しながら読んでいた。

全文を訳すには時間が掛かるが、訳しながら簡単にあらすじを読むのならそう時間は掛からなかった。

そしてシバ王の物語に関しては、あらすじ以外に開設も書かれていた。


「これは…」


アーネストはあらすじを読んで、意外な事に気が付いた。

彼の狂った原因に関して、予想外な事が書かれていた。


「これはギルには言えないな…」


しかし内容が内容なので、ギルバートには言えないと思った。

それほど書かれている内容には、予想外の事が書かれていた。

アーネストはこの事に関しては、国王にも報告出来ないと思った。

それほど意外な内容で、問題が多かったのだ。


「これがエルリックが伝えたかった事か…」


エルリックが直接言わなかった事が、アーネストには疑問に思えていた。

あの場では言えない事が、ここには載っていると思ったのだ。

それがギルバートには内緒で、アーネストに伝えたかったと考えると辻褄が合っていた。


アーネストは内容を考えると、中々寝付けなくなっていた。

しかし明日の事を考えると、少しでも眠らないと体力がもちそうに無かった。

夜明け近くまで寝返りをうちながら、アーネストはようやく眠れた。

しかし寝不足が祟っていて、彼は眠そうにしていた。


「大丈夫か?」

「ああ

 中々寝付けなくてな」


「ああ

 翻訳の方は大丈夫だ

 安心して任せろ」


アーネストはそう言いながら、眠そうに眼を擦っていた。

しかし朝食を食べ終わると、フラフラと天幕に戻って行った。


「殿下

 今日帰還するので問題無いですか?」

「いや

 帰還はもう少し待ってくれ」

「どうしてですか?」

「そうですね

 一つはアーネストの事があります

 今は書物の翻訳を任せています」


「書物の翻訳?

 それは何なんでしょう?」

「使徒のエルリックに会いましたよね」

「一昨日の男ですか?」

「ええ

 彼からある書物を受け取りました

 それに重要な事が書かれているらしくて、アーネストはそれを翻訳しています」

「なるほど

 それで、もう一つは?」


「それは周囲の探索が不十分な事です

 昨日も探索はしましたが、魔物の姿が見えません

 それが何でなのかが分かっていません」

「しかしそれは…

 殿下も分からないと仰っていたじゃないですか」

「そうですね

 確かに理由が分からないので、そのまま出立しようかとも思っていました

 しかしアーネストの件があるので、我々は暇になります」


ギルバートは地図を持って来て、ジョナサンの前に広げた。


「昨日はこっちを見ました

 今日はここを捜索します」

「何か見付かりますかね?」

「さあ

 でも、何も無いのなら、逆に他に理由がある事になります

 特に魔物が出ないのなら、それ相応の理由がある筈です」


ギルバートがダーナを発つ時、魔物は周囲に沢山居た。

それが今では、魔物の姿が見られ無いのだ。

これはフランドールが魔物になったのが原因かも知れない。

しかしそれにしては、昨日見付けた痕跡は最近の物であった。

それにフランドールが原因なら、もっと魔物が移動していないといけない。

魔物が移動したにしては、王都側に来る魔物は少ないのだ。


「考えたくは無いですが、女神様の結界とは別だと思うんです

 実際に魔物達は、結界を越えて来ています

 やはり結界の効力は無くなっています」

「それなら、何で魔物が居ないんでしょう?」

「それが分からないので、調べているんですよ」

「そうですが…」


ジョナサンはアーネストみたいに、魔法や歴史に造詣が深いわけでは無い。

そしてギルバートみたいに、魔物に関しての知識を持ち合わせていなかった。

だから原因が想像出来ず、ギルバートが何を判断の基にしているかも分からなかった。

だから黙って指示に従うしか無かった。


「兎に角

 原因が分からないままではマズいですからね

 これから移民する者達が、魔物に襲われるない様にしなければなりません」

「はあ…」


魔物が出て来ない理由が分からないと、安全かどうかも分からない。

そして安全で無いのなら、それなりの対策をする必要があった。

それを判断する為にも、探索は必要だったのだ。


「どうやって安全か判断しますか?」

「そうだね

 魔物が居ない今は、これが起こった原因を探りたいですね」

「やはりフランドール殿が原因では?」

「それなら、何で痕跡は古くないんですか?」

「それは…」

「痕跡が新しい以上、我々が来た頃に逃げた事になります

 まさか我々が来た事で、恐れて逃げたとも思えませんし」

「そうですよね」


まさかセリアの傍に居る、精霊が原因だとは思っていなかった。

だからギルバート達は、今日も探索に出る事にした。

周囲の村の跡に向かい、魔物が侵入しているか確認するのだ。


「魔物が村に入っているのなら、やはり人間を恐れていないと思われます」


魔物の痕跡は、村の中にも残っていた。

これで魔物が逃げ出した事は、ギルバート達が原因では無いと思われる。


「こうなってくると、原因は分かりませんね」

「そうですね」

「しかしこれで、何らかの理由で魔物が逃げ出したと考えられます」

「しかし理由は分からず終いですね」

「それは仕方が無いでしょう

 我々が知らない何かが、魔物を遠ざけているんです

 しかし分からない以上、移住者が魔物に襲われる可能性は高い

 この事は国王様にも報告すべきでしょう」


ギルバート達は村の探索を終えると、次は外の探索に向かった。

そこで何かが見付かれば良いのだがと思いながらも、内心は期待していなかった。

それは昨日の探索でも、何も手掛かりが無かったからだ。

今の探索は、言わば原因が分かり易い事では無いと、確認する為の検証だったのだ。

そのまま騎士の機動性を生かして、周囲を広範囲に調べて回った。

少しでも痕跡を発見したかったのだ。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。


後半を修正して付け足しました。

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