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聖王伝  作者: 竜人
第九章 ダーナの解放
265/800

第265話

ダーナは無事に解放された

しかし原因となったフランドールは、謎の魔物の力によって殺された

そして敗北感に打ちのめされながら、ギルバート達は野営地に帰った

野営地ではフィオーナ達が、フランドールがどうなったかを気にして待っていた

しかしギルバート達は、どう報告した物か悩んでいた

フィオーナはフランドールに対して、憧れを抱いていた

若い娘が年上の男性に、憧れを抱く事はよくあった

しかしフランドールは、自分の負の感情に負けて、ダーナを滅ぼしてしまっていた

それを素直に伝えれなくて、ギルバート達は困っていた。


「お兄様

 フランドール様は?」

「あー…

 アーネスト?」

「おい!

 ここでボクに振るか?

 ジョナサン」

「え?

 私ですか?」


三人の様子を見て、フィオーナの目付きが鋭くなる。


「おにいさま…」

「え?

 いやあ、そのう…」

「こっちを見るな!」

「お二人共、ここは正直に話された方が…」

「もう良い!」


フィオーナは怒って、三人の前を去って行った。


「あー…

 どうする?」

「どうするったって」

「謝るしかないでしょう」

「いや、ジョナサンも黙っていただろう」

「そんなあ…」


「三人共!」

「はい!」


ジェニファーに睨まれて、ギルバート達は委縮していた。

さすがにこれ以上は黙っていれないので、ギルバートは素直に報告した。


「フランドール殿は魔物になっていました」

「そうですか…」

「そして領民達を魔物にしていたフランドール殿を倒したので、領民は灰になりました」

「はあ…

 可哀そうに…」


「アーネスト様

 ヘンディー将軍は?」

「あ…

 おじさんは…」

「アーネスト

 私が言おうか?」

「いや

 ボクに言わせてくれ」


アーネストはメイド達に聞かれて、将軍の最期を伝えた。


「おじさんは魔物になっていた

 そしてボクの魔法で…」

「そうですか」

「エレン姉様は?」

「見掛けていない

 しかし領民はみな魔物になっていたから…」

「そうですよね…」


メイド達は将軍夫妻の冥福を祈って、女神に黙祷を捧げた。


「それでは、これでダーナは…」

「ええ

 解放されました」

「ボクは急いで、王都に使い魔を飛ばすよ」

「頼んだぞ」


アーネストは呪文を唱えると、使い魔を呼び出した。

それを横目に見ながら、ジェニファーは尋ねた。


「それで?

 今後はどうなるのかしら?」

「そうですね

 予定では新しい領主を立てて、移民を率いて来る手筈になっています」

「移民ですか?

 しかしそう簡単に集まるかしら?」

「そうですね

 難しいとは思います」


ダーナの街は解放された。

しかしあちこち荒れ果てているし、周囲には魔物も沢山居る。

それを考えれば、こんな辺境に住みたがる者は少ないだろう。


「しかし、ダーナには港があります

 あれを生かす為にも、ダーナは復興させなければいけません」

「そうですわね

 アルベルトも常々、港を守る事を考えておりました

 港は無事ですの?」

「それは…」

「ジェニファー様

 まだ確認は取れておりません」


「そうですか

 それは早急に確認しなければ」

「はい

 しかしジェニファー様を王都に送り届ける任務もあります」

「そんな事は後回しでも良いです

 明日にでも確認に向かいなさい」

「しかし陛下からは…」

「確認をしなさい」

「は、はい」


ジョナサンもジェニファーの気迫には勝てなかった。

さすがは元領主夫人ではある。

並みの騎士や貴族では、彼女の気迫には勝てないだろう。


「ギルバート」

「はい」

「あなたも一緒に行くのですよ」

「え?

 しかし…」

「しかしも案山子もありません

 港の責任者は、アルベルトの義弟です

 あなたが居た方が話しは早いでしょう」

「はい…」


港はダーナと並んでいながら、独立した町になっていた。

そしてそこの領主は、ジェニファーの弟が務めていた。

だからギルバートにとっては、叔父に当たる人物になる。


「アルデンテは領主としては優秀なんですが…

 融通が利かないと言うか、頭が固くて」

「はあ

 それならアーネストの方が…」

「ギル

 あなたの叔父に当たる人なんですよ」

「え?

 しかし私は…」

「言い訳はよろしいです

 しっかりと挨拶してくるのですよ」

「はい…」


ギルバートが説教されている横で、ジョナサンはボソリと呟いた。


「まだ無事は確認してないんですが…」

「何か?」

「はい

 いえ、何もありません」


ジョナサンは敬礼をすると、巡回をして来ます言って逃げ出した。

残されたギルバートは、まだ説教を喰らっていた。


「それで?

 ギルは王太子になるのよね?」

「はい

 陛下から正式に申し渡しされました」

「そう…」


ジェニファーは溜息を吐いてから、話を続ける。


「もう…

 ダーナには戻って来ないの?」

「そうですね

 むしろ私は、魔王を追いたいと思っています」

「魔王?」

「はい

 今回の騒動も、女神様の使徒である魔王が絡んでいると思います」


「女神様の使徒ですって?」

「そうです

 フェイト・スピナーの様に、魔物を従える魔王という使徒が居ます

 恐らくその魔王の一人が、ダーナを滅ぼす為にした事だと思います」

「そう…

 魔物の王

 それがダーナを狙っていたのね」

「はい

 父上が倒れた時も、魔王がダーナを狙っていました

 理由は…」


「言いたく無いのなら、言わなくても良いのよ」

「はい

 詳しくは話せませんので」

「そう

 分かったわ」


ジェニファーは再び溜息を吐いてから、言葉を振り絞った。


「私とフィオーナは、王都の父の元へ向かいます」

「王都にですか?」

「ええ

 エルダー・ロペスは病に伏せっていますが、まだ存命の筈です

 父の元へ戻って、再起を計ります」

「そう…ですか」


「それでね

 セリアの事なんだけど」

「そうですね

 あの子の事を考えれば、私の元に置いた方がよろしいですね」

「ええ

 あんな事情があるだなんて…」


「母様

 精霊女王って何なんでしょうか?」

「そうね

 物語に出て来るのは、森の乙女が精霊に見初められて、婚姻して女王になったと聞きます

 セリアも精霊に気に入られたのでしょうか」

「見初められた?」

「あら?

 ギルはまだ、そういうのは分からないかしら?」

「はい」


「そうねえ…

 アーネストがフィオーナを好いているのは知ってる?」

「はい」

「そういう気持ちになる事を、見初めるって言うのよ」

「え?

 それではセリアは、精霊に求婚されているんですか?」

「さあ?

 そこまでは…」


「何か…

 嫌だな」

「え?」

「セリアがあんなぬいぐるみに?」

「ギル?」


「可愛い妹が、あんなぬいぐるみのお嫁さんだなんて」

「ちょっと

 それは違うわよ」

「そうなんですか?」

「ええ

 あくまで物語の話だし

 それに…

 ぬいぐるみは仮の姿だって」

「そうですか…」


ジェニファーはギルバートの様子を見て、優しく微笑んだ。


「あなたがセリアを大切に思うのなら

 大事にして離さない様にね」

「はい?」

「良いから

 忘れないでね

 あの子を大事にして、離さない事

 良いわね」

「はい」


ジェニファーは守られている時に、セリアの気持ちを聞いていた。

そしてギルバートの様子から、何かを期待している様子であった。


「私達はここで待っています

 明日はよろしく頼みましたよ」

「はい」


「それと

 フランドール殿の事は、私から話しておきますね」

「よろしいんですか?」

「そうね

 あなたが話すよりは、私が話した方が良いでしょう」

「はい

 お願いします」


ギルバートは報告が終わると、兵士達に指示を出した。

街の住民は居なくなったが、彼等が亡くなった際の灰が残されていた。

それに街のあちこちが、壊れて危険になっていた。

その為、兵士達に巡回させて見回らせた。

住民達は居なくなったが、他に危険があるかも知れないからだ。


「魔物はもう居ないと思うが、気を付けて回ってくれ」

「はい」

「それから

 今夜はここで野営を行う

 夜までにはここに戻る様に」

「はい」

「それでは頼んだぞ」

「はい」


兵士達は帯剣して、街の巡回に向かった。

街の中には、ネズミなどの害獣が増えていた。

兵士達は、目に付いた害獣を駆除したが、それは氷山の一角だ。

荒れ果てた街には、あちこちに害獣が増えていた。

兵士は戻って来て、その事を報告した。


「そうか

 ネズミがあちこちに」

「ええ

 それに虫も湧いていました」

「移民が来る前には駆除しておきたいが…」

「ええ

 今駆除出来ましても、その後に増える可能性が…」

「そうだな」


新しい領主が選ばれて、移民を連れて来るとなれば、それは今年中では難しいだろう。

そして今駆除出来ても、それまでに害獣は増えるだろう。

それを考えると、無理に駆除をするのは無駄に感じた。


「害獣に関しては、見付けた分だけで良いよ」

「はい」


「他には?

 何も危険な事は無かったか?」

「そうですね…」

「そうだ!

 あの事!」

「何だい?」


「それがですね

 食料は兎も角、武器や防具も無かったんです」

「ん?」

「馬鹿

 それじゃあ分からないだろう

 殿下

 ギルドや兵舎を見たんですが…

 そこにある筈の武器や防具が無かったんです」


「それは単に使っていたんじゃあ…」

「いいえ

 冒険者ギルドや職工ギルドも無かったんです

 おかしいと思いませんか?」

「そうだな

 それは変だな」


誰が何処に持って行ったのか、武器や防具が無くなっていたのだ。

ダーナでは新しい魔物の素材の武器も多数あった筈だ。

それの全てが無くなったとしたら、それは危険な事だった。


「普通に考えれば、魔物に持って行かせたか?」

「え?

 しかし領主の館にもありませんでしたよ」

「いや、そうじゃない

 他の魔物に装備させる為に、持って行かせたんだろう」

「他の魔物?

 それではこの辺りの魔物が…」

「ああ

 装備している可能性があるな」

「危険じゃないですか」

「そうだな」


しかし魔物は、この辺りでは見掛けていなかった。

魔王が調整しているのか?

それとも単に、死霊を嫌って近寄らなかったのか?

何にしても、ダーナの周辺には魔物は居なかった。


「もし、今襲われたら危険だな

 しかし魔物の姿を見たか?」

「いいえ」

「そういえば見ませんね」

「話に聞いた限りでは、街の周辺にも居ますよね」

「ああ

 しかし理由は不明だが、魔物は居ないんだ」


「このまま現れなければ良いんですが…」

「そうだな

 しかしダーナを解放したんだ

 もしかしたら…」

「殿下

 早く帰還しましょう」


「はははは

 焦るな

 数日中には王都からの返答が返って来る

 それまではここで待機だ」

「ええ

 そんな…」

「私は来月に、結婚の約束が」

「そうか

 間に合うと良いな」

「そんな、殿下」


兵士達は嘆いていたが、どの道帰るには時間が掛かるのだ。

それならば腰を据えて、周りを探索してから帰った方が良いだろう。

魔物の素材も取れていないのだ。

それを考えれば、オーガを何体か狩りたいところであった。


「まあ、魔物には出て来て欲しいんだよな

 素材も欲しいし」

「魔石が取れましたよね?」

「1個だけだぞ

 これじゃあ割りに合わんだろう」

「それは…」


「大丈夫だ

 騎士達は以前にオーガを倒せている

 それにいざとなったら、私とアーネストが居る」

「そうですが…」

「まあ、本当に出て来るか分からないがな」


ギルバートは報告書を纏めると、夕食の準備を見に行った。

野営地では、メイド達が居る事で助かっていた。

食事の時間になると、メイド達が料理を手伝ってくれた。

おかげで大した食材は無いのに、野営地の食事は格段に美味くなっていた。


「はあ…

 ティアナさんの食事は美味いなあ」

「馬鹿

 ミハエルさんの方が美味いだろう」

「いや、ジェニファー様の方が…」

「ああん」

「お前は年増好きか」

「誰が年増ですって?」

「ひいっ」

「違います

 こいつが…」


「騒がしいな」

「仕様が無いですよ

 野営地に女性が居るだけで、兵士は浮付きますよ」

「そんなもんかね?」

「そうですよ」

「しかし…

 母様だぞ?」

「それは…」


兵士の中には、ジェニファーの不安も多数居た。

母親の優しい雰囲気に、兵士達の荒んだ心は癒されていた。

例えギルバートを育てた妙齢の御婦人でも、その美しさは健在だったのだ。

しかしギルバートからすれば、育ての母であった。

そんな人に好意を抱いて、熱を上げているのを見るとげんなりして来るのであった。


「よくまあ、毎度盛り上がれるな」

「まあ、それぐらいしか楽しみが無いんでしょう」

「良いけど

 警備に不具合が出なければな」

「それは大丈夫です

 私がしっかりと見張っておきますので」

「いや

 お前もしっかりと休めよ」


兵士達が盛り上がるのを見ながら、アーネストは溜息を吐いていた。

フィオーナが天幕に籠った切りで、出て来なかったからだ。

慕っていたフランドールが死んだのだ、無理も無かろう。

しかしアーネストとしては、複雑な心境だった。


「はあ…

 嫌われたかな」

「坊ちゃま…」


溜息を吐くアーネストを見て、メイド達は心配していた。

落ち込んだフィオーナを慰めれば、それこそ恋のチャンスだろう。

しかしその原因が、よりによってアーネストでもあるのだ。

それを考えたら、慰めに行く勇気も持てなかった。


「フランドールめ

 死んでまで邪魔するとか、恨むぞ」


アーネストは地面に、ののじを書いて落ち込んでいた。


野営地に夜の闇が落ち、静かに夜は更けてゆく。

魔物は姿を見せず、野営地は今日も安全に過ごしていた。

まだまだ続きます。

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