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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
254/800

第254話

ギルバートは魔物との戦闘を、国王に報告した

その経緯で、ギルバートがオーガと戦った事がばれてしまった

国王は嘆いていたが、その戦闘でギルバートが卓越した戦闘能力がある事が証明された

そしてジョナサンは、ギルバートが今、王国で一番強い戦士だと告げるのだった

国王は認めたく無いものの、ダーナへの遠征を許可するしか無かった

ギルバートはオーガとの戦闘を、正直に国王に話した

ジョナサンがバラした事もあったが、いずれは話さなければならない事ではあった

ギルバートが一番強い戦士である事は、疑い様の無い事実だからだ

ダーナのヘンディー将軍が生きていれば、ギルバートと並ぶ猛者になっていただろう

しかしヘンディーに関しては、ダーナの現状を聞く限りでは絶望的だった


「オーガを単独で討伐とは…

 はあ…」

「陛下

 しかしオーガは、動きが遅いんですよ

 勇気をもって突っ込めば倒せますよ」

「しかし力は大きさに合わせて強いんだろ?

 それを首を刎ねるだなんて…

 どう説明するんじゃ」


国王はギルバートの強さに呆れていた。

しかし実際には、騎士達でも戦い方次第ではどうにかなる。

それを踏まえて、何度か戦えば倒せると判断していた。


「何度か戦えば、恐怖心を押さえて戦えます

 何よりも怖いのは、恐怖で委縮して戦えない事です

 そうすれば魔物から見て、格好の餌になってしまいます」

「普通はそうじゃろう」

「そうですか?

 私はそこまで怖くは…」

「ジョナサンは?

 ジョナサンはどう思った?」


「確かに恐ろしいですね

 しかし殿下の言う事も分かりますよ」


ジョナサンは顎に手を当てて考え込む。


「何て言えば良いんだろう

 牛が暴れていては危険ですよね

 しかし大人しかったら怖くは無い?」

「それはあれか?

 大きいがそれほど怖くは無いと?」

「そうですね…

 怖いのは怖いんですが、それさえ克服出来れば戦えそうです

 それは実際に戦ってみてそう思いました」


「其方も戦ったのか?」

「はい

 アーネスト殿の補助もありましたが、何とか倒せました」

「アーネストか

 何をしたんじゃ?」

「魔法で拘束していましたね

 それを見ていたので、単独で動いていたオーガを狩ったんですよ

 あれが騎士達に向かっては危険でしたからね」

「そうか…」


「しかし魔法は便利じゃのう

 拘束という事は動きを封じれるのか?」

「はい

 1体は手足を封じれましたが、次は2体同時でしたので

 それで3体目が来ない様に殿下が牽制に…

 と言うか倒していましたが」

「はははは

 そういう事情があったのか

 しかし王子であるからには、其方はもう少し自重せねばならん

 本来なら今回の…」

「陛下」

「あ、うむ

 そうじゃな…」


国王はなおも注意をしようとしたが、ジョナサンに諌められて諦めた。

考えてみれば、自分も若い頃は随分と無茶をしていた。

それがあって帝国を早目に退けれたし、王国を立ち上げれた。

しかしその一方で、アルベルトにはいつも心配を掛けていた。


「これ以上は言っても無駄じゃな」

「はい」


「はあ…

 仕方が無いか」


国王は書類にサインをすると、印璽を使って確認をする。


「うむ

 此度はよくぞやってくれた

 暫し休息するがよい」

「はい」

「ありがとうございます」


二人は頭を下げてから、執務室を出た。

入れ違いで宰相のサルザートが入って来る。

国王は書類を渡して、宰相に確認をしてもらった。


「良かったのですか?」

「ん?」

「外まで聞こえていましたよ」

「あ…」


「どうされますか?」

「このままで良い」

「ですがそれでは、殿下の功績が…」


「その方が騎士団が活躍した事になる

 そうすればそれを鍛えたギルバートの手柄でもある」

「それはそうですが…」

「それに親衛隊を作る口実にもなるだろう」

「はい

 そこまでお考えでしたか」

「うむ」


「その為の遠征じゃからな」

「そうですか」

「騎士が活躍したとなれば、煩い貴族共も黙るじゃろう

 くふふふふ」

「陛下」


国王の黒い笑い方に、サルザートが注意をする。


「うおっほん

 それで褒章はどうする?」

「はい

 そうなれば褒章は報酬の金に合わせて…

 一部の平民を騎士階級への格上げと、親衛隊という新しい騎士団の創設

 そしてそれに伴う新しい装備等の支給

 以上が褒賞になりますね」

「うむ」


「新しい装備に関しては、ギルバートの要望も来ておる」

「殿下の?」

「こちらじゃ」


国王はギルバートの出した要望が書かれたリストを見る。


「これは…」

「ダーナでは既に使われていたらしい

 これを親衛隊の装備として発表するつもりらしい」

「これをですか?」

「ああ

 王都で作るのは初めてじゃ

 じゃから工房も、試作という事で格安に揃えてくれるそうじゃ」

「格安でねえ…」


「そしてこれが欲しければ、オーガを倒せと

 そういうメッセージでもある」

「あ…」

「困ったものじゃ」

「それはマズいでしょ」

「そうじゃな

 ワシもそう思う

 これを見れば欲しくて仕方が無くなるじゃろう」


書類にはリストが記載されていたが、価格や性能は記されていなかった。

しかしオーガは今までのランクGの魔物と違ってランクFの魔物だ。

その性能は大幅に上がるだろう。

しかも魔術師ギルドの協力で、身体強化と切れ味を上げる魔法が付与される。

これだけ見ても国宝と言える性能だろう。


「詳細は不明だが、魔術師ギルドも関わっておる

 魔法の付与がされた武器が、初めて王都でお目見えとなる」

「そうですな

 殿下の武器にも付与はされていますが、あれは公開されていませんからね」

「うむ」


サルザートは書類を確認すると、そのまま執務室を出て行った。

その足で文官達の元へ出向き、指示を出す為だ。

褒賞の為に必要な書類もあるが、何よりもそれを告示する必要があった。

今回の遠征の結果と、それに伴う王国の利益も示さなければならない。

当初の予定以上に、オーガの討伐が出来た事は大きかった。

それを大々的に告示して、貴族達が口出し出来ない様にする為だ。


そうして書類を作成すると、王宮内の貴族と各地の所領にそれを配った。

そして告示を済ますと、次は式典の準備である。

本来は明日にでも行いたいところだが、それでは装備が間に合わない。

工房からの報告が来てから式典を行う事にして、先ずは戦勝の祝賀会を行う事にした。


「式典は後日に行うとして、先ずは遠征の勝利の宴じゃ」

「日取りは何時にされますか?」

「そうじゃな

 式典の代わりじゃから、明後日にするかのう」

「はい

 それではその様に手配致します」


こうして祝賀会の予定が決まり、各所に伝達された。

ギルバートは昼食を取っていなかったので、少し早めの夕食を取っていた。

そこへ執事のドニスが来て、小声で耳打ちをした。


「殿下

 式典は装備が完成してからという事です

 代わりに戦勝の祝賀会を行うそうです」

「そうか」

「明後日に行いますので、昼には王城で待機してください」

「分かった

 訓練は見に行けないな」

「はい」


祝賀会となれば、昼過ぎから夜まで行われる。

そう思えば、明日はゆっくりと休んで備えないといけない。

明日と明後日は訓練を見に行けなくなるだろう。

それに訓練も、既にほとんどの兵士が自主練を出来ていた。

後は実戦を繰り返すしか無いだろう。


むしろ騎士団の方が、変なプライドで訓練が遅れていた。

それに騎士団だと、魔物の討伐には滅多に出れない。

普段は兵士達が出るので、騎士団が呼ばれる事は無いのだ。

その点は親衛隊は恵まれていた。

ギルバートが出る戦場には着いて行くので、遠征に出る機会は多いのだ。


次のダーナ解放戦にも参加予定である。

出発前に絡んで来た騎士も、そんなわけで活躍の場が欲しかったのだ。

騎士団に寄生すれば、戦いに参加していなくても称賛されるという浅はかな考えであったのだろう。


「訓練には行けないと、騎士団と兵舎に連絡をしておいてくれ」

「はい」


連絡はドニスに任せて、ギルバートはゆっくりと食事を続けた。

すっかり腹が空いていたので、野菜のスープに黒パン2つとサラダも平らげる。

満腹になったところで、お茶を頼んでゆっくりと飲む。

大人はワインを楽しむんだろうが、ギルバートは酒の苦みが嫌いだった。

お茶のほのかな苦みを楽しみつつ、今回の遠征を振り返る。


「今回は色々あったな」


オークの討伐は想定内であったが、オーガは予定外であった。

将軍の報告からオーガが出る可能性はあったが、まさか本当に出て来るとは思わなかった。

しかも5体となると、騎士だけでは倒せなかった。

アーネストの魔法があって助かったと思う。

そして討伐出来た事から、新しい武器の作成も出来る。


「少しずつだが、魔物が増えているな」


ダーナの事を考えると、王都の周りにも増える事は確実だった。

それに魔物の種類も増えている。

サテュロスは見れなかったが、他にも新しい魔物が出て来ている可能性は十分にあった。

特にダーナでは死霊系の魔物が増えているし、街の住民達も魔物になっているらしい。

そう思えば、新しい魔物は確実に増えて行っていた。


十分に休息出来たので、私室に戻る事にした。

アーネストと話をするのは、明日になってからでも良いと判断した。

アーネストも今頃は、私室でゆっくり休んでいるだろう。

いや、もしかしたらギルドに向かっているかも知れない。

そんな事を考えながら、ギルバートは私室でゆっくりと休む事にした。


翌日になり、周囲では魔物討伐の話題で盛り上がっていた。

特にオーガの討伐が話題になり、人食い鬼を討伐した騎士達が話題になっていた。

当然騎士達を鍛えたギルバートも話題に上がっており、その手腕を称賛されていた。

意外なのはアーネストが話題に上がっておらず、同行している事を知らなかった者も多かった。

やはり騎士団の方に注目が集まり易く、魔術師は目立たない様だった。


「魔術師も活躍しているんだがな」

「しょうがないだろう

 魔術師は体力も低いし、オーガを倒せると言っても信用されないだろう」

「それは無いだろう

 アーネストは魔法で、一度に複数体のオーガも倒しただろう」

「それはダーナでの話だろう

 王都では誰も知らないさ

 それに言っても誰も信じないだろうから、人前では話すなよ」


「そうかなあ

 もっと強い魔物を倒しているのに」

「それこそ眉唾ものだろう

 そんな魔物が現れるのに、何でダーナが無事なんだって言われるぞ」

「だって事実だろう」

「それでもさ

 人って目の前で見ても、信じたい物しか信じないんだ

 それが見た事も聞いた事も無い魔物なら、信じられ無いさ」

「そうかなあ…」


ギルバートは納得出来ないのか不満そうな顔をしていたが、仕方が無かった。

騎士達に比べると、どうしても魔術師は地味だった。

それに体力が無いのも事実で、その為に弱いと勘違いされがちなのだ。

身体強化を使えば、そこらの兵士よりも強くなれるのだ。

単純な殴り合いならアーネストに軍配が上がるだろう。


「それより祝賀会には出るのか?」

「ああ

 私は王子だからな

 こればっかりは仕方が無い」

「そうか」

「そっちはどうする?

 まだ叙爵式の予定は決まっていないんだろう?」

「ああ

 だが出席は決まりらしい

 この席で見世物も頼まれている」


「見世物って何だ?」

「魔法の実演さ

 どうやったかを見せるんだ」

「それはまた…」


アーネストがニヤニヤするのを見て、ギルバートは閉口した。

どうせ碌な事では無いんだろうと思ったが、それは言わなかった。


この日はゆっくりと休んで過ごして、いよいよ祝賀会が行われる日になった。

王宮には朝から貴族が集まり、王宮は騒がしくなっていた。

例の選民思想の貴族も呼ばれていて、ギルバートを遠くから睨んでいた。

こういった不届き者が居る為に、ギルバートは祝賀会に出なくてはならない。

いい加減王子と知れ渡っている筈なのだが、知らない者の為に顔を出しておくのだ。

あんな発言をされない為に。


昼を過ぎてから、いよいよ会場であるホールが閉め切られた。

中で準備をしている間は、準備をする使用人以外は立ち入り出来ない。

そんな中でも、また選民思想の貴族は騒いでいた。

自分達は特別なのだから、入って良い筈だと騒いでいるのだ。

こんなタイミングで中に入って、一体何をするつもりなのだか?


騒ぐ貴族を横目に、ギルバートは待合室でのんびりとお茶を楽しんでいた。

周りには友好的な若い貴族が集まり、遠征の話を聞きたがっていた。

渋るギルバートに代わって、アーネストが話せる範囲で大まかに答える。

こうして話の輪の中心に居る辺り、アーネストの方がよっぽど王子に向いていた。


「というわけで、騎士の隊長が魔物の腕や足に切り付けたんだ

 それで1体が倒れて、止めを刺された

 だよな、ギル?」

「ああ

 私は参加してはいけなかったからな

 遠くから見るだけだった」

「よく言うよ

 お前が出ていたら、一人でオーガの2、3体は倒していただろう」

「どうだろな」


ギルバートはぶっきらぼうに答える。

それを見て、貴族達はアーネストを称賛していた。


「殿下は凄いな」

「いや、それよりも

 殿下と対等に話せるアーネストも凄いと思うよ」

「そうだよな

 いくら幼馴染だと言っても、普通は物怖じするよな」


「そうかな?

 ボクはギルと一緒に育って来たから

 逆に殿下とか呼んだら殴られるよ」

「そうだぞ

 気持ち悪いからな」

「酷いな、もう」

「はははは」


ギルバートの快活な笑いに、貴族達の雰囲気も柔らかくなる。

こうして和やかな雰囲気の中で、祝賀会が始まる事となった。

まだまだ続きます。

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