第251話
ギルバート達は、岩場の奥に魔物の巣を見付けた
そこは林になっており、中から煙が上がっていた
そしてアーネストの魔法で確認すると、怪我をしているのか魔力が少ない個体が居た
それがオーガに襲われたからなのかは分からなかったが、恐らく怪我をしていると思われた
ギルバート達は武器を手に、ゆっくりと林に近付いて行った
一行は馬でゆっくりと、林の前まで近付いて行く
魔物はまだ気付いていない様子で、林の中からは動きは感じられ無かった
そして林に近付くと、ギルバート達は中の様子を窺ってみた
魔物はほとんど動いていなくて、怪我をした魔物は家の中に居る様だった
そして魔物達は、火を使って肉を焼いていた
それが何の肉かは分からないが、どうやら人型の魔物の様だった
「どうやら怪我をしている者は、家の中に居るみたいですね」
「家ですか
確かに家の様ですね
しかし魔物が家を作るとは…」
家と言うには粗末だが、ちゃんと木と岩を組み合わせて、それは家の形を成していた。
そして魔物は、その中で火を焚いていた。
人間ほどでは無いが、それなりの文化はある様だった。
「魔物はまだ、こちらには気付いていません
どうやって攻めますか?」
「そうですね
馬はここに置いて、徒歩で進むのが良いでしょう
馬では林を抜けるのは危険ですからね」
「分かりました
おい、馬を繋いでおくぞ」
「はい」
一行は小声で相談すると、どこから攻めるかを決めた。
正面と左右から、8名ずつに分かれて進む。
そして魔物に対しては、必ず1体に対して複数人で向かう事を決めた。
「こちらの方が人数が多い
囲まれない様にすれば楽勝です」
「しかし力は強いんですよね」
「ええ
一撃には気を付けてください」
「分かりました」
騎士達は3方に別れて、それぞれの持ち場に着いた。
そして合図を待って、一斉に攻撃するタイミングを待った。
手で合図を送り、一斉に駆け出す。
「行くぞ」
「おお」
「うおおおお」
「うわああああ」
騎士達は鬨の声を上げて、一気に集落へと駆け込んだ。
家の数は20軒あり、明らかに魔物の数より多かった。
その事からも、魔物が襲撃を受けて数が減っていると想像出来た。
「家の中の魔物は弱っています
先ずは外の魔物から狩ってください」
「承知!
ずりゃあああ」
ザン!
グガアアア
ジョナサンが先ずは1体、袈裟懸けに魔物を断ち切った。
その間に左から魔物が迫るが、それを他の騎士達が剣で立ち向かう。
「うりゃああ」
「とりゃああ」
二人が左右から、右腕と左脇腹を切り裂く。
グガアアア
「止めだ」
ザシュッ!
グガ…
もう一人が正面から突っ込み、心臓を一突きした。
「まだだ
次が来るぞ」
「はい」
さらに左右から、魔物が立ち上がって襲い掛かって来る。
手には丸太を抱えていて、それを振り回して来る。
「っち
近付けない」
「後ろへ回り込め」
「足元も隙だらけだぜ」
一人が背後へ回る間に、もう一人が足元に走り込み、そのまま脛を切り落とす。
グガアア
「今だ
喰らえ」
ザシュッ!
止めの一撃が、オークの首筋を切り裂いた。
その間にもう一体に、ギルバートが向かって行く。
「せりゃあああ」
ガッ、ゴガン
グガア…
ギルバートは丸太ごと、一気に魔物の胴体を切り裂いた。
「んな!
一撃で?」
「凄い…」
ギルバートの剣戟を見て、騎士達も驚いて動きが止まる。
その間にも魔物は、左右から向かって来る騎士達と戦っていた。
騎士達も善戦して、二人で1体の魔物を倒していた。
「外の魔物は倒せました」
「後は仲に残った魔物だけだな」
「各自家を覗き込んで、魔物が居るか確認しろ
良いか
決して一人では向かうなよ」
「はい」
騎士達は家を覗いては、中に居る魔物を殺して回った。
しかし残っているのは負傷した魔物で、薬草を巻いて寝ていた。
どうやら重傷な様で、動く事も出来ないうちに殺されていった。
「何だか罪悪感を感じるな」
「そうだな
相手は魔物なのに、怪我して動けないもんな」
騎士達は弱り切っている魔物を殺す事に、少なからず抵抗を感じていた。
しかし、今ここで殺しておかないと、後々に人間を殺す可能性もある。
だから心を鬼にして、魔物に止めを刺して回った。
「必ず止めを刺しておけよ
殺し損ねていると危険だぞ」
「はい」
ジョナサンは罪悪感を感じている騎士達に、キチンと止めを刺す様に注意した。
殺し損ねた魔物が、後で息を吹き返して襲って来ては危険だ。
止めはしっかりと刺さないといけない。
「倒した魔物はどうしますか?」
「そうですね
素材を取りたいので運びましょう
ですがその前に…」
「?」
「倒した魔物を運び出した後は、家を焼いておいてください」
「何故ですか?」
「それは他の魔物が来て、利用させない為です」
「なるほど
これが残っていると住み着きますね」
「ええ
ですから壊して燃やしたいんですが…
壊すのは手間ですから、そのまま焼きましょうか」
「そうですね
これを壊すのは骨が折れます
そのまま焼いた方が早いですね」
ジョナサンは騎士達の方に振り返ると、指示を出した。
「これから魔物の遺体を運び出して、家を破壊する
時間を掛けたくは無いので、そのまま火を着けて焼き払う」
「魔物の遺体はどうしますか?」
「歩兵達を呼んで運んでもらおう
誰か馬車を呼んで来てくれ」
「はい」
魔物の遺骸を回収する為に、馬車を呼ぶ必要があった。
それと並行して、魔物の遺骸を運び出しては、家に火を放って行く。
魔物の遺骸の数は、総勢で37体あった。
アーネストが感知した以上に居たのは、瀕死で魔力がほとんど無かった様だ。
それと怪我が悪化して死んだ者も居た様だ。
騎士が覗き込んだ時には、既に息をしていない魔物も居たのだ。
「それでは運び出して、火を着けて行きますね」
「頼んだぞ」
集落の家に火が着けられて、次々と燃やされて行く。
中にはボロ布や薪、干し肉などがあったが、持って帰るほどの物は無かった。
そのまま家ごと燃やして、後は岩だけが残された。
「これで大丈夫ですね」
「ええ
ここまで燃やしたら、さすがに家を作ろうとは思わないでしょう」
「後は魔物の死体を持って帰るだけです」
「そうですね」
「しかしオーガはどうされますか?」
「うーん
近くに居れば良いんですが、どこに居るかも分かりませんから」
ギルバートがそう言うと、何人かの騎士がホッとした様子を見せた。
それを見て、ギルバートはニヤリと笑った。
「心配しなくても討伐はしますよ
ただ…
どこに居るかですよね」
「やはり討伐はしますか」
「ええ
出来れば倒しておきたいですね
このまま南下されては厄介ですから」
「そうですよね」
ジョナサンは溜息を吐いた。
確かに討伐しておかなければ、やがて王都に向かって来るかも知れない。
それまでに鍛えて、討伐出来る様になるかも知れない。
しかし討伐経験のあるギルバートとアーネストが居た方が、安心して狩れるだろう。
それを思えば、今の内に狩った方が良いのだろう。
しかし王子であるギルバートを、危険な前線に立たせるのが躊躇われた。
「出来れば殿下には、戦闘には出て欲しくは無いんですが…」
「ですが現状では、私が一番狩る事が出来るんですよ
みなさんではまだ、正直不安なんですよね」
「そうですよね」
「もし遭遇したら、慌てて逃げるよりは落ち着いて見てください
思ったよりは鈍いので、上手く避ければ攻撃は出来ます」
「しかし大きいんですよね
間合いが違うんじゃないですか」
「そうですね
間合いは広いので、十分に見てから躱してください
でないと避け切れなくなりますから」
「分かりました」
「他に気を付ける事は?」
「そうですね
身体が大きいので、最初は足から狙ってください
首元や腕は目らい難いですし、反撃されます」
「そうですか
先ずは足を狙って、動きを封じるんですね」
「そういうことです」
オーガに対する注意点を述べてから、ギルバートは野営地に向かった。
今のところは魔物は見当たらないので、再び痕跡を探して捜索するのだ。
その為には一旦休憩をして、昼食を取った方が良いと判断したのだ。
「先に昼食を取りましょう
その方が休憩になりますし、体力も回復するでしょう」
「そうですね
士気も回復しますからそうしましょう」
野営地に戻ると、さっそく鍋を焚火に掛けた。
またスープを作って、黒パンと食べるのだ。
「今度は干し肉も入れています
昼はやっぱり腹持ちが良い方がいいですから」
「それは良いですね
出来れば獲れたての肉があれば良いんですが」
「はははは
ワイルド・ボアでも出れば良いんですが」
「そういえば、さっきの集落には居なかったな
まさかオーガが狙ったのか?」
「え?
オーガってワイルド・ボアも食べるんですか?」
「ええ
むしろそっちの方が好みだと思いますよ
人食い鬼って人間を食べているのを見たからで、実際はオークやゴブリンも人間をたべますから」
「うげっ
ゴブリンもなんですか」
「ええ
他に食べる肉が無い場合は食べるみたいですね」
そんな話をしながら、鍋が煮えるのを待つ。
そして出来た順番で、それぞれが器に盛り付けて食べた。
そうして食事をしていると、遠くで吠え声が聴こえた。
グガアアア
「オーガですね」
「ええ
少し離れています」
グガアアア
ゴアアア
「他にも居ますね」
「どうやら1体ではなさそうですね」
「そうですね
少なくとも3体は居そうですね」
「参ったな
3体となれば、私一人でどうにかなりませんよ」
「どうされますか?」
「そうですね
1体はアーネストに足止めしてもらうとしても、後は騎士団のみなさん次第です
どうにか討伐出来れば良いんですが」
「それは…
責任重大ですね」
オーガの数が1体では無いと分かったので、ここは慎重にならないといけない。
ギルバートは食事を済ませると、さっそく作戦を練り始めた。
「声の聞こえた方向からして、やはり岩場の向こうだと思いますね」
「しかし林の中には居ませんでしたよね」
「そうですね
林だと身動きが取り難いので、林には入りたく無いんでしょう
恐らくその先に居ますね」
「それではどうしますか?」
「またさっきの林に向かい、その先を見てみましょう
それから考えるのではどうでしょう」
「でも見つかったら…」
「それは大丈夫です
オーガもオークと同じで、耳や鼻が利くわけではありません
そこまで感が鋭くは無いでしょう」
コボルトの様に耳や鼻が利かない分、気付かれる危険性は低い。
だからこそ接近して、アーネストの魔法で数を確認する必要がある。
「兎に角向かいましょう
そこからどうするのか考えましょう」
「分かりました
では、そこまでは馬で向かうんですね」
「ええ
その方が早く動けますし、鎌を有効に使えます」
「鎌の方が良いですか?」
「そうですね
その方が間合いを大きく取れますし、威力も高いですから」
「なるほど…」
ジョナサンは納得して、騎士達に指示を出した。
「これからもう一度、先ほどの林まで向かう」
「はい」
「馬に乗って鎌を使うので、各自点検をしておく様に」
「はい」
「殿下
少しだけ待ってください
武器の点検はしておきたいので」
「分かりました
準備が出来たら呼んでください」
「はい」
ギルバートはアーネストの方に行って、どうするか相談する事にした。
「アーネスト」
「何だ?」
「これからもう一度、さっきの林に向かう」
「オーガか?」
「ああ」
「ボクも行った方が良いか?」
「ああ、頼むよ
出来れば拘束して欲しい」
「そうだな
複数体居るみたいだし
ギルと騎士だけでは危険だろう」
「そうなんだよ」
「でもボクは、小型の馬なんだぞ
大丈夫かな?」
「近付かなければ平気だろう?
離れた場所から魔法を使ってくれ」
「分かったよ
仕方が無いな」
そう言いながらも、アーネストは頼られて嬉しそうだった。
それから魔法で調べる話をしていると、ジョナサンがやって来た。
どうやら準備が出来た様だ。
「殿下
準備が整いました」
「そうか
それでは出発しよう」
「歩兵はどうされますか?」
「そうだなあ
付近にはもう、魔物は居そうに無い
一緒に馬車を移動させて、回収の準備をしておくか」
「そうですね
その方が良いでしょう」
歩兵達も移動する事にして、野営地は一旦空にする事にした。
付近に魔物が居ない以上、このままにしておいても大丈夫だろう。
大体の予定が決まって、さっそく移動する事にする。
既に昼は回っているので、あまり遅くなると帰りは真っ暗になる。
魔物は居ないとしても、暗闇での移動は危険だ。
さっさと行って討伐する事にする。
「では、もう一度行くぞ」
「はい」
一行は馬に乗ると、そのまま岩場を抜けて林に向かった。
そして林を迂回して進むと、また岩場になってきた。
そのまま進んでいると、その先に岩の上に頭が出ているのが見えた。
「居たぞ
オーガだ」
ギルバートは小声で話し、アーネストに魔法を使ってもらう。
「アーネスト
頼む」
「分かった」
アーネストが呪文を唱えて、目を瞑って意識を集中する。
そうして暫く待つと、アーネストが口を開いた。
「魔物は…
5体居るな」
「5体か」
「ああ
あの頭を覗かせている奴のそばにもう1体
それからその向こうに、1体と2体で居るな」
「どうしますか?」
「先ずは騒いで、手前の2体を誘き出そう
後の3体はその後だ」
「片方はボクが魔法で拘束します
その間に倒してください」
「残りの3体は?」
「1体は私が
もう1体をアーネストが
残りは騎士団に任せます」
「分かりました
何とかやってみせます」
「うん
頼んだよ」
魔物の数が分かったので、何とか作戦を立ててみる。
しかし実戦では、魔物がどう動くか分からない。
あくまでもこれは、上手く行ったらの作戦だった。
まだまだ続きます。
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250話の終わりを少し直しました。




