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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
250/800

第250話

翌日も朝早くから起き出し、一行は先ずは朝食を取る

周囲は雪が少し積り、すっかり冷えていた

しかし温かいスープを作り、黒パンと一緒に食べる

焚火に当たりながら食べたので、食べ終わる頃にはすっかり暖まっていた

そして支度をすると、一行は再び進み始めた

天幕を馬車に片付けて、アーネストも馬車に乗り込む

騎士とギルバートは、馬に鞍を乗せて飛び乗る

焚火は歩兵達が消して、土を上に被せる

こうしておけば痕跡も隠れるので、魔物に見付かり難くなる

焚火の痕跡を辿られて、背後から襲撃されるのを防ぐ為だ


「準備は良いか?」

「はい」

「では出発するぞ」

「はい」


ジョナサンの指揮で、騎士団を先頭に出発する。

歩兵達は馬車に乗り込んで待機して、そのまま進んで行く。

魔物に関してはアーネストが魔法を使うので、斥候を使う必要は無かった。


「あれが話に合った川ですね」

「その様だな

 まさか昨日の川の下流だとは…」


一旦公道に戻ったが、目的地の森の入り口に差し掛かったところで、近くの川を探した。

前回の遠征では、この川で歩兵達が襲われていた。

そのまま死体も発見されなかったので、何に襲われてかは不明であった。


「オーガの痕跡はありませんね」

「そうですね

 足跡は野生動物と、これは…

 人の足跡より二回り大きいですね」

「これは…

 コボルトではありませんね

 恐らくはオークかと」

「オークですか?」


「ええ

 オークは一周り大きくて、筋肉質ですから

 この足のサイズで考えれるのはオークです」

「しかしオークならば、そんなに素早くは無いのですよね

 どうやって兵士達を殺したのか」

「そうですね

 接近に気付かなかったのでしょうか?」


ギルバートは痕跡を調べて、ここ数日中にも来ている事を確認した。

足跡を辿ると、雪の下に隠れている箇所もあった。

そこの雪をどけると、やはりその下には足跡が残されていた。


「この足跡は数日前の物です

 雪には隠れていましたが、雪の上には足跡は残されていません

 ですが数日起きには来ていますね

 ここで野営をする際には、オークに警戒をする必要はあります」


「オークと戦うには、どこを気を付ける必要がありますか?」

「そうですね…

 オークは力が強いので、とにかく殴られない様に注意ですね」

「え?」


「オークの膂力は強いので、殴られただけで頭なら潰されますよ」

「そんなにですか?」

「ええ

 みなさんの身体強化をした状態で、常に動けると思ってください」

「それはまた…」


身体強化をした状態で殴れば、良くて骨折、当たり所が悪ければ死んでしまう。

そんな腕力で頭など殴られれば、確かに潰されそうである。


「それでは迂闊に近付けませんね」

「ですが動きは鈍重なので、上手く躱せば楽な相手です」

「楽な相手…ですか?」

「ええ

 隙を突けば簡単に倒せますよ」

「それは殿下レベルの強さがあってでしょう

 騎士団では苦戦しませんか?」


「そうでしょうか?

 最近では身体強化の底上げも出来ていますし

 何よりも武器も新調しましたからね」


確かに武器に関しては、今までと比べても格段に切れ味が増していた。

それに頑丈になったので、魔物の攻撃を受けても大丈夫だろう。

これも新しい魔物を討伐して、その素材を持ち帰れたからだ。

今回の遠征でも、魔物の討伐もだが素材集めも重要視されていた。


「そうでしょうか?」

「ええ

 これぐらいの強さがあれば、油断しなければ大丈夫です

 問題はむしろ、オーガに遭遇した場合です」

「オーガですか?」


ジョナサンも思わず、オーガと聞いて唾を飲み込んだ。

3m近い大型の魔物だ。

そんな物に出遭っては、騎士達もまともな判断が出来るか不安であった。


「オーガも大きいのですが、動きは遅いです

 問題は身体が大きいので、思ったよりも攻撃が届きます

 後はオークで慣らせれば良いんですが」

「オークでですか?

 それも危険な様な気が…」


オークもまだ戦った事の無い魔物であった。

いや、そもそもが魔物自体が、騎士団は戦った事が無かった。


「兎に角魔物を探すところから始めましょう

 ここには今は居ませんでしょうし」

「そうですね

 森に向かいましょうか」


魔物を探して、一行は森の入り口に向かう事にした。

森に向かえば、サテュロスが襲って来るのかも確認出来る。

取り敢えずは川から見え難い所に馬車を置いて、森に向かう事にした。

野営地の準備は、騎士達が戻ってから行う事になった。


「さて

 噂のサテュロスは出て来ますでしょうか?」

「そうですね

 アーネスト?」

「ええ

 書物に記された通りなら、サテュロスは森の奥に隠れ住みます

 余程の事が無いと基本は大人しくて、森から出て来る事も無いそうです」

「そうですか」


ジョナサンは森の入り口に近付くと、そのまま周囲を見回した。

騎士達も馬に乗ったままだが、森の入り口を調べ始めた。

しかし何の痕跡も残されておらず、魔物が出入りしている様子は無かった。


「魔物は出入りしている様子がありませんね」

「ええ

 足跡も古い物しかありませんね」

「やはりサテュロスは、森から出て来ませんね」


暫く辺りを調べたり、馬を下りて森にも入ってみた。

しかし魔物は出て来なくて、無理に奥まで入る必要は無かった。

歩兵達の元に戻って、野営地の準備をする事にする。

オークと戦う事にしても、ここでは立ち寄った様子が無かったからだ。

ここで探すよりは、水辺に戻った方が遭遇する可能性が高かった。


「先に野営地を作りましょう

 オークが来ると言うのなら、柵を作るのも良いかも知れません」

「そうですね

 木ならここに沢山あります

 切って柵にしましょう」


歩兵達に指示を出して、先ずは野営地の準備として天幕と焚火を作る。

それから馬車を移動して、森の木を伐採する。

歩兵には工兵の経験者も居るので、彼の指導の下に柵も作り始める。

簡単な柵だが、これなら魔物も簡単に侵入は出来なかった。


「先ずは準備が出来ましたね

 それで?

 これからどうしますか?」

「うーん

 今日は昼を回りましたし、これから捜索するのは難しいですね」

「そうですね

 周辺の探索は出来ますが、あまり遠くに離れない方がよろしいでしょう」


歩兵は陣地に待機する事にして、騎士達と周辺を簡単に探索する。

川の周りの中から、比較的新しい足跡を追ってみる。

それは川から少し離れた、岩場に向かって伸びていた。


「どうやらあの向こうに、オークの集落があるのでしょう」

「集落ですか?」

「ええ

 オークも繁殖するのに、小さな集落を作ります

 さすがにゴブリンやコボルトの様な、村の様な規模は見た事がありませんが…

 20体ぐらいの集落なら見た事はあります」

「それは危険ですね」

「そうでしょうか?

 事前に察知出来れば、奇襲も仕掛けれます

 そこまでは手強くは無いと思いますが?」


ギルバートは兵士達と共に、オークの集落を潰した事がある。

だから慣れているので、別段不安は無かった。

しかし騎士達は、これが魔物との初めての戦闘になるのだ。

魔物との戦闘がどの様な物かは想像も出来なかった。


「他には魔物は居ませんか?

 出来れば戦い易いので練習をしたいんですが」

「戦い易いって…

 ゴブリンが一番弱いんですが、さすがにこの辺りには居そうに無いですね」

「ゴブリンですか?

 コボルトはどうですか?」


「コボルトですか?

 確かにゴブリンと双角を成す雑魚ですが…

 意外と素早いですし、連携をして来ますよ」

「連携ですか?」

「ええ

 犬の頭をしているからでしょうか

 仲間思いですし、見事な連携攻撃を得意としています

 それこそ油断していますと、集団で囲まれますよ」

「ううむ

 確かに厄介そうですね」


「ええ

 その代わりに力も弱いですし、防御力も低いですよ」

「そうなんですか?」

「ええ

 一応オークの方が上の魔物になりますね」


さらに足跡を調べてみると、確かにコボルトの足跡も残っていた。

しかし時期が古くて、今は居るかどうか怪しかった。


「こっちがコボルトの足跡です」

「人間の物より一回り大きいですね

 しかし…」

「ええ

 古いので今は居ないでしょう

 やはり可能性が高いのは、こっちのオークですね」

「そうですか…」


一回り調べて、探索は終了となった。

結局オークしか居そうに無いので、明日はその集落を探す事にする。

そして焚火に鍋を掛けて、スープを作り始めた。

このまま野営に入って、今夜はここで休息を取るのだ。


「巡回は騎士団が行います」

「お願いします」


夜になり、騎士達が交代で警戒に立った。

兵士はその間に、切って来た木を薪にしていた。

そしていよいよ仮眠を取ろうとした時に、遠くから吠え声が聞こえた。


グガアアア…


「ひっ!」

「何だ?」


「オーガの声ですね」

「あれがオーガですか?」

「ええ

 ですが距離が遠いので、今夜は大丈夫でしょう」


吠え声は遠いと言っても、大気を震わす様な大音響だった。

それが何度か響き渡り、それから静かになった。


「どうやらどこかで、オーガのテリトリーに入った者が居たのでしょう

 考えられるのは、他の魔物ですね」

「縄張りに入られて、怒り狂ったのでしょうか?」

「ええ

 それで威嚇していたんでしょう」


オーガの吠え声に、騎士達もすっかり怯えていた。

しかし距離があるので、ここにすぐ来る事は無いだろう。


「一応警戒はしておいてください

 あの吠え声で他の魔物が騒ぎ出す可能性があります」

「分かりました」


巡回は騎士に任せて、ギルバートは天幕に入った。

そして毛布を被ると、そのまま仮眠に入った。


そして野営地は、何事も無く朝を迎えた。

結局魔物は現れず、オーガが来る事も無かった。

声がした方向からすると、丁度岩場の向こうになる。


「昨夜のオーガの吠え声は、あっちから聞こえましたよね」

「ええ

 あの岩場の向こうですね」

「そうなると、オークの集落がある辺りか

 もしくはその向こうになりますね」

「ええ

 恐らくはそれで間違い無いかと思います」


声の大きさと方角から、オークが集落を作っていると思われる場所に近くなる。

このまま向かっても大丈夫なのか、ジョナサンは不安になっていた。


「先ずは確認してみましょう

 オークが無事なら討伐すれば良いし

 倒されていれば、それはそれで問題は無いかと思います」

「そうですか?」

「ええ」


「因みにオーガはどうされますか?」

「オーガですか?」

「ええ」


「素材は欲しいところですが…」


ギルバートは言葉を切った。

騎士達の様子を見る限り、とてもじゃないが討伐はしたく無さそうだった。

少し溜息を吐きつつ、ギルバートは言葉を続けた。


「そうですね

 無理にこちらからは攻撃はしません」


ジョナサンを代表として、騎士達はホッとする。


「ですが、もし気付かれたら…

 危険を避ける為に討伐しますよ」

「え?」


「大丈夫ですよ

 いざとなればアーネストが拘束の魔法を掛けますし」


ギルバートがアーネストの方を見ると、頷いてみせた。


「それに数が少なければ、私が倒しても良いでしょう」

「そんな

 殿下が危険な事を…」

「大丈夫ですよ

 これでもオーガの討伐には何度も行っています

 それにどうやって倒すのか、みなさんの参考になりますから」

「しかし危ないのでは…」

「そうですね

 しかしオーガを野放しにする方が危険ですよ」


ここまで言われると、ジョナサンももう反対は出来なかった。

それに恐れて逃げ出す様では、騎士の名折れである。


「分かりました

 状況を確認して、場合によっては討伐する

 それでよろしいですか?」

「ええ

 それでは向かいましょう」

「はい」


騎士達は馬に乗り、さっそく岩場に向かい始めた。


「歩兵のみなさんはここで待機してください」

「はい」


「それでは向かいましょう」

「おお」


改めて騎士団に合流して、ギルバートも岩場を目指した。

その後ろにはアーネストが、小型の馬に乗っていた。

乗馬はあまり得意では無いが、こういう場合はそうも言ってられない

移動用に連れて来ていた、小型の馬に乗ったのだ。


「可愛いお供だな」

「煩い」


ギルバートがニヤニヤして見ているので、アーネストは不機嫌そうな顔をしていた。

そして一行は、そのまま岩場の中を進んで行った。


暫く進むと、岩場の先が平坦な場所になって来た。

その先に小さな林があり、そこから煙が上がっているのが見えた。


「煙が見えますね」

「ええ

 火でも焚いているんでしょうか?」

「そうですね

 どうやらオーガに襲撃されてはいないみたいですね」


ギルバートはアーネストに、魔物が居るのか確認してもらう事にした。


「アーネスト」

「何だい?」

「魔物は居るかい?」

「ああ

 確認してみようか」

「頼む」


アーネストは呪文を唱えると、目を瞑って意識を集中する。

暫くそのままで居ると、やがて口を開いた。


「魔物の数は全部で16体

 そのうち5体は瀕死なのかな?

 魔力が低いみたいだ」

「怪我をしているのか?」

「ああ

 魔力が低くなっているから、どうやら怪我をしていると思う

 それも相当な怪我だろう」


「魔力で状態も分かるんですか?」

「あくまでも目安ですよ

 他の魔物と比べて、魔力が半分以下になっています

 考えられるのは怪我をして弱っているというところでしょう」

「なるほど

 そういう考えですね

 しかしそれならば、子供や老人はどうでしょうか?」

「ああ、魔物の子供ですか

 それは考えてませんでした」


「それに怪我をしているとなると、やはり近くにオーガが居るという事ですよね」

「恐らくはそうだと思います」

「それはそれで厄介ですね」


ジョナサンは林の方を見ると考え深げに見ていた。

まだまだ続きます。

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