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聖王伝  作者: 竜人
第一章 クリサリス教国
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第25話

3連戦を無事に終え

大きな被害も受けずにここまで来ました

しかし、いよいよ大きな戦いが迫っています

果たして、遠征軍は無事に魔物を討伐出来るのでしょうか?

遠征軍は公道を急ぎ移動し、遂に第2砦から少し離れた拓けた場所に到着した

将軍は騎士団に周囲を警戒させつつ、この場所に陣を張る事にした

直ちに野営の準備を命じて、薪を集めて焚火の準備もする


大隊長は焚火の準備を見て、魔物に発見されるんではないかと不安になった。


「ここで火を焚けば、魔物に見つかるのでは?」

「ん?」


将軍は野営の準備を見回りながら思案していたが、大隊長の質問に答える。


「先の集落でやろうが、ここでやろうが、どの道見つかる時は見つかる」

「そりゃあそうでしょうけど…」


「魔物に見つかって襲われても、退治すればいい事だろう

 それに退治した分砦の魔物も少なくなるだろう?」

「はあ…」


「兎に角、今日はここで休んで英気を養う

 疲れていては十分に戦えないだろうからな

 場合によっては、明日は休息として交代で休む事にする」

「いいんですか?」

「ああ

 先の戦いでも、みな頑張っていて疲れていたからな

 お前もしっかり休めよ」

「はあ」


大隊長は将軍からの指示を部隊長へ伝え、休息の順番を決めてからしっかり休めと伝えた。


「将軍の話では、疲れが溜まっている様子だから、明日も休息に当てるかも知れないと言っていた

 まあ、休息と言っても魔物の方から来るかも知れないがな」


「休息ですか?」

「オレはまだまだやれますよ?」

「馬鹿

 兵士達の方が問題なんだよ」


「それに…

 お前だってさっきは奮戦した後は、足元もふらふらだったじゃないか」

「違えねえや

 こいつ、ふらふらしてエリックに支えられてたからな」


エリックとは第5騎兵部隊長で、ジョンもアレンも暫くは自力で立てないぐらい消耗していた。

特にアレンは軽傷を負っていて、腕や足に包帯を巻いていた。


「これはポーションを使ったから、明日には包帯も取れますよ」


アレンは強がっていたが、怪我で血も失っている。

1日は休んで栄養を取らないと、快復は望めないだろう。

他にも、四肢の損耗は見られなかったが、深い切り傷や打撲を負った者も数名居る。

重傷でないにしても、怪我を癒す時間が必要だ。


「うーん

 やはり明日は休んだ方が良さそうだな」

「元気な者で警備と狩猟に出て、栄養を付けませんとな」


第4部隊長のハウェルが狩猟を提案する。

狩に出ればリラックス出来る者も居よう。

それに、新鮮な獲物を食して英気も養える。


「この辺は野草や果物が生ってる木もあります

 探索しますか?」

「うーん

 そうだな

 将軍に相談して来る」


大隊長はそう言うと、将軍の元へ再び向かった。

将軍は騎士団に武器の手入れと備品の点検を指示していた。

腕を組んで、渋い顔をして部下と相談している。


「…それで、ポーションは仕方ないんですが、薬草の補充は必要かと」

「食料も、干し肉の数を考えれば、ここで補充を視野に入れた方が宜しいかと」

「近隣の村や集落もありません

 昨日の集落も、すっかり魔物に荒らされており、作物も根こそぎやられていました」


騎士達も報告する顔は悲嘆に暮れていた。

本来は遠征と言っても、途中の村や集落で補給が出来る場合が多い。

特に今回は大所帯だ。

このまま補給が滞れば、十分な力を発揮できないどころか、最悪物資の不足で飢餓や栄養失調に陥る恐れも出て来る。

勿論、ダーナへ早馬を出して補給の要請も出来る。

しかし、街の住民が増えた事で開拓を始めたのだ。

その開拓民の一部が避難民として帰っている。

その上で今回の遠征にも糧食を出しているのだ。

街の住民へ補給を頼むのはあまり宜しくなさそうだ。


「やはり、ここで現地調達しかないか」

「ええ」

「そうです」

「早めに手を打たないと、数日で不足してしまいます」


もとより、短期決戦を目標にしているので糧食も少ない。


「将軍、宜しいですかな?」

「ん?」


思い切って、大隊長は話に割って入った。


「先ほどの休息の案

 こちらも賛成です」

「そうか…」


「逸るお気持ちも分かりますが、ここは休息と補充も大事です」


「どうでしょう?

 明日は交代で休息に当てて、一部の者で周辺の探索と狩猟をしませんか?」


騎士達は少し不満そうな顔をしたが、大隊長の出す案に嬉しそうに追従した。


「そうですよ

 兵士達も疲れています」

「ここは我々も休息と補充に…」

「それは…

 ライアン

 お前が狩に出たいからではないんだな?」


ライアンと声を掛けられた騎士が、顔を引き攣らせる。


「や、やだなあ

 そんなわけ無いじゃないですか

 はははは…」

「じゃあ、ライアンは留守番で

 他の者は希望者から絞って狩に出そう」

「そんなあ…」


ライアンがしょげて、他の騎士達が下を向いて笑いを堪える。


「うおっほん

 そんなわけで、こちらも休息は賛成じゃ」

「はい

 では、部下達に伝えてきます」

「うむ

 あまりはしゃぎ過ぎない様にな」

「はい」


大隊長は部隊長達の方へ向かい、将軍は再び騎士達と相談を始めた。


「それでは、具体的な必要な物資を調べよう

 薬草や果物は兵士達の方が詳しかろうて

 冒険者や農民上がりの者も多いからな」

「はい」


「こちらは狩りと警備に回ろうと思う」

「それでは、弓の得意な者を主に選抜して参ります」

「うむ

 頼むぞ」


騎士達は直ちに行動に移す。

普段からの訓練の成果もあるが、休息や狩に出れるとあって張り切っているからだ。


それから、夕日も沈み、辺りを静寂と暗闇が包む。

魔物が住み着いた砦に近いからか?

この辺りでは、野鳥の鳴き声も聴こえない。

野営の準備中にも、2度魔物の襲撃があった。

斥候だろうか、5匹が2組で行動していた。

その行動は今までの魔物とは違い、訓練を受けた様に連携を取って襲って来た。


先に1組が接近して、3匹が突撃して2匹が回り込む。

もう一組は矢を射掛けて妨害する。

敵わないと見ると、後続の魔物も4匹が抜刀して襲い掛かる。

その間に1匹は離脱し、仲間を呼びに逃走する。


最初の一組目の戦闘で、2人の兵士が重傷を負ってしまった。

いくら小柄の小鬼とはいえ、一度に複数匹に囲まれて襲われては堪らない。

幸い致命傷は避けれたが、肩や足を深く切られていたので、高級ポーションで傷口を塞いでから安静に休ませていた。


事態を重く見た大隊長は、警戒に当たる人数を増やし、2人一組から4人一組に組み直した。

それから巡回頻度を上げようと相談していると、二組目の魔物が襲撃して来た。


今度は人数も多かったので、多少連携の不慣れはあったものの怪我も無く戦い、他の兵士の加勢も間に合って無事に討伐出来た。

怪我も無く、無事を喜び合う兵士達を見ながら、大隊長は怪我した兵士の様子を見に天幕へと向かった。


「傷の様子はどうだ?」


「少し前に眠ったところです」


付き添いの兵士が答える。


「傷の痛みは無くなった様です

 出血も止まっていますし、さすがは高級ポーションです」


「そうか」


大隊長は安堵の溜息を吐く。


「しかし

 いくら高級ポーションでも、傷を塞いだり、治すまでは出来ません」


「傷が塞がるまでは戦闘は無理ですし、動ける様になるのも数日は…」

「…そうか」


「切れた腱も治るかは…

 せめて中級ポーションでもあれば」

「そうだな

 しかし、中級ともなれば騎士団でも滅多に使えない

 高級ポーションで、やっと最近出回る様になったんだから」


「そうですね

 配合を見極め、簡略化してくれた小さな魔導士君には感謝してます」


兵士は通常の薄い青色のポーションと、濃い青色のポーションを手に取る。


「これが無ければ…

 安定して供給出来る様になってなければ、多くの犠牲者が出ていますね」


治療のポーション

薄い青色をした液体で、傷口に掛けて消毒したり、飲んで腹痛や気分が悪いのを和らげたりと多用途で使われる薬

薬草から作られるが、近年まで正確な効能や種類が分かっていなかった

あくまで特定の薬草を煮沸して濾した液が使われていた

近年では研究が進み、ようやく風邪や下痢、嘔吐等の症状に合わせたポーションの作り方が解明され始めて、掛け合わせる薬草の種類が選ばれるようになった

これに合わせて、必要な薬草や高額な薬草等が区分される様になり、薬草採取のクエストが難しくなるという弊害が起こっているのは皮肉だ

(求める薬草を期日内に必要数集めて来ないと依頼失敗として報酬は出ない)

これに伴い、ある自称魔導士が考案した手法が公開され、魔力を使った1段効果の高いポーションが発表された

これは、今までも腕の良い調剤師が偶に作れていた物だが、偶然では無く、狙って作れる様になる方法だ

これによって、ポーション業界の在り方が変わろうとしていた


余談だが、アーネストが街の家に居ないワケは、彼が街中に一人でいると危険だからだ。

その為に、普段はダーナの領主邸の一室か、王都の王城の一室に護衛という見張りを連れて滞在している。


高級ポーションは、今や安定供給が出来る様になり、次第に値段も下がってきている。

その為、最近では兵士達にも大怪我をした時に使われている。

ただし、現状では従来のポーションの効果を高めただけだ。

血止めや痛みを和らげる事は出来ても、傷口を塞いだり出来ない。

傷口を塞ぐぐらいの効果となれば中級ポーションだが、今のところ生産の目途は立っていない。

他国からの貿易品で入って来る高級品だ。

噂では、欠損部位まで修復出来る上級ポーションなる物もあるらしいが、これがどういった物なのか、見た者はまだこの国には居なかった。


「彼等には、暫く休みを与えるか」


「はい

 場合によっては、引退もあり得ますから」

「ああ」


大隊長は、付き添いの兵士にも交代で休む様に伝えて、天幕を後にした。


その夜は、魔物の襲撃はそれ以上無かった。

とはいえ、襲撃の警戒は厳重にしなければならない。

ここは敵地の目の前だ。

しかし警戒は厳重にしたいのだが、あまりの静けさに深く眠ってしまう者も居たし、巡回の兵士も欠伸を噛み殺していた。

そして夜が明け、朝日が再び登り始めた。


森の木々の隙間から朝の陽射しが差し込み始め、少しずつ気温が上がっていく。

夜の闇が消えていき、陽射しに明るさを取り戻していく。

そんな野営地を、不意に強烈な重苦しい空気が包む。

まるで先ほどまで取り戻し掛けていた気温が一気に奪われた様に、強烈な殺気で冷え切ってゆく。


ゴガアアア


不意に大声を上げ、ゆっくりと大柄な影が歩いて来る。

その後方には魔物が付き従い、大柄な隊長格の魔物も数匹従っている。

先頭に立つ大柄な魔物が、再び大声を上げる。


グゴオオオ


天幕から駆け出した大隊長が見たのは、あのボス魔物が手下を従えて現れた姿だ。


くそっ

思ったより早く決戦になりそうだ


大隊長は内心焦っていた。

ようやくここまで帰ってきたものの、まだ態勢は立て直せていない。

今戦えば、魔物のボスを倒せたとしても、多くの犠牲が出るだろう。

下手したら、魔物のボスにも手が届かず、ここで全滅も在り得る。

部隊長達も次々と武器を持って駆け寄る。

緊張した空気が流れ、魔物のボスは『今ここでやってもいいんだぜ』と言わんばかりに身構える。


「待てっ」


そこへ低く重たい言葉が投げかけられた。


「双方、待て」


将軍が大剣を腰に下げたまま、両者の真ん中に立つ。

将軍と魔物のボス、強者が遂にまみえた。


魔物のボスも、相手側の大将が出て来たと見て、それまで構えていた武器を下ろす。

そしてニヤリと笑った。


「なるほど

 聞いた通り、なかなかの武人の様だな」


将軍もニヤリと笑い返す。


グホオ、グハッハア


魔物はそう鳴き声を上げると、嬉しそうに踊る。

まるで人間の、嬉しくて小躍りするという様だ。

そして、手に持った武器を地面に突っ立てると、何を思ったかそれを引き摺り始めた。


『??』


魔物は武器を引き摺って行き、地面に大きな線を引いた。

そして地面の線を指し、地面の片側とそれぞれの陣営を指さす。


「なるほど

 こちらは我々のテリトリーだと言いたいのか」


グホッ、グホッ


魔物は頷き、線をなぞる様に指を動かした後に、線から向こうを指した後に首を掻き切る仕種をして見せた。


「そちらへ入れば、命は無い

 そう言いたいんだな」


グホホホホホ


魔物は満足げに鳴くと、踵を返した。

無知蒙昧と思っていたが、何という事だろう。

この魔物は人語を解し、コミュニケーションを取って来たのだ。

最早魔物等と侮れない。

彼等は危険な隣人となっていた。


「待て」


グホッ?


「今はこちらも時間が欲しい

 だから見逃す」


ギャグワアア


将軍の言葉に、1匹の隊長格の魔物が吠え声を上げて身構える。

それをボス魔物が制する。


グホウ


隊長格の魔物は不満そうながらも従う。


「だがな

 次に会う時は…」


将軍はボスへ向けて挑発的に指さす。


「戦場だ!」


そう言って将軍は親指で自分を指さしてから大剣を地面に突き刺した。


グホホウ、グハハハハ


魔物達は満足げに去って行った。


「将軍…」


大隊長が将軍に歩み寄り、心配そうに声を掛ける。


「抜けなくなってしもうた

 手伝ってくれ」


大隊長はその場でずっこけた。

遂に見えた(まみえた)将軍とボス

次回はまた閑話を入れてから、いよいよ決戦の始まりです


将軍は意外とお茶目な爺さんです

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