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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
246/800

第246話

兵士達は再び作業を再開した

魔物の遺骸を移動しては、切り出した薪を積み上げる

そして魔道具で火を着けては、魔物の遺骸を燃やして行く

中には魔物の子供の遺骸もあり、それも同様に焼いて行った

そして冷えた骨を集めて、木箱に収めて行った

将軍は作業を行う兵士を見回り、何か問題が無いか確認して行く

木箱は沢山持って来ていたが、思ったよりも魔物の数が多かった

食糧が入っていた木箱も使って、骨を集めさせる

それでも数はギリギリで、このままでは箱に詰めずに馬車に入れないといけなそうだった


「木箱が足りないか?」

「そうですね

 どうしましょうか?」


部隊長が考えていると、他の部隊長が意見を述べた。


「簡単な木箱でよろしければ、作りますが?」

「ん?

 すぐに作れるのか?」

「ええ

 どうせ柵は壊すんですし、あれを使えば」

「ああ

 柵の横板を使うのか」


陣地を囲む柵には、横板が多く使われていた。

どうせ柵は撤去するのだから、これを使って簡単な木箱を作れるというのだ。

将軍はそれに乗って、直ちに作らせる事にした。

どうせ魔物はもう居ないのだから、柵をいつまでも残して置く必要は無かった。


「良いだろう

 それで行こう」

「はい」


部隊長は指示を出し、柵を壊し始めた。

そして不要になった杭の部分は、そのまま薪代わりにして燃やした。

こうして柵が無くなる事で、後で魔物に利用される心配も無くなる。

魔物の遺骸が燃やされ尽くす頃には、柵も綺麗に無くなっていた。

後には天幕だけが残されて、周囲には夕日が差し込み始めていた。


「魔物の骨が約700体分の木箱140個

 そして魔石が140個で木箱1個か…」

「思った以上の戦績ではないですか」

「うむ

 だが…

 思った以上に手古摺ったな」

「はい…」


将軍は素直な感想を告げただけだったが、部隊長は深く沈んでいた。

上手く作戦通りに戦ったつもりだったが、犠牲があったのは事実だ。

それに時間も掛かり過ぎていた。


「ん?

 どうした?」

「いえ

 不甲斐なくて…」

「はあ?」


「何がどうしてそう…」

「我々がもっとしっかりとしていれば…」

「え?

 あ、いや

 先ほどのはワシの判断が甘くてだな」

「ですが我々が…」


「はあ…

 気持ちは分からんでも無いが、ワシの判断ミスだ

 お前達はよくやってくれている」

「しかし…」

「そう思うのなら、次に期待するぞ」

「は?」


「北に向かうと言っただろ

 次に生かしてくれ

「は、はい」


部隊長が敬礼をするのを見て、将軍は苦笑していた。

既に出発の準備は出来ていたが、これから出発したのでは間に合わないだろう。


「今夜はここで野営をする」

「はい」


「魔物は居ないとは思うが、周囲への警戒を頼む」

「はい」


将軍は指示を出して、野営の準備に取り掛かった。

周囲は薄暗闇に覆われ始めていて、急がなければならなかった。

陣地の天幕では足りないので、昨日使った天幕を再び取り出した。

そして余った薪を使って、焚火を多めに作った。

まだ夜は少し寒いからだ。


「明日の朝に帰還するぞ」

「はい」


「それまでに何事も起こらなければ良いがな」

「そうですね…」


しかし将軍の懸念は外れて、ここでは何事も起こらなかった。

その代わりに、他の場所で問題が起こっていた。

将軍達がそれを知るのは、もう少し後の事である。


翌日の朝には、何事も無く朝日を拝めた。

兵士達は黒パンを食べながら、この戦いを思い返していた。


「魔物は手強くは無かったが、数が多かったな」

「ああ

 子供や老人も襲って来るからな」

「村人全員が戦えるとはな…」


そういった会話をしながらも、中には食事の不満を述べる者も居た。


「食事が支給されるのは良いが、この黒パンはな…」

「そうだな

 だが、街に戻ればまた温かい食事が出来る

 それまでの我慢だ」


干し肉には不満は出ないが、黒パンは不人気であった。

何せ固いし食べ難いし、何よりも水分を取られるのが辛かった。

結局水で流し込むしか、早く食べる方法が無かった。

その代わり日持ちはするし、今回の様に数日の遠征では重宝された。


黒パンは多くの家庭でも使われているが、家庭で見られるのはもう少し柔らかい物だった。

小麦の精製に時間が掛かるので、どうしても黒パンの方が安価で作られている。

だから黒パンがメインになるのだが、戦場では日持ちの良い水気が少ない物が作られていた。


「さあ

 帰ったら温かいご馳走が待っているぞ」

「はい」


将軍の言葉に、兵士達も喜んで賛同した。

さすがに遠征から帰還した日には、美味い御馳走が用意されている。

それに期待して、兵士の士気は上がっていた。


「既に準備は済んでいるから、後は天幕を片付けるだけだな」

「はい」

「さあ

 片付けて帰還するぞ」

「はい」


食事を終えた順番に、天幕を片付けて行く。

そして荷物を積み込むと、歩兵達は馬車に乗り込んだ。

騎兵達も馬に飛び乗ると、すぐに出発出来る様に整列した。


「それでは行くぞ」

「はい」

「主発」

「おお」


王国軍は戦勝ムードで帰還の途に着いた。

そして大して離れていない為に、何事も無く王都へと帰還した。


王都の城門では、将軍の帰還を今か今かと待つ者達が居た。

王宮の文官と、職工ギルドの職人達であった。


「将軍

 お待ちしておりましたぞ」

「どうしたと言うのだ?

 たかだかコボルトだろ?

 お前達はそう言ってせせら笑っていたではないか」

「虐めないでください

 国王様が王宮でお待ちです」


文官が先に立って、将軍を馬車に案内しようとする。

それを見て、職人達が待ったを掛けた。


「ちょっと待った」

「ワシ等も急ぐ用事があるんじゃ」


「国王様とお前達とどっちが優先だと思うんですか」

「何じゃと」


文官と職人が、将軍の前で睨み合う。

それに苦笑いを浮かべながら、将軍は部下に指示を出した。


「職人が欲しいのは素材じゃろう

 馬車を急いでギルドに回してやってくれ」

「はい」


歩兵達は指示を聞くと、馬車をすぐに動かした。


「ちょっと待ってくれ

 何がどれだけ載っているのか…」

「ほら

 これがリストだ」


将軍は積み荷のリストの写しを渡した。


「ありがとうございます

 さあ、造るぞ!」


職人達は意気揚々と、自分達のギルドに向かって駆け出した。

将軍は呆気に取られる文官に、出発しようと声を掛けた。


「さあ

 これで問題は片付いた」

「え?

 ああ…」

「それでは向かおうか」

「そうだ

 急ぎましょう

 陛下が待っておられる」


文官は馬車に飛び乗ると、御者に早く出す様に怒鳴った。

御者は嫌な顔をしていたが、相手が文官では仕方が無い。

御者は黙って指示に従った。


王宮に到着すると、そこには宰相のサルザートが待ち構えていた。


「お待ちしておりました、将軍」

「サルザートまで…

 一体何なんだ?

 魔物討伐の祝いにしては大袈裟だが…」

「それは…

 陛下にお会いしてからだ」


サルザートは小声で囁く様に告げた。

それだけで内密な話だと理解出来たので、将軍は溜息を吐いた。


「何が何だか分からないが、兎に角陛下に会うしか無いか」

「そういう事です

 ではこちらへ」


文官に案内されながら、将軍は会議用の一室に案内された。

そこは作戦の相談などを行う部屋で、壁には周辺の地図も描かれていた。

そこには最近現れた魔物や魔獣の報告が記されていて、その数に将軍は驚いた。

自分が出立している間に、既に数件の報告が増えていたからだ。


「これは…」

「さすがは将軍です

 話が早くて助かります」


文官が頷いていたが、将軍はそれどころでは無かった。

既に討伐の印も着いているが、件数は日毎に増えている。

このままではマズいと思うのは当然だろう。


「陛下

 これは…」

「ああ

 最近になって報告が増えておる」


奥の席に座っていた国王が、それについて話を始めた。


「主に北と南、それから西にも少しながら現れておる

 魔物はゴブリンが主だが、中にはワイルド・ボアやコボルトも居る」

「討伐されてはいる様ですが?」


「ああ

 数は少ないのでな

 今のところは各自の領軍で何とかなっておる」

「そうですか…」


魔物の内訳を聞いて、将軍は安堵する。

強力な魔物で無ければ、今の領軍でなら何とかなるだろう。

最近では冒険者も鍛えられているらしい。

このまま冒険者が強くなれば、コボルトやゴブリンなら任せられるだろう。


「領軍と仰いましたが

 冒険者の方はまだ?」

「そうじゃな

 少しずつじゃが冒険者も戦っておる

 だが、まだ力不足じゃな

 今暫くは領軍や国軍の力が必要じゃ」

「そうですか…」


これで何で呼ばれたかは分かった。

しかしそれでは、国王は何を頼むつもりなのか?


「陛下

 それでワシを呼ばれたのは?」

「うむ

 北の魔物を頼むつもりではあったのじゃが…」

「え?」


「北に出られると、王都ががら空きになってしまう

 それだけは何としても防がねばならん」

「しかし

 それでは北には?」

「それなんじゃがな」


国王はここで、頭を抱えながら横を向いた。

そこにはギルバートが座っていた。


「まさか?」

「そう、そのまさかじゃ」

「国王様…」

「そう言うな

 ワシは今でも反対じゃぞ

 しかしそれでも、魔物は何とかせねばならぬ」


「殿下が討伐に向かうのですか?」

「はあ…

 そう言う事じゃ」


国王は不満そうだったが、ギルバートは嬉しそうだった。


「しかし何で?」

「今回の討伐が成功したら、ダーナにも討伐に向かって良い

 そういう条件じゃ」

「ダーナに?

 ああ、そう言う事ですか」


将軍もダーナには、ギルバートの家族が残っている事は知っている。

しかし今や、街は魔物の巣窟となっていた。

そして家族の安否も不確実な情報しか無かった。

しかしギルバートは、家族が生きていると信じていた。

だからダーナに向かいたいと何度も話していた。


「しかし、兵士はどうするんですか?

 国軍が動かせないなら、殿下はどうやって…」

「それなんじゃが…」

「騎士団に頼みました」

「騎士団?」


「騎士団も討伐に向かえる様な余力は…」

「ジョナサンの奴が承諾しおった」

「ジョナサン?

 まさか近衛騎士団の?」

「そうじゃ

 今、実装する為の準備期間なんじゃが、これは正規の騎士団員では無い」


「そうですか

 正規の騎士団で無ければ、確かに問題は無いでしょう

 しかし実力は?」

「現在はジョナサンにみっちり扱かれて、オークぐらいなら問題は無いそうじゃ」

「オーク?

 ではコボルトは?」

「楽勝じゃろうな」


ここまでの話を聞いて、将軍は納得するしか無いと思った。

魔物の討伐はギルバートが行く事になった。

そうなれば、自分は王都で待機して、応援の要請があった際に出撃する必要があった。

それを話したくて、国王はわざわざ待っていたのだ。


「この事は他には?」

「まだ内密じゃよ

 まあアーネストも同行するので、あ奴も知っておるがな」

「アーネストも同行ですか?」

「ああ

 騎士団も居るが、ギルバートだけでは心配じゃからな」


「国王様

 兵士も同行してもらいますよ

 騎士団では出来ない事がありますから」

「おお、そうじゃった

 歩兵を1、2部隊ほど借りたい」

「歩兵ですか?

 それは戦闘にですか?」

「いえ

 どちらかと言うと雑用ですね

 陣地の形成や斥候、魔物の素材の回収とか」


「なるほど

 それなら問題は無さそうです

 空いている部隊を回しましょう」

「ありがとうございます」


こうしてギルバートが、北の魔物の討伐に向かう事が決まった。

そして将軍は、王都に残って緊急時に備える事となった。

将軍は部下に報せる為に、話して良い内容だけを纏めた報告書を用意する事にした。

それを先程一緒に来た、文官に頼む事にした。


「すまんが」

「将軍?」

「今の会議の内容を、部下に報せなければならない」

「そうでしょうね」


「そこで貴殿に、その報告書を作って欲しいのだが」

「何で私が?」

「ワシが書いても良いのだが、どこまで話して良いのやら…」

「ですが私も…」

「書いてやれ」


国王が睨みながら、文官に指示を出した。


「しかし陛下

 私はへいしなんぞの…」

「聞こえんかったか?」

「は、いえ

 分かりました」


文官は不承不承ながら、羊皮紙を出して書類を作り始めた。

それを横目に見ながら、国王は将軍に向き直った。


「それでは待っている間に、今回の討伐の報告を聞かせてくれ」

「はい」


将軍は書類を取り出すと、それを宰相に手渡した。

そしてその内容を、口頭で説明し始めた。

書類では伝わらない、感情が絡んだ事柄もある。

それを踏まえた上で、今回の討伐がどういった物なのかを説明した。


今回の討伐では、ただ現れた魔物を討伐するだけでは無かった。

魔物は村を作っており、それを丸ごと滅ぼしたのだ。

それがどういう意味があるのか、さすがに国王には伝わっていた。


「なるほど

 魔物が村を」

「ええ

 総勢700体相当の魔物が住んでいました」

「そこには子供も?」

「ええ

 居ました」

「そうか…」


「陛下

 子供とは?」

「聞いた通りだ

 魔物の村であるから、当然そこには子供の魔物も住んでおる」

「それはそうでしょうね

 しかし、何でそれを気にされるんですか?」

「はあ…

 お前にはまだ早かったかな?」

「え?」


国王は溜息を吐き、将軍の方を見た。


「そうですな

 殿下には先ず、指導者の視点を身に着けていただかなければ」

「指導者の視点?」

「そうじゃな

 一兵士の視点では、意味は理解出来ないか」


「王国からすれば、魔物は他国から攻めて来る兵士じゃな」

「ええ」


「しかし今回の魔物は、家族で来た移民でもある」

「移民?

 相手は魔物ですよ」

「そこが問題じゃな」


「魔物じゃから、共存は出来ない

 だから将軍は、村ごと焼き払って来た」

「そうでしょうね

 魔物と共存だなんて…」


「じゃが、これが他国の人間では?」

「それは話し合いをして、許される事なら…」

「それじゃあ駄目じゃろう」

「え?」


「迂闊に他国の人間を受け入れると、そこに他国を作ってしまう

 それに我が国の食料や物資も回さないとならない

 じゃから公にならない限りは、見付からないうちに処理する」

「処理って…」

「そういう事じゃ」

「な、何で!」

「それが指導者の視点じゃ」


国王はそう言うと、ギルバートを真っ直ぐに見詰めた。

まだまだ続きます。

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