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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
244/800

第244話

コボルトの集団は怒り狂っていた

突然村に火が放たれて、村人に犠牲者が出たのだ

怒って追いかけて来るのは当然だろう

しかし彼等は善良な村人では無かった

平原に来る王都民に襲い掛かり、中には重傷者も居た

斥候は必死になって、足場の良い道を選択する

それと同時に、追い付かれない様になるべく近道を選んでいた

そして後少しというところで、背後から犬の様な吠え声が聞こえて来る

もう少しで追い付かれそうな勢いであった


「抜けた!」

「森の出口だ!」


「今だ

 左右に別れろ」

「急げ!」

「はい」


森が開けて視界が真っ白になる。

そこで声がして、兵士達は左右に散会した。

それを庇う様に騎兵達が展開する。

そして呪文の詠唱が聞こえて、魔力が流れるのを感じた。


「マッド・グラップ」

ギャワン

キャイン


再び魔法が放たれて、前を追走するコボルトが泥濘に足を取られる。

そして追撃の呪文が唱えられる。


「ソーン・バインド」

グルルル

グガアア


後続も蔦に絡めとられて、身動きが取れなくなる。

そこへ騎兵が飛び出して、次々と鎌を振るって行く。


「食らえ」

「うおおおお」

ギャイン

グガアア


次々と鎌に切り裂かれて、コボルトは無残に倒れて行った。


「押せ押せ!」

「一気に畳みかけるぞ」


騎兵は馬を巧みに操り、次々と魔物を切り倒して行く。

魔物はよほど怒っていたのか、武器も持たずに出て来ていた。

だから成す術も無く、次々と鎌の餌食になっていった。

その怒りは収まっていないらしく、後から後へと森から出て来る。


「将軍

 かなりの数の魔物です」

「油断するな

 疲れた者は下がって、交代して戦え」

「はい」


騎兵達は身体強化を使い、楽々と鎌を振り回していた。

しかし数が多過ぎるので、次第に疲労の色が見えてきていた。

そして疲れた者は、そのまま後続の騎兵と交代する。

馬に乗っているので、場所を代わるのは簡単だった。


「将軍

 魔物はまだ出て来ます」

「よほどお気に召さなかった様だな

 しかしもう少しで風向きが変わる筈だ

 騎兵では困難だろうから、歩兵達の用意をさせろ」

「はい」


「良いか

 相手は武器を持っていない

 盾は持たなくて良いから、剣で一気に切り込むんだぞ」

「はい」


コボルトは鋭い牙と、強い咬合力を持っている。

騎兵達も腕や足を噛まれて、負傷している者もいた。

しかし爪は鋭かったが、そこまでの威力は無かった。

つまり噛み付かれなければそれほど危険では無かった。


30分ほども戦えば、魔物も数が尽きてきた。

次第に勢いを失い、少しずつ逃げ始めていた。


「今だ!

 押し込め!」

「おおおお」


騎兵達が魔物を切り倒しながら、一気に森の入り口まで押して行く。


「それ!

 追撃しろ」

「うおおおお」


続いて歩兵達が駆け出して、騎兵達の脇を抜けて森へ入って行く。

その勢いに驚いて、後続の魔物達も逃げ始めた。


「行け行け」

「このまま殲滅させるぞ」


歩兵達は駆け出して、魔物達を追撃して行った。

魔物達は後方の歩兵を気にして、振り返りながらなので速度も落ちていた。

だから歩兵達も追い付いて、魔物を切り倒して行った。


「大分逃げ出しているぞ」

「このまま村まで追い込め」


森のあちこちで、歩兵に追い付かれた魔物達が戦っていた。

爪や牙を立てようと迫るが、兵士達もそれを警戒しているので、剣で素早く切られていた。

そして、ここまで走って来ていたので、さすがに魔物も疲れていた。

多くの魔物が息も上がっていて、追い付かれては切り倒されていた。

最早これは、戦闘というより虐殺であった。


「将軍

 徐々に魔物を追い込んでいます」

「うむ

 しかしまだ反撃があるかも知れない」


将軍は部隊長を呼んで、新たな指示を出した。


「騎兵でも元気がある奴がいれば、歩兵の後を追わせろ

 このままでは危険だからな」

「はい」


「聞いたか?

 まだ戦える奴は着いて来い

 このまま追撃するぞ」

「おおおお」


騎兵達も馬から下りて、走れる者は歩兵達の後を追った。

このままの勢いで、一気に殲滅させるのだ。


「将軍

 負傷者はどうされます?」

「そのまま天幕に運んで、ポーションで治療してやれ」

「はい」


「魔物の死体はどうします?」

「今はまだ良い

 後で片付けよう」

「はい」


本当はすぐにでも片付けたかったが、そこまでの余力は無かった。

元気のある兵士は、みな後を追って森に入っていた。

しかし森にどれだけの魔物が残っているか分からない。

少ない兵力では逆襲されて被害が増えてしまうだろう。


「もう少しだ

 村に入って倒せたら、後は残党を狩るだけだ

 そこまで行ったら安心出来る」

「はい」


将軍も今が、重要な局面だと分かっていた。

ここで手を抜いたら、それこそ逆襲もあり得るのだ。


そこから1刻ほど掛けて、兵士達は魔物を村へと追い詰めていった。

村に近付くに連れて、当然魔物の反抗は激しくなってきた。

しかし多くの魔物が、棍棒すら持たずに出て来ていた。

だから兵士も冷静に対処すれば、労せず魔物を倒す事が出来ていた。


ほとんどの者が負傷もせずに、魔物を次々と倒していた。

しかし中には、油断して噛まれる者もいた。

そうした者は引き返して、自力で天幕まで戻って来た。

そうして後方に残っていた、歩兵達の手で手当てを受けていた。


「負傷者が増えて来ましたね」

「ああ

 疲れているだろうし

 何よりも油断していたんだろうな」

「ええ

 手負いの獣ほど危険ですから

 少しの油断が致命傷にもなりますね」


将軍は手当てを受ける負傷者達を見ていた。

本当は油断して負傷した事を叱りたかった。

しかしここまで頑張っていたので、それは我慢して見ていた。


「帰ったら負傷した者は、そのまま休ませるしか無いな」

「ええ」

「残念だが、北への遠征には連れて行けないな」

「それは十分な罰ですな」


部隊長はそう言いながら、くっくっくとくぐもった笑いをしていた。

兵士としては、北への遠征にも参加したいだろう。

しかし負傷しているからには、このまま休養となるだろう。

確かに十分な罰である。


そして森の中では、遂に兵士達が村の入り口に到着した。

それは村と言うよりは、大きな集落であった。

粗末な木を組み合わせた家が、無数に所狭しと建っていた。

そしてその半分近くが、焼けて崩れていた。

しかも未だに燃えている物が多くて、魔物は焼けていない家に集まって、必死に抵抗をしていた。


ガルルルル

「しつこいぞ

 そのまま死んでおけ」

ギャワン


無慈悲な一撃が振るわれて、コボルトの肩がバッサリと袈裟懸けに切られる。

その脇には腕を噛まれた兵士が、肩で息をして座り込んでいた。


「おい

 立てるか?」

「すまない

 少し休ませてくれ」

「仕方が無いな」


元気な方の兵士は、そのまま周囲を見回して仲間の兵士を探した。

このまま一人で居ては、この兵士を守るのは難しかった。


「おい!

 大丈夫か?」

「ああ

 しかしこいつが怪我している」

「そうか

 待ってろ」


見回している姿を見て、仲間の兵士が心配して来てくれた。

そして負傷した兵士に、ポーションを掛けて手当てをしてやる。

傷が塞がる事は無いが、これで痛みは緩和する。


「ほら

 これで大丈夫だろう」

「ありがとう」


手当てを受けた兵士は、ふらふらと立ち上がった。

これ以上仲間に心配を掛けられないと立ち上がってみたものの、足元はまだ覚束無かった。


「大丈夫か?」

「ああ…」


虚勢を張っているが、顔色は悪かった。


「無理はするな」

「一人で帰れそうか?」

「大丈夫だ」


兵士は怪我していない右手を挙げて、問題無いと答えた。

そしてふらふらと歩いて行った。


「大丈夫かな?」

「ああ

 しかしオレ達も、このまま休んでいられない」

「そうだな」


二人は新たな獲物を求めて、魔物が集まってそうな場所を探して駆けだした。


他の場所では、3人の騎兵が纏まって戦っていた。


「せい」

ザシュッ!

ギャワン


「ふう…」

「これで8体目だ」

「お前は何体倒せた?」

「分からねえ

 もう数えるのは諦めた」


混戦を制して、何とか魔物は倒せた。

しかしその周りは、凄惨な状況になっていた。


「しかし酷いな…

 こいつ等は子供だったぞ」

「だが、こいつ等を残していては、いずれは誰かが犠牲になる

 可哀そうだが殲滅するしかない」

「ああ

 エリックの言う通りだ」


3人は周りを見て、遣り切れない気分になっていた。

いくら魔物だと言っても、子供まで殺すのは気分が良くない。

しかし子供も全部殺さないと、いずれは人間に仇なすのだ。

ここは心を鬼にして、全てを殲滅するしか無かった。


「さあ

 次を探すぞ」

「お、おう」


3人は武器を持ち直すと、再び魔物を探して移動を開始した。


「将軍

 戻って来た兵士の話では、どうやら村に入った様です」

「そうか」


「子供も殺すのか聞いている者もいますが…」

「当然だ

 酷く感じるかも知れないが、このまま見過ごす事は出来ない

 禍根を絶つ為にも、残らず殲滅する」

「ですよね…」


「気持ちは分かるがな

 相手は人間では無い

 歩み寄る方法が無い以上、倒すしか無いのだ」

「はい」


部隊長は複雑な表情をして、部下達に殲滅徹底する様に伝えた。


「後は残党を残さない様にしなければな」

「はい

 逃げる魔物も追わせます」

「うむ

 ただし単独では向かわせるな

 必ず数人で向かう様に」

「はい」


しかしそうは言っても、ここから前線にはすぐには指示は届けられない。

伝令に走る兵士はいたが、伝わるまで時間が掛かっていた。

その為に単独で追撃に向かった者も多く、数人の兵士が命を絶たれてしまった。

将軍は兵士達への指揮が甘かったと、後悔する事となる。


そして村を攻めていた兵士達は、日が陰る頃に一旦戻る事となった。

残党を掃討したかったが、暗い森での戦闘は不利になり、多くの犠牲が予想されたからだ。


将軍は戻って来た兵士を休ませると、その場に天幕を這って野営する事にした。

残党を狩るにしても、街まで戻るよりはマシだと考えたのだ。


歩兵は馬車があったので、その中で寝ていた。

騎兵は半数以上が荷を持って来ていたので、天幕を張る事が出来た。

残りは先に来た兵士の天幕に、場所を作ってもらっていた。

しかし外は、まだ雪が降るほどの寒さである。

どこで休むにしても、とても寒かった。


「ううむ

 こんな事なら、余分な荷物も持たせれば良かった」

「そういうわけにもいかんでしょう

 これだけの兵士の装備を集めるのにどれだけの時間が掛かるか…」


将軍は斥候達の報告を受けて、慌てて出撃する事になった。

だから準備は不十分だったのだ。

しかも集落と思っていたのが、村規模の集まりであった。

何とか大半を倒せたのは僥倖だと言えた。


「まあ、大半の魔物は倒せました

 明日は片付けと撤収の準備をしつつ、残党を狩りましょう」

「そうだな

 出来れば明日中に、部隊の半数は帰還させたい

 王都の安全も確保しないとな」

「はい」


歩兵を半分残したとはいえ、騎兵はほとんど連れてきていた。

それも魔物を手早く討伐する為だ。

このまま問題が無ければ、明日にはほとんどが帰還出来るだろう。

部隊長は巡回の兵士を決めると、魔物の逆襲を警戒して見回らせた。

そのまま辺りを警戒しつつ、交代で仮眠を取って行く。

明日の早朝には、再び魔物の村を見に行かなければならない。

兵士達にはなるべく休息を取らせたかった。


夜が更けてから、魔物が何度か森の入り口まで来ていた。

しかし魔物達も疲れているし、迂闊には攻撃が出来ない様子だった。

その為様子は見に来るが、攻めて来ようとはしなかった。


「将軍

 また来ていますよ」

「放っておけ

 来ないなら無理に追う必要も無い」

「はい」


部隊長は心配そうに見ていたが、将軍は無視する事にした。

この暗がりで迂闊に出ては、魔物に返り討ちに合う心配があった。

それに魔物の方でも、夜目が効かないのか様子を見るだけにしていた。

お互い見え難い状態では、混戦で無用な犠牲者が出るだろう。

そのまま警戒はしつつ、夜が明けるのを待つ事にした。


そして月が沈み、やがて朝日が昇って来た。

森や平原に日が差し込み、兵士達が起き始めた。


「うう

 寒い」

「せめて毛布があれば」

「贅沢言うな

 暖を取れるだけマシだ」」


兵士達はブツブツ言いながら、身支度を済ませた。

そして干し肉と黒パンで簡単な朝食を済ませると、各自で武器の整備を始めた。

昨晩は暗かったし、疲れ切っていた。

ほとんどの兵士が点検もせずに、すぐに休んでいたのだ。


「どうだ?」

「武器の準備は大丈夫そうか?」

「ええ

 ほとんどの者が問題無さそうです」


騎兵達も剣を身に着けると、再び野営地の周りに集まった。


「さあ

 今日は引き続け村の偵察に向かう

 まだ魔物は残っている」

「はい」


「斥候が先導して、魔物を探しながら向かえ」

「はい」


将軍の指示を聞いて、兵士達は部隊毎に別れて集まった。

そうして部隊長から細かい指示を聞き、再び森の入り口に集まった。

今日は斥候と騎兵が先頭に立ち、歩兵達が後に着いて来る。

そして一部の兵士達は、このまま野営地の片付けや魔物の遺骸を回収する事になる。


「さあ

 各自で出発してくれ」

「はい」


兵士達は元気よく返事をして、そのまま森の中に入って行った。

まだまだ続きます。

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