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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
241/800

第241話

斥候達は森を引き返して、仲間の待つ陣地まで戻って来た

思ったよりも魔物が居て、奥を調べるのが困難だったからだ

このまま無理して進んでも、真っ暗な森で彷徨う事になる

危険な夜が来る前に、陣地まで戻る必要があったのだ

斥候達が戻って来たのを見て、陣地の兵士達はホッとしていた

なかなか戻って来ないので、何かあったのではと心配していたのだ

部隊長は他の部隊長を呼ぶと、そのまま天幕へ入った

そして地図を拡げると、どこに魔物が居たかを伝えた


「これを見てくれ」

「この印は?」

「大体10体ぐらいの魔物が、ここで何かをしていた」

「何か?」

「ああ

 近付けなかったのでな、数も何をしていたのかも分かっていない」

「そうか…」


「それで

 集落は見付かったのか?」

「はあ?

 無理だろ」

「何でだ?」

「これだけ魔物が居るんだ、この先には進めないだろ」


「弧を描く様に分布しているな」

「ああ

 恐らくはその先に集落があるんだろう」

「そうだな

 これは益々マズい事態だな」

「ああ

 出来れば探ってみたいが、相手は犬の頭をしている

 恐らく耳や鼻は利くだろう」

「だろうな」


部隊長達は頭を突き合わせて、どうにかならない物かと相談を始めた。


「どうにか倒して進めないのか?」

「1ヶ所に10体ぐらいの魔物が居る

 それと戦っていたらどうなる?」

「バレて囲まれるか…」


状況が分かるに連れて、この探索が困難だと分かってきた。

しかし集落を探るには、この魔物の先に進まないといけない。


「どうした物か…」

「一旦将軍に報告するか?」

「そうだな

 地図を写して、将軍に報告しよう」

「その間に我々は、出来るだけ魔物の動向を探る」


「危険じゃないか?」

「危険だろうな

 しかし探らなければどうしょうもないだろう」

「そうだな…」


「分かった

 明日一番に将軍に伝令を送る

 さすがに今からでは危険だからな」

「ああ」

「その間にもう少し探ってくれ」

「了解した」


「危険だと思ったら下がってくれ

 ここで逃げ帰った際に守る用意をしておく」

「そうだな

 我々では戦闘は不慣れだ

 魔物に気付かれたら、ここまで逃げ帰らせてもらうよ」

「頼むぞ

 危険な真似はしないでくれよ」

「ああ

 オレも死にたくは無いからな」


相談が終わると、一行は夕食に取り掛かった。

焚火はするが、なるべくは火は使いたく無かった。

魔物にバレる恐れがあるので、食事は干し肉とパンを摂り、水で流し込んでいた。

そして順番に見張りをしながら、仮眠を取り始めた。


暗くなってみると、森には灯りは見えなかった。

近くで野営はしていないのだろう。

そして森の奥に関しては、ここからはさすがに見えなかった。


「魔物は出て来ないか?」

「ええ

 さすがに鼻や耳が良くても、夜目は利かないんでしょう」

「それは我々にとっては僥倖だな」


魔物が出て来ないとなると、夜間に夜襲をされない分安心だった。

いくら焚火をしていると言っても、それでは戦闘は困難だからだ。


「このまま無事に、朝を迎えれるかな?」

「大丈夫だろう」


部隊長達は緊張していたが、魔物は襲って来なかった。

どうやらこちらには来ていない様で、新兵達は安心して眠っていた。


「起きろ

 朝だぞ」


部隊長の声が響いて、野営地では朝を迎えていた。

第十部隊は慣れない野営で眠そうだったが、他の部隊はすっかり起きていた。

そして準備をすると、先ずは朝食を摂り始めた。

と言っても、昨日と同じ干し肉とパンで、また水で流し込んでいた。

あまり乗り気にならない食事を済ませて、兵士達は再び森に向かって行った。


「気を付けて行けよ」

「そっちもな」


「さて

 こっちも忙しいぞ

 先ずは伝令だな」


王都に近いと言っても、それなりに距離が開いている。

直線距離で20㎞ほど離れているので、騎兵が伝令として向かう事になる。

第八部隊から二人が出て、王都へ向かう事となった。


「この地図を渡して、魔物が居るので進めないと伝えてくれ」

「はい」

「魔物は10体ぐらいずつ居るから、戦闘は危険だとも伝えておいてくれ」

「はい」


伝令が馬に乗り、一気に駆け出して行った。

それを見送ってから、部隊長は陣地を守る準備を始めた。


「どうなりますかね?」

「さあ

 どうなろうと我々は、ここを守る事が任務だ」

「はい」


「さあ

 盾の準備も必要だが、武器の手入れもしておけよ

 接近されたのなら、こちらも武器を抜く必要があるからな」

「はい」


部隊長は指示を出しながら、陣地の周囲を確認していた。

斥候達は見付からないとは思うが、それでも準備をしておく必要があった。


そして森の中では、斥候達が昨日の場所を探索していた。

視界の先には繁みが動いていて、そこに魔物が居る事が分かっていた。

そのまま暫く様子を見て、迂回して次の場所も調べる。

どこも昨日の場所に集まっていて、その場を見張っている様だった。


「どうやら見張りをしている様だな」

「見張りですか?」

「ああ

 何を警戒しているのか分からないが、周囲を警戒しているな」


「我々がバレたという事は?」

「いや、それは無いだろう

 バレていればとっくに襲い掛かっているだろうし

 あの場から出て来るだろう」

「はあ…」


部隊長は繁みの中を調べたかったが、これ以上は前に進めなかった。

今日は昨日と違って、今は風邪の向きが悪かった。

仕方が無いので、昨日よりも距離を取って様子を見る。

しかし魔物に動きが無いので、諦めて次の場所に向かった。


そのまま8ヶ所を回って、昨日と状況が変わらない事を確認した。


「昨日とほとんど同じ場所に居るな」

「それはバレていないという…」

「だが同時に、このまま動かない可能性が高い」


どうした物かと思いながらも、そのままその先も調べてみる。

やはり同じ様に、弧を描きながら魔物が配置されていた。


「このまま先に行っても、恐らく同じだろう」

「ああ

 ここまで11ヶ所を見て来たが、どこも周囲を警戒しているな」


そこまで進んでみても、魔物が配置されている事を確認して、斥候達は引き返す事にした。

恐らくこの半円の中心地に、魔物の集落がある筈だ。

そしてこれまでの数から推測して、少なくとも数百体の魔物が居ると推測された。


「戻ろう」

「ああ」


戻りながらも斥候達は、分かり難い様に目印を付けてきた。

木に傷を入れたり、枝を折ったりしておいたのだ。

これを目印にして、明日からの探索に役立てるのだ。


「恐らく魔物は、仲間が戻って来ない事で警戒している」

「何でだ?」


「考えてみろよ

 オレ達が戻らなければ、陣地では何かあったと考えるだろ?」

「あ…」

「そう言う事だ」


昼過ぎに斥候達は、森の入り口から戻って来た。

それを見て、陣地では兵士達がホッとしていた。


「無事で良かった」

「なかなか戻って来ないから、魔物に襲われたのかと心配したぞ」

「いや、昨日の先まで見て来たんだ」

「どうだった?」


斥候達は先程の情報を伝えて、自分達の見解も伝えた。

そしてこのままでは、魔物を倒さない限り先には進めないと伝えた。


「せめて数体なら、倒して進めるんだが」

「しかし魔物の数も、遠くから目視しただけだよな

 それ以上居る可能性もある」

「そうだ…」


「将軍からの伝令は?」

「先ほど戻って来た

 このまま暫く、森の入り口を見張る様にと」

「そうか…」


斥候達は、そのまま見張りを続ける事にした。

その為には防備が手薄だし、薪も足りなくなるだろう。

入り口の木を伐採して、薪と柵を作る事にした。

あまり音を立てると、魔物に気付かれる恐れがある。

周囲を警戒しながら、手頃な木を選んで伐採して行く。

そして伐採した木を運んでは、それを歩兵達が加工して行く。

歩兵達はこうした作業も訓練していて、みるみるうちに柵を作って行く。


「慣れた物だな」

「え?

 はい」

「我々は裏方を主にする部隊です

 他にも釣りをしたり、工具で加工する作業も出来ますよ」

「その代わり、戦闘は苦手な者が多いので

 魔物が出たらお願いします」


噂に聞いてはいたが、第十部隊は輜重兵の部隊であった。

基本的に戦闘に長けた部隊は若い番号で、後ろに行くほど戦闘は苦手になる。

その代わり得意分野の部隊に編成されていて、その為に第九部隊も斥候部隊であった。


「それでは柵作りも?」

「ええ

 時間がありましたら、さらに堀まで作れますよ

 簡単な堀で侵攻を妨げれますから」

「以前はそんな部隊は無かったな」

「はい

 アーネスト殿が発案して、試験的に編成されました」


アーネストが王都に来た時に、丁度王都では徴兵が発案されていた。

将軍が連れた部隊が、魔物に襲われた為に人数が減ったからだ。

王都の軍が減るのを懸念して、新兵を補充したのだ。

その時に宰相から、部隊の再編の案が出されていた。

それがこうして実を結んだのだ。


「なるほど

 あの時の再編成が、こんな意味があったとは…」

「ああ

 うちは戦闘よりは作業が多かったからな

 最初は第十部隊なんて言われて、思わず降格したと嘆いていたよ

 それが専門部隊だと言われて、大工や職人の息子なんかを加えられたんだ」

「それは専門職の息子だからか?」

「ああ

 子供の頃から手伝っているから、慣れている者が多いよ」


部隊長は作業の中心になっている若者たちを指差した。


「彼は大工の棟梁の息子だから、作業もだが指示出しも上手いんだ

 オレが居なくても、必要な作業を伝えればやってくれるよ」


部隊長はそう言って、自分に何かあった時は、彼が部隊長になると言っていた。


「それで良いのか?」

「ああ

 もともとオレは、戦闘は苦手だし

 それに得意なのは指示を出す事だけなんだ」

「しかし…」


「良いんだよ

 後を任せられる者が居るという事だけでも安心出来るんだ

 それにあいつなら、オレも部隊を任せても大丈夫だと思っている」


そう言うと、部隊長は工具を手に持って、数人の兵士に次の指示を出していた。


「ああいう部隊もありなんだな」

「ああ」


気が付くと、斥候部隊の部隊長が来ていた。

昼食の休憩も終わったらしく、革袋から水をチビチビと飲んでいた。


「うちもバラバラに編成されていた、斥候を集めた部隊だ

 こうした場面でも無い限り、必要とされないんだよな」

「何を言うんだ

 斥候は危険で重要な任務だ

 オレがそういう技能があれば、喜んで引き受けていたぞ」

「いや

 それはお前達が戦いで活躍出来るからだ

 オレは戦闘では役に立てない

 何で兵士になったんだろうって、何度も悔やんだよ」


部隊長はそう言うと、ふっと気配を消してみせた。

そして素早く動くと、第八部隊長の背後に回った。


「うおっ」

「こういう事は出来るんだが、あまり役に立てなかってね」

「十分に怖いんだが…」

「だが、防がれたら後が無いんだ

 非力だから致命傷でも与えられないと、すぐに逆襲されてしまう」

「あ…」


「だからあんた等みたいな部隊が羨ましいよ」

「いや

 うちも似た様なもんだぞ

 膂力はあっても動きが鈍い奴が多いからな

 本当に大楯を持って、敵の突進を防ぐ係だ」


「でも聞いたぞ

 将軍の部隊の突撃を止めたらしいじゃないか」

「それは偶々、突進が来ると知っていたからだ

 突進から鎌を振り回されていたら、簡単に崩されていただろう」

「いやいや

 突進を防ぐだけでも凄いだろ

 馬の突進だぞ」

「そうかなあ?」


二人が話していると、柵が完成したという声が聞こえた。


「もう完成したのか?」

「ええ

 簡単な防御柵ですが」

「簡単なって…」


みると簡単ではあるが、しっかりとした柵が作られていた。

これなら魔物が来ても、すぐには陣地に入れないだろう。


「今日はこれで勘弁してください

 明日には補強して、簡単には入れなくしますから」

「いや…

 これでも十分だろ?」

「そうだよ

 たった50人でこれを半日で作るなんて…」


柵は半径100mの円を描いて、陣地を囲んでいた。

普通は2、3部隊で作る柵を、一部隊で半日で作るのだ。

これは驚異的な速さであった。


「我々はこれぐらいしか出来ませんから」

「いや…

 十分に凄いぞ」

「そうですか?

 へへへへ」


他の部隊長は、正直なところ歩兵だと舐めていた。

しかしこの技量を見ると、将軍が推薦した理由も納得が出来た。


「そろそろ夕刻が近いな」

「そうだな

 今日は柵も出来たし、安心して夕食が作れそうだ」

「あ…」


歩兵部隊の隊長は、慌てて部下の元へ走って行った。


「何だ?」

「あれ?

 一角兎か?」


「午前の内は待機でしたので、周辺の草叢から捕獲しました」


見れば部隊長は、12匹の兎を持っていた。


「これを使ってスープを作りましょう」

「いつの間に…」

「そういえば、数名の兵士がこそこそしていたな」

「はははは」


夕食は兎の肉を使って、野菜のスープが作られた。

そうして夕食を食べてからは、斥候が交代で見張りに立っていた。

柵が出来た事で、部隊は安心して見張りに集中出来た。

また、仮眠を取る者も、柵を見て安心して休めた。


こうして探索の部隊は、安心して3日目の朝を迎える。

周囲には魔物の気配は無く、コボルトは相変わらず森の奥で警戒していた。

そして王都からは、将軍が部隊を率いて出陣の準備をしていた。

いよいよ魔物を討伐する戦いが始まろうとしていた。

まだまだ続きます。

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