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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
240/800

第240話

将軍は部隊長を集めて、執務室で作戦を練っていた

ここ数日頻発している、魔物を討伐する為だ

魔物は王都の南の平原に現れて、兔狩りをする狩人達を悩ませていた

兎が獲れなくなると、肉の収穫が減ってしまう

一角兎は、冬の王都では貴重な食肉だったのだ

部隊長の報告を聞いて、将軍は魔物の集落を南の森にあると判断していた

そこはそれほど大きく無いが、魔物が隠れ住むには絶好の場所だった

魔物がいつから住んでいるのか分からなかったが、確実に数は増えている様子だった

ここ数日現れるのは、森では木の実が不足しているからだろう

なんせ季節は冬だ、周りは雪に包まれている

野草や茸も少なくなっているだろうし、食糧が不足しているのだろう


「状況は分かった」


将軍は地図の上に駒を置き、森の奥の方にも駒を置いた。


「恐らくは、森の奥に集落があるのだろう

 ここは普段は人は入らない

 魔物が住み着いて居ても気が付かないだろう」


南の森は王都から離れているし、公道からも外れていた。

狩の為に狩人が、平原に向かうぐらいだった。


「ここは周辺にも町は無く、村もここぐらいだ」


将軍が示した村は、森の北西から少し離れた場所にあった。

他には村も無く、あっても後ろ暗い人間が集まる、秘密の集落ぐらいだろう。


「ここは男爵領でしたよね?」

「ああ

 だが森は領外だし、人が立ち入るのは稀だろう」


男爵領から外れているので、そこは国の管轄になる。

しかし人が立ち入る事も稀なので、そこは放置されていたのだ。


「まさかこの様な場所に、魔物が住み着くとは思っていなかった」

「そうですよね

 ここは王都からも管轄外ですし、今までは猪か狼ぐらいしか被害は出ていませんから」


王国の領土でも、全てが管理されているわけでは無かった。

中にはこの様な放置された森や山があり、移住者でも無ければ誰も近付かなかった。

それは周りの平原に、あまり価値が見出されない事も原因していた。

開墾して畑を作るにしても、先ずは移住者が必要だった。

今は王都の北と東を開墾している。

南はほとんどが手つかずだったのだ。


「どうしますか?」

「どうするも無い

 魔物は危険だから、集落があるなら早急に、討伐しておかなければな」


「そうですが、一体どうやって?」

「騎馬では森は不利だ

 少しづつ徒歩で侵入して、集落の特定を急ぐ」

「集落が見付かりましたら?」

「全軍で滅ぼすさ

 それが一番だろう」


全軍と聞いて、部隊長達は身震いしていた。

王都の部隊は総勢で、現在は2000名ほどになる。

そのうち騎兵が500名で、歩兵が1000名であった。

他にも守備部隊として弓兵も居たが、こういった討伐には連れて行く事は無かった。

それが今回は、弓兵も同行する事になる。

恐らくは森の中で、遠距離から支援する事になるだろう。


「全軍という事は、騎士団もですか?」

「いや

 騎士達には残って、王都を守ってもらう

 それでも王国軍が全て出れば、騎士団は大変だろう」


普段は騎士団も、兵士の見回り以外に回ってもらっている。

それで巡回の手が足りているのだが、兵士が居ないとなると別だ。

なんせ兵士の方が人数が多い。

騎士だけでは、王城は兎も角、街中の巡回には人数が足りなかった。


「ですがそうなると、短期決戦で無いと…」

「うむ

 そうだな、時間はあまり掛けられない

 国軍が不在では、そこを狙う馬鹿者も出るだろう」


将軍も危険は理解していたが、安全に多くの魔物を相手にするには、それだけの人数が必要だった。


「ですが短期決戦となると、魔物の集落が判明しなければ…」

「そうだ

 だから先ず、魔物の住処を確認する

 これは重要な任務だ」


将軍は部隊長を順番に見回して、第九部隊長に目を向けた。


「第九部隊は斥候が得意だったよな」

「はい」

「明日から森に向かって、探索を行ってもらう」

「しかし我々だけでは…」


「むろん探索の間には、他の部隊に護衛として同行させる」

「それなら…」


斥候が決まり、先ずは森を探索づる事となる。

森に居なければ、騎兵で周囲の探索となる。

しかしこれだけ出て来たのだから、恐らくは森に拠点ぐらいはあるだろう。

将軍は物資の準備を命じて、翌朝から出発する事にする。

第九部隊に同行するのは、普段訓練ばかりしている新兵達の第十部隊だった。

勿論新兵だけでは不安なので、周辺には他の部隊も待機する予定ではある。

大楯の扱いに長けた、第八部隊である。


「直接の同行は、第十部隊が行う

 しかしもしもの時に備えて、第八部隊に陣地を守らせる

 何かあった時には、ここへ引き返す様に」

「はい」

「第十部隊は新兵ばかりだが、訓練はしっかりと着いて来ていた

 任せて大丈夫だな」

「はい」


部隊長は頷き、自信を見せていた。

実は実戦経験がまだで、その為にも緊張しない為に、魔物を見せておきたかったのだ。

その思惑も理解していたので、部隊長は喜んで引き受けた。

ここで結果を出せれば、今後は新兵では無く、正規の兵士として扱われるからだ。


「それでは朝の9時までに準備をして、騎馬で平原に向かってもらう

 それから陣地を形成して、以降は数日を掛けて探索を行ってもらう」

「はい」

「必要な物資だが、歩兵の第十部隊が運搬を行う

 そして陣地を形成した後は、そのまま陣地で控えてもらう」

「はい」


そこで歩兵の第十部隊長が、挙手をして質問してきた。


「あのう、将軍」

「何だ?」

「我々も戦闘に参加出来ますか?」

「ううむ」


「歩兵部隊に関しては、出来れば後方で物資の管理や、負傷者の手当てをお願いしたい」

「後方の支援部隊ですか?」

「ああ」

「出来れば…

 魔物が攻めて来た時だけで良いんです

 戦ってもよろしいでしょうか?」


「何故そんなに戦いたいんだ?」

「いえ

 本当は戦いたくはありません

 しかし軍が動く時には、我々も当然出撃しますよね」

「ああ」

「でしたら魔物がどんな物か、この眼で見ておきたいです」

「それなら陣地でも出来るのでは?」


「実際に戦えたなら、それが良い経験になります」

「しかしそれで、死んでしまっては元子も無いだろう」

「ええ

 ですから魔物が攻めて来た際に、防衛として戦いたいんです

 これからの為にも、部下達に経験を積ませたいんです」

「そうか…

 なら魔物が近付いた時に、現場の判断で許可を出させる

 それで良いか?」

「はい

 ありがとうございます」


部隊長は礼をして、急いで部下達と打ち合わせの為に出て行った。

それを見て、他の部隊長達も準備の為に出て行った。


「将軍

 大丈夫なんですか?」

「ああ

 多少は不安もあるが、実戦経験は必要だからな」


将軍が部隊長に答えると、部隊長も頷いてから出て行った。


「まったく

 不安が無いわけが無かろう

 お前達の無事を守るのも、ワシの重要な役目なんじゃ」


将軍は一人呟くと、そのままソフアーに腰を落とした。

少し疲れているが、まだまだ部下達が報告に来る可能性があった。

それを思えば、のんびりと休んでいる場合では無かった。


翌日になると、部隊は朝から城門の前に集まっていた。

物資の準備も完了していて、歩兵部隊が馬車に積み込んでいた。

そして時間となり、9時の鐘が鳴り響いた。


「良いか

 ワシが行かんからと気を抜くなよ」

「はい」

「何かあったら、すぐに王都に伝令を送り、即時撤退する様に」

「はい」


「良いか

 魔物の集落の情報も必要だが、一番大事なのはお前達の命だ

 命を落とす様な行動は、絶対に取るなよ」

「はい」


将軍の檄が飛び、兵士達も気合が入っていた。


「それでは、出撃」

「出撃」

「おおおお」


先ずは第八部隊が発ち、続いて第九部隊が出発した。

その後に馬車が続き。殿を第十部隊が行った。

そのまま一行は進み、昼前には目標の森の前に到着した。


「全体止まれ」

「全体止まれ」


合図が出されて、次々と騎馬が並んで停まる。

それに合わせて馬車も停まり、中から歩兵達が出て来る。


「良いか

 我々は休む為の天幕と陣地を作る

 その間に森への斥候を頼む」

「そうだな

 入る前に先ず、周辺を調べてみる」

「ボクらも行った方が良いですか?」

「そうだな、一緒に行動してくれ」


歩兵達が陣地を形成する間に、第九部隊は森の入り口を調べに向かった。

魔物が来ているのなら、警戒する必要があったからだ。


「本当に魔物が居るのかな?」

「さあ?

 でも第九の人達は、みな優れた探知能力があるらしい。

 我々は周辺を調べて、第九の身の安全を確保する」

「はい」


部隊長の言葉を聞いて、第十部隊は第九部隊の後を着いて行った。

正直な話では、彼等ではコボルトは厳しかった。

動きは早いし、何よりも集団で襲い掛かって来るのだ。

戦闘慣れしていない第九部隊も危険だが、新兵の第十部隊も危ないだろう。


部隊は馬を置いて、ゆっくりと森に近付く。

そして森に魔物が居ないか調べ始めた。


「駄目ですね」

「そうだな

 昨日の痕跡は残っているが、新しい痕跡は見付からないな」


部隊は森に入り、昨日の痕跡の周りを調べる。

しかしその周辺には、野営をした跡しか残されていなかった。


「一角兎の骨が残っています

 やはり兎が目的だったんでしょう」

「そうだな

 兎なら巣穴を探せば見付かる

 この辺で狩っていたんだろう」


野営地の跡には、兔を解体して食べた跡が残っていた。

そして幾つかの木の実の食べ跡と、焚火を消した跡も残っていた。

他には足跡も残っていて、その数から大体の規模が想定出来た。


「足跡の数から、大体30体ぐらい

 報告の通りですね」

「そうだな

 これがその魔物の痕跡だろう

 しかしそうなると、先に見付かった23体はどこから来た?」

「え?」

「ここ以外にもある筈だ、探せ」

「はい」


部隊はさらに奥に入り、痕跡を探した。

そして暫く探していると、発見の報告があった。


「こっちです

 ここに野営の痕跡が」

「分かった

 すぐに向か…」

「部隊長

 野営の痕跡が」

「何?

 そっちにもあるのか?」


部隊長は報告に上がった場所を、順番に見て回った。

野営地の痕跡は全部で5ヶ所に上がった。

そして野営の跡は、どれも数日経っている様子だった。


「やはり魔物達は、ここで野営していたんだな」

「ええ

 同じ場所を使った可能性もありますが、これらがコボルトの野営の跡で間違い無いでしょう」

「ううむ

 しかし数日は経っているな」


振るい跡は見付かったが、肝心の新しい痕跡は無かった。


「これで全部なのか?

 それとも他にも居るのか?

 いずれにせよ、集落の跡では無いな」

「ええ

 数日は野営をしてたみたいですが、ここに居た魔物は全て倒されたと思います」


痕跡がそのままなのは、野営していた魔物が死んだからだろう。

それを考えれば、当座の危険は無さそうだった。


「よし

 野営の跡を地図に書き込んでおけ」

「はい」


部隊長は地図に記しをさせると、一旦陣まで引き下がった。

これからの事を話すにしても、敵陣である森の中では危険だ。

陣へ戻ってから、他の部隊長と相談する事にした。


「それで…

 ここに野営の跡があったと?」

「はい

 そこから魔物の討伐場所を書き込み、逆に辿れば…」

「ふむ

 確かに森の奥に繋がるな」

「ええ

 これで魔物が、森の奥から来たのは確実でしょう」


部隊長は自信満々で答えると、捜索すべき位置に記しを付けた。


「この辺りを重点的に調べます」

「そうだな」


兵士達は昼食を簡単に済ませると、再び森へと向かった。


「大丈夫ですかね?」

「ああ

 恐らくはこの辺だから、先ずは慎重に近付くぞ」

「はい」


先ずは野営地跡に向かい、そこから森の奥へ向かう。

斥候が先行して調べて、ゆっくりと奥へ入って行く。

魔物に気が付かれては、そこで戦闘になってしまう。

それに戦闘になれば、仲間の魔物まで来る可能性があった。

だから斥候達は見付からない様に進み、魔物の気配を探っていた。


少しずつだが、森の奥に向かって進む。

そのうちに斥候が合図をして、兵士達に止まる様に指示をした。


「どうした?」

「魔物です」

「何!」

「しっ」


斥候は小声で状況を説明する。


「向こうの繁みが見えますか?」

「ああ」

「あの先に魔物は居ます」


「どのくらい居るのか?」

「取り敢えず確認出来たのは、大体10体以上です」

「もう少し正確に…」


「ここからでは見えませんから」

「それにこれ以上近付いたら、魔物に見付かりますよ」


コボルトは犬の頭をしているだけあって、音と臭いに敏感だった。

こちらは風下だから見付かり難いが、それでも近付けは音でバレるだろう。

斥候は大事を取って、そこを避けて進み始めた。


「駄目だ

 こっちにも居る」

「ここもか…」


暫く回り込んで進んだが、そこにも魔物が控えていた。

そして何度か繰り返すうちに、回り込めそうな場所も無くなってきた。


「これ以上は無理ですね」

「そうだな

 この先では風上になるから、魔物にバレてしまうな」

「ええ」


「どうにかならないかな?」

「無理でしょうね

 ここまで8ヶ所魔物が居ました

 この先にも恐らく…」

「それにこれ以上進んでは、暗くなる前に戻れませんよ」

「ううむ

 そうなるのか」


「倒して進むのは?」

「駄目ですね

 どこも10体前後は居ますし、戦闘音で周りの魔物も来てしまいます」


「ここは一旦引き返しましょう」

「そうだな…」


部隊長も承諾したので、部隊は引き返す事にした。

ここで引き返さないと、夕刻までに森を出られそうに無かったからだ。

まだまだ続きます。

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