第24話
第2砦に向かう前に、次に目指すは2つ目の集落
ここを確保しておかなければ、背後からの挟撃の危険が残る
将軍は素早く討伐する為に、一計を案じる
再び、第1砦前の野営地に朝日が差す
今日の野営に於いては魔物の襲撃も無く、比較的静かな時間を過ごせた
お陰で、昨日の戦闘での疲労もゆっくり眠れた事で解消出来ていた。
大隊長は天幕から出て来ると、ゆっくりと伸びをした。
先日とは違って、魔物のの襲撃が無かった分、ゆっくりと眠れた。
野営地を見回すと、昨日は疲れ切っていた兵士達も心持元気になっていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう
よく休めたか?」
「はい」
部隊長達も元気が良い。
「魔物が来なかったからよく眠れました」
「こちらも交代まで眠れましたから、気分もすっきりですよ」
そんな感じで大隊長達が話していると、将軍も天幕から出て来る。
「時間は使ってしまったが、結果として兵を休ませることが出来たのだから良かったとみるべきだな」
肩をゴキゴキ鳴らしながら大隊長達の方へ歩いてくる。
「お休みにならなかったのですか?」
「いんや
休んでも歳だな、あちこち強張ってしまう」
「はあ」
「んで?
どうする?」
「と言いますと?」
「もう一方の集落の事だよ」
大隊長は昨日の地図を思い出しながら意見を述べる。
「向こうの集落に行くのなら、第2砦の手前になりますね
それならば砦に向かいながら斥候を出して偵察し、魔物が居るなら殲滅でよろしいかと」
「やはりそうなるかな」
「ええ」
将軍は騎士の一人を呼び、今日の行軍予定を伝える。
大隊長も部隊長を呼んで同様に指示を出す。
朝食を終えたら、陣を引き払って第2砦に向かう。
途中、集落へ向かう公道との分岐点で休憩を取りながら、斥候による偵察を行う。
偵察には騎兵部隊から出てもらう。
こうして予定が決まり、各自で朝食が始まった。
ギルバートは朝食を取りながら、隊長に質問していた。
「これから第2砦に向かうんですよね」
「ああ」
「大隊長の話では集落にも寄るって」
「そうだね」
「どうしてわざわざ魔物の居る集落を攻撃するんですか?」
「そうだねえ
こういうのはどうだい?」
隊長は地面に木の枝で絵を描いていく。
隊長は以前は第1砦の警備隊長をしていたので、この辺りの地形をよく覚えている。
「ここが、第1砦
こっちが、昨日の集落」
「はい」
「こう考えてみよう
我々が昨日の集落を襲撃しないで、この先へ向かう」
「はい」
「魔物は…素直に行かせてくれるかな?」
「え?」
「こう進んでいる我々の後ろから、こう…
後方から襲撃が可能だ」
「あ!」
隊長は第2砦に向かう部隊を小石で示し、もう一つ小石を集落から動かす。
「勿論、何某かの伝達手段を持っていて、連携をしないと難しいが
ここからも、第2砦からも魔物が来てしまう」
「ああ!!」
「どうだ?
これが将軍と大隊長が危惧した事だ」
部隊を取り囲む小石が、3方向から取り囲む。
「君がこの先、部隊を指揮する様な事がある時
今の様な事も想定しないといけない」
「はい」
隊長が示した小石をアレックスやディーンも動かしてみる。
「うーん
ボクにはよく分からないや」
「これが魔物だとして、どうして脅威になるんです?」
「魔物の数が少なければ、確かに脅威ではない」
「そこなんですよ」
「だが、魔物が少ないとは限らないよね?」
「え?」
ギルバートは小石を第2砦の向こうにも置く。
「それに、魔物はこっち側だけとは限りません
ですよね?」
「そうだ」
『え!』
「もしも魔物が少数でも、囲まれたら…
隊長もそうお考えなんですね」
「はっはっはっ
それでこそ次期領主様だ」
「勘弁してくださいよ」
隊長は上機嫌にギルバートの頭を撫でる。
「さあ
準備をして先を急ごう」
隊長が立ち上がると、ギルバートはもう一つの疑問を尋ねる。
「隊長
将軍も大隊長も何故、無理をしてまで先を急ぐんですか?」
その質問に、隊長は険しい顔をする。
「参ったなあ」
「何か、話せない様な問題がおありで?」
隊長は頭を掻きながら話す。
「そうだなあ
いずれ分かる事だからなあ」
声を落として話を続ける。
「これはまだ、未確認だから
ここだけの話だよ?」
「はい…」
「アレックスもディーンも良いね?」
『はい』
「隊長、オレ達は?」
「君達は守秘義務ってヤツをよく知ってるでしょ?」
「はあ…」
「では、話しましょう
ただ、多少長い話になります
リック、お茶を用意してくれないかな?」
「はい」
リックがお湯を沸かし、みんなの分もカップに注ぐ。
「それでは、語っていこうかね」
「先ずは、聖歴よりも古い、帝歴は知っているね?
この話は帝歴の頃に書かれた書物に書かれている話しだよ」
隊長が言っている帝歴とは、帝国が樹立された時に制定された暦だ。
つまりこれから話す内容は、それだけ古い資料の話という事だ。
「先ず知って欲しいのは、この魔物は小鬼と呼ばれているが正式な名称はゴブリンと言うんだ
資料に載っていた内容では、魔物だけでは繁殖は難しく、人間や亜人の雌を攫っては子供を産ませると書かれていた
それも、2週間から3週間で子供が産まれるというから、非常に早い繁殖力だよねえ
しかもゴブリンの寿命は数年だって
成人に育つまでの期間は1年から2年と書かれていたよ」
「それは…本当ですか?」
「さあ?
あくまで帝国時代の資料でしかないからね」
隊長は話し終わったのか、ハーブティーを飲み干す。
隊長の話してくれた内容が本当なら、魔物は今この時も、数が増えている事になる。
しかし、まだ疑問点がある。
それをディーンが尋ねる。
「あれ?
でも、それならすぐには増えないんじゃないの?
増えても子供ばっかりなんでしょ?」
「そうだねえ
集落が襲われてから、まだ1月ぐらいしか経っていないから、子供ばかりになるはずだよね」
「そうですよ
それなら最初っからこれだけの魔物が潜んでいた?」
「それとも…
書物に書かれていた事が間違っていて、もっと早く増える方法があるのか?」
最後の隊長の一言が、不吉な予感を孕んでいて、ギルバートは背筋がぞくりとするのを感じた。
将軍が焦っているのはこれなんだ。
まごまごしていては、取り返しがつかない事になる。
しかし、これは偶然なのか?
それとも魔物が意図して行っているのか?
集落にも繁殖している魔物が居る以上、危険を排除する為にも潰していかなければならない。
それが想定以上に侵攻を遅らせている。
「隊長
どうしましょう?」
しかし、隊長はそんなギルバートの焦りを事も無げに答える。
「どうするの?
各個撃破するしか無いでしょ?」
「しかし、時間が」
「それでも、今のやり方で進むしかない
例えこの先に困難が待ち受けようともね」
分かっている。
焦っても結果は変わらない。
いや、寧ろ焦りでミスを犯せば、更に時間が掛かってより事態が悪化するだろう。
「だから、焦らないでね」
隊長はそう言って、ギルバートの肩を叩いて立ち上がる。
「あ
それとね
さっきの話は内密でね」
「さっきも言ったけど、まだ確証が無いから
それに部隊に変に不安を与えない為にもね」
「いや
既に不安でいっぱいなんですけど」
ディーンが泣きそうな顔をする。
「さあ
今度こそ出発の準備をしますよ
急ぎませんとね」
「はい」
ギルバートは返事をすると、素早く片付けと支度を始めた。
焦ってはダメだが、時間を無駄には出来ない。
そんな思いが通じたのか、全軍の出発準備は予想よりも早く出来た。
休息が十分に取れたのも効いたのだろう。
兵士達も気合が十分に入っていた。
出発して1時間ほどで、予定よりも早く集落との岐路に到着した。
先に斥候として、騎兵部隊の第4部隊と第5部隊が集落へ向かう。
集落までの道は少し上り坂になっていて、斥候に関しては騎兵の方が向いている。
斥候が向かっている間に、公道でも準備が進められた。
もし、魔物の数が多い場合は、騎兵で釣って誘き出す作戦だ。
公道への出口へ弓兵を配置し、その側に歩兵と残りの騎兵を配置する。
敵を引き付けて降りて来たら、先ずは騎兵が抜けたところで弓で斉射する。
残った魔物を歩兵で潰し、入れ違いで騎士団が集落へ突っ込む。
必要なら歩兵や弓兵も集落へ向かうが、なるべく時間と労力を使わない様にしたいからこその作戦だ。
騎兵部隊が登って行って10数分経った頃、不意に上の方から怒号が上がる。
そして騎馬の疾走する音が響き渡り、騎兵部隊が駆け抜ける。
先頭の騎兵が大声で魔物の数を叫ぶ。
「魔物の総数
目視で300
こちらに向かっています」
大隊長が右手を上げて、弓兵が矢を番える。
騎兵達が次々と駆け抜け、最後の一騎が抜ける。
ギャワワワ
グギャアア
ゴブリンの声が聞こえて来る。
やはり、頭はあまり良くないらしい。
騎兵を追って駆け足で出て来たのは良いが、ここまで走って来てフラフラになっている。
「構え!
撃て!」
そこへ大隊長の合図で矢が斉射される。
グギャア
ギャガア
次々と悲鳴を上げて倒れて行く。
おおよそ250匹は居ただろうか?
魔物の群れが途切れ、歩兵達が生き残りを殺していく。
圧倒的じゃないか。
みながそう思って浮かれかけていた時、不意に大きな声が響く。
ゴガアアア!
見ると、集落の方から一回り大きい体格のいいゴブリンが唸りながら走って来た。
歩兵達は慌てて退き、騎士達が盾を持って壁を作る。
しかし、魔物は走って来た勢いで盾に体当たりをかまし、数人の騎士が馬ごと吹っ飛ぶ。
ガアアア
グワシャアン!
「うわああ」
「ぐわあ」
次いで魔物は、大人の腕程の大きさの棍棒を腰から引き抜くと、無造作に盾の上から殴りつける。
ガアアア
グワアン
「ぐふう」
騎士の一人が馬の上から落ちる。
棍棒の大きさもさる事ながら、魔物の腕力も相当の様だ。
「どけ
オレが相手だ!」
大隊長が長剣を抜き放ち、魔物の前へと出る。
「大隊長
オレに、オレにやらせてください」
その横からアレンも剣を構えて出て来る。
しかし大隊長は、黙って首を振るとアレンの剣を押さえて下がらせた。
「大隊長」
「お前は奴の後ろに居る魔物を倒せ
これは命令だ」
尚も出ようとするアレンに、大隊長は静かに、だが強く命じた。
「さあ
お前は前の魔物よりも強いのか?
力を見せてみろ!」
グガアア
大隊長の言葉に魔物が、返事をする様に唸る。
「うりゃああ!」
ガアアア
ガキィーン!
大隊長の長剣と魔物の棍棒が激しくぶつかる。
1合、2合…上段に、横薙ぎに、次々と打ち付け合う。
その度に、頭上にまで響く様な衝撃を腕に感じる。
こんな強烈な斬撃は久しく受けた事が無い。
力だけなら将軍に引けを取らないだろう。
大隊長は不謹慎ながら楽しくなってきた。
どこを狙っても同等の力で打ち合う。
しかも相手もこの純粋な力比べに楽しんでいる様だ。
二人が打ち合う周りをゴブリンが駆け抜け、歩兵や騎兵達に襲い掛かる。
中には大隊長に襲い掛かって来るゴブリンも居たが、二人の振り回す武器に巻き込まれて、拉げて肉片を辺りにまき散らす。
「うおおおお!」
グハアア
ガコーン!
もう何合打ち合っただろうか?
そろそろ両手が痺れてきている。
しかし負けられない!
終わらせたくない!
再び打ち合った拍子に、ふらついて剣を落としそうになる。
とっさに大隊長は、左手だけに力を込めて横薙ぎに振り抜く。
魔物はふらついた大隊長を見て、勝利を確信して大きく振りかぶっていた。
そこを予想外の軌道で長剣が閃き、短い胴に吸い込まれていく。
「ぬあああ!」
ギャヒッ?
ザシュッ!
蹈鞴を踏んで振り抜き、必死にバランスを取る。
魔物は銅を寸断されて、上半身が振り抜いた勢いですっ飛んで行く。
勝った…
感慨に耽る間もなく、ゴブリンが突っ込んで来る。
それを横からアレンが切り付ける。
「大丈夫ですか?」
「ああ
何とかな」
大隊長はすっかり力を使い果たして、ふらふらとよろける。
「おい
大隊長を連れて下がれ
早く!!」
アレンが必死に身を挺して切り結び、その間に他の騎兵達が馬に乗せて下がる。
さすがにアレンも、複数のゴブリンが相手ではキツイものがある。
少しずつ切り傷を負ってしまう。
「大丈夫か?」
そこへジョンと第1部隊の隊長のダナンが加勢に加わり、少しずつゴブリンを押し返す。
将軍の指示が出て、後続の魔物も矢が射られる。
3人の部隊長の奮闘もあり、魔物は徐々に数を減らし、数分後には見事掃討する事が出来た。
「生きてるか?」
「何とか…」
「オレはもう、死んでもいい気分だ」
「もう、鼻をほじる気力もないぞ」
3人は力を出し切って、疲れ果てて座り込むとそのまま寝転んだ。
疲れ果てた3人は、後の始末は部下に任せる事にした。
もう一人の敢闘者の大隊長は、部下に連れられて下がり、開けた場所で仰向けに倒れた。
「だらしないなあ」
ジョボジョボ!
「うわっぷ
ぷはあ」
頭から水をぶっかけられる。
見上げると革袋を持った将軍が立っていた。
「いい勝負だったな」
「ええ」
「もう少しで負けてたな」
「はあ」
「また弟子を失うかと思ったぞ」
「すいません」
「まったく
爺の心臓をいたぶるなよ」
「気を付けます」
大隊長はまだ肩で息をしていて、答えも息も絶え絶えといった様子だ。
それをしばらく眺め、もう大丈夫と思ったのか革袋を放って立ち去る。
「もう暫く寝てろ」
「うわっぷ
師匠…」
後には革袋を顔の上に載せた大隊長が残された。
「騎兵と歩兵で用心しながら集落へ向かえ
まだ小鬼が残って居るかも知れんぞ」
「手の空いてる者は死体を一ヶ所に集めておけ
後で燃やさないといけないからな」
将軍は次々と後処理の為の指示を出す。
大隊長を休ませる為と、少しでも時間を掛けさせない為だ。
遺骸の処理が早く済めば、それだけ早く砦に向かえる。
「弓兵は薪を集めておいてくれ
騎士団は周辺の警戒を怠るな」
魔物の死体が集められ、薪の上に載せられていく。
時刻はまだ昼を回った頃だった。
ある程度の数の遺骸が載せられると火が付けられる。
遺骸が燃え始めたのを見て、次の薪の山が作られる。
薪の山が次々と作られていく。
3つ目の山に遺骸が載せられて火が付けられた頃、集落に向かった兵士達が戻って来た。
「集落には魔物は居ませんでした」
「そうか」
恐らく、あの魔物が全ての魔物を引き連れて来たのだろう。
一気に片付いて良かったと将軍は思った。
「諸君らも遺骸の片付けを手伝ってくれ
終わったら休息を取ろう」
「はい」
それから全員で魔物の遺骸を焼いていった。
魔物の数は500匹ほどであったが、全員で片付けたので早く片付いた。
夕刻前には片付けも終わり、食事や休息も取れた。
その間にも騎士団は交代で周囲の警戒に当たり、何事も無く済んだ。
「思ったより早く移動できそうですね」
休んで体力も回復した大隊長が、将軍に話し掛ける。
「今日中に第2砦の近くに陣を張りたいよな」
「ええ」
これでいよいよ第2砦へ攻め込めるんだ。
まだ他にも潜んでいるかも知れないが、いよいよ今回の遠征も大詰めだ。
将軍は決意も新たに、第2砦の方向を見やった。
これで後顧の憂いを無くし、いよいよ第2砦での戦いに向かいます
ここを落とせば当初の目標は達成です
その為にも、魔物が少しでも増える前に挑みたいものです




