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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
237/800

第237話

新年一日目は、夕刻まで祝賀会が行われていた

それから一旦解散して、夜にまた夕食のパーティーが行われていた

こちらは貴族だけの集まりで、国王夫妻は形だけ出席していた

パーティーが始まると、国王夫妻は席を離れた

貴族同士の懇親会になるので、国王が居ては邪魔になるからだ

ギルバートも退出して、パーティーは貴族だけで行われた

そしてその中には、叙爵予定のアーネストも参加していた

アーネストは今日も情報収集をしていて、危険な人物の炙り出しを行っていた

国王が不在を良い事に、反国王派はのびのびとしていた。

そして饒舌になり、良からぬ企みも平気で話していた。


「こことここが組んでいて…

 そしてこの家が魔物の襲撃に見せて町を襲撃する予定なんだな?」

「はい

 話を聞いた時は驚きましたが、奴ならやり兼ねません」

「そうか

 報告ありがとう」


アーネストは下級貴族からの証言をメモして、事の裏付けを取る事にした。

祝宴での話だと誤魔化されない様に、ギルドを使って調べるのだ。

ギルドは国に管理されない独立機関だ。

正式に依頼すれば、独自の伝手で詳細まで調べてくれる。


「ありがとう

 後はギルドに依頼して、証拠を集めるよ」

「何でしたら、私も調べてみますが?」

「いや、止めた方が良いだろう

 あなたにまで危険が及ぶ」

「しかし…」


彼は襲撃される予定の町の、領主とは仲が良かった。

だからその領主を心配して、こうして協力を申し出ていた。


「ギルドで調べれば、物の流れや兵士の動きも調べれる

 それに酒場などでも、証言が取れるだろう」

「しかしそれだけでは…」

「なあに、証拠と証言があれば十分だ

 後は陛下に任せるさ」


アーネストは自信ありげに言った。

これまでは国王も、国内の安定の為に黙っている事が多かった。

しかしギルバートの誘拐の件もあって、本格的に摘発しようと考えていた。

それこそ確実な証拠が無くても、国王の権限で無理矢理取り潰す事も出来るのだ。

要は国王が、どこまでやる気を見せるかだけだった。


「今、魔物の事で国内も混乱している

 それに乗じて内戦を起こすと言うのなら、処罰されるだけの十分な罪になるだろう」

「そうなればよろしいんですが…」

「安心してください

 密談も聞いていますので言い逃れは出来ません」


アーネストはそう言って、貴族を安心させた。

そして二人が話していた事をバレない様に、貴族だけをホールに戻した。

アーネストは待合室を出ると、サルザートの信頼している文官を呼んだ。

彼に書類を作らせて、その貴族の動向を調べる為だ。


「それではミラベル殿

 こちらを宰相に渡してください」

「こんな大事な書類を?」

「ええ

 私が渡していれば、警戒されるでしょう

 あくまで私は無関係という形で」

「分かりました」


文官は書類を預かると、こっそりと王宮の奥へ向かった。

そこで書類を確認して、宰相に渡す為だ。

その間にアーネストは、ホールに戻って宰相の元へ向かう。

書類が渡された時に、アーネストがそこに居る事で関係無いと見せ掛ける為だ。


アーネストがホールに戻ると、サルザートは上級貴族と談笑していた。

宰相ともなれば、話したくない嫌な相手でも、顔色一つ変えずに話す必要があった。

彼は反国王派であったが、そうとは見えない様に宰相と楽しそうに談笑していた。


「これは宰相殿

 楽しく飲まれていますか?」

「おお、アーネスト殿

 このミードは上品で美味いですよ」

「そうですか

 私も後で試してみますね」


そう言って宰相に近付くと、なるべく貴族達とは会話しない様に近くに立っていた。

そのうち文官が来て、先の書類を渡す予定になっている。

内容は確認しないで、取り敢えずは宴席を楽しむ筈だ。

問題はその報告が、何でも無い様に手渡される事だった。


それから1刻ほどを、アーネストはその場で潰していた。

思ったより文官が時間を掛けていたので、そのまま待っていたのだ。

書類が渡ってからも、サルザートは何でも無さそうに振舞っていた。

そしてアーネストも、それに合わせて雑談を続けていた。

それからサルザートが、用事を思い出したと離れるまでアーネストもその場に待機していた。


「ちっ

 田舎者めが」

「静かにしろ

 いくら祝宴と言っても、不敬罪に問われるぞ」

「だがな

 あの田舎者が威張っているせいで、ワシは王都で活躍出来ないんだぞ」

「なあに

 それも3の月までの事さ

 待ちがつも落ちれば…」

「おい、それは黙っていろ」


片方の貴族が、酒に酔っているのか饒舌になっていた。

もう一人が窘めて、周りを確認する。

アーネストは少し離れた場所に居て、宣言通りミードを楽しんでいるふりをしていた。


「ふう

 誰も聞いて無い様だな」

「大丈夫だろう?」

「馬鹿

 ベルモンドみたいになりたいのか?」

「大丈夫だ

 オレ達はバレていない

 馬鹿殿下が亡くなってもバレないさ」

「しっ

 お前酔い過ぎだぞ

 向こうで休んでいろ」


貴族は肩を貸して、もう一人をホールから連れ出した。

アーネストは先程の会話を思い出しながら、こっそりとメモを取っていた。


あいつ等もギルの、誘拐に関わっていたんだな

報いは返してやらんとな


アーネストは仕返しも考えて、再び探りを入れる事にした。

こうして見ていると、反国王派や選民思想者の貴族は、大概何某かの問題を起こしそうだった。

国王が下手に刺激したく無いと言ったのは、これだけ面倒臭そうな相手だったからだ。

下手に手を打つと、他の貴族が騒ぎを起こしそうだ。

これは処分をするのなら、一気に片付ける必要があった。


面倒臭いなと思いながら、アーネストはホールを後にした。

徹夜の後だけに、さすがに眠くなっていたのだ。


夜も更ける頃になると、上級貴族達も退出を始めた。

残されたのは下級の貴族達になり、そこで色々と話し合いが行われていた。

主な議題は魔物の侵攻で、どこも魔物に関しては不安になっていた。

下級の貴族では財力が少なく、兵士も多く雇えなかったからだ。


「どうする?

 お前のところも魔物が現れたんだってな?」

「ああ

 ゴブリンって奴だが、作物が荒らされて困っている」

「早く国軍に討伐して欲しいな」


「しかし王国軍も、北の魔物の討伐があるだろう?

 何だって人食い鬼が現れたと言っていたからな」

「そう言えば、お前は北の町だから、そっちの方が心配だよな」

「ああ

 少し離れているが、こっちに来ないとは限らないからな」


「どうする?

 殿下が国軍を指導しているって話だ

 一層の事…」

「馬鹿言え

 規模が違うだろ」


下級貴族では、精々2、300名ほどが限界だ。

それを全て討伐には回せられない。

良くて150名でも出せれば良い方だろう。

それではゴブリンやコボルトは倒せても、それ以上の魔物には勝てないだろう。

それを考えれば、武器も兵士も不足していた。


「兵士を増やすには、財力が足りない」

「それなら冒険者や魔術師ならどうだ?」

「ん?」


「王都では今、冒険者や魔術師にも訓練をさせている

 彼等を呼んでみるのは?」

「それだけの金が無いだろう?」

「うーん…」


「それなら、一人二人呼んで、自領で指導してもらうのはどうだ?」

「指導?」

「ああ

 すぐには無理だろうが、冒険者が力を付ければ討伐を依頼できないか?」

「それでも金が掛かるだろう?」

「ああ

 だが冒険者なら、討伐の報酬だけで済む

 兵士を養うよりは格安だろう?」


「しかし冒険者となると、兵士より技量が低いだろう」

「だから指導してもらうのさ

 魔物を討伐出来る様に、鍛えてもらうんだ」

「そんな簡単に出来るか?」

「ダーナでも冒険者が魔物を倒していたそうだぞ」

「そのダーナも、今では魔物の巣窟らしいがな」

「あ…」


彼等も噂だけは聞いていた。

具体的な話は上がっていなかったが、街中に魔物が現れているとは聞いていた。

あれだけ魔物を討伐していた街が、知らぬ間に魔物の巣窟になっていたのだ。

それは恐ろしい話として伝わっていた。


「だがな、どうあっても魔物は討伐する必要はある」

「ああ」

「ゴブリンやコボルトはどうにかなるだろう

 だが、それ以上となると国軍の協力が必要だ」

「そうだな…」


「やはり、冒険者を雇うのが一番だな」

「話を聞いていなかったのか?」

「いや

 確かに今のところは実力不足だろう

 だが、王都の冒険者を回してもらって、訓練をしてもらえば…

 マシにはなるだろう?」

「うーん」


その後も暫く話し合われたが、結局良い案は浮かばなかった。

妥協案として、冒険者と魔術師、それと兵士を指導者として紹介してもらう。

それで自領の冒険者達を指導してもらって、魔物の侵攻に備える。

これが一番建設的だと判断された。


「後は国王様に、我々に回していただく様にお話しするだけだな」

「ああ

 明日は難しいが、明後日の発つまでには話しておこう」

「全員が一斉に言うのはマズいな」

「ああ

 誰かが代表として話そう」


貴族達は話し合い、結局近場に住むトスノのサランドール子爵が提案する事となった。


「上手く行かなくても恨むなよ」

「ああ

 あくまでどうにかする為の案だ」

「陛下がどうにかしてくださるなら、そっちの方が良いだろう」


サランドール子爵は頷いて、国王に相談する事が決まった。

そこでさっそく、翌日の宴席で相談する事となった。

3日目まで祝宴は開かれるが、3日目は帰還を始める日でもある。

それまでに話をして、国王に許可を得たかったのだ。


翌日も朝からホールは開かれて、貴族達は集まっていた。

そろそろ街中では祝賀ムードは終わり、仕事を始める者も居た。

しかし祝日でもあるので、必要な食料や雑貨以外は商店も開かれていなかった。

そんな中で、王城は今朝も宴席が開かれていた。


「国王様

 少しお話がございます」

「うむ

 サランドール子爵か

 どうかしたのか?」

「ここでは…」

「分かった

 向こうの待合室を使おう」


国王は合図をして、サルザートと文官が2人着いて来た。

それを確認してから、サランドールはギルバートを探した。


「あのう…

 殿下は?」

「うん?

 ギルバートも必要かね?」

「はい

 出来れば」

「分かった

 誰かギルバートを呼んでくれ」

「はい」


メイドがの一人が応えて、ギルバートを呼びに向かった。

そうして国王は、サランドールと待合室に入った。

入り口には騎士が立ち、他の者が入らない様に見張っていた。


「それで?

 どういった要件じゃ?」

「はい

 それが…」


サランドールは、昨夜仲の良い下級貴族達と話した事を語った。

最近魔物が増えていて、みな心配している。

そして下級貴族では財力が乏しく、多くの兵士は抱えられない事。

そこで冒険者達を鍛えて、町を守る為に戦わせる事を考えていると告げた。


「なるほど

 確かに王国軍が間に合わない以上、自領に魔物を討伐する戦力は必要だな

 本来なら国が手配して、兵力の増強を計るところであるが…」

「ええ

 それを維持する財力がございません」

「ううむ」


「ですから、冒険者や魔術師を鍛えて、町の防衛に備えたいのです」

「それは良いが…

 具体的にどうするつもりだ?

 鍛えると言っても、今まで鍛えれていなかった者が、今さらどうこうなるとは思えんが?」

「はい

 そこで殿下が関わって来ます」

「ギルバートが?」


「殿下の鍛えられた冒険者達から、我々の町に指導する者を送って欲しいんです」

「なるほど

 しかし、そう上手く行くのか?」

「その辺は大丈夫でしょう

 問題は指導する者が、それなりの資質が必要なんですが」


ここでギルバートが、アーネストを連れて来た。

そしてアーネストは、この案には賛成だと言った。


「これは良い案だと思いますよ」

「そうか?」

「ええ

 王国軍が間に合わない以上、魔物が来たら危険です

 それに対して、冒険者や魔術師なら町に常駐しているでしょう?

 いざという時に協力を頼めます」

「そう上手く行くかな?」


ギルバートは懐疑的だったが、アーネストは上手く行くと思っていた。

問題は先にも言っていたが、指導できる者が居るかだ。


「ギル

 王都の冒険者の中に、指導が上手い人物は居るか?」

「うーん

 数人は居ると思うけど、ギルドで相談しないと」

「居るのは居るんだな?」

「ああ

 多分大丈夫だ」


「それならば

 陛下

 これを国の主導として触れを出していただけませんか?」

「何故国の主導なんじゃ?」


「個人の遣り取りより、国が加わっている方が良いからです

 邪魔も入り難いですし、何よりも指導する側も気持ちが違います」

「そうなのか?」

「はい」


アーネストの後押しで、国王は暫し考えた後で頷いた。


「分かった

 触れを出させよう」

「ありがとうございます」


「それではサルザート」

「はい」


「それから、冒険者の選定はギルバートに任せる」

「はい

 ギルドマスターと話し合いをしておきます」

「うむ

 サランドール

 何人必要なんだ?」

「そうですね

 昨日の話し合いでは16名でした」


「では、ギルバートはそのつもりで用意してくれ」

「はい」

「それとサランドール

 正式な書類を作ってくれ」

「はい」


「魔術師の方はアーネストに任せて良いかな?」

「はい」


国王は手早く決めると、すぐに書面にする様に指示を出した。


「折角の祝宴の席だ

 仕事はなるべく持ち込みたく無いからな」

「陛下…」

「ふはははは」


呆れるサルザートを見て、国王は楽しそうに笑っていた。

まだまだ続きます。

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