表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
232/800

第232話

将軍と騎士団の隊長は、国王の執務室で睨み合っていた

隊長が将軍を挑発して、国王に諌められていた

しかし国王の言葉を無視してまで、隊長は挑発を続けた

そして抜刀までしようとしたので、将軍がそれを阻止していた

二人の睨み合いが続いていて、部屋には緊張が走っていた

将軍は両腕で、隊長が抜刀しようとしている剣を押さえていた

隊長は将軍が魔物討伐に向かった事を、妬ましく思っていた

騎士が魔物を討伐に出る事は難しかった

だから手柄を取りそうな将軍を見て、妬んでいたのだ

しかも一回失敗していたのに、再び討伐に向かっていたのだ

それを思うと、今回の失敗で厳罰になると思っていたのだ

だが、国王はそんな将軍を庇っていたので、隊長は激昂していた


「ふざけるな

 なんで貴様だけ特別扱いなんだ」

「特別扱い?」

「そうだ

 二度も失敗しておきながら、何で許されているんだ」


「失敗はしていないが?」

「ふざけるな

 部下を失った上に、討伐も出来ずに逃げ帰っただろう」

「逃げては無いぞ」

「いいや、逃げただろう

 この臆病者め」


「隊長よ

 いや、アロウィンよ

 何で将軍を目の敵にする」

「それは手前が、こいつを贔屓するからだろう」

「な!」

「国王様を手前呼ばわりだと?」

「気でも違ったか?」


二人を囲んでいた衛兵達も、隊長の暴言に驚いていた。

いくら激昂しているとはいえ、国王を手前呼ばわりなどすれば、不敬罪で投獄は確実だった。

しかし隊長は怯む事も無く、国王を睨みながら続けた。


「手前がこの臆病者を贔屓するのなら、もう国王とか関係ねえ

 オレが手前を殺して、この国を貰ってやる」

「何だと?」

「愚かな…」


隊長は無理矢理将軍を押し退けると、そのまま抜刀した。


「ひっ」

「あわわわ」


文官達は隅に逃げて、事の成り行きを見守っていた。

武術経験のほとんど無い文官からしたら、隊長は危険な相手であった。

そして国王は帯刀していないし、将軍もこんな事態は予想していなかった。

武器は城門で置いて来ていたので、武器は身に着けていなかった。

衛兵達も相手が騎士とあっては、迂闊に向かって行けなかった

力量差があったからだ。


そんな緊迫した状況に、ギルバートは執務室に入って来た。

隊長は剣を向けると、ギルバートを人質に取ろうと剣を振り被った。


「失礼しま…

 おわっ!

 これはどういう状況で?」

「こっちに来い」


隊長が剣を振り被ったところで、ギルバートは前に踏み込んだ。

そのまま剣に手を掛けると、刀身を握った。

隊長が剣を動かそうとしても、ピクリとも動かなかった。

身体強化をしたギルバートにとっては、隊長の力は大した事は無かった。


「むっ?

 くうっ…」

「何があったんですか?」

「謀反です」

「ギルバートよ

 そ奴を取り押さえてくれ」


ギルバートは力を抜いて、隊長がバランスを崩す隙を作った。

そのまま腕に手を伸ばすと、一気に腕をへし折った。


「ふん」

バキッ!

「ぐわあ」


腕を折られた事で、隊長の腕から剣は落ちた。

そのまま足を引っ掛けると、隊長を地面に押さえ込んだ。


「ぐ…がっ

 こんな小僧に

 私は、私は騎士団隊長だぞ

 選ばれた…」

「うるさい」

ゴカッ!

「ぐはっ」


隊長はまだ何か言おうとしていたが、そのまま首元を殴られて昏倒した。

そしてそのまま、衛兵達に引き渡された。


「さあ

 さっさと連れて行ってくれ」

「はい」

「殿下

 ありがとうございます」


衛兵達は隊長を起こすと、そのまま連れて行った。


「それで?

 一体何が起こったんですか?」

「うむ

 どうやら奴も、選民思想者だった様だ」

「そうですね

 こんなところまで入り込んでいるとは…」


「騎士団の隊長がですか?」

「ああ

 将軍の事を馬鹿にしておって、自分の思うままにならない事が許せない様じゃった

 ワシを殺して、この国を貰うなどと言っておった」

「はあ?

 例え国王様を殺したとしても、国は取れないでしょう」

「ああ

 普通なら、それぐらいは当然理解しておるじゃろうな」


「なら、何で?」

「自分が特別と思っておる奴じゃ

 国王を殺せば、国を自分の物に出来ると思ったんじゃろう」

「何と短絡的な…」


ギルバートは呆れて溜息を吐いた。


「それで

 私は何の為に呼ばれたんですか?

 まさかあの凶行を止める為では無いですよね?」

「ああ

 そうなんじゃが…」

「騎士団とも話を付ける必要があったのだが

 これでは話が出来ないですな」

「うむ」


「騎士団ですか?

 しかし今の騎士団は、大半がまともに話を聞く者が居ませんよね」

「ううむ

 まさか隊長までとは…」

「そうですね

 まともに話せそうな隊長となれば、近衛騎士ならどうですか?」

「いや

 それでは部署が違ってな…」


「ですがまともに話が出来ない様なら、隊長をどうにかしてでも…」

「そうじゃな

 ワシが間違っておった

 腕が立つからと、甘くしておった」

「いえ

 それを言うならワシも甘かったです

 まさかあそこまで腐っておるとは…」


とはいえ、このままでは話にならなかった。

そこで副隊長を呼んで、隊長の代理にする事になった。

事前に隊長のした事も話して、念の為に同じ事の無い様にと忠告をしておく。

その忠告を聞いた上で、副隊長は青い顔をして執務室に来た。


「あ、あのう…

 隊長は本当に?」

「ああ

 選民思想だな

 この国では選民思想は、危険な思想となっている」

「それを知りながら、彼は国王様に謀反を起こそうとした」

「なんでまた?」


「それは将軍の討伐が失敗したと思い込んだ様だな」

「討伐?

 魔物の討伐は失敗したのですか?」

「いや

 失敗はしていなかったが、態勢を整える為に一旦帰還したんだ」

「そうですか

 隊長はそれを失敗したと思い込んで…」


「思い込んだと言うか、思い込みたかったんだろうな

 そうすれば自分が、騎士団を率いて活躍出来ると思ったんだろう」

「そんな

 私達騎士団は、人の相手は出来ますが魔物の討伐なんて…」

「そうじゃな

 ワシも騎士団では、魔物を相手にするには厳しいと思う」

「それなら何故?

 隊長はここに呼ばれたんですか?」


「それはな、あ奴が自分で志願しておったからじゃ

 だから将軍の話を聞かせて、それでも戦うと言うのなら参加させようと思っておった」

「しかし…

 我々は自信はありませんよ?」

「それは誰でも同じでしょう

 私だって最初は、ゴブリン相手にでも苦戦しましたから」

「殿下が?

 嘘でしょう?」


副隊長は、ギルバートの言葉に驚愕していた。

彼は訓練にも参加していたので、ギルバートの力量は知っていた。

だからそんなギルバートが、最弱と言われる魔物にも苦戦したと聞いて驚いたのだ。


「そんな私でも、何度も戦っているうちに強くなりました

 あなた達でも戦っていれば、いずれは勝てる様になります」

「勝てますでしょうか?」

「信じて戦えば、誰だって可能性はありますよ」

「そう…ですか」


それからギルバートもソファーに座って、将軍の報告を聞いた。

報告は繰り返しになるが、副隊長も聞いていないので最初からになった。

そしてオーガの後に現れたとされる、正体不明な魔物の話まで終わった。


「それでは、その魔物に関しては何も分かっていないんですか?」

「そうですね

 武器が剣であった事から、サテュロスとは違うと判断しました

 そもそもサテュロスは、森の奥に潜んで人前には滅多にでないという話です

 だがその魔物は、歩兵達を殺して持ち去りました」

「何と

 それではその歩兵達は…」

「ええ

 残念ながら遺体は回収できていません

 そもそも魔物がどこから来て、どこに向かったのかも掴めておりません」

「そうか…」


国王は残念がっていたが、それは仕方の無い事であった。

痕跡がほとんど残っていなかったので、足跡が見付からなければ野盗の仕業かとも思っていた。

あのまま残っていたら、他にも犠牲者が出ていたかも知れない。


「アーネストは?

 あいつは何か言っていませんでしたか?」

「いえ、特には何も

 ただ急いで帰還をした方が良いとは言っておりました

 彼からしてみれば、ひょっとしたら魔物の正体に気付いていたかも知れません」

「そうですね

 しかし黙っていたところを見ると、恐らくは確証が無いんでしょうね」

「ええ

 ワシもそう思っていました」


「しかしサテュロスの件が収まったとしても、まだ他の魔物が出る様では…」

「ああ

 オーガも他にも居るかも知れん

 それを思えば、来年に雪が溶けたらすぐにでも…」


「待ってください

 それじゃあダーナの事は?」

「え?」

「はあ…

 またその事か」


ギルバートは突然声を上げた。

しかし将軍は何の事か分からずに困惑していた。


「ダーナは今や、魔物の巣窟となっているのです」

「何ですと!」

「ここ数日殿下は、ダーナに家族を救いに行きたいと懇願されているのですよ

 勿論雪の事もありますが、そもそも王子を連れて危険な場所には向かえません」

「それはそうでしょう」


「しかし、こうしている今も、母上と妹達は危険なダーナの中に居る

 無事だという保証が無いんだ」

「それならば尚の事

 無事でも無い者の安否を確認に、国軍を動かすわけには参りません」

「しかしエルドが…

 ノルドの風が折角調べてくれたのに、そのまま無駄に出来ないよ」


将軍は困った顔をして、説明を求めた。


「一体どういう事です?

 殿下は無事に、ノルドの風にお会いしたのですか?」

「ええ

 ノルドの風はリーダーのエルドを除いて、行方不明になっていました」

「何と!」


「そしてエルド自身も魔物に襲われて、生きているのも不思議なぐらいの重傷でした」

「それではどうやって?」

「それはマーリン殿が気付け薬で、短時間だけ話せる様にしてくださいました」

「そうですか…」


将軍は冒険者達の訃報を聞いて、心中穏やかでは無かった。

彼等の実力を知っていたし、何よりもその人柄から安心出来る人物と評価していた。

そんな彼等が行方不明になり、リーダーも瀕死の重傷だと聞いたのだ。

心の中が掻き乱される様な思いだった。


「彼等は優秀な冒険者達だった

 それが何故…」

「ダーナの街の中には、魔物が住み着いて居ました

 いや、違うな

 住んでいた住民達が魔物と化していた、これが真実です」

「これ、ギルバート

 その事はまだ内密に…」

「本当ですか?」


将軍は聞き返していたが、国王の様子で真実だとは確信していた。

しかし国王の口から聞くまでは、それを認めたく無かった。


「仕方が無いのう…」


国王は溜息を吐いてから、一つの書状を取り出した。

そこにはマーリンの名前が記されており、ダーナの現状を聞き取ったと記されていた。

そしてノルドの風から得た証言として、ダーナが魔物に占拠されていると書かれていた。


「ここには魔物に占拠されたと書かれていますが?」

「ああ

 そうでないとマズいからな

 まさか住民が魔物にされたとか書けないだろう?」

「あ…

 それはそうですが…」


「ダーナでは今、魔物が街中を昼間から歩いているらしいです」

「昼間からですか?」

「ええ」


「それでご家族は無事なんですか?」

「そうですね

 ノルドの風が確認出来たのは、あくまで屋敷が蔦に覆われていて侵入出来なくなっていたそうです

 そして中には人が住んでいる痕跡が見えて、灯りも漏れていたそうです」

「それだけですか?」

「ええ

 ですが生きている可能性はあります」


「しかしあれからでも1月近く経っている筈です

 それでも無事だと?」

「そうですね

 屋敷の庭には畑もあります

 多少の期間なら、中で自給自足は出来るでしょう」

「ですが中に生きて、無事で生活しているかは確認出来て居ないんですよね?

 でしたら今頃は…」

「分かっている

 それに雪解けまで待っていては、恐らくは…」


ギルバートもその事を予測はしていた。

しかしそれでも、家族がどうなったのかを見届けたかった。

そして出来る事なら、自身の手で引導を渡してやりたかった。


「そうですか

 覚悟は出来ているんですね」

「ああ」


ギルバートの言葉を聞いて、将軍は国王の方を向いた。


「陛下

 一つお願いが…」

「駄目じゃ」

「陛下?」


「お前の事じゃ

 ギルバートを連れて、ダーナに向かいたいと申すのじゃろう」

「ええ」

「そんな危険な事を、ワシが承知すると思っているのか?」


「そうですね

 しかし国王陛下も気付いてらっしゃるのでしょう?

 このままダーナを放って置けないと」

「ううむ…」


「北の魔物の件も片付けます

 その後で良いので、ダーナに派遣してください」

「ううむ」


「国王様

 同行するだけで良いので、どうかダーナに…」

「しかしのう…」

「それならば、殿下の初陣という事で同行なら?

 あくまで同行で、先頭には参加出来ません」

「それでも構いません

 家族がどうなったかだけでも知りたいんです」


将軍も賛同して、一緒に国王に嘆願した。

そして同行するだけだという事で、ようやく国王も折れた。


「分かった

 ただし同行だぞ

 戦闘には参加させられんからな」

「はい」

「陛下

 ありがとうございます」


国王が折れた事で、ギルバートは安心したのか涙ぐんでいた。

そしてダーナの事が決まったので、今度は来たの魔物の話になった。


「それで、北の魔物はどうするのだ?」

「恐らく2の月に入れば、雪も溶け出すでしょう

 ですからその頃に、先ずは北の魔物に向かいます

 それが終わってから、ダーナに向かいましょう」


これは竜の背骨山脈に雪が積もるので、すぐにはダーナには向かえないからだ。


「殿下もそれでよろしいですか?」

「はい」

「それでは、それまでに軍備と訓練を行いましょう

 まだ2月近くありますから、十分に時間はあります」

「分かりました

 私も訓練の指導に向かいます

 ありがとうございました」


ギルバートは将軍に頭を下げて感謝していた。

これで時間は掛かるが、ダーナに向かう事が出来る様になったからだ。

こうして将軍の報告も終わり、対策も無事に立てられたのだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ