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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
227/800

第227話

少し遅くなったが、朝食のスープが出来上がり配られる

兵士達は野菜が入ったスープを受け取ると、干し肉と黒パンを出した

黒パンをスープで食べながら、固い干し肉を噛み切る

そうして交互に休息を取りながら、引き続き森の様子を窺っていた

魔物はまだ引き返してこず、斥候も食事をしながら見張っていた

このまま来なければ助かると思っていたが、徐々に入り口に魔物が集まって来た

魔物は警戒しているのか、少数で出て来る事は無かった

そのまま数を集めながら、野営地の様子を窺っていた

騎兵達も武具を手入れして、魔物との戦いの準備をしていた

将軍は斥候の元に近付き、状況を確認していた


「どうだ?

 奴等は出て来そうか?」

「はい

 数は増えていますね」

「どうやら先ほどよりは、数が増えていますね」


「このまま増えて来るなら、作戦を変えなければならないな」

「そうですね…」


森の入り口には、既に100体を超える魔物が集まっている。

どこまで増えるか分からないが、少なくとも200体を超えるのなら、作戦を変えるしか無かった。

騎兵は100名しか居ないから、囲まれる可能性が高くなるからだ。


「今、目視出来る数で130程ですね」

「あ!

 動きがありました」

「ぬう

 攻めて来るか?」

「はい

 外に出始めました」


魔物が姿を現し始めたので、斥候も緊張していた。

ここで数や動きを見誤れば、全体の損害に影響するからだ。

しっかりと見極めて、将軍に報告しなければならない。


「数は…

 150を超えます」

「むう…」

「しかしこれ以上は増えそうにありません

 先ずは100体が出てきました」


「よし

 騎兵部隊は準備をしろ」

「はい」


「歩兵は陣を守る為に大楯を構えろ」

「はい」


「魔術師は歩兵の後ろに控えて、アーネスト殿の指示に従え」

「はい」


将軍の冷静な指示が響き渡り、各自が配置に着いた。

その間にも魔物は集まって、ゆっくりと迫って来ていた。

先程と違って、前列が長い棒を持ち、後列は棍棒を手にして移動している。

どうやら少しは知恵が回る様で、鎌の広範囲な攻撃を警戒していた。


「向こうも陣形を構えていますね」

「入り口に50体は居ますから、あまり進むと危険ですね」

「むう…

 騎兵の突撃を警戒したか」


「前面に並んだ魔物も不気味ですが、あの真ん中の奴が危険ですね」

「一周り大きいですし、あれが指揮官では?」

「そうだな

 どうやら群れのボスが、直々に出て来た様だ」


「作戦は3番の策で行くぞ

 指示に従って、上手く攪乱しろ」

「はい」


「突撃!」

「おおおお」


騎兵達は鎌を構えたまま駆け出して、一気に魔物の群れに向かって行った。

魔物達は不意の突撃を見て、慌てて棒を腰溜めに構える。

そのまま槍の様に構えて、騎兵の突撃に対抗しようとしていた。

これはそれだけ、魔物達が騎兵の突進を危険と判断している証拠だった。

将軍はそんな様子を見て、唇を噛んでいた。


マズいぞ

あいつ等はこちらの戦法を理解している

その上で警戒して、対抗する策を模索している

ぐずぐずしていると、こちらの戦術を見破られるぞ


将軍は内心の焦りを出さない様に、魔物の群れを睨み付けていた。


「うおおおお」

ンメエエエ


魔物は先程みたいに、素早く避けようとはしていなかった。

その代わりに、腰を低く構えて、鎌の攻撃を潰そうと狙っていた。

棒は頑丈そうでは無かったが、腕や馬を狙えば、突進を潰せそうだったからだ。

しかし将軍達も、その考えは予想していた。

問題はこの策が、奇策であって2度目は無いという事だった。


「今だ」

「おおおお」


騎兵達は魔物のすぐ前で、左右に別れながら進む。

急な動きに戸惑って、魔物達は構えを解いて前に出ようとした。


「切り払え!」

「うおおおお」

メエエエ


浮足立ったのを確認して、将軍は次の指示を出した。

後続が左右に別れながらも、鎌で引っ掛ける様に切り裂いて行った。

これは魔物を攪乱する為の策で、実際に上手くいっていた。

数こそ少ないが、不用意に前に出た魔物が、振られた鎌に引き裂かれていた。


そして後続が抜ける瞬間を見て、魔物が後方から襲い掛かろうとしていた。

そこを目掛けて、魔法の矢が飛来してくる。


「撃て!」

「マジックアロー」

メエエ…


殿を狙うと見越して、既に呪文を唱えていたのだ。

そして作戦通り、魔物の群れの前列にマジックアローが降り注いだ。

追撃に集中していたので、ほとんどの魔物が避ける事が出来なかった。

倒す事が出来なくても、負傷で動きが鈍くなる。

それを見越しての攻撃であった。


左右に別れた騎兵達は、そのまま向きを変えながら再び向かって行く。

普段は次の指示を待って、再度突撃か引き返すかを行っている。

しかし今回は、指示が無い限りはそのまま引き返して追撃を行う様に指示されていた。

そして後方から斜めに抜けて、そのまま陣地に戻る様に指示されていた。


「うおおおお」

メ、ンメエエ


魔物はそこで止まると思っていたので、後列が棍棒を構えて追撃をしようと飛び出していた。

しかし騎兵は止まる事も無く、向きを変えながら再び突っ込んで来た。

慌てて迎え打とうとするが、棍棒では鎌に対しては不利だった。

騎兵達は避ける暇を与えずに、一気に切り裂きながら進んで行った。

将軍達の策が当たり、上手く事が進んでいた。


騎兵達は左右から合流しながら、陣地に駆け抜けて戻って来た。

そのまま陣地の奥に入ると、一旦速度を落としながら向きを変える。


「どうどうどう」

「上手く行ったな」

「ああ

 将軍の采配通りだったな」

「馬鹿

 あれは魔術師達も考えてくれたんだ

 後で礼を言わないとな」


兵士達は基本的に、体力の無い魔術師を馬鹿にする傾向がある。

当然騎兵達も、魔術師を侮っている者が多かった。

しかし朝の魔法攻撃を見て、その考えを見直す者が多かった。

そして作戦を話し合う姿を見て、改めて頭の良さに驚いていた。


確かに机上の空論も多いが、戦場を実際に見て、将軍の戦術を聞きながら色々指摘していた。

そして双方が練った作戦を見直した結果、今の作戦が上手く事を成していた。

それを見て、考えを見直す兵士が増えていた。


「後で謝らないといけないな」

「そうだな

 彼等は彼等で、やれる事を精一杯してくれている」

「さあ

 今度は協力して、魔物を討ち倒すぞ」

「おう」


「あー…

 気持ちは分かるが、先ずは呼吸を整えて、次の作戦の指示に従う様に」

「はい」


将軍は注意を促して、浮足立つ騎兵達の気を引き締めた。

そしてアーネストの方を見ると、次はどうするか聞いてみた。


「どうですかな?」

「そうですね

 魔物は攻めるのを一旦止めて、守りに入りました」

「そうですな」


アーネストは魔物の様子を注視しながら、次にどう打つか考えていた。


「どうでしょう?

 一旦私が、魔法で攻撃してみます」

「魔法で?」

「ええ

 その間無防備なので、もし向かって来たら魔術師達に指示を出してください」

「どうの様にしますか?」


「そうですね

 マジックアローで牽制してみて、それでも駄目なら突撃ですね」

「分かりました

 では、ここは守る様に指示しますね」

「ええ

 歩兵のみなさんにお願いします」


「聞こえたか?」

「はい」

「こちらも呪文を唱える用意をしておきます」

「頼んだぞ」

「はい」


将軍が指示を出して、歩兵が盾を構えて前に出る。

騎兵はその間に、少しでも休息して体制を整える。


アーネストは周りの様子を見ながら、呪文を唱える為に集中する。

後の攻撃を考えれば、地形に影響を与える魔法は危険だろう。

そこを考えて呪文を選択する。


「火よ

 火の精霊よ

 我が魔力を力にして、我が目の前の敵を焼き尽くせ」


アーネストが唱え始めたのは、先に放ったファイヤー・ボールの呪文だった。

アーネストの周りに魔力が集まり、火の力が顕現して行く。

しかし呪文は、そこで完成しなかった。


「坂巻炎よ、燃え上がれ

 灼熱の槍を持て

 敵を悉く焼き尽くせ」


アーネストの周りに浮いていた、8個の火球は頭上に集まった。

そこで炎の魔力が集まり、まるでアーネストを中心に燃え上がる様に見えた。


「うおお!

 何だ、これは?」

「凄い…」


それを見た魔物の群れも、警戒して後退った。


ンメエエエ


ボスの魔物の声で、魔物は緊張しながら身を寄せて、守りの姿勢に入る。

それを薄めを開けて、アーネストはニヤリと笑いながら見る。


「却って好都合だ…

 喰らえ

 ボルテック・ランス」


アーネストが叫んで、呪文の結句を唱える。

完成した魔法は、アーネストの頭上に真っ赤に燃え上がる魔法陣を描いた。

そこから炎の槍が出て来て、次々と魔物に向けて放たれた。


ドシュドシュドシュ…


その数、総数で12本の炎の槍が、魔物に向けて放たれた。


メエエ…


魔物は炎の槍を見て、慌てて逃げ出そうとした。

しかし既に間に合わず、槍は魔物に向けて降り注いだ。


ドゴン!

ズガン!

ドガガガ…ゴウッ!


激しい炸裂音が鳴り響き、魔物の泣き声を掻き消した。

そして炸裂した槍は、そのまま炎の火柱となって燃え上がった。


時間にして数秒だろうか?

炎が消えた後には、火傷と裂傷を負った魔物が残されていた。

前列は焼き尽くされており、全滅していた。

後列は火傷程度ではあったが、魔物の数は半数程に減っていた。


「い…今です

 突撃を…」

「あ、ああ

 突撃!」

「う、うおおおお」


歩兵達が進路を開けて、騎兵達が一気に駆け出す。

魔法の衝撃で驚いていたが、将軍の号令で一気に駆け出した。

しかし魔物は怯んでいて、体制を整えられていなかった。

算を乱して逃げ出そうとするが、仲間にぶつかって上手く逃げられない。

それを追撃する形で、騎兵達は後ろから襲い掛かった。


「うわあああ」

「どりゃあああ」

メエエエ

ンメエエ


次々と鎌を振り上げては、振り回して魔物を狩って行く。

既に大勢は決していて、魔物は3分の1程まで倒されていた。

しかしボスは無事に逃げ出して、森の入り口に向かっていた。


「戻れ

 これ以上の追撃は危険だ」

「戻れ、戻れ」

「おお」


将軍はこれ以上は危険と判断して、逃げる魔物は放置して戻れと指示した。


「アーネスト殿は?

 大丈夫ですか?」

「ええ

 魔力切れの様ですね」

「朝も結構使っていましたから」

「そうですか…」


アーネストは呪文を唱えた後、真っ青な顔をして倒れた。

歩兵達が慌てて支えて、天幕に運んで行った。

幸い天幕にはポーションも置いてあったので、既に手当てはすんでいた。


斥候が前に出て、魔物の様子を確認する。


「どうやら…

 うん、魔物は一旦撤退しました」

「あの様子では、暫くは出て来ないでしょう」

「そうか

 引き続き見張っておいてくれ」

「はい」


騎兵達は戻って来て、今度は安全だろうと馬から下りていた。

そのまま馬を休ませる為に鞍も外して、水や飼い葉を与えてやる。


「そのまま休息しておけ」

「はい」


将軍も暫く攻撃は無いと判断して、騎兵達を休憩させる事にした。

その間に歩兵達を出して、魔物の遺骸の回収をさせた。


遺骸は50体近くあったが、残りは消し炭になっていた。

30体程の魔物が、あっという間に消し炭になってしまった。

将軍は改めて、魔法の力の恐ろしさを感じていた。

これが味方だから良かったが、敵対する者に使われたら…これ程の脅威は無いだろう。


将軍はアーネストが休んでいる天幕に近付くと、中に入って様子を見た。


「大丈夫ですかな?」

「ええ」


「それで?

 魔物はどうなりました?」

「逃げ出しましたよ

 さすがにあれほどの魔法を受けた後では、戦意は喪失していたでしょう」

「そうですか…」


「しかし凄い魔法ですな」

「ええ

 あれほどの威力だとは…」

「え?」

「初めて使ったんですが、上手く行って良かったです」


「初めてって…」

「あれほどの魔法ですよ

 試しにでも撃てないでしょう」

「それはそうですが…」


将軍は困惑した顔をしていたが、それは当然だろう。

使った事も無い魔法を、実戦の重要な局面で使ったからだ。


「そんな物を何故…」

「あ!

 いや、練習はしていましたし、使える事は確認していましたよ

 ただ…初めて結句まで唱えたので、思ったよりも魔力を消耗してしまいました

 そのせいで倒れてしまって…」

「いや

 こちらも責めているわけでは…

 しかし他には魔法は…」

「あの場面で魔物を撤退させるには、それ相応の魔法が必要でした

 あのまま戦っていれば、被害が出ていたでしょう」


「それはそうなんですが

 しかし随分と無茶な…」

「ええ

 ですが魔物の総数が分からない今は、少しでも安全な策を用いるしか無いでしょう

 それを考えれば、多少の無理はしても、全体に強力な攻撃を与える魔法が必要だったんです」

「まあ…

 それはそうですな」

「それに、あれだけ派手な魔法を喰らったら

 将軍ならどうされます?」


「そうですな

 先ずは撤退を考えて、次もその魔法を…

 あ!」

「そういう事です

 奴等はあの魔法を警戒しますので、牽制にはなります」

「なるほど

 そこまで考えていたんですね」

「ええ…」


実際は中級位の魔法では、今使える魔法ではボルテック・ランスが一番強力だった。

それを考えれば、呪文の選択は間違いじゃ無かったと思われた。

しかし本当は、そこまで考えていなかった。

それでも士気を高める為に、アーネストは敢えて嘘を吐いていた。

魔物の戦意が下がっていると聞けば、兵士達も士気が上がるだろう。


「今日はもう来そうに無いですね」

「ええ」

「それでは、このまま警戒しながら休息を取りましょう

 馬も疲れているでしょうし、武具の手入れも必要でしょう」

「そうですな」


将軍はアーネストの意見を聞いて、兵士達に指示を出した。

ここで休息を取りつつ、翌日の戦闘に備える為だ。

将軍は指示を出し終わると、自身も休む為に天幕へ向かった。

まだまだ続きます。

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