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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
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第226話

兵士達は森の入り口で向きを変えると、一斉に魔物に突撃をした。

最初の一撃で攻撃の対処を学んだのか、魔物は素早く避けようとしていた

しかし兵士達も考えていたのか、前列は穂先を前にして突進して、後列が鎌を振るいながら駆け抜けて行った

この攻撃で再び、十数匹の魔物が切り倒されていた

騎兵が3人襲われたが、今度は上手く逃げて戻って来た

何とか騎兵は戻って来たが、今の攻撃で警戒をして、魔物は密集して身構えていた

そして魔術師を睨みながら、魔法にも警戒をしていた

どうやら魔力の流れを感知している様子で、足元と魔術師を交互に見ていた

それを見たアーネストは、魔術師達に新しい指示を出した


「マジックアローは使えますか?」

「え?」

「私は使えます」


「それでは使える者だけで良いので、マジックアローを使います

 合図をしたら、一斉に放ってください」

「はい」


「騎兵のみなさんは、その後にもう一度突撃してください」

「大丈夫なのか?」

「既に見切られている様だが?」


「ええ

 ですからマジックアローを撃って、相手を攪乱します」


魔物はまだ、100体近く健在だった。

しかしこのままでは、突撃しても躱されて反撃されるだろう。

そこで意表を突く為に、マジックアローを放つのだ。


「良いか?

 撃て!」

「マジックアロー」


8人の魔術師が、一斉にマジックアローを唱えた。

一斉に降り注ぐ魔法の矢に、魔物達は混乱していた。

てっきり足元を崩されると判断していて、飛来する矢に注意が遅れていた。


「マッド・グラップ」


アーネストが呪文を放ち、魔物達の足元がぬかるんでいく。

王都の魔術師達には、拘束力の強いアースバインドを使わせていた。

しかしこの魔法は、足首を土がしっかりと掴む代わりに、効果範囲が狭かった。

アーネストが使ったマッド・グラップは、魔法としては初歩的な物だが、魔力次第では広範囲に効果を及ぼす魔法だった。

前列の魔物が30体ほど、泥濘に足を取られて動けなくなっていた。


「今だ、突撃!」

「うおおおお」


魔法の矢で視線を上に向かせて、その後に足元を拘束する。

この魔法の効果で、魔物の半数が動けなくなっていた。

そこに鎌の穂先を構えて、騎兵達が一気に突っ込んで行った。


密集していたところで、身動きが取れなくなった。

その為に前列の魔物は、突撃を躱せなくなっていた。

必死に棍棒を振り回していたが、足元が泥濘んでいるので、力が入っていない攻撃だった。


「うおおおお」

ンメエエエ


サテュロスは必死に鳴いて逃げようとするが、足が泥濘に取られているので逃げ出せなかった。

後列の魔物も、前列混乱を見て、慌てて逃げ腰になっていた。

そこへ騎兵が一気に突っ込んで来た。

ある者は馬に跳ねられて。

またある者は鎌の穂先に突き刺されて。

魔物達は一気に後方に吹っ飛ばされた。


浮足立っていた後列の魔物達は、そのまま前列の魔物と一緒に弾き飛ばされていた。

ここでようやく、ある程度の魔物が負傷して倒れた。

止めは刺せていないが、魔物の士気を挫くには十分だった。


「今だ、このまま押し込め」

「おお」


騎兵はそのまま鎌を振るうと、その場で動けなくなっている魔物を次々と切り裂いていった。

しかしそれでも、まだ半数以上の魔物が健在であった。

騎兵が足を止めた事で、拘束されていなかった魔物が、騎兵を狙って動き始めた。


ンメエエエ


「くそっ

 交代するぞ」

「いかん

 そのまま左右に展開しろ

 後ろを向くんじゃない」


将軍は慌てて指示を出したが、数名の騎兵が振り返ろうとしてしまった。

その隙を突いて、魔物が一気に囲んでしまう。


「ぐわっ」

「ぐぶわ…」


新たに5名の騎兵が、魔物の犠牲となってしまった。

その間に他の騎兵達は、将軍の指示に従って、左右に展開する様に離れて行った。

魔物はその後を追おうとしたが、すぐに追いつけないと判断していた。

そのまま再び密集して、魔法に警戒をし始めた。

今度は矢と足元を交互に見て、同じ手は食わない様に警戒している。


「そのまま左右から戻って来い」

「はい」


騎兵達は魔物との距離を取りながら、左右に分かれて陣地に戻って来た。


「少しは倒せたが、それでもまだ80体は居るな」

「ええ

 不意討ちは成功しましたが、もう効かないでしょう」


「もう少し減らせていれば…」

「しかし魔物も素早いです

 あれだけ倒せたので良い方かと」


倒れた魔物の数は、大体40体を超えていた。

しかしここからの展開を考えると、まだ魔物の方が有利だった。

迂闊に突撃しても、躱して反撃をしてくるだろう。

それに魔法にも警戒しているので、最初の様には掛からないだろう。


「もう一度拘束を狙えるか?」

「いえ

 あれは不意を突いたから成功したんです

 警戒されていては、避けられたり簡単に抜け出せるでしょう」

「そうか…」


魔物は騎兵達にじりじりと近付き、隙を突いて襲い掛かろうとしていた。

しかし騎兵達も構えているので、少しずつ距離を詰めながら、お互いが攻撃の隙を窺っていた。


「くっ

 これは難しいな」

「ええ

 思った以上に素早いですし、知恵もありそうです」


実際に、魔法を警戒しているし、突撃に対しても対処し始めていた。

長引けば突進に対処されて、反撃を受けるだろう。

こうなれば少しでも、相手の隙を窺えた方の勝ちになるだろう。


将軍は剣を引き抜いて、自らが先陣を抜けようかと思案していた。

それを見たアーネストは、魔物を追い払う為に賭けに出ようと考えた。


「将軍、今から強力な魔法を使います

 それで魔物が引けば、体制を整えれるでしょう」

「魔物が引かなければ?」

「一斉に攻撃するしか無いでしょう

 このままでは少しずつ、削られて不利になります」

「ううむ…」


「火よ

 火の精霊よ

 我が魔力を力にして、我が目の前の敵を焼き尽くせ」


アーネストが呪文を唱え始めると、周囲に8個の魔力の塊が現れて、やがて赤い炎の塊に変わった。


「行きます

 ファイヤー・ボール」

ゴウッ!

ズガガガガーン!


ンメエエエ

メエエエ


8個の大きな火球が、轟音を上げて魔物に向けて飛んで行った。

そして直後に轟音がして、激しく燃え上がった。


さすがに至近距離に火球が飛んで来ては、魔物も冷静にはなれなかった。

次々と着弾して、爆発の衝撃と炎が燃え上がっていた。

そこには20体近くの魔物が、炎に巻かれて焼き尽くされていた。


「今だ!

 左右から交差する様に、魔物を蹴散らして駆け抜けろ」

「おおおお」


騎兵達は鬨の声を上げると、左右から一気に駆け抜けて行った。

これでまた数体倒されて、魔物の数は減っていた。


「そのまま止まらずに駆け抜けろ」

「うおおおお」


騎兵達が大声を上げて駆け抜けて、クリサリスの鎌を振り回す。

騎兵達は一気に駆け抜けたが、また2名が囲まれて落とされていた。

これで8名が魔物にやられたが、魔物の方が被害は大きかった。


「大分減らしたぞ」

「一気に蹴散らしましょう」


騎兵達は士気が上がっていたが、それを見て魔物は恐れをなしたらしい。

我先に逃げ出して、森の入り口に向かって行った。


「いかん

 追うのは止めろ」


将軍はすぐに気が付いて、騎兵達に追撃を止める様に告げた。


「え?」

「どうどうどう…」

「何で追撃しないんですか?」


「馬鹿者

 このまま追撃したら、森の中でやられるぞ

 逃げる敵には追撃はするな」

「はい」


「今は魔物を追う事より、被害の確認と止めを刺すんだ」

「はい」


騎兵は馬から下りて、天幕の近くに括り付けた。

歩兵達は戦闘の事後処理をする為に、魔物が倒れている場所に向かった。


「良いか

 慎重に近付けよ

 逆襲されて死ぬなんて事になるなよ」

「はい」

「それから負傷者の確認をしろ

 怪我を負った者は、ただちに治療を受けろ」

「はい」


将軍も前に出ると、倒れた騎兵達の様子を見に行った。


「どうだ?」

「こいつもダメです」

「そうか…」


落馬した騎兵達は、みな棍棒で殴られていて絶命していた。

逃げきれた騎兵も負傷していたので、ポーションを掛けてから包帯を巻いていた。

それから1体1体魔物の首を突いてみて、死んでいるか確認をしてみる。

全ての作業が終わってから、兵士達は魔物の遺骸を運んだ。

ここで手足の腱を切ってから、空いている馬車に詰め込んだ

持ち帰って素材を確保する為だ。


「念の為に首も刎ねておけ

 そうすれば亡者にはならないだろう」

「大丈夫ですかね?

 伝記には首なしの魔物も出て来ますが…」

「馬鹿

 それは物語の中の話だ

 首を刎ねておけば、亡者として起き上がる事は無い」


本当は首なしの亡霊騎士や、実体の無い亡者なども存在する。

しかし高位な魔物なので、現れる事は無いと思われた。

兵士を無用に怖がらせる必要も無いから、アーネストは黙っていた。


「魔物の遺骸は全部で46体です」

「騎兵の犠牲者は8名が亡くなっています」

「負傷者は26名いましたが、いずれも軽傷です

 手当てをすれば問題はありません」

「うむ

 ご苦労だった」


将軍は頷くと、亡くなった兵士達の前に立った。

そのまま騎士の礼をして、亡くなった者達の冥福を祈った。


「天上におわす女神様よ

 我らの友の冥福を祈ります

 彼等を誘い、安らかな眠りに着かせたまえ」

「彼等に安らかな眠りを」


将軍の祈りの言葉に合わせて、仲間の騎兵達も祈りを捧げた。

そして遺体を馬車に載せると、その上に布を被せた。


「くそっ

 8名も亡くなったのか

 悔しいな…」

「くそっ

 スコットの奴は、今月婚約したばかりだったんだぞ

 何で死んじまったんだ」


騎兵達は仲間の死を悼み、馬車に横たわる死体の前で手を合わせた。

彼等が亡者にならない様に、女神に祈っていた。


アーネストは魔術師を集めると、先の戦闘の問題点を確認した。

魔法の発動はそこまで遅く無かったが、思ったほどの効果を発揮出来ていなかった。

今の状況を考えると、もっと効果や範囲を考えて、確実に魔法をぶつけたかった。

そうする事で魔物の足止めが出来るし、騎兵達の危険が減るからだ。


「魔物が動きが素早いので、ある程度動きを予想しないと当たらないよ」

「そうですね

 範囲指定をする魔法とはいえ、肝心の魔物がそこに居なければ意味がありませんですね」

「だから呪文を先に唱えておいて、タイミングを合わせて放つんだ」

「そうですね

 一人分では狭い範囲でも、複数人ならカバー出来ますね

 しかしこの人数では、逆に被らない様に周りを埋めた方が良くないですか?」


若い魔術師が、地面に魔物の群れを描き、魔法の範囲を図で示す。

それを他の魔術師が意見を出しながら、色んな案を出してみる。

こうして地面に図を書きながら、互いにどうにか出来ないか考えてみる。

普段の魔術師ギルドの日常的な会話が繰り広げられていた。


暫く話し合っていると、興味を持ったのか将軍が横から覗き込んだ。

そして話し合いを聞きながら、騎兵側からの意見を出してきた。


「この図で見ると、魔物を塊として見ているな」

「え?

 はい、そうですが?」


「それならこちらを前列として、こことここに魔法を仕掛けれるか?」

「ええ?

 でも、そんな事をしても意味がありませんよ?」

「そうじゃあない

 ここに狙いを向ければ、後列の魔物がこっちしか動けないだろう?

 そうなればこう動くから、結果として囲んだ事になる」


「しかし魔物がこっちに来るとは…」

「それなら騎兵達を、こういう角度で…」

「あ!

 そうか、騎兵が来るなら、魔物はこっちを向きますね」

「だろ?

 そうすれば少ない人数でも、安全に削る事が出来る」


それから部隊長も呼んで、一緒になって作戦を練る。

将軍としては群れの塊を動きにくくさせて、周りを削る様に突進を掛けたかった。

先の戦闘で80体ぐらいにまで減らせたが、魔物がそれだけとは限らない。

先より多い数で来られたら、騎兵達も無事では済まないだろう。

いや、逆に先の戦闘では、魔物も経験不足だったみたいで動きが悪かった。

そうでなければもっと犠牲者が出ていただろう。


「だから、こう来たらこう向かって来るだろう?

 逆に逃げ出そうとすれば、こちらがこう動くしかない」

「ふむ

 そうですな

 ここから向きを変えて、横っ腹を削りましょうか?」

「ああ

 そうすれば反撃されても、そのまま逃げ切れるだろう」


将軍は兎に角、先ほどの様に反撃で死者が出るのを懸念していた。

人数が減るという事は、それだけ任務の達成が難しくなるのだ。

単純に数で考えるのでは無く、全体の事も考えて判断していた。


「数が先ほど程度なら良いが

 それ以上だとマズいな」

「そうですね

 その時はどうしますか?」

「一目散に逃げるさ

 歩兵には悪いが、騎兵は数で囲まれると身動きが取れなくなる

 そうすれば後は、囲んで削られて行くだけだ

 最悪の場合は…」


将軍はその先を敢えて口にしなかった。

それは将軍としては、避けたい最悪の手段だったからだ。


「そうですね

 そうならない為にも…」

「ここを死守するしか無いですね」


互いに策と要望を出しながら、部隊長と魔術師は意見を擦り合わせていた。

戦場の判断は部隊長の方が上だったが、策に関しては魔術師の方が上だったからだ。

頭が切れる分、部隊長が考えたい状況に対して、想定される事態を書き込んで行く。

そうして予想を話し合って、魔物に合わせてどう動くべきか話し合わされた。


こうして話し合いを行っている間に、歩兵達は食事の準備をしていた。

先程は朝食も取らずに戦闘をしていた。

戦場の緊張で忘れていたが、スープの匂いが漂って来た頃には、みなの腹の虫が鳴っていた。

まだまだ続きます。

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