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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
223/800

第223話

ギルバートはリュバンニの砦に入ると、愛馬を預けて城門を潜った。

既に時刻は8時を回っていて、空腹と疲れで足取りは重かった

しかし報告する事があるので、マーリンが馬車から出て来るのを待っていた

マーリンと合流したところで、そのまま奥の領主の執務室に向かった

この時間なら、まだバルトフェルドは起きていた。

報告する為に、マーリンは入り口のドアをノックしていた。

執務室に通されると、ギルバートはさっそく先ほどの魔物の件を話した

ボルの事も重要だったが、街に近い魔物の事が優先事項だと踏んだからだ

早急に手配しなければ、既に夜になっている

さすがにすぐには出せなかったが、翌朝には増援が向かわされる事となった


「わざわざ報告をありがとうございます」

「いえ

 既に犠牲者が出ています

 早急な対処が必要だと思いまして」

「そうですな

 商人にも確認しまして、遺族には何某かの補償を致しましょう」

「お願いします」


「それで?

 ボルの町はどうでした?」

「それなんですが…」


ギルバートはここでも魔物が出ていて、増援が必要だと告げた。

既にオークは倒していたが、他の魔物が現れる恐れがある。

それを考えれば、王都からの増援が必要であった。


「なるほど

 確かにマズいですな」

「ええ

 城壁と堀は作りましたが、魔物が数で攻めて来てはもたないかと」


「そう考えれば、こちらからも増援を出した方がよろしいんでしょうが…」

「何分公道の警備も強化しなければなりません

 我が街からの増援は無理でしょうな」

「ううむ

 そうだなあ…」


バルトフェルドとしては、増援は送りたいところではあった。

ノフカやトスノの軍を派遣するという手もあるが、先月のコボルトの件が響いていた。

リュバンニも決して軽い被害では無く、それぞれの町が兵士不足で苦しんでいた。


「冒険者では駄目でしょうか?」

「そうですな

 ダーナでは冒険者も活躍したみたいですが…

 この辺の冒険者では、実戦経験が不足しておりましてな

 満足に戦える者が少ないんですよ」


「それでは、冒険者を軍に出向という形では?」

「出向ですか?」

「ええ

 足りない分を補うんです

 そうすれば派遣する兵士も減らせます」


「しかし実戦経験が乏しいですよ?」

「そこは兵士でも同じでは?」

「ううむ」


「あくまで希望者が向かう事にして、自己責任で向かわせましょう

 その代わり装備は貸し出して、訓練も受けてもらう」

「どうでしょうな?」


「実際に兵士が足りていないのは問題です

 その人数不足を補う為の代替え案です」

「分かりました

 明日にでも陛下に上申して、許可を取り付けましょう」

「そうですな

 勝手にやっては問題ですから

 先ずは国王様に許可を頂きましょう」


こうして冒険者を臨時で雇う事にして、兵士不足を補う事となった。


しかし問題は、他にもあった。

公道に魔物が出る事だ。


ダーナでは冬は魔物は出なかったが、こちらではまだ魔物が出て来ている。

これは想定外の事で、このままでは冬季でも公道に警備兵を配置する必要が出て来る。

予定では年末から雪が溶けるまでは、兵士の配置は行わない事となっていた。

雪で兵士の移動が困難になるからだ。


「しかし弱りましたな

 本格的に積もってしまうと、詰所に向かう事も難しくなります

 そこへ魔物が向かって来ては…」

「そうですね

 しかし詰所を空にするのも危険でしょう」

「そうですな…」


この点は暫く話し合われたが、具体的な対策は浮かばなかった。

取り敢えずは援軍は送るが、いつまでも詰所に留めておく事は出来ないだろう。

時期を見て、引き上げも考えなければならなかった。


「止むを得ん場合には、詰所を諦めて放棄するしかありませんな」

「そうですね

 人命には代えられませんからね」


一通り話し合っていると、時刻は10時を回っていた。

執務室にも軽い軽食は出されたが、のんびりと食べていられる状況では無かった。

そこでバルトフェルドは、執事を呼んで食事の用意をさせた。

使用人達も予想していたので、話し合いをしている間に準備はしていた。


「殿下

 こんな時間ではございますが、よろしければ夜食を召し上がってください」

「よろしいんですか?」

「ええ」


「実は腹ペコだったんですよ」

「ええっと…

 殿下はパンも召し上がっていませんでしたか?」

「え?

 あはははは…」


軽食として、黒パンと焼き菓子が用意されていた。

ギルバートはパンを2個食べていたが、まだ空腹であった。

一方マーリンは、焼き菓子で既に腹は膨れていた。


「はははは

 殿下はまだ、食べ盛りだろう」

「そうですな

 ワシはもう、食べれませんよ」

「マーリン

 お前ももっと食べなければ…

 痩せすぎだぞ」

「誰のせいで痩せてると思っているんだ」


マーリンは不規則な食事と、忙しさから痩せていた。

その事自体には不満が無かったが、バルトフェルドから言われると不機嫌そうな顔をしていた。

忙しさの原因が、バルトフェルドにあったからだ。


「はははは

 すまんすまん」

「まったく

 ワシが倒れたなら、お前のせいだぞ」

「そうならない為にも、今夜はもう休んでくれ」


「馬鹿を言うな

 明日の書類があるだろう?」

「それぐらいなら、ワシと文官で…」

「お前が?」


バルトフェルドが書類を書くと言うと、マーリンの視線が冷たくなった。


「いつも誤字脱字でワシが直しておるのに?」

「それは…

 そのう…」

「やはりワシが…」

「良いから、今日はもう休んで…」


二人が言い争い始めたので、執事がギルバートを見て頷いた。

ギルバートはそのまま執事に従って、食堂に向かった。


「申し訳ございません

 あのお二人はいつもああで」

「構いませんよ」


ギルバートはニコリと笑顔で答えてから、食堂に入った。

そこには夜食という事で、簡単なスープが用意されていた。

出来立ての温かい湯気が立つスープを、ギルバートはゆっくりと楽しんだ。


「ふう

 冷えた身体に染み渡る」

「それは良かったです」


「申し訳なかったですね

 こんな時間に」

「いえ

 殿下も遅くまで頑張られていたのです

 私達も世話を出来まして嬉しいです」

「ありがとう」


ギルバートは笑顔で食べ終わると、そのまま出されたお茶を飲んだ。


「お風呂はどうされます?」

「そうか

 ここにはお風呂もあるんでしたよね」

「ええ

 兵士も使いますので、そこそこの広さの風呂になります」


「お湯は?

 魔道具で沸かしているんですか?」

「ええ

 ですからお気兼ねなくお入りください」

「ありがとう

 そうさせてもらうよ」


ギルバートは案内されて、共同の浴場へ向かった。

そこは兵士も使うのだが、今の時間は誰も入っていなかった。


浴場は大理石を切り出して造られており、大きな湯船には魔道具でお湯が張ってあった。

切り出された岩が獅子の形に掘られており、そこの口からお湯が流れ出て来る。

洗い場には植物から作られた、洗浄用の油も置かれていた。

ギルバートは頭からお湯を被り、旅の汚れを落とし始めた。


全身に洗浄用のオイルを塗ってから、お湯を汲んで洗い流す。

すっかり汚れを落としてから、湯船に浸かってみる。

身体の芯からぬくもって、旅の疲れが抜けていく。

暫く湯船に浸かってから、ギルバートは風呂を出た。


風呂から出ると、メイドが代えの服とタオルを用意していた。

服を着替えてから、メイドに案内されて寝室へ向かった。


「今日は他の来客もいらっしゃいますので、こちらの寝室をお使いください」

「分かりました

 ありがとうございます」


ギルバートは疲れていたので、そのまま就寝する事にした。

寝室に入ると、そのままベットに倒れる様に寝てしまった。


翌日は朝早くから起きると、ギルバートは食堂に向かった。

そこにはバルトフェルドが既に居て、家人と朝食を摂っていた。


「おはようございます」

「おはようございます、殿下

 ゆっくり休まれましたでしょうか?」

「ええ

 おかげさまで疲れは取れました」

「それは良かった」


ギルバートが席に着くと、さっそくメイドが食事の準備を始めた。

季節は冬になっていたが、新鮮な野菜のサラダが用意されていた。

パンも焼きたてのパンが用意されていた。

ギルバートはサラダをよそおってもらい、干し肉と一緒に食べ始めた。


「殿下はもう、王都に帰られるんですか?」

「ええ

 北に現れた魔物も気になりますので」

「そうですか」


「ゆっくり逗留されるのでしたら、旅の楽人が来ていたのですが」

「吟遊詩人ですか?」

「ええ

 旅の楽師だそうです」


「興味はあるんですが、残念です」

「そうですか」

「まあ、旅をしているのでしたら、王都にも来るでしょう」

「そうですな」


吟遊詩人は町から町へと移動しながら、独自の唄を弾き語って回る。

その唄の題材は、最近の戦争から過去の英雄の物語までと幅広い。

彼等の唄を聞く事は、色々な情報を得る手段でもあった。

旅の楽師という事もあって気になったが、今は魔物の方が重要だった。


ギルバートは朝食を終えると、そのまま護衛の兵士と合流して、城門の方へ向かった。

今回はバルトフェルドも忙しいので、別れの挨拶は済ませてあった。

そのまま愛馬のハレクシャーを受け取ると、大通りを引きながら移動した。


「季節は冬なんですが、リュバンニの街も人通りは多いですな」

「そうですね

 他の町と比べると、やはり人が多いんでしょうね」

「ここは大きな街ですからね」


兵士達と移動しながら、ギルバートは街並みを眺めていた。

王都の街並みとは違うが、人の多さは同じぐらいだった。

これはリュバンニが栄えている事もあるが、魔物が出ている事も関係していた。

魔物が出る為に、他の町や村から避難している住民も居たからだ。


「その割には、住民の衣服はあまり良くなさそうだな」

「そうですか?」

「ああ

 王都ほどでは無いにしても、ボロボロの衣服を着た者も居る」

「ああ

 それは避難してきた者達でしょう」

「避難?」


「最近は魔物がよく出ていましたので、小さな町や村から、王都や大きな街へ避難している者が多くなっているそうです」

「それは危険だからか?」

「ええ

 高くて頑丈な城壁が無いので、大きな街に避難するんですよ」

「そうか…」


ギルバートは避難民と聞いて、同情する様な顔をした。

しかし兵士はそんなギルバートを見て、注意する様に声を掛けた。


「殿下

 お気持ちは分かりますが、その様なお顔をされて見てはなりませんよ」

「え?」


「彼等は生活が苦しくても助けを求めてはいません

 下手な同情は傷つけるだけですぞ」


アルミナが囁く様に忠告してきたので、ギルバートは視線を逸らした。

確かに同情していたので、失礼な事をしていたと気が付いたのだ。


「バルトフェルド様も対策はしているでしょうし、全員が全員なわけではないでしょう

 恐らくですが、最近避難した者も居るのでしょう」

「そうか

 離れた場所からでは時間が掛かるからな」

「ええ

 恐らくは南の村から避難したのでしょう」


ギルバートはコボルトが現れた時に、この街には居なかった。

だから村人たちが避難していた事を知らなかった。

しかし街の入り口付近の避難民用の建物に、多くの住民が集まっていた。

その様子を見て、大規模な避難があったとは想像が出来た。


「魔物の被害は深刻なのかも知れないな」

「ええ

 急いで王都に戻りましょう」


ギルバートは護衛兵と共に、城門を潜って街の外に出た。

そのまま先を急いで駆け出すと、昼を過ぎる頃には王都の近くまで来ていた。


「王都が見えて来たぞ」

「はい

 あと少しですね」


「このまま休憩はしないで、王都に帰還するぞ」

「はい」


アルミナは返事をしながら、仕舞っておいた王家の旗を取り出した。

そのまま遠くからも見える様に掲げて、王都の城門へと向かった。


「殿下のご帰還だぞ!」

「おお

 無事に戻られたか」

「ああ

 間もなく到着するから、準備をしておいてくれ」

「分かった」


門番の兵士達は頷くと、貴族用の門を開いた。

ここを通れば待たなくて済む。

それを考えての先触れになる。


数分後には、ギルバート達も城門に到着した。

すぐに兵士が来て、簡単な確認をする。


「殿下

 無事に戻られたんですね」

「ああ

 少し時間は掛かったが、ボルの魔物騒動も片付いた」


「では、国王様がお待ちしております

 王城に向かってください」

「分かった」


ギルバートは答えながら、ふと気になって確認した。


「そういえば、北の魔物はどうなったんだ?」

「あ…

 一昨日、将軍が出兵致しました」

「え?

 出兵したのか?」

「はい

 軍には魔術師も着いていますので、問題は無かろうかと思います」

「そうか…」


「アーネストは?

 アーネストはどうしているか聞いているか?」

「ええ

 将軍と一緒に出兵致しました」

「将軍と?」


「魔術師の魔法で、攻撃の補助をしてもらうそうです

 アーネスト殿も同行しています」

「そうか」


ギルバートが出兵する際に、アーネストにも話は来ていた。

しかし既に出発しているとは思っていなかった。


ギルバートは友と入れ違いになった事を残念に思った。

しかし報告すべき事があるので、急ぎ国王との面会を申し込んでいた。

王城の城門を潜りながら、ギルバートは奥の執務室へと向かった。

まだまだ続きます。

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