表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
218/800

第218話

ギルバートはさっそく救護院を見て回り、話せそうな者を探した

話せる者が居れば少なからず魔物の情報が聞き出せるからだ

今は少しでも情報を聞き出して、魔物への対策を練らないといけない

そうしないとこの町を棄てて、住民は避難しないといけないからだ

しかし魔物の正体が分からない以上、逃げる事も困難だろう

最悪の場合を想定して、マーリンは主要な者だけを逃がす算段を練っていた

それだけは避けなけらばならない

このまま逃げ出すとなれば、住民を置いて軍とマーリンだけで逃げる事となる

そうすれば、領主と住民を置いて行く事になる

領主は覚悟を決めている様子だが、それだけは避けたかった

王子であるギルバートとリュバンニの重鎮であるマーリンを逃がす

その為にボルの住民を囮にするなどギルバートには耐えられなかった


救護院は教会の一部を使い、怪我をして動けない者を休ませていた。

そこには20台の寝台が置かれて、重傷者が14名寝かされていた。

その中で話せないほどの重傷者が6名寝ている。

残りの8名に近付くと、ギルバートは順番に話を聞いて回った。


「え?

 魔物ですか?」

「ああ

 どんな格好をしていたか見ているか?」

「そうですね

 私は後ろからやられて見ていませんが、あちらの若者なら…」


ギルバートは老人に聞いた若者に話を聞く。


「ええっと

 その爺さんが襲われていて、オレも必死で鍬を振り回したんだ」

「どんな格好をしていたんだ?」

「猪だ

 大きな猪だよ」

「猪?」


オークだと思っていたが、その二人はどうやら猪の様な魔物に襲われたらしい。


「獣だったのか?」

「ああ

 四足で大きな魔物だった

 あれは猪に見えたが、間違いなく魔物だよ」

「ふむ

 どうやらワイルド・ボアも居る様だな」


ギルバートはメモを取りながら、さらに質問を続けた。


「そいつは何匹くらい居たのか?」

「そうだなあ…

 オレが見たのは4匹だったけど、昨日死んだ奴は6匹は見たと言っていた

 そのまま傷が悪化して死んだが、あいつは子供達を逃がそうとしたんだ

 それが徒となって…くっ」


どうやら6匹は居たらしいが、肝心の目撃者は亡くなったらしい。

ギルバートはさらに、別の者にも話を聞いた。


「ワシが見たのは人間じゃった

 いや、人間の様な魔物じゃろうか?」

「どんな格好をしていたんだ?」

「それは…

 猪の頭を被っておった」

「猪…

 豚では無いのか?」

「ああ

 猪じゃった

 豚よりも毛深くて、毛の色も違っておった

 間違いねえ、あれは猪じゃった」


「ううむ

 そいつは鎧とか武器とか身に着けていたか?」

「いや

 腰布は巻いておったが、武器の様な物は…

 精々何匹かが棍棒の様な物を持っていたぐらいじゃった」


他にも話を聞いて回ったが、有力な証言は得られなかった。

分かった事は、ワイルド・ボアとオークに似た猪の頭の魔物が居て、そいつ等が町の西の森から出て来る事ぐらいだった。


「集まった情報は少ないな」

「それで?

 殿下はどうするおつもりで?」


「うん

 ここで出来るだけ戦力を削ぎ落す」

「出来ますのですか?」

「敵がオークとワイルド・ボアなら…」


勝算が無いわけでは無かった。

護衛の警護兵は腕が立つし、マーリンが連れて来た兵士も居る。

問題は魔物と戦った経験が少ない事だ。

戦闘方法を考えても、その通りに出来るかは不安があった。


「魔物がオークなら、集団で迎え撃つ事は無いだろう

 奴等は頭があまりよくない

 力任せに向かって来るだろう」

「オークで無かったら?」

「…」


そこが問題だった。

どうやらアモンが連れていた、知恵のあるハイランド・オークという種族では無いらしい。

しかし猪の頭をしていたという証言が、どうにも気になってしょうがなかった。


「聞いた特徴ではオークで間違い無さそうだが、猪の頭と言うのが気になる」

「そうですな

 ワシはそこから、オークの亜種であると推測しています」

「亜種か…」


「ええ

 それでどういった違いがあるのかは分かりません

 しかし頭が違うと言うのなら、コボルトみたいに違いがあるのでしょう」

「そうだな」


「しかし少なくとも、喋ったり知恵が回る様子は見られない

 それならば、町の周りに堀を作ったり、罠を仕掛けるのはどうだ?」

「なるほど

 相手が頭が回らない以上、罠で足止めが効くでしょうな」


「それとワイルド・ボアだが

 魔獣は人型と違って頭は使わない

 本能に任せて突進して来るだろう」

「それならば堀があれば…」

「ああ

 突進を防げるし、上手く立ち回れば堀に落とせるだろう」

「ううむ」


マーリンは少し考えてから、領主に相談する事にした。

ここは男爵領なので、男爵の方が詳しかった。

彼に任せて、堀や罠の設置をさせる事となった。


「すまんがキルギス男爵を呼んでくれ

 ワシが話があると伝えて欲しい」

「はい」


マーリンは兵士に指示を出すと、離れた場所で相談を始めた。

ギルバートは救護院を出ると、その足でギルドへ向かった。

ここの冒険者ギルドに向かって、少しでも兵力を増やす為だ。


ギルドに入ると、さっそく受付に向かい、ギルドマスターに面会の手続きをした。


「すまんが、ギルドマスターはここに来ているかな?」

「はい

 どういったご用件でしょう?」


受け付けは王都の兵士の恰好をした少年を見て、不審そうな顔をした。


「私はギルバートと申します

 ギルドマスターと折り入って相談があるのですが」

「あなたの様な少年兵が?

 申し訳ございませんが、ギルドマスターは現在、魔物の対策でお忙しいのです

 お会いになる暇はございません」

「そこを何とか」

「はあ…」


受け付けは溜息を吐くと、ギルバートを睨み付けてから奥へ下がった。

どうやら見た目で不審がらせた様だと、ギルバートは感じていた。

これならせめて、貴族らしい格好をしてくれば良かったと思っていた。


少し時間が経つと、奥から怒鳴り声が聞こえて、慌てて走って来る音が聞こえた。


「申し訳ございませんでした」


大声を上げながら、中年の男性が駆け出して来た。


「受付の者が大変な失礼を…」

「よい

 この格好だし、素性を知らなかったのだろう?」

「はい

 しかし王子に失礼な事を…」


「今はこちらも忙しいのだろう

 それよりも話したい事がある」

「はい」


「そうですね

 ここでは…」

「うーん」

「奥の部屋で話しましょう」

「分かった

 任せよう」


ギルバートは周囲を見回して、ここではマズいと考えた。

そこで奥で話しましょうと提案してきた。

その間も、受付はギルドマスターの慌てぶりを見て、顔色を変えていた。

自分が粗相をしたと気付いて、みるみる顔色が青くなっていった。


これは後で叱らない様に言って、フォローをしておかないといけないな

自分がこの格好で来たのだから仕方が無いだろう


ギルバートはそう思いながら、ギルドマスターの後に着いて奥へ入った。

そこはギルドマスターの執務室で、資料や書類が積み重なっていた。

ここ数日魔物に関する依頼が増えて、書類の整理で手一杯だった。


「すいません

 こちらへどうぞ」


来客用の椅子に促されて、ギルバートはギルドマスターと向かい合って座った。


「それで、どういったご用件でしょうか?」

「そうだなあ

 現在このギルドでは、冒険者は何名ぐらい抱えているのかな?」


ギルドマスターは少し考えてから、具体的な数字を挙げた。


「そうですなあ

 冒険者となれば、大体80名ほどといったところでしょう」

「その中に、魔物と戦えそうな者は?」

「皆無でしょうな

 普段から雑用や狩にでるぐらいです」

「そうか…」


「狩に出ていた者は?

 例えば猪を狩った事のある者は何名ぐらい居ますか?」」

「猪ですか?」

「ええ

 オークは無理にしても、ワイルド・ボアを狩る事が出来れば

 それだけ兵士がオークに集中出来ます」

「ワイルド・ボア?」


ギルバートはワイルド・ボアという魔獣の事を説明した。

猪を大きくしたような魔物で、突進と牙による攻撃が脅威な魔獣だ。

しかし遠距離から矢で狙えれば、それだけ負傷するリスクを抑えれる。


「頑丈な表皮をしているので、普通の矢では歯が立たないでしょう」

「それなら狩の経験がある者でも、無理ではありませんか?」

「普通の矢ではと言いましたよ」


ギルバートはそう言うと、魔鉱石の使われた矢を出して見せた。

それはダーナを発つ時に、職工ギルドから餞別に渡された物だった。

既に何本か使っていたが、まだ30本以上残っていた。


「予備があれば良いのですが、今はこれだけしかありません」

「これは…」

「特殊な素材で作られた鏃を付けています

 魔物の素材があれば、加工をしてもらえるんですが…」

「魔物ですか…

 ん?」


ギルドマスターは慌てて資料を調べると、少量の魔物の骨が残されているという記録を探した。

それは以前に、ダガー将軍が帰路に着く時に立ち寄った時の事だ。

将軍はボルの町で、コボルトと戦っていた。

その死骸は焼かれていたが、皮と骨は素材として確保されていた。


「殿下

 少量ではありますが、コボルトの骨と皮がございます」

「コボルトの?」

「ええ

 ダガー将軍が討伐した際に、幾つかこちらでも死骸を処理しました

 その際に素材として、骨と皮を取っている様です」


「それは何処に置いてあるのかな?」

「職工ギルドに保管されている筈です

 これから向かいますか?」

「ああ

 すぐに向かった方が良いだろう

 使えそうなら、加工して武具を作る必要がある」

「分かりました」


ギルドマスターは頷くと、すぐさま外出の支度を整えた。

このまま書類整理を続けたかったが、魔物討伐の打開策になりそうだと言うのなら話は別だ。

町を守る為にも、早急に手を打つ必要があった。


「ちょっと出かけて来る」

「はい」


受け付けは緊張した顔をしていたが、先ほどの事があるからか素直に通してくれた。

ギルバートはそのまま、ギルドマスターと共に職工ギルドに向かった。

そしてこちらのギルドマスターも呼び出した。


「王子がいらっしゃっているって?」


職工ギルドマスターは、渋い顔をしながら出て来た。


「何があったんですか?」

「そうだな

 こちらに魔物の素材があると聞いて来たのだが?」

「魔物?

 ああ、コボルトの…」


職工ギルドマスターは職員に声を掛けて、大きな木箱を2つ運んで来させた。

その中には鞣された革が入っており、もう一つには骨が入っていた。

ギルバートは骨を取り出すと、叩いたりして状態を確認する。


「よく乾燥してある

 こいつを砕いて骨粉は出来るかな?」

「ええ

 それぐらいなら簡単な事ですが?」


「それなら骨粉を作って、鉄と一緒に鋳造出来ないかな?」

「鉄と?

 それは骨粉を加えて鋳造するという事ですか?」

「ああ」

「そんな事をすれば、不純物で鉄が駄目になりませんか?」


ギルバートは腰のナイフを引き抜くと、それを職工ギルドマスターに手渡した。


「これは魔鉱石という素材で作られた物です

 魔鉱石は魔物の素材で作った鉄です

 魔力を含んでいるので、鉄より硬くて軽いです」

「これは…」

「まあ、それはもっと強力な魔物の素材ですから

 コボルトではそこまで大きな違いは出ないかも知れません

 それでも魔力が込められた素材ならば、魔物との戦いに有利になります」


ギルバートはそう言って二人の方を見た。

両ギルドマスターは互いを見て頷くと、すぐさま製造を開始する事にした。


「あのう…

 骨が有用なら、皮も使えますか」

「ええ

 皮鎧にして使わせてください

 今は一人でも多くの者に、装備を渡す事が重要です」

「分かりました

 革職人も用意しましょう」


「これでワイルド・ボアに対する手は打てるかと

 後はオークですが、こちらは兵士に任せるしかありません」

「兵士ですか

 しかしダガー将軍が置いて行った兵士達は、いずれも怪我は癒えていませんよ?」

「え?

 ここにも居るんですか?」

「はい

 救護院には居ませんが、兵舎に休ませているそうです

 しかし重傷ですから、とてもじゃないですが戦闘は…」


「そうですか

 それならば、尚の事ここは守らなければなりませんね」


ギルバートはそう決心すると、冒険者ギルドマスターに話し掛けた。


「これで鏃を作っていただいて、町の城壁から魔物を狙ってください

 それならば冒険者でも倒せると思いますので」

「分かりました

 弓が得意な者を集めて、魔物に当たらせます」

「頼みましたよ」


ギルバートは職工ギルドを出ると、魔術師ギルドにも向かった。

ここは普段はアーネストの領分で、ギルバートは詳しく無かった。

しかし今は非常時なので、そんな事を言っている場合では無い。

少しでも戦えそうな者が居るのなら、戦場に出る事をお願いしたかった。


ギルバートはギルドに入ると、先ずは受付に向かった。

先程の経験を活かして、先ずは名前を名乗る事にした。


「私はギルバートと申しますが、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」

「ギルバート…

 ギルバート王子ですか?」

「はい」


「少々お待ちください」


受け付けは名前で身分に気が付き、大慌てで奥へ向かった。

それからすぐに、ギルドマスターを連れて戻って来た。

彼は小柄な老人で、杖を突きながら現れた。


「これはこれは王太子殿下

 この様な所へどうして」

「私はまだ、王太子ではないよ

 それにどうして来たのかは、既に分かっているのでは?」

「そうですね

 魔物に対する魔法を使える魔術師を探している

 そんな所ですか?」

「ええ」


「それでは奥で話しましょう」

「分かりました」


ギルバートはギルドマスターの案内で、奥の応接室へ向かった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ