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聖王伝  作者: 竜人
第八章 冬の訪れ
210/800

第210話

翌日になり、ギルバートは昼まで訓練場で指導していた

昼から職工ギルドに行くつもりなので、アーネストとはそこで合流するつもりだった

いつものように身体強化を施しつつ、走り込みや素振りをさせる

それから二人ずつに分かれて、打ち込みを始める

この頃は少しずつではあるが、身体強化の効果が出始めていた

このまま鍛えていれば、もう1月ぐらいで使える様になるだろう

問題は、強化時間がまだ短い事であった

午後は自主訓練として、ギルバートはギルドに向かった

そこではアーネストが既に来ていて、ギルドマスターから説明を受けていた

カウンターには2本のショートソードが置かれていて、どうやら魔鉱石の武器が完成した様だった

ギルバートはそれを持ってみて、完成度を確認してみた


「どうですか?

 問題は無いとは思いますが?」


ギルドマスターは隈の出来た顔を眠そうにしていた。

どうやら徹夜で頑張った様で、昨日見た職人達は姿が見えなかった。


「昨日の職人達は?」

「今朝には帰しました

 さすがに徹夜は可哀想でしたので」

「そうか

 一応確認するけど、これの事は秘密にしているかい?」

「そりゃあ当然です

 まだ軌道に乗っていません

 具体的な計画が出来るまでは、内密にしておきます」

「うん

 頼んだよ」


ギルバートはショートソードを持つと、失敗作の入った樽に近付いた。

そこから無作為に1本引き抜くと、試しに魔鉱石の剣で叩いてみせた。


「ふん」

ガキーン!

ゴトッ!


折れると言うよりは、叩き切られたという表現が正しいだろう。

切られた断面は滑らかで、魔鉱石の剣の強さを確認出来た。


「どうですか?」

「ああ

 鈍鉄の剣と比べても、強度も格段に上がっている

 それに純鉄の剣よりも軽いな」


鉄の剣より鈍鉄の剣の方が重たい。

しかし不純物を混ぜた方が、鉄の強度は増していた。

その為兵士達には、鈍鉄の武器が主流となっていた。

しかし魔鉱石の剣は、その両方の利点を越えていた。

鉄より軽くて、鈍鉄より強度が高くなっている。

後はこれに、魔法の付与が出来れば完璧だろう。


「アーネスト

 こいつに付与は出来そうかい?」

「そうだなあ

 思ったより魔力は低いな

 着けるのなら身体強化だけだろう」

「武器の強化は無理か?」

「両方は無理だろうから、強度を考えれば身体強化だな

 それでも無いよりマシ程度だけど」

「そうか…」


付与は出来る様だが、それほど強化は出来ない様だ。

それは素材の状態が良くなかった為で、もっと良い素材なら付与は出来ただろう。


「後は、これがどれぐらい出来るかだな」

「そうですね

 1本の骨ではインゴット4本が限度です

 そこから2本でショートソード1本ですから…

 後は骨の数次第ですね」

「そうか」


ギルバートは昨日預かった書類に、今のギルドマスターの報告を記入する。

その上で、これを商人ギルドに持って行かなければならない。


「これから商人ギルドに向かうから

 これを借りて良いかな?」

「ええ

 精々奴等の度肝を抜いてやってください

 ぐふふふふ」


ギルドマスターはニヤリと笑った。

基本的に、職工ギルドと商人ギルドは仲が良くない。

商人ギルドは安く買い叩こうとするし、職工ギルドは自身の腕を認められたい。

こういう新しい商品が出来た時は、互いに主張して揉めるのが通常だ。

しかし今回は、王子が間に立っている。

商人ギルドも公平に審査して、適正価格を表示しないといけない。

それを思って、ギルドマスターは意地悪い笑みを浮かべているのだ。


「私は公平に判断するぞ」

「どうぞどうぞ

 ワシ等は適正な価格が付くのなら問題ありません

 奴等が値切れないのなら十分です」

「ふむ

 よく分かったよ」


ギルバートもギルドマスターの思惑が理解出来たので、適正な価格を付ける約束をした。

そうしないとアブラサスに支払いできないし、後々問題になるからだ。

「では、行ってくるよ」

「お願いします

 ワシはこれからひと眠りしますので

 後の事は副マスターに言ってください」


ギルドマスターはそう言うと、眠そうに目を擦りながら去って行った。


「さて

 これに値段を付けるのなら、どれぐらいが適当かな?」

「そうだねえ

 本来なら銀貨20枚ってとこかな?」


「そうすると、骨にはどのくらいの価値がありそうかな?」

「うーん

 銀貨20枚の剣が2本で銀貨40枚

 そこから作業代を引いても銀貨30枚

 迷惑代を考えても、それぐらいが妥当だろうね」

「そうだな」


「ただ…

 この代金は今回だけだぞ」

「え?」


「ここではまだ、オーガの素材は希少だ

 しかし魔鉱石が出回れば、価値はそれだけ下がるだろう」

「うん」

「そもそも

 オーガ1体の討伐褒賞が金貨10枚だったんだ

 その骨に1本銀貨30枚なんて高過ぎるだろう」

「そうだな」


二人は大体の適正価格を割り出してから、商人ギルドへと向かった。

これは商人ギルドで適正価格が出ない可能性があるからだ。

なんせ魔鉱石自体が初めての商品で、その剣となれば値段が付けられないからだ。

ダーナでは作られていたが、ここと向こうでは状況が違う。

価格や価値は当てにはならないだろう。


商人ギルドに到着すると、先ずはギルドマスターと面会が取れるか確認する。

幸い午後からの商談は少なく、間もなく空き時間が取れるという話であった。

そこでギルバートは、カウンターの上に剣を置いた。


「それでは、ギルドマスターが空くまでの間、こちらの鑑定をお願いしたいんですが」

「ショートソードですか?」

「はい」


受け付けは、相手が王子とはいえ不満そうな顔をした。

何せ出された物は、まだ試し打ちの飾りも意匠も無い武骨なショートソードだったからだ。

こんな物に何の価値があると言うのだ?

口には出さなかったが、その顔が物語っていた。


受け付けは剣を飾り用の鞘から抜いてみる。

その鞘も、取り敢えずで借りた飾り用の鞘である。

当然価値も無い様な安物であった。


「うーん

 見た目は普通のショートソードですね」

「ええ」


受け付けは、正直なところどう対処すべきか迷っていた。

一国の王子が、何の変哲も無い剣をわざわざ鑑定に出すだろうか?

しかし見ただけでは、彼には価値は判断出来なかった。

そこで彼は、武具専門の鑑定士に声を掛けた。


「すまん

 ジョアン、こいつを見てもらえないか?」

「ん?

 どうしたんだ?」


呼ばれた男は、受付から剣を受け取った。


「こちらを鑑定して欲しいんだが…

 私では判断が出来なくて」

「どれどれ?

 って!これは?」


鑑定を頼まれた男は、受け取った瞬間に顔色が変わった。

慌てて道具を取りに戻り、秤や金槌等を抱えて戻って来た。


「ど、どうしたって言うんだ?」

「黙れ!」


男は真剣な顔をして、秤で重さを量ったり、金槌で表面を叩いたりしてみた。

男があまりに真剣になって調べているので、周りの職員達も気になって集まり始めた。


「何だ?」

「ジョアンの奴、どうしちまったんだ?」

「鑑定らしいんだが、ヘリックじゃあ分からなかったみたいだ」

「ああ

 それはそうだろう

 ヘリックは薬や雑貨専門だ」


職員達がざわついていると、奥からギルドマスターが現れた。

どうやら商談が一段落したらしく、商人を連れて出て来た。


「何だこの騒ぎは?」

「それが…

 王子がギルドマスターに面会に来られていまして

 それで鑑定を頼まれたんですが」

「王子?」


ギルドマスターは騒ぎの向こうのカウンターに、ギルドマスターが座っているのを見付けた。


「これは殿下

 すいません、エドウィン殿」


ギルドマスターは商人の送り出しを部下に任せて、慌ててギルバートの元へ向かった。

一国の王子と商人では、どちらが重いかは一目瞭然である。

商人は少し不満そうであったが、諦めてそのまま帰って行った。

彼が粘って見ていれば、大きな商機を得ていたかも知れなかった。

しかし彼からすれば、そんな商談とは見えていなかったのだ。


「殿下

 一体何のご用件で?」

「そうですね

 その前に、私は今日初めて、このギルドに訪れました」

「ああ、それは…」


「ですので、先ずは御挨拶を

 この度王子になりました、ギルバート・クリサリスと申します」

「私は当ギルドのギルドマスターをしております、アルバレストと申します」


二人は向き合うと、互いに礼をした。

ギルバートは貴族や王族の行う胸の前に右腕を構える礼をする。

アルバレストは臣下の礼として、跪いて礼をした。


「アーネスト殿は何度もいらっしゃいましたが、殿下は初めてでしたね」

「そうですね

 しかし、何で私が王子だと?」

「それは私も、謁見の間にて参内していましたから」

「ああ

 あの時に…」


アルバレストも謁見の間にて、ギルバートが王子として紹介された時に居合わせていた。

しかしその後に、ギルバートは商人ギルドに来る事は無かった。

魔術師であるアーネストは、素材の買い付けて訪れていたが、ギルバートは来る機会が無かったのだ。

周りの職員達は、彼が王子と知って驚いていた。

特に最初に応対した職員は、態度が悪かったので冷や冷やしていた。


「それで、どういった要件でしょうか?」

「そうですね

 先ずは鑑定結果を見ていただけましょうか?」


そこで鑑定をしていた職員が、結果を書いた書類を差し出した。

そこには未知の鉱物で作られた、性能の高い武器として書かれていた。


「これは?」

「こちらの剣なんですが、新しい素材で作っていただきました」

「ううむ」


ギルドマスターは結果を見て、自身も剣を手に取って確認した。

一通り試してみて、徐に部下に合図を送った。


「すまないが駄目になった剣を持って来てくれ」

「はい」


職員が奥に入り、普通のショートソードを持って来た。


「これは鈍鉄の剣ですが、配合が悪かったのか評価が悪い剣です

 しかし強度に関しては、基準を満たしています」


職員は強度に問題は無いと強調した。

それを確認した上で、ギルドマスターはそれに魔鉱石の剣を叩き付けた。


ガキン!

ゴトリ!


「おお…」


結果は見事に叩き折れて、剣の強度と切れ味を証明した。


「これはどういった素材を使われたんですか?」

「魔物の素材を混ぜた、新しい合金です

 これをダーナでは、魔鉱石と命名しています」

「魔鉱石…」


「従来の鉄にや鈍鉄に比べて、強度も高く、重さも軽くなっています」

「そうですな」


「それと

 この合金には魔力が籠っていまして、魔法の付与が出来ます」

「おお

 これが魔法の剣が出来るという金属ですか」


王都にも、ダーナで魔法の剣が作られた事は伝わっていた。

しかし製法は秘匿されていて、現物も出回っていなかった。


「今回は素材の状態も良く無かったので、それなりの物に仕上がっています」

「これでそれなりの物…

 でしたら素材さえ良ければ」

「ええ

 しかし良質の素材となれば、相応の強力な魔物から取る必要があります

 それに素材の質が良いとなれば、痛む前に手に入れる必要もあるでしょう」

「そうですか…」


「そうなると、強い魔物を討伐する必要がありますね」

「ええ

 ですが先ずは、魔物を討伐する為の武具が必要です」

「それは…ジレンマですね」


ギルドマスターも意味が分かり、それの難しさを理解した。


「今回はダーナに立ち寄った、商人が幾らか買い取って来ました」

「本当ですか?」

「ええ

 ですので、それを買い取って加工したいのです」

「なるほど

 その為に鑑定を依頼されたんですね」


ギルドマスターは状況を理解して、改めて書類を受け取った。

サルザートが寄越した書類に、軍に卸す為の刀剣と記されていた。

それを確認した上で、ギルバートが追記したメモも読む。


「ふむ

 この剣の価値は、現状では銀貨20枚ですか」

「ええ

 そのぐらいが妥当かと」

「そうですな」


ギルドマスターも納得して、自身の見解を記してサインをする。

それを丸めると、部下の職員に手渡した。


「それを宰相に宛てて届けてくれ」

「はい」


「それで、その商人は何処へ居ますか?」

「洛陽の林檎亭という宿に泊まっています」

「そうですか」


「ここからは当ギルドが、責任を持って買い付けます

 何か要望は御座いますか?」

「そうですね

 書かれていたと思いますが、彼の商人はダーナにて詐欺紛いの取引をされています

 王都では銀貨30枚でも、ダーナでの適正価格はもっと低かったでしょう」

「そうですな

 今はその値段でも売れますが、今後増えるとなるともっと暴落するでしょう」


「分かりました

 この件も踏まえて、私共は誠心誠意をもって当たらせていただきます」

「はい

 その様にお願いします」

「いえ

 我が国の商人が仕出かした不始末です

 むしろ教えていただいて助かりました」


ギルドマスターはそう言うと、職員達にも徹底する様に伝えた。


「良いか?

 今回の様な事があれば、我が国の商いが疑われてしまう

 くれぐれもこの様な、不正な取引を見逃すな」

「はい」

「では、今回の件は…

 ジョアン

 お前が責任を持って納めてくれ」

「はい」


ジョアンと呼ばれた職員は、剣を詳細に鑑定していた職員だ。

彼が武具に詳しいので、今回の件には適任だと判断されたのだろう。

彼はさっそく書類を用意すると、その足でギルドを出て行った。


「彼に任せれば大丈夫でしょう」

「ありがとうございます」

「いえ

 こちらも貴重な商談を不意にするところでした」


手続きも済ませたので、ギルバートはギルドを出る事にした。

アーネストは必要な素材があるという事で、ここで分れる事になった。

ギルバートは時間が余ってしまったので、取り敢えず食事をする事にした。

今から王城に戻っても、昼食の時間を回っていたからだ。


町中を見回して、旨そうな匂いのする店を探し始めた。

考えてみれば、まだ王都では、昼食を食べる機会がほとんど無かったのだ。

何か良い店は無いかと、ギルバートは街の大通りを進んで行った。

まだまだ続きます。

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