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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第204話

将軍は王城に入ると、直ちに国王との謁見を求めた

宰相は休む様に伝えたが、将軍は急ぐ要件と伝えて拒否をしたのだ

その為に、急遽謁見を取りやめて、会議室に集まる事となった

そこには将軍の要望もあって、ギルバートとアーネストも呼ばれていた

主だった貴族と王族が入ると、会議が始められた

ノルドの町での戦闘の報告という事もあり、国王の横には王妃は居なかった

その代わりに王子として、ギルバートが同席していた

貴族の席にはアーネストが座っており、その他にも周辺の領主が列席していた

国王が席に着くと、宰相であるサルザートが音頭を取って会議が始められた


「それでは、ノルドの町での戦果を報告してもらう

 ダガー将軍、前へ」

「はい」


将軍は立ち上がると、国王の近くへと移動した。

そこで羊皮紙の束を取り出すと、報告を始める。


「今回の出兵は、あくまでノルドの町での内乱を押さえるものでした

 ですから同行する兵士も、最低限の5部隊になりました」

「うむ」

「騎士団は10部隊120名で、こちらは隊長は同行しておりませんでした

 それは王都の守りもある為で、私の騎士団を同行させました」


将軍の直属部隊である為、独立した隊長は配置していなかった。

しかし練度は十分で、将軍の指示で動く精鋭達であった。


「既に報告に上がっております通り、我々はボルに到着した際に、魔物の群れの報告を受けました

 その為行軍を取りやめて、直ちに殲滅に向かいました」

「うむ

 報告は受けておる

 それで?」


「はい

 魔物はボルの町に居た冒険者の協力も受けて、無事に討伐いたしました」


「その際に我が軍が受けた損傷は、兵士に於いて使者5名、重傷者12名でした

 また、多くの負傷者が出たものの、ポーション類で手当ては出来ました」


将軍はそう述べると、国王の方を見た。


「うむ

 そこまでは報告を受けておる」


「はい

 その後冒険者の協力を得ながら、竜の背骨山脈の登頂を目指しました

 途中に魔物は居ましたが、冒険者と協力してこれを殲滅

 被害は怪我人が数名程度でした」

「うむ

 そこまでは被害は軽微な物だったのじゃな」

「はい」


「それで?

 ノルドの町はどうであった?」


国王が報告を促すと、ここで将軍は言葉に詰まった。


「ん?

 どうしたのじゃ?」

「はい…」


将軍は少し躊躇ってから、報告を続けた。


「ノルドの町に近付いた際に、魔物に成り果てた隊商に出会いました」

「魔物に?」

「どういう事だ?」


ここで会議場は騒然とした。

王都にはこの事は、報告が届いていなかったのだ。


やはり…


将軍は内心で納得して頷いていた。

アルノーが間者と分かってから、報告が伏せられている可能性は疑っていた。

だからこうして、直接国王に報告したのだ。


「隊商の者達は、何者かに殺されていました」

「そんな」

「何て事を…」


「殺された隊商は、そのまま遺体を投げ棄てられていました

 その為死霊となり、我々の前に現れました」

「その者達は?」

「はい

 焼いて土に還しました…」

「そうか…」


国王は沈痛な面持ちで頭を抱えていた。

国王からすれば、隊商の者達も大事な国民であった。

如何な理由があろうとも、それを殺して放置されるのは許されない事であった。


「実はギルバートからな

 ガモン商会の者が、その様な凶行を行っていると報告を受けておった」

「そうなんですか?」

「ああ

 ちょうどお前が出た後であったのでな」


「私はノルドの風という冒険者に聞きました

 隊商が行方不明になっていて、それを捜索したいと

 それが殺された隊商達だったのですね」

「ああ

 先ず間違い無かろう

 ガモンは否定しておったが、証拠の書類は押さえておる

 あれの処分も済ませたがな」


処分というのは処刑の事で、ガモンは数々の罪を暴かれ、既に処刑されていた。


「そうか…

 死霊になっておったか…」

「はい」


「しかしお前達が、無事に眠りに着かせたのじゃろう?」

「はい」

「それならば、それで良しとしようじゃないか」


国王はそう言って、寂しそうに微笑んだ。

本当ならば、その遺体を持ち帰って欲しかった。

しかしそれは無理な相談である。

せめて土に還してやれただけでも良しとするしかなかった。


「それで?

 町はどうであった?」

「それが…」

「ん?」


「ノルドの町は滅んでいました」

「はあ?」

「滅んで?」


「はい

 我々が到着する頃には、既に滅んでいました」

「まさか?

 そんなわけは無いだろう?」

「いえ、本当です

 町の灯りは点いておらず、町中には無数の死体が放置されていました」

「そん…な…」


国王は絶句して、頭を抱えていた。


「町の周囲にまで死臭が漂い、虫も多く湧いておりました」

「しかしおかしいじゃないか

 フランドールが出兵してから、そこまでの日は経っておらん筈じゃぞ」

「はい

 その筈です」


将軍は頷き、話を続けた。


「我々は町に入ると、周囲を探索する事にしました

 その際に、生ける屍に遭遇しました」

「まさか?」

「ええ

 死霊です

 それも死体を喰らうグールです」

「何と…」


将軍の言葉に国王は愕然とした。

しかし貴族達はその名前の意味を知らないのか、将軍に質問した。


「将軍

 そのグールというのは何なんだね?」

「死霊と言っていたが、本当の話しなのか?」


貴族達は死霊を知らないので、当然疑って掛かっていた。

しかしここで、アーネストが立ち上がって発言した。


「死霊とはご存知の通り、死者を火葬せずに放置すると、その無念さから化ける魔物です」

「そんな物は知っておる

 しかし子供を怖がらせる物語じゃろ」

「いいえ

 死霊は実際に居ます」

「馬鹿な

 女神様に守られた我が国に、そんな不浄な物が現れると?」


「ええ

 みなさんも聞いたでしょう?

 ここ数年、女神様の封印も効力が失われつつあります

 それで魔物が現れて、困っているんでしょう?」

「それは…そうだが」

「しかし本当に魔物になるのか?」

「はい

 私も確認していますし、既に被害も出ています」


ここまで言われると、貴族も黙るしか無かった。

それがどれほど恐ろしい物か分からないが、取り敢えずは信じて聞いてみる事にしたのだ。


「それで?

 その魔物はどうしたんです?」


貴族の質問に答える様に、将軍は話を続けた。


「我々は苦戦しながらも、魔物達を倒しました」

「倒せたのか?」

「ええ

 しかし犠牲は多く出ました」


将軍の言葉を聞いて、貴族達は押し黙った。

被害が大きいという事は、それだけ恐ろしい魔物と言う事だ。

自領に出ては大変な事になる。

どうやって退治したか、真剣になって聞いていた。


「魔物は…

 グールは頑丈な表皮を持ち、強靭な爪を持っていました

 剣は弾かれ、爪で簡単に切り裂かれました」

「切り裂いただと?」

「鉄製の剣なんだろ

 それを弾いたり切り裂けるのか?」

「はい

 ですので被害が大きかったんです」


将軍の言葉を聞いて、改めて貴族達は戦慄していた。

鉄を切り裂くのであれば、どうしたら良いのか?

逆にどうやって勝てたのかが気になった。


「そんな化け物に、どうやって勝ったんだね」

「ちょっと

 化け物はまずいですよ」

「しかし化け物であろう

 実際に死肉を喰らって、鉄を切り裂くのだろう」

ダン!


不意に国王が机を殴り、化け物と言った貴族を睨んだ。


「民を化け物と言うな

 例え死霊に成り果てようとも、元は我が国民であろう」

「すいません…」


叱られた貴族は小さくなり、黙って座り込んだ。


「それで?

 勝てたからには対策はあるのだな」

「はい

 火には弱いので…

 後は冒険者達は魔鉱石の武器で対抗していたので、それが増産出来れば…」

「魔鉱石?」

「魔物から作られる素材です

 現在職工ギルドに依頼していますが、肝心の魔物の素材が…」

「うむ

 それはまたにしよう

 今は報告の続きを頼む」


国王に促されて、将軍はまた話し始めた。


「はい

 何とか死霊は退けましたが、その時に既に、死者も数十名となりました

 また、重傷者も多く出ましたし、何よりも武器が失われた事が…」

「なるほど

 それで撤退を選んだのだな」

「はい」


しかし将軍のその言葉に、数人の貴族が反論をした。


「逃げ帰って来ただと」

「何たる恥知らずな」


しかし将軍は唇を噛んで、ぐっと堪えていた。


「虫も多く湧いたと言っていたな」

「はい」

「食料にも影響があったのだろう」

「はい」


進軍するには武器も必要だが、食糧も必要である。

国王はそれも考えての撤退だと理解していた。


「部下を守る為の撤退だったのじゃな」

「はい」


「しかし陛下

 撤退などとは…」

「黙れ!

 ならば、其方が進軍するか?」

「い、いえ

 私にはそれほどの兵は居ませんし…」

「ならば黙っておれ!」


国王は尚も不満そうな貴族を一睨みすると、そのまま黙らせる事にした。


「ダガーは国軍を減らさない為に断念したのじゃ

 それに不満があると言うのなら、申してみろ」


国王の気迫に押されたのか、貴族はそれ以上の不満は言わなかった。

しかし内心では、小心者と将軍を嘲笑っていた。


「それで…

 報告の内容にしては、些か兵士が少なくなっているが?」

「はい

 話はまだ続きます

 我々が帰路に差し掛かった際に、幾度か魔物と戦いました

 しかし一番酷かったのは、山脈を下りてからです」

「ん?

 どういう事じゃ?」


「麓の村に差し掛かった際に、コボルトの群れに襲われました

 奴等は何処からか逃げて来た様子で、負傷していました

 しかし負傷しているからなのか、必死に抵抗して来ました」


実はその群れは、リュバンニの近くの森から逃げ出したコボルトの群れであった。

しかし事情を知らない将軍は、不意を突かれて多くの犠牲を出す事となった。

それは食料が不足していた事と、何よりも武器を失っている事が起因していた。


「武器のある者はマシでした

 何とか戦えますし、空腹とはいえ士気は維持出来ていました

 問題は武器を失った者で、不意討ちで多くの兵士が亡くなりました」

「それは先のグールとの戦闘で?」

「はい

 グールに武器を破壊された者は多く

 また、長旅で剣が傷んでいる者も多く居ました」

「ううむ」


国王は唸るしか無かった。

そこまでの事態を想定して無かったとはいえ、判断が甘かったとしか言えなかった。


「それで

 被害はどれほどになったのじゃ?」

「はい

 重傷者は一部、そのまま村に置いて来ました

 動かす事が出来ませんでしたから」


「王都に戻って来れたのは、騎士が18名と兵士が278名です

 他にボルに残った騎士が8名と兵士が63名です」

「それほどとは…」

「半数も失ったのか?」

「ええ

 特にコボルトの群れにやられた者が多く

 騎士も兵士に武器を貸与させていたので、そのまま馬ごと狙われました」


武器を持たなければ、いくら騎士でも魔物に勝てない。

この事実が、魔物が侮れない存在だと示していた。


「鎌は?

 クリサリスの鎌は持っていたんじゃろう?」

「ええ

 しかしコボルトは素早いです

 懐に入られては、鎌より剣の方が有利なんです」


安全を考えて、剣を兵士に渡していたのが裏目に出ていた。

確かにそれで、助かった兵士も多くいた。

しかし歩兵が剣で戦うには、コボルトは危険な存在であった。

結局騎士も兵士も、多くの犠牲が出る事となった。


「報告は以上です」


後は報告で迂闊に言えない事なので、将軍は報告を終わりにした。

しかし貴族は、予想通り慌てていた。


「こんなに被害を出すだなんて」

「なら、貴殿が兵を率いて向かうか?」

「いや、私ではとても指揮など…」

「なら黙っていろ」


「しかし将軍がこれでは…」

「それだけ魔物が強いという事だろう」

「そうなれば、私も領地の軍備を整えねば」

「そうなるだろうな」


貴族がワイワイと言い合っているのを見て、国王は溜息を吐く。


「貴殿らが不安になるのも分かる

 しかし早急に、軍備を整える必要がある」


国王はそう言うと、軍備を強化する為の案を募った。

しかし具体的な案は挙げられず、時間だけが無為に過ぎていった。

軍備を整えるにしても、兵は集まっても武器が足りないのだ。

強い武器を作る為にも、魔物を狩るしか無いからだ。


結局良い案が浮かばないまま、会議は閉幕となった。

明日も謁見を行わないで、軍備の会議が行われる事となった。


貴族は自領との連絡を取る事として、会議室を後にした。

残されたのは、ギルバートとアーネスト、将軍と国王だけであった。

サルザートも急ぎ書類を纏める必要があり、会議室を後にした。


「それで?

 まだ報告する事があるのだな?」

「はい

 内密に報せるべき事があります」


将軍はそう前置きをしてから、アーネストの方を向いた。


「貴殿が殿下のご友人である、アーネスト殿であるな」

「はい」


アーネストはそう答えながらも、何で自分に話があるのか分からなかった。


「貴殿が魔術師を手配してくれたのだな?」

「はい」

「その魔術師の名前を聞いても良いかな?」

「え?」


アーネストはますます訳が分からないといった様子で答えた。


「ベルンハルトという若い魔術師でしたが

 彼がどうしましたか?」


将軍は慎重に言葉を選んで質問した。


「その男は、金髪で細身の男だったかな?」

「いえ

 茶色い髪をしていましたが?」

「やはりな…」


将軍の言葉に、さすがにアーネストも困惑していた。

まさか自分が会った男と、将軍の元へ向かった男が違う人物とは思っていなかったのだ。


「ワシの元に来た男は、アルノーと名乗る男だった」

「え?」

「その男は金髪で、背丈はワシの型ぐらいであった」

「まさか…」

「そうだ

 入れ替わっていた」


将軍の言葉を聞いて、アーネストは驚いていた。

しかし将軍は、それで状況を判断出来た。

やはりあの男は、敵対する勢力から送り込まれた間者だったのだ。


将軍は大きく息を吸い込むと、気分を落ち着けながら話を始めた。

それは貴族には話せなかった、内密な話であった。

まだまだ続きます。

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