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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第203話

ダガー将軍の一行がリュバンニに立ち寄った

兵装はあちこち泥に汚れており、兵士達も疲れ切っていた

バルトフェルドは直ちに兵士達に宿舎を貸し与え、将軍を砦へと招いた

何が起きたのかが気になっていたし、兵士にも休息が必要だと思ったからだ

しかし将軍はバルトフェルドに、翌日には出発したいと言っていた

バルトフェルド補給物資を掻き集めて、将軍の部隊へと届けた

将軍は砦に到着すると、陰鬱な顔をして挨拶をした

本来は歓迎を感謝したいところだが、疲弊しているのですまないとまで言っていた

バルトフェルドはそんな将軍を心配して、消化し易い食事を用意した

また、豪華な会食では無く、内密な会談にする事にした

それだけ将軍は疲れていたのだ


「将軍

 大丈夫ですか?」

「ああ

 ワシは問題無い」


問題無いと言いながらも、将軍は疲れた様子で椅子に座った。

兵装は解かれていて、風呂で湯浴みもしていた

しかし将軍の顔には疲労の色が濃く、憔悴していた。


「何があったんですか?」

「すまんが詳しくは話せん

 陛下の許可が必要じゃ」

「そうですか…」


しかしバルトフェルドも領主なので、これだけは確認しなければならなかった。


「ノルドの町には着いたんですか?」

「ああ

 それは問題無い

 町には入れた」

「入れた?」

「詳しくは勘弁してくれ」


「それでは、ゴブリンは退治出来たんですね」

「ああ

 行きはな」

「え?

 行きは?」


そこで将軍はハッとした顔をして、黙ってしまった。


「では…」

「すまぬ…」


「分かりました

 これ以上は聞きません

 しかしボルは大丈夫ですか?」

「ああ

 そこは問題無い

 しかしその為に、余計に兵士を犠牲にしてしまった…」


リュバンニに到着したのは、騎士が18名と兵士が278名であった。

行きが700名以上だったのを考えると、300名を切る人数しか帰れなかったのはショックが大きかったのだろう。

バルトフェルドもそれ以上は、何も言えなくなっていた。


自身の領土でも、コボルトの討伐に多くの兵士が失われた。

先週には森の安全が確保出来たと、偵察に出た兵士から報告が入った。

しかしそこまでに行くまで、300名以上の兵士が亡くなっていた。


「今回の進軍には、陛下にお借りした兵士を多く失った

 ワシはどうすれば良かったのか…」

「ダガー

 気持ちは分かるが、今は休もう」

「分かる?

 何が分かると言うのだ!

 今もあいつ等の、絶望する顔と悲鳴が聞こえて来る

 ワシが、ワシだけが生き残って…」

「ダガー

 ダガー!

 今は休むんだ」


バルトフェルドは興奮して、立ち上がって喚く将軍を押さえる。

そうしてマーリンに目配せをすると、鎮静の魔法を掛けさせた。


「眠り誘う聖霊よ、その声を届け給え

 我が隣人に、安らかなる眠りを与え給え

 ブレス・オブ・セデーション」

「ワシは!

 ワシは…」


将軍は尚も喚こうとしていたが、抵抗力が落ちていたのだろう。

直ぐに昏倒して、安らかな寝息を立て始めた。


「ふう」

「しかしバルトフェルド

 これは一時凌ぎじゃぞ」

「ああ、分かっておる」

「そうじゃな

 目が覚めたら、再び絶望に襲われるじゃろう」


「すまんが将軍を客室へ

 それから、起きた時に暴れない様に、近くに誰か見張りを立ててくれ」


さすがに自傷はしないだろうが、念の為に兵士も配置した。

そこまでしてから、バルトフェルドは椅子に腰を下ろした。


「どう思う?」

「そうだな

 帰りにも魔物が出たのじゃろう」

「そうなんだろうな

 しかし連絡は入っていないぞ?」


「こちらもコボルトの件が片付いたばかりだ

 周辺の町も警戒しておる」

「しかし西の村はどうじゃ?

 あそこはボルの統治下に入っておる

 ワシ等には報告は届かんじゃろう」


バルトフェルドの領地で無いので、報告が届くとは限らない。

場合によっては直接王都に、救援の要請が向かう事もあるだろう。


「将軍の心が心配じゃのう」

「そうだな

 よほど堪えたのだろう

 あのダガーが…」


二人は将軍の様子から、余程の事があったのだろうと察した。

それだけに、気が付いた時が心配だった。


翌朝になり、将軍は無事に目を覚ました。

その様子は焦燥していたが、意識ははっきりとしていた。

彼はバルトフェルドを呼ぶと、昨夜の事を謝った。


「すまなかった

 部下を多く失い、気が動転していた」

「いや

 気持ちは分かる

 ワシも多くの兵士を失った」


「今回の事で、多くの人命が失われた」

「ああ

 たかが魔物と甘く見ていた

 殿下にあれほど注意されていたのに」

「殿下に?」


バルトフェルドの言葉に、ダガー将軍は訝しんだ顔をした。


「どういう事だ?」

「いや

 殿下のご友人のアーネスト殿から手配された魔術師だが…

 魔物はそんなに強くないと言っていた」

「何だと?」


「その魔術師は何処へ?」

「それが…」


将軍は困った様な顔をしていた。


「先日ボルに立ち寄った際に、用事があると言ったきり…」

「怪しいな」

「ああ

 ワシもそう思っていた

 しかし殿下のご友人が紹介してくれた人物だ

 それを疑うわけにはいかんだろう」

「それはそうだが…」


バルトフェルドはここで、将軍が報告を渋っていた理由を察した。

その魔術師が怪しいのだが、確認が出来なかったからだ。


「魔術師ギルドは調べたのか?」

「ギルド?」

「ああ

 その者が魔術師である以上、ギルドに登録しているであろう」

「それはそうだが、殿下のご友人が紹介してくれた人物だぞ?」

「本人であればな」

「!!」


将軍はハッとした顔になり、バルトフェルドの方を向いた。


「頼めるか?

「ああ

 すぐに手配させよう」


バルトフェルドは人を遣り、魔術師ギルドに照会をさせる事にした。


「その間に、お前さんは休んでいろ」

「しかし!」

「良いから

 それにお前さんの部下達にも、休息は必要じゃろう」

「むむ…」


将軍は困った顔をしたが、諦めて頷いた。


「すまん

 世話になる」

「ああ」


バルトフェルドは兵士を呼ぶと、将軍の部下達に休息する様に使いを出した。

これで少しでも、将軍の負担が減れば良いと思った。


暫く待っていると、使いに出ていた者が帰って来た。

バルトフェルドは将軍を伴い、一旦食堂へと移動した。

朝食を摂りながら報告を聞く事にしたのだ。


「良いのか?」

「ああ

 その方が栄養が頭に回る

 今のお前さんでは、冷静な判断が出来んじゃろう」

「ああ…」


将軍は頷くと、素直に食卓に着いた。

そこには牛の燻製肉を使ったサラダと、野菜を煮込んだスープが用意されていた。

焼き立ての柔らかい黒パンも運ばれて、朝食が始められた。


「それで?

 ギルドでは何と?」

「はい

 確かにアルノーと言う魔術師は居ました」

「そうか」


「正確に申しますと、居ましたですが」

「何?」

「今年の始めに、隊商に同行した冒険者達と行方不明になっています」


「そうすると

 行方不明の魔術師が、将軍の進軍に同行したのか?」

「いえ

 同行した魔術師の名前は、ベルンハルトという名前になっていました」

「ベルンハルト

 似ても似つかん名前じゃな」

「はい

 恐らくは偽名かと…」


兵士の報告に、将軍は溜息を吐いていた。


「ワシがしっかりと調べていなかった為に」

「そうは言うが、お前さんも騙されていたんじゃろう?」


バルトフェルドはそう言って、他に連絡事項が無いか確認する。


「そのベルンハルトとは何者じゃ?」

「ええっと…

 記録がほとんどありません」

「記録が無いじゃと?」

「はい

 王都の魔術師ギルドからの紹介だと、紹介状には書かれていました

 しかしギルドでは、その紹介状も怪しいと言っていました」


「どうしてじゃ?」

「それは王都の人間にしては、その男は訛りが強かったみたいです

 寧ろ西の地方の訛りで、ダーナか西部地方の訛りではないかと…」

「決まりじゃな」


バルトフェルドは確信を得た様で、将軍に話し始めた。


「そいつは何某かの間者であろう

 書類は王都から向かった、本物の魔術師から奪ったんじゃろう」

「そうか…」


「現在ボルにも早馬を出しています

 明後日には報告が届くかと」

「ご苦労

 下がって良いぞ」

「はい」


使いの者は一礼をして下がった。


「どう思う?」

「うーむ

 偽の魔術師だと?

 一体何の為に?」


「考えられる事は、ダーナに向かって欲しく無かったとか?」

「妨害工作か?

 しかし何故?」

「それは分からん

 それこそ逃げ出した魔術師を見付けるしか無いじゃろう」


二人は食事の手を止めて、深く考え込んでいた。

一体誰が、何の為に妨害していてのか?


「ダモンの手の者か?」

「いや

 それならもっと早く行動していたし、それにノルドまでは協力的だった」


「そうか

 それならば…ダーナか?」

「そうだな

 順当に考えれば、それが一番可能性が高い

 しかし何でまた、ダーナがそんな事を?」

「分からん

 いっそ貴族の手であれば、もっと考え易いのだが」


しかし反国王派の貴族は、ガモンの失脚で大人しくなっていた。

その報復でとも考えられるが、その為に今回の妨害をするのは考え難い。

妨害しても旨味も無いし、彼等が得る物が少ない。


「しかしマズい事になった

 あれが偽物なら、大事な資料も持ち去られてしまった」

「大事な資料?」

「ああ

 アーネスト殿から渡されたと言って、書物を持っていた。

「何だと?

 それは誠か?」

「ああ

 あれが反国王派の手に渡っていれば、後々面倒な事になりそうだ」


アルノーはアーネストが書いた書物を持っていた。

そこには大した事は書かれていないが、それでもスキルやジョブについて書かれていた。

それを反国王派が解析すれば、反乱軍の強化に使われる恐れがあった。


「それはマズいな」

「ああ

 この事を含めて、陛下にお話ししなければ」


将軍はそう言うと、悔しそうに拳を握り締めていた。

自分の失敗だけなら良かったが、国王に反対する者に力を与えた事になる。

将軍はそれが許せなかった。


「まあ、過ぎた事は仕方が無い

 今は少しでも休んで、力を取り戻す事だ」

「しかしこうしている間にも…」

「ああ

 だが、今日は休め

 冷静な判断が出来なくなっているぞ」

「くっ…」


バルトフェルドは将軍に、もう一日休む様に勧めた。

その間にも、状況を報告する使者を王宮へ送っておいた。

国王に到着が送れる事で、心配をさせない為だ。


翌日には、将軍も顔色が良くなっていて、少し落ち着きを取り戻していた。

心配事を打ち明けた事で、少しでも気が楽になった様子だった。


「バルトフェルド殿

 今回はお世話になった」

「なあに

 貴殿はワシの後任でもある

 しっかりと務めを果たしてもらわんとな」

「それは責任重大だ」

「そういう事だ

 ふはははは」


バルトフェルドの高笑いに、将軍は苦笑いで応えた。

そうして固く握手を交わすと、将軍はリュバンニの街を後にした。

ここから王都までは、半日もあれば十分に渡れる。

しかし途中に魔物が潜んで居るかも知れないので、行軍は慎重に行われた。

将軍がノルドの町に進軍している間に、この辺りも物騒になっていたのだ。


「バルトフェルド様のお話しでは、この辺りにも魔物が出るそうです」

「うむ

 気を引き締めて進むぞ」

「はい」


ゴブリン・ライダーが討伐された後も、小規模なゴブリンやコボルトの群れが確認された。

その都度王都から軍が派遣されて、魔物は掃討されていた。

しかし、いつ魔物が出るか分からない以上、公道でも警戒が必要であった。

そのまま軍を進めて、夕刻前には王都に到着する事が出来た。


「おい、あれ」

「軍隊の…

 将軍だ

 将軍が戻られたぞ」

「本当だ

 将軍の旗だ」

「戻られたぞ」


王都の城門では歓声が上がり、将軍の帰還を喜んでいた。

しかし数人の兵士は、進み来る軍隊に対して違和感を感じていた。


「おい

 少なくないか?」

「え?

 そういえば…」


王都を発つ時は、兵士は600名ほど居た。

しかし今は、騎士の姿も見えず、兵士の数も少なくなっていた。

それに、みな一様に疲れた顔をしていて、覇気を感じられ無かった。


「将軍

 お帰りなさいませ」

「うむ」


「ダーナは如何でしたか?」

「それは…

 陛下に先ず、報告をする」

「そうですね

 先ずはお帰りなさいませ」


門番の兵士達は、歓声を持って将軍達を出迎えた。

しかし兵士達は元気が無く、門番達も不思議そうな顔をし始めた。


「どうしたんだろう?」

「それに…

 おかしくないか?」


考えてみれば、ダーナまで行ったにしては帰るのが早かった。

ダーナまで向かっていたのなら、帰還は冬に入ってからか、年を明けてからになっていた筈だ。

それが冬に入る前に戻って来たのだ。

それに気付いたのか、門番の兵士達も次第に歓声を上げなくなる。

将軍達は静かに門を抜けると、そのまま城門前の広場に集まった。


「ワシは一旦陛下に面会する

 お前等はそれぞれの宿舎にて、旅の疲れを癒してくれ」

「はい」


将軍は王都の騎士達に出迎えられて、王城に向かって進んで行った。

その間に兵士達も、項垂れながら各々の宿舎へ向かって行った。

その様子を見ながら、門番達は口々に話始めた。


「一体どうしちまったんだ?」

「さあ?」


「しかし何かがあったんだろう

 将軍も疲れておいでの様だった」

「そうだな」


彼等は兵士達が半数ほどになっているのに気が付いた。

しかしその事を言うのが怖くて、誰も何も言わなかった。


こうして将軍は帰還して、ノルドの町であった事を報告する。

それは兵士達には嫌な思い出になっており、国王から報告されるまでは伝えられなかった。

誰も何があったかを、言いたくなかったのだろう。

まだまだ続きます。

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