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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第201話

ノルドの風はダモンの遺骸を調べていた

人間が魔物と化す事は珍しい事で、それがどういう結果を生み出すか分からなかったからだ

グール化したダモンは倒せたが、これがそれ以上の変化を起こすかは分からない

骨をバラバラに分けてみて、魔力が感じられるか調べてみる

しかし魔力を感じるものの、先ほどの様な寒気を感じる様な魔力では無かった

ノルドの風は次に、ダモンが現れた辺りを調べてみた

そこには豪奢なベッドが設えてあり、その脇に血溜まりの跡が見付かった

どうやらここで、ダモンは殺されたらしい

しかし魔物化した原因は見付からず、その原因は不明であった


「何も無いな」

「ああ

 しかしあれだけ強力な死霊になったのだ

 その原因が何かある筈だ」


他の住民もグールと化していたが、それでもダモンほどでは無かった。

それを考えると、ダモンが普通に無念さから化けたとは考えられないのだ。


それに喋っていた事も気になっていた。

他の死霊は喋る事も無く、生前の意思が残っている様では無かった。

しかしダモンの死霊は、明らかに意思を持って動いていた。

それを考えればまともな死霊とは考えられなかった。


「後は考えられるのは、奴を覆っていた黒い靄だな」

「ああ

 あの不気味な靄か」


靄自体には物理的な効果は無かったが、強力な力を感じていた。

もしかしたら、あの靄がダモンを動かしていた可能性がある。


「あの靄は何だったんだろう?」

「そうですね

 私は強力な魔力を感じたわ」

「魔力か」


「私は不気味な気配を感じたね

 まるで闇夜に魔物に迫られた時の様に、死を近くに感じたわ」


魔術師と斥候は、それぞれ意見を述べた。

どちらにせよ、あの靄が原因と考えて間違いが無さそうだった。


「兎に角、またあの靄が現れる前に移動しよう

 ダモンだけとは限らない」

「了解」


移動を開始する前に、斥候はダモンの遺骸に近付いた。

骨だけになったダモンの遺骸が、再び生き返らない様にする必要があった。


「確かスケルトンは、胸に魔石があったわよね」

「ええ」

「こいつも魔石があれば…

 あった」


胸元を砕いてみると、やはり鳩尾の所に魔石が埋め込まれていた。

それを取り除いてみても、遺骸には何も変化は無かった。


「どう?」

「うーん…

 魔石は取ったんだけど、何も起こらないな」

「何も起こらない方が良いよ

 これで起き上がって襲われるのは勘弁だよ」


狩人は遺骸を蹴って骨を散らばらした。


「こら

 罰が当たるぞ」

「いや

 こいつが動き出したら困るだろ?

 だからバラバラにしておくんだ」

「なるほど…」


遺骸を蹴ったりするのは良くないが、動きだしたら確かに厄介だ。

それならと、斥候は手近な壺に骨を放り込んだ。


「これなら出て来れんでしょ」

「そ、そうだな…」


狩人は微妙な顔をして斥候を見ていた。

さすがに壺に突っ込んだのはやり過ぎだと思ったのだろう。


「さあ

 遊んでないで行くぞ」

「はーい」


さすがにもう、魔物は出ないと考えたのだろう。

斥候も狩人も、緊張感が無い返事をしてリーダーの元へ向かった。


ノルドの風は広間に戻ると、階段を下りて下の階へ向かった。

将軍の元へ戻り、状況を説明する為だ。


「戻りました」

「うむ

 ご苦労だった」


初軍は階段を下りて来たのがノルドの風と気付いて、内心安心していた。

階下にも聞こえるぐらいの戦闘音と、不気味な魔物の吠え声が聞こえていたからだ。

本心では冒険者達が、強力な魔物に殺されていると思っていた。

それが静かになって、無事に帰って来たのだ。

心から安堵していた。


「無事でなによりだ」

「ええ

 非常に危険な状況でした」

「そうだな

 ここまで唸り声も聞こえていた

 あれは何だったのだ?」


リーダーは一瞬迷ったが、素直に何が起きたか報告する事にした。

下手に隠したところで、この先何が起こるか分からない。

それならば経験が深い将軍に相談して、何か対策を取った方が良さそうだった。


「実は…」

「ダモンって奴の亡霊が出たんですよ」

「亡霊?」


戦士のリックが先に話してしまった。


「ダモンの亡霊…

 いや、グールになったダモンが居ました」

「なるほど

 あの声はダモンであったか

 しかし何でまた、ダモンは化けてしまったのだ?」


「恐らくですが、自分の溜めた財宝に執着したのかと」

「ううむ

 考えられなくは無いが」


将軍はそう言っていたが、幾分か懐疑的であった。

いくら生前の欲望が高かったにしても、そこまで執着して亡者になるものだろうか?


「他には?

 他には何か無かったのか?」

「え?」

「いくらダモンが欲深いと言っても、それだけでグールに落ちるとは思えない

 いや、むしろ臆病な奴ならば、化け物にはならんだろう」


将軍はダモンの噂を知っていたので、彼が亡者になったとは素直に認められなかった。


「そうですね…」

「そう言えばよ

 奴は喋っていたんだ」

「喋っていた?

 それはどういう事だ?」

「そうですね

 財宝に触れるなと言っていました」

「なるほど

 そこまで執着していたのか

 それなら亡者になるのも納得か…」

「あのー…」


そこまで黙っていたアルノーが、急に横から質問した。


「ん?

 どうした?」

「本当に喋っていたんですか?」

「ええ」


「そうなると、少なくともそのグールは意思が残っていた事になりますよね?」

「そうですね

 痛みは感じていない様でしたが、はっきりと自分の物に触るなと言っていました」

「そうなると、普通のグールでは無かったわけです」

「そういえば、何か黒い靄が纏わりついていました」

「本当ですか?」


アルノーは勢い付いて前に出ると、真剣な顔をして聞いて来た。


「それはどんな靄でしたか?

 大きさは?

 魔力は?

 それでどうな…」

「落ち着け

 彼等も困っているだろう?」

「は!

 すいません」


将軍に宥められて、アルノーは少し落ち着きを取り戻した。

しかし興奮か不安があるのか、落ち着かない様子であった。


「気になる事もあるが、魔物は殲滅したと考えて良いのかな?」

「ええ

 スケルトンも倒しましたし、ダモンももう動きません」

「そうか

 それならばここを離れて、少し休憩を取ろう

 ここはまだ臭いがキツイ」


将軍は顔を顰めてから、鼻を摘まんで嫌そうな顔をした。

待っている間に、兵士達が死体を集めて処理をしていた。

その為幾分か臭いは収まっていた。

しかし焼いた死体の臭いが充満していて、とてもじゃないが良い匂いとは言い難かった。

それに腐敗した空気も流れているので、長時間ここに居るのはよく無さそうだった。


「一旦町の外へ出よう

 そこで小休止をしながら、今後の事を相談しよう」

「はい」


将軍は兵を引き連れて、町の外へと向かった。

そこでは野営の準備をしながら、兵士達が死体を焼いたり瓦礫を撤去したりしていた。

既にほとんどの死体は運び出されて、後は順番に焼くだけとなっていた。

そこには大人の遺体だけではなく、子供や老人の遺体も見られた。

町の住民が虐殺された証拠である。


「酷いですね

 こんな小さな子供まで」

「うむ

 これがフランドール殿がやったとは、俄かに信じられんよ」


フランドールは英雄と呼ばれていたし、依然の彼を知る者からすれば信じられ無かっただろう。

しかし今のフランドールは、何かに憑かれた様に権力に固執していた。

その矛先がこの町に向いたとしても不思議では無かった。

しかし将軍は、以前のフランドールしか知らなかった。

だからこの蛮行が、フランドールが起こしたと聞いても納得出来なかったのだ。


「遺体を処理した分、虫が湧かなくなれば良いのですが」

「そうだな

 昨日の様に大量に湧かれては、我が軍の糧食が枯渇してしまう

 どうにかならないものか」

「どうしますか?

 ここを拠点にするにしても、肝心の食料が不足しているのでは…」

「そうだな

 ここは素直に引き返すべきか」


将軍の中では、既に引き返そうと決まっていた。

しかし出来れば、もう少し調査をしておきたかった。

ここで何が起こったのか?

そして、この町を放棄する為の理由になる様な事が無いか?

その辺の調査が必要だった。

単に食料が無くなりましたでは帰還出来ないのだ。


「町の調査をするしか無いか」

「え?」


「町に問題があれば、それを理由に引き返せるだろう

 そうでなければこのままダーナまで向かわないといけなくなる」

「ダーナにですか?」

「ああ

 どうして町を滅ぼしたのか

 そしてフランドール殿は町に戻っているのか

 兎に角情報が無いからな」


フランドールがどうして町を滅ぼしたか分からなかった。

それにダーナの街の様子も分からない。

このまま王都に帰っては、町が滅びた報告しか出来ない。

そうなるとわざわざここまで軍を率いて来た意味が無くなる。


「それで

 ダモンは結局どうなったんだ?」

「ダモンですか?」


ノルドの風のリーダーが、ダモンとの戦闘について話し始めた。


「ダモンですが、スケルトンを倒した後、みなで砦の奥へ向かいました

 そこが寝室になっていた様で、色んな悪趣味な物が置かれていました」

「ダモンの寝室か

 確かに奴の部屋なら、悪趣味な物が置かれてそうだな

 成金主義の隊長だからな」


「ええ

 いかにもその様な感じで、金ぴかの壺とか変な絵画が飾られていました

 その中の一つを、斥候の彼女が触ってしまいました」

「あのう…

 盗ろうとか思ったんじゃないですよ

 悪趣味だなと思って見てただけで…」

「ははは

 大丈夫だよ

 ワシが向かっていても、同じ様にしてただろう」


将軍が笑っていたので、斥候も安心していた。

そこでリーダーが話を続ける。


「彼女が壺に触れた時、変な声が聞こえました

 今思えば、あれがダモンが起きた原因かも知れません」

「自分の財宝を触られて、それで怒って化けて出たのか?

 いかにも奴らしいな」

「ええ

 確かに声の主は、財宝に触れるなと怒っていました

 盗人と罵って、激しく怒っていましたね」


「それでダモンと戦闘になったのか」

「ええ

 黒い靄が現れて、集まったそこに奴が現れました」

「黒い靄だったんですね」

「ええ

 最初は大きな塊だったんですが、そこに魔物が出て来た様に見えました」

「なるほど…」


アルノーは熱心に聞きながら、その話を羊皮紙にメモしていた。


「靄の中から人の様な物が現れて、私達に切り掛かって来ました

 それがダモンだったのです」

「何故ダモンだと分かったのだ?」

「そうですね

 部屋の物をワシの物と言っていましたし

 何よりもあんな気持ちの悪い色をした人間は居ないと思いました

 そうなると、その部屋で死んだダモン警備隊長しか思い当たる者がいませんでした」

「なるほど

 確かにそうなるな」


「気持ち悪いって、どんな感じでしたか?」

「そうですね

 今まで見たグールは、腐ったような灰色の肌でしたよね」

「ええ」

「そいつは青というか…紫?

 そんな感じの色でした」

「紫…

 毒々しい色ですね」

「はい」


「それから、爪は黒くて部屋の壁も切り裂いていました

 私の剣は魔鉱石を使った特別製の剣でしたが、これでも平気で打ち返していました」

「魔鉱石ですか?

 魔物の素材から作った剣ですよね?

 それを受けても平気となれば、相当な硬さだな」

「そうなのか?」

「ええ

 普通の鈍鉄の武器では、逆に切り裂かれてしまいますよ」

「ううむ」


普通のグールも鉄を切り裂いていたので、これは危険な事だった。

将軍はますます引き返すべきだと思っていた。


「他には特徴はありませんでしたか?」

「そうですね

 目が赤かったです」

「赤い?

 充血していたんですか?」

「いえ

 こう…何て言うのか

 まるで血の様な真っ赤な目に黒い瞳孔が見えて

 兎に角気持ち悪かったです」

「真っ赤ですか…」


「それから

 さっきも話した靄ですが、ダモンが動いている間はずっと周りに纏わりついていました

 まるで奴を囲んでいる様に、周囲を漂っているんです。

「なるほど

 どうやらその靄が、ダモンを強力な死霊にしていたんですね」

「恐らくそうだと思います

 奴を倒せたのは偶然です

 油を掛けて火を着けたんですが、それまでは歯が立ちませんでした」

「何だと

 そんなに危険な奴だったのか」

「ええ」


リーダーは逡巡したが、素直に伝える事にした。


「私達の装備でも、奴には太刀打ち出来ませんでした

 偶然彼女が…」


リーダーが斥候の方を向いた。


「油の小瓶を投げ付けて、狩人が魔道具を使ったんです」

「私も咄嗟の事でしたので、目くらましのつもりでした

 火矢の為に持っていた魔道具で火を着けたんですが、それが効いたみたいで」

「そうか…」


「なるほど

 確かにグールにも火が効いていた

 死霊は火が苦手なのかも知れない」

「おい

 それは早計かも知れんぞ

 偶々かも知れんだろう」

「しかし有効な手段が見付からない以上、試す必要はありますよ」

「ううむ

 それはそうだが…」


アルノーは死霊に関しては、火が弱点かも知れないとメモを取る。

将軍は心配していたが、有効な手段が見付からない内は、少しでも効きそうな情報は重要だった。


「まあ、本当に火が有効か分かりませんが、ダモンはそれで倒れました

 そして黒い靄も消えて、真っ黒に炭化した骨だけが残りました」

「靄は消えたのかい?」

「ええ

 火は一気に燃え上がり、収まった時には消えていました」

「そうか

 それでは火で燃えたのか、どこかへ逃げたのかは分からないんだね」

「え?

 そう…ですね」


リーダーは改めて思い出すが、靄が飛んで消える様子は見ていなかった

しかし燃えている様子も無かったので、仲間の方を向いてみる。

だが、仲間もよく見ていなかったので、分からないと首を振った。


「そうなると、黒い靄?

 そいつがまだ動いているか分からないですね」

「そうだな」


将軍は兵士達に指示を出し、黒い靄を見掛けたら早急に知らせる様に命じた。

そんな危険な魔物が、再び現れたら危ないからだ。

まだまだ続きます。

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