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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第200話

ノルドの風は急いで階段を駆け上がると、2階の広間に躍り出た

そこには1体のスケルトンが待ち構えていた

狩人の弓が狙いを定めるが、それより早くスケルトンが踏み込んで来た

咄嗟に狩人は袈裟懸けを避けるが、振り抜かれた剣は髪と衣服の一部を切り裂いた

素早くリーダーが踏み込み、スケルトンの剣を打ち払う

そこから二人は激しく切り結び、広間には激しい剣戟の音が響いた

リーダーがスケルトンを引き付けている間に、残りのメンバーも階段を駆け上る

狩人はリーダーの向こうに回り込み、その間に重装の戦士が割り込んだ

斥候と魔術師は階段の近くの置物を盾にして、リーダーとの距離を取った

それぞれが魔物に狙いを付けるが、リーダーと魔物との打ち合いは激しく、割って入る隙は無かった


「っぶな

 もう少しで切られていたよ」

「大丈夫か?」

「ええ

 でもリーダーが…」


狩人は戦士の陰に入りながら、リーダーの向こうの魔物に狙いを付ける。

しかし隙が無いのでなかなか放てなかった。


「リーダー気を付けて

 向こうの魔物にも気付かれた」

「くそっ

 こいつが思ったより素早い

 どうにか出来ないか?」


斥候の言葉に応えながらも、リーダーは必死になって剣を捌く。

スケルトンは素早くて、身体強化を使っても捌くのがやっとだった。


「任せて

 大地の聖霊よ、我が願いを聞き届け給え…」


魔術師が呪文を唱えて、構えた杖に魔力を流す。

それを見ながら戦士は、大きな両手斧を構えて姿勢を低くした。

リーダーの剣士が打ち合っていたが、このままでは隙が出来ないからだ。

戦士は捨て身で突進して、隙を作ろうとしていた。


「うおおおお」


戦士は兜の面頬を下ろすと、そのまま斧を構えて突っ込んだ。

振り返ったスケルトンが剣を向けるが、それを斧で弾きながら突っ込む。


「おりゃあああ」

ガシャーン!

ゴガン!


肩から突っ込んで、そのままスケルトンを吹き飛ばす。

スケルトンは左腕を砕かれて、肋骨も数本砕けていた。

その隙を突いて、魔術師が呪文を完成させた。


「大地の聖霊よ、力を貸してちょうだい

 アース・バインド」


地面から蔦が伸びて来て、魔物に絡みついた。

スケルトンが動けなくなったのを見て、戦士が斧を叩き付けた。

腕や脚が砕かれて、スケルトンは地面に崩れ落ちた。

しかしまだ死んでいない様で、首は歯をガチガチと打ち鳴らしていた。


「まだ動きやがるな」

「嚙まれたら厄介そうだな

 気を付けろ」

「大丈夫だ

 こいつはどうやら、剣より殴打の方が相性が良さそうだ」


そう言って戦士は、斧でスケルトンの頭蓋骨を砕いた。

しかし歯は、まだガチガチと打ち鳴らされている。


「うえっ

 まだ動くのかよ」

「早く倒してよ

 次が来るわよ」

「そうは言っても、どうやって倒すんだ?」

「踏み砕いてしまいなさいよ

 あんたが倒せるって言ったんでしょう?」

「いや

 砕けるけど倒せないだろ」


魔術師と戦士が言い合っている間も、向こうから次のスケルトンが迫っていた。

カシャカシャと音を立てて、走って来る音が聞こえた。


「待って

 私がやるわ」


斥候がそう言うと、前に進み出てナイフを引き抜いた。

素早くナイフを振り抜くと、鳩尾の骨を打ち砕いた。


ガキーン!


鈍い音がして、骨の中から宝石の様な石が出て来た。


「この魔石が弱点ね」

「魔石?

 こいつも魔石があるのか」

「ええ

 どうやら魔石を使って動いているのね

 元からあるのか?

 それとも魔物になったから魔石ができたのか?

 兎も角この魔石から、強い魔力を感じるわ」


「ふうん

 そうなると、こいつの骨は素材にならないのか?」

「そうね

 普通の骨よりは強そうだけど…

 って、向こうから来てるわよ!」


のんびり話している暇など無く、次の魔物が襲い掛かって来た。

しかし弱点が分かったので、対処は最初より楽になった。


リーダーが剣を受けつつ、魔術師が魔法で動きを押さえる。

後は胸の魔石を砕いて取り出すだけだ。

2体目となると、簡単に魔石を取り出せた。

魔石が無くなった途端に、魔物は糸が切れた様に崩れ落ちた。


「どうする?

 骨は砕けていないぞ?」

「いや、止めておくよ

 こんな物を使ったら、化けて出てきそうだ」


戦士は嫌そうな顔をして骨から離れた。

魔術師は再び組み上がらない様に、用心して骨をバラバラにして柱の陰に撒いた。


「こうしておけば大丈夫でしょう」

「そうだな

 お祈りは後でしよう

 今は少しでも早く、魔物の殲滅を行うぞ」


リーダーはそう言うと、先ほど階下から見えた場所に移動した。

そこから顔を出して、階下の将軍に声を掛けた。


「将軍

 先ずは2体倒しました」

「おお

 無事だったか」

「はい

 奴等は素早いですが弱点はあります

 このまま他の魔物も倒して来ます」

「すまない

 頼んだぞ」


将軍の言葉に頷き、リーダーは更に奥へと向かった。

奥の部屋には大きなホールがあり、そこには2体のスケルトンが待ち構えていた。

壊れたドアの隙間から中を覗くと、スケルトンが不気味に歩いていた。


「うわっ」

「しっ!

 静かにしろ

 見つかったら厄介だ」


リーダーは魔術師を呼んで、魔物を押さえれないか確認する。


「どうだ?

 奴等を押さえられそうか?」

「うーん

 2体は無理かな?

 1体はどうにか出来るけど、2体同時には離れているから」


魔法で押さえるにしても、2体の場所が離れすぎていた。

2体同時に押さえれる様な魔法は無いらしい。


「1体はリックがどうにか出来ない?

 私が奥の奴を押さえるから」

「難しいな

 オレの足が遅いのは知っているだろ?」


戦士のリックは重装だから、走っても速度は速くは無かった。

その間に攻め込まれては、後衛の人が危険になる。


「動きを押さえれたら、私の弓で急所を狙えるんだけど」

「そうね

 でも、もう1体が来るでしょうね」


「リーダーの剣と互角なんだから、ワイルド・ボアの皮鎧でも防げないでしょうね」

「そうだな

 防げるかどうかも分からないのに、危険な事は出来ないだろう」


リーダーも反対したので、他に作戦が無いか相談が続いた。

しかしあまり長く相談していると、魔物に見付かってしまう。

他に良い案が浮かばなかったので、リーダーが先に突入して、手前の魔物を引き付ける事となった。


魔術師が呪文を唱えて、奥の魔物に狙いを定める。

呪文が完成すると同時に、リーダーが突入するのだ。

戦士も後ろから突入して、手前の魔物をリーダーと倒す。

その間に狩人が弓を構えて、奥の魔物の鳩尾に狙いを付けた。


作戦が決まると、魔術師が小声で呪文を唱え始めた。

魔物に見付からないか、他のメンバーはハラハラしながら見守った。

呪文が完成して、いつでも放てる様になった。


「行くぞ!」

「おう」


扉を蹴破り、ホールに躍り込む。


「はあああ」

ガキン!

キンキン!


激しく剣戟の音が響く。


「うおおおお」

「アース・バインド」


戦士が躍り込み、魔術師が呪文を唱えた。

蔦が足元から伸びて、後ろの魔物を捕らえた。

その間にも戦士は踏み込んで、大きな両手斧をスケルトンに叩き付けた。


「おりゃああ」

ガコーン!


魔物はリーダーと切り結んでいたので、戦士の斧に反応が遅れた。

頭から叩き付けられた斧に、骨はバラバラに砕け散った。


「うわっぷ」


砕けて弾け飛ぶ細かな骨が、リーダーに飛び散った。

リーダーはまともに骨の破片を受けて、口の中に入った骨を唾と共に吐き出した。


「ぺっぺっ」

「すまんすまん

 わはははは」


二人がスケルトンを退治している間に、狩人も室内に入っていた。

弓を構えると、スケルトン目掛けて引き絞る。


「食らえー」


気合と共に放たれた矢は、見事に鳩尾に吸い込まれた。


ガシャーン!


ガラスが砕ける様な音がして、魔物の胸に矢が刺さった。

しかし魔石が落ちる事は無く、骨と共に砕けていた。


「あちゃー

 魔石まで砕いちまったか」

「おいおい

 気合の入れ過ぎだろう」

「しょうがないだろう

 一撃で仕留めないといけないんだから」


「はははは

 砕けた物はしょうがない

 先に進むぞ」


リーダーが声を掛けたが、狩人と戦士は喧嘩を続けていた。


「大体お前はガサツなんだよ

 だからすぐに物を壊す」

「なんだって

 いつ私が壊したって?

「オレの愛用のカップを割っただろう」

「こら

 いつまでやっているんだ」


リーダーに言われて、二人は渋々と言った感じで離れた。

しかしお互いにそっぽを向いてしまう。


「仕方が無いな

 本当は仲が良いのに」

「誰がこんなガサツ女」

「誰がこんな無神経男」


二人は息もピッタリに反論した。

リーダーは肩を竦めると、そのまま奥の部屋へと向かって行った。


一番奥の部屋は、ダモンが寝室に使っていた部屋だ。

そこは一番悪趣味な部屋で、辺りに金ぴかな置物や絵画が飾ってあった。


「ここは被害が少ないな」

「そうだな

 ダモンが狙われたとしたら、ここが一番激しい戦闘が行われた筈なんだが」


戦士とリーダーは、警戒しながら部屋の中へ入った。

しかし魔物は居なくて、部屋は外に比べると綺麗だった。

まるでここだけ戦闘が避けられた様だった。


「へんねえ

 確かに魔物の気配を感じていたんだけど」


斥候も首を捻りながら、部屋の中に入って来た。

外から見ても何も無かったので、部屋に入って調べようとしたのだ。


「おかしいわね

 魔力は感じるんだけど、肝心の魔物が居ないわ」


魔術師も怪訝そうな顔をしていた。


狩人だけが、全身に張り詰めた様な気配を感じて集中していた。


「それにしても悪趣味な部屋ね」


斥候が呟きながら手近な悪趣味な金ぴかの壺に手を触れた。

その時、不意に不気味な声が響いた。


「ワシの物に手を触れるな」

「え?

 リーダー、何か言った?」

「いや、オレはそんな声じゃ無いだろう」


「汚らわしい盗人

 ワシの財宝に手を触れるな」

「何だ?」

「分からない

 けど、魔力が満ちて来る?」

「何か来るぞ!」


部屋の中に不気味な気配が満ちて、どす黒い気配が漂う。


「あそこ!」


狩人が叫び、続け様に矢を3発放った。


シュバッ!

シュバシュバッ!

カン!

カ、カン!


放たれた矢は簡単に弾かれた。

寝室の奥にどす黒い闇が集まる。

黒い瘴気の様な闇が集まり、やがてそれは人の形になった。


ヴオオオオ


闇は人の形になると、不気味な叫び声を上げた。


「あれは…

 ダモン?」

「違うわ、魔物よ」


「ワシの物に手を触れるなー!」


しかし魔物は、声を上げて叫んでいた。


「ダモン?

 いや、魔物か?」

「どっちでも良い

 兎に角倒すぞ」


戦士が前に出ると、大きな斧を振り被って叩き付ける。


ガギーン!


しかし魔物は、持っていた剣で斧を受け止めた。


「な、何だと!」


「効かぬわ」

ガキャーン!


魔物は軽々と斧を打ち返すと、リーダーに向かって剣を振り翳した。


「くそっ」

ガキン!


リーダーは身体強化を使うと、魔物の攻撃を弾き返す。

しかし攻撃が重かった為に、リーダーは後方に飛ばされた。


「強い」


魔物はダモンの意識を持っていた。

しかし見た目は、どう見てもどす黒い闇を纏ったグールに見えた。


「意識を持ったまま、魔物に成り下がったか」

「恐るべきはその、貪欲な物欲だな

 それで成仏出来なくて魔物になったか」

「どうやらその様だね」


魔物と化したダモンを前にして、冒険者達は武器を構えて取り囲む。


「くそお

 食らいやがれ」

「ふん

 効かぬ」

カン、カン、ガキーン!


「おりゃあああ」

「そんな物がワシに当たると思ってか」

グワシーン!


リーダーと戦士が打ち掛かるが、ダモンはそれを軽々と捌いた。

生前のダモンであれば、避けられない攻撃であっただろう。

しかし魔物と化した今、ダモンは強烈な攻撃も物ともしていなかった。


「くそお」

ビュンビュン!

カ、カツン!


狩人が放つ矢も、頑丈な皮膚が弾いて効果が無かった。


「こうなれば

 アース・バインド」

「効かぬわ!」

ブチブチ!


魔術師が蔦を出すも、それすらも簡単に引き千切っていた。


「くそお

 どうすれば良いんだい」


斥候はそもそも火力が低いので、近付けないで遠巻きに見ていた。


「グロロロロ

 死ねー!」


ダモンが叫ぶと、纏っていた闇が四方に広がった。

それ自体は力は無い様だったが、衝撃波の様な物でリーダーと戦士は弾かれた。


戦士は何とか踏み止まれたが、リーダーは離れた場所のガラクタに突っ込んだ。


ヴオオオオ


再び不気味な吠え声を上げて、ダモンは剣を振り翳す。


「危ない!」


戦士が前に出て、斥候に向けて振り下ろされた剣を遮る。


ガギーン!


しかし鈍い音を立てて、斧は戦士へと押し返されていく。


「ぐ、ぬう…」

「リック

 させへんで」


斥候は腰のポーチに手をやると、小瓶を掴んで投げ付けた。

小瓶には油が入っていて、それを目くらましにしようとしたのだ。

しかし油が目に入っても、ダモンは平気で戦士に迫っていた。

どうやら死霊なので、痛いとか感じないのだろう。


「くそお

 リックに近付くな」


戦士の喉元に、ダモンの黄色い牙が近付いていく。

それを見て、狩人は何か無いか必死になって考えた。

そして腰のポーチに入っていた魔道具を取り出した。


「これでも喰らえ」


狩人が魔道具に魔力を通すと、魔石が光って小さな火が飛び出した。

それは種火用の魔道具で、火矢や松明に火を着ける為の魔道具であった。

効果は低く、燃え易い物に火を着ける為の道具である。


しかしダモンは、先ほど油の入った小瓶を投げ付けられていた。

狩人は目くらましにでもなればと思って火を着けたが、火はダモンを覆って燃え上がった。


「ぐぎゃあああ」


ごうと音を立てて、ダモンは激しく燃え上がった。

グールになった事で燃え易くなっていたのが、油が掛かって更によく燃えたのだ。


オアアアアア…


声はどんどん低くなり、不気味な呻き声を上げてのたうち回った。

そうして暫く燃えながら暴れていたが、不意に動かなくなった。

気が付けば吠え声も聞こえなくなり、後には炭化した骨が残されていた。


「終わった…のか?」


こうしてダモンだった魔物は討伐された。

後には誰だったかも分からない様な、炭と骨が残されただけだった。

そしてダモンを覆っていた闇も、いつの間にか消えていた。

まだまだ続きます。

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