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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第196話

王都で新たな武具の作成が行われている頃、ダガー将軍は竜の背骨山脈を行軍していた

既に頂上まで登っていたが、大トカゲの魔獣に苦戦していた

複数人で囲めば倒せなくは無かったが、それでも武器の損耗が激しかった

ショートソードで切り掛かれば、上手く切らなければ弾かれたり折れたりした

クリサリスの鎌で狙っても、刃を深く通すには膂力が必要だった

これが魔鉱石を使った武器ならば、あっさりと切り裂けたかも知れない

しかし将軍の部隊の武装は、鈍鉄で作られた武器しか所持していなかった

ダガー将軍は鈍鉄の装備であったが、冒険者達は良い装備をしていた

ダーナの街で魔物を討伐して、それなりの装備を買えていたのだ

フォレスト・ウルフの皮鎧に、前衛はオークの魔鉱石のプレートで補強をしていた

それに武器も魔鉱石を使っていたので、切れ味は鋭かった

ダーナの兵士ほどでは無いが、ロックリザードなら余裕で討伐出来ていた


それもあったので、彼等は先行して町に近付いていた。

しかしもう少しで町に着くというところで、異変を感じて引き返していた。

それはあまりにも危険な様子だったからだ。

冒険者達は夕暮れに染まる山道を掛けて、野営地へと合流した。

そのまま将軍の居る天幕へ向かうと、報告があると取次ぎをした。


「どうしたと言うのかね?」

「はい

 申し訳ありませんが、ここでは…」


ノルドの風のリーダーは、何かを心配してか将軍に人払いをお願いした。


「他の者が居ては話せん事か?」

「はい」


「すまんがみなは外してくれ」

「将軍!」

「こんな冒険者の話を信用するんですか?」


兵士達は冒険者を侮蔑していたが、彼等はそんな事には目もくれていなかった。

それだけ重要な問題だったのだ。


「くそっ」

「行くぞ」


兵士達は不満そうだったが、隊長にまで言われて大人しく引き下がった。


「すまないな」


将軍は兵士達の無礼を詫びたが、リーダーは気にしていなかった。


「構いません

 兵士達から見れば、私達は卑小な冒険者です

 それよりもノルドの町の事です」

「うむ

 詳しく話してくれ」


「ノルドの町ですが、恐らくは住民はみな死んでいます」

「な!」

「確証はありませんが、町の近くまで下りた際に死臭が拡がっていました

 それと町には灯りが灯っていませんで…」

「待て

 それは夕刻の事なのか?」


将軍は冒険者達に、危険な事はしない様に十分注意していた。

しかし冒険者達は、そんな将軍の言葉を無視して夜間にも移動していたのだ。


「ワシは危険を避ける様に言ったよな」

「はい

 しかし一刻も早く状況を調べる為に…」

「分かった」

「え?」


「もう良いと言っただろう

 それよりもどうだったのだ?」

「はい

 夜間も移動しながら偵察を続けましたが、町の方は真っ暗でした

 住民が生きているのなら、明かりが灯る筈です」


「うむ

 しかしフランドール殿を警戒して、明かりを見えない様にしているのではないか?」

「それも考えました

 そこで1日交代しながら見張りましたが、何も動きがありませんでした」


「炊事の煙はどうだ?」

「はい

 それもありませんでした」


「うーむ」


将軍は唸りながら髭を扱く。

姿が見えないとは言え、住民が拉致された可能性もある。

しかしあれだけの規模の町だから、当然住民の数も多いだろう。

それを攫って行くとは考えられない。

そうなると皆殺しにしたと言われた方が納得がいく。


「しかし本当に皆殺しなのか?

 そんなに短時間で出来る事なのか?」


ギルバートが立ち寄ってからまだ一月も経っていない。

それにフランドールが挙兵したと報告があってからも、まだ2週間も経っていなかった。

ダーナから軍隊が向かうのなら、移動だけでも1週間は掛かっただろう。

そこから1週間も掛けずに町を落とせるものだろうか?


「町の様子までは見ていないんだな?」

「はい

 さすがに死臭がしている町に近付くのは危険ですから」

「そうだな

 死後どれぐらい経っているか分からないのなら、病に罹る恐れもあるか」

「それに死霊になっている可能性もあります」


死臭が漂っているぐらいだ。

多くの死体がそのままになっているだろう。


「困った事だ」

「ええ」


「しかしフランドール殿ほどの者が、死体をそのまま放置して行ったのか?」

「そうですね

 考えたくはありませんが、現状を見ればそう判断するしかありません」

「そうか…」


将軍は王都でフランドールと会った事もある。

当時のフランドールの様子を思い出す限り、とてもその様な事をする人物には見えなかった。


「そうなると町に入るのも危険だな」

「そうですね

 しかし死体をそのままには出来ません」


将軍はどうした物かと頭を抱えていた。

そのまま事実を伝えたところで、誰もそれを信じないだろう。

それに信じたら信じたで、そんな危険な場所には行きたくは無いだろう。

冒険者達が人払いを望んだのは当然であった。


「どうしたら良いと思う?」

「はあ?」

「君達の意見を聞いてみたい」

「私達の意見ですか?」


将軍から意見を聞かれて、冒険者達も悩んでいた。

本来なら危険を冒してでも、死霊を片付けて遺体を処理したいところだ。

しかし人間しか相手にしていない兵士達が、どこまで魔物と戦えるのかは疑問であった。

ゴブリンを相手にした時も、ほとんどが冒険者が戦っていた。

それを思えば、魔物に慣れたダーナの兵士達が、そのままに放置した事が悔やまれる。


「魔物になっている事を考えれば、兵士のみなさんでは危険でしょう」

「うむ

 そうだろうな」


将軍も同意見で、出来ればこのまま引き返したかった。

しかしそうは言っても、町をこのままには出来ない。

何とか死体を処理して、通行が出来る様にする必要があった。


「危険ではありますが、住民達の遺体を処理する必要はあります」

「うむ」

「それは一旦王都に帰還などせずに、早急に対処する必要があります」


「しかしどう説明するのだ?

 まさか町が滅ぼされていて、そのまま放置されているとは言えんだろう」

「しかし嘘の情報を流すよりは、素直に伝える方が良いでしょう

 その方が兵士のみなさんも、対処するだけの気構えが出来るでしょうし」

「そうだな」


将軍は頷くと、天幕の周りに集まっている兵士達の前へ出た。


「すまないな」

「将軍」

「どうなりましたか?」


「うむ

 冒険者のみなさんは、ワシ等の代わりに危険な偵察を行ってくれた」

「え?」

「どういう事です」


「どうやらノルドの町は、今や危険な状況らしい」


将軍の言葉に、兵士達は騒めき始めた。

少し待って騒ぎが収まるまで、将軍は黙って兵士達を見ていた。

兵士達が大人しくなるのを待って、将軍は再び話を始めた。


「ノルドの町であるが、冒険者が偵察を行った結果、既に戦闘は終わっているようすであった

 恐らくは町は戦いに敗けたのだろう」


将軍の言葉に、兵士達は安堵の溜息を吐いた。

町が敗けているのなら、後は戦後の処理をするだけだ。

さすがに王都の軍に向かって、フランドールが攻めて来る事は無いと思っていたのだ。

しかし続く言葉に息を飲む事になる。


「しかし町には死臭が漂い、そこには死霊が出ている可能性もある」

「そんな…」

「死霊ですか?」


「詳しい状況は分からないが、死臭が漂っている以上死体が放置されている可能性が高い」

「それはダーナの軍が既に撤退しているという事ですか?」

「ああ

 町には灯りが灯っていないそうなので、軍は居ないと思われる」


将軍の言葉に、兵士達は不満そうな声を上げた。


「詳細が分からないなんて、偵察の意味が無いだろう」

「どうせ適当に時間を潰して、そのまま引き返して来たんだろう」

「そうだ

 いい加減な事を言いやがって」

「黙れ!」


しかし将軍が一喝して黙らせた。


「彼等は危険を冒して偵察してくれたんだ

 それに嘘であるなら、そんな情報をもたらす意味が無いだろう」


確かに嘘を吐くなら、わざわざ町が滅んだとか死体が放置されているとか言う意味が無いだろう。

どの道町には向かうのだから、そんな嘘を吐く意味が無いのだ。


「しかし将軍

 それが本当なら我々が向かう意味はあるんですか?」

「それは十分にあるぞ

 死体の処分をしなければならないし、死霊が居るなら倒さなければならない」

「死霊をですか?」

「フランドール殿の軍はどうなっているんですか?」


兵士が口々に不満を告げる。

それを黙って見ていながら、将軍は落ち着くまで待っていた。


「フランドール殿の軍は居ない様だ

 軍が残っていれば、町には灯りなり炊事の煙なり上がっていただろう」

「それはそうですが…」

「それに死霊に関してだが、そのまま放置などあり得ない

 残していれば後々の災いになるだろうし、疫病の元になりかねん」

「…」


将軍の言葉に、兵士達は無言になっていた。

それは当然の事であったし、その為に町に向かう必要があるからだ。

しかし怖いのは当たり前で、多くの兵士が顔色を悪くしていた。


「おい、オレ達死霊と戦うのか?」

「無理だろう

 ゴブリンでもやっとなんだぞ?」

「死霊になんて勝てるのか?」


「静まれ!」


将軍の怒号が響き、兵士達は言葉を失った。


「お前らが不安なのは分かる

 しかし勇敢な冒険者のみなさんは、そこを無事に偵察して来てくれた

 お前等は彼等を馬鹿にしていたが、その冒険者に負けるのか?」

「しかしそう言われても…」

「そうですよ

 我々は人間相手の兵士ですよ

 魔物なんて…」

「そうやって逃げ出すのか?」

「…」


「先も言ったが、不安があるのは分かる

 しかし民を守る為の兵士だろう

 お前達はこのまま逃げ出すのか?」


将軍にそう言われて、数人の兵士が前に出た。


「オレは妻を守りたくて兵士に志願している

 そんなオレが、死霊になった可哀想な人々を見捨てれるか」

「そうだ

 ワシも娘や孫の為に来ておる

 彼等も子供達が居ただろう

 冥府に誘ってやるのがワシ等の仕事じゃ」

「それに死霊が居ると確認されていないんでしょう?」

「そうだな」


兵士の言葉に将軍も頷く。

冒険者達も天幕から出て来て、兵士の言葉に答えた。


「オレ達は町には入ってはいない

 しかし町のすぐ上までは近付いてみた」

「町からは死臭が漂っていた

 あそこまで届くとなれば、相当の数の死体が放置されている筈だ」

「それに周りに人影は見えなかったわ

 灯りも見えなかった以上、周囲に軍隊は居ないでしょうね」


冒険者達の言葉に、兵士達は覚悟を決めた様だった。


「分かったよ

 こうなりゃなる様にしかならないだろう」

「ダーナの軍が居ないのなら、鉢合わせて戦う事も無いだろう」


しかし数人の兵士は、まだ懐疑的であった。


「でもよう

 本当に滅ぼされているのか?」

「そうだよ

 それに死体を放置だなんて、そんな非道な事をするのか?」


その言葉に、冒険者達も自分達の疑問を伝えた。


「そうだね

 確かに私達もそこは疑問を感じている」

「いくら敵対したとは言え、住民を見殺しにするのか?」

「それに死体を放置しているのも気がかりだ

 普通に考えて、あそこに死霊が出たらダーナも危険だろう」


「だが、そちらが死霊が居ると言ったんだろう?」

「いや

 死霊が出て来る可能性が高いと言ったんだ」

「どっちも同じだろう」


数名の兵士は冒険者達を睨んでいたが、他の兵士は呆れて見ていた。

どういう状況にせよ、町に向かって遺体の処理をする事には変わりが無い。

その際に死霊になった死者が居ようが居まいが、結果は変わらないだろう。

その作業中に戦うかどうかというだけだ。


「兎も角、町には向かう必要がある」


将軍はそう言うと、冒険者達に休息を取る様に伝えた。


「明日から進軍して、3日後には町の近くに到着するだろう

 冒険者の諸君は休息してくれ

 今後の戦いも助力をお願いしたい」

「はい」

「分かりました」


冒険者達はそのまま移動して、自分達の天幕へと引き下がった。

それを横目にしながら、さきほどの不満を言っていた兵士達は睨んでいた。

よほど気に食わないのか、不満を隠そうとしていなかった。


「それでは今日は、このまま野営をして休息を取る

 各自これからの戦闘に備えて、しっかりと休む様に」

「はい」


兵士達はそれぞれの天幕へ向かい、各自の装備の点検を始めた。

ここまでの道中で、ロックリザードとの戦闘で武器を壊した者も居た。

そうした者は新しい剣を与えられていたが、それに馴染むのには時間が必要であった。

その為手入れをしながら、武器を自分の手に馴染ませようとしていた。


「しかし死霊とはな」

「ああ

 そんな物が本当に出るのか?」


「だが冒険者の奴等は確認していないんだろ」

「ああ

 だから居ない可能性もあるだろうな」


「しかし死体を放置なんて、本当にしてるのか?」

「それは分からないが、死臭がしてたと言うなら恐らくそうだろう

 死臭がするには死体を数日放置しないと出ないからな」

「そうか?

 オレは経験が無いから分からないぜ」


その兵士は放置された死体を見た事があった。

その為に冒険者の説明には納得していた

むしろそんな危険を冒してくれた彼等に、敬意を払ってもいた。


「オレはあの話を信用している

 以前に経験しているからな

 死臭が出るとなると、それなりに日数が経っている筈だ

 死霊が出ていてもおかしく無いだろう」

「死霊なんて本当に居るのか?」

「ああ

 オレが見たのは動く死体だった

 ゾンビって魔物になるらしい」


「動く死体か…」

「気持ち悪いな」

「ああ

 すごく不気味だし、とても臭かった」

「そりゃあそうだろう

 死体が動いてるんだもんな」


話しを聞いていた兵士のほとんどが、そんな物には会いたくないと思っていた。

臭い臭いを発しながら、こちらに迫って来る動く死体。

まともな奴なら絶対会いたくは無いと思うだろう。


兵士達は武器の整備をしながら、動く死体を想像して話を続けていた。

これが夕食の後だったから良かった。

こんな話をした後では、とても食欲は湧かなかっただろう。

そんな雑談をしながら、兵士達は交代で休息を取っていた。

まだまだ続きます。

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