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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第193話

ギルバートは護衛の兵士と共に、日の落ちた王城の門へと向かった

そこでは兵士達が話し合っており、ギルバートを見付けると走り寄って来た

どうやら国王が探しているらしく、執務室へ向かう様に伝えられた

警備兵を伴い、ギルバートは王城の広間へと入って行った

王城に戻ったギルバートが見たのは、忙しく動き回る兵士達であった

事情を確認してみると、どうやら西の平原で動きがあったらしい

ダガー将軍の件もあったが、どうやら別件でも何かあった様子であった

ギルバートは護衛の兵士と別れると、急ぎ国王の待つ執務室へと向かった


執務室はドアが開かれており、忙しく兵士が出入りしていた。

中を覗くと、国王の前に宰相と貴族が数人立っており、その側には書類を抱えた兵士も立っていた。


「これはどうした事です?」

「おお、ギルバートよ帰ったか」


国王は明るく努めて返事をしたが、雰囲気は暗いままだった。


「何があったんです?」

「うむ

 それがな、西の平原にゴブリンがでたのじゃ」

「ゴブリンですか?」

「ああ」


宰相が振り向くと、兵士から書類を受け取りながら返事をする。


「どうやらリュバンニと王都の間の西側

 平原にゴブリンらしき魔物が現れたとの事です」

「ダガー将軍の元以外ですか」

「ええ

 恐らくは別の群れかと」


ダガー将軍もゴブリンと対峙していたので、これで3ヶ所に魔物が出た事になる。

アーネストの予想が悪い方で当たった事になる。


「それで?

 規模はどうなんですか?」

「幸いな事に、群れ自体は30体ほどで少ないみたいです」

「それは良かった」


ギルバートは安堵していた。

これが大規模な群れなら、今すぐ動かす兵士は残っていない。

どう対処するか悩むところだ。


「30体ぐらいなら大した事はありませんね」

「それがそうでも無い様なんじゃ」

「え?

 どういう事です?」


ギルバートは宰相の言葉に思わず聞き返した。


「ただのゴブリンではありません

 どうやら魔物に乗っている様なんです」

「魔物に?

 それはトカゲの様な魔物ですか?

 それとも猪みたいな魔物ですか?」


ギルバートはそう聞いて、すぐに思い当たる魔物を上げてみせた。

トカゲの様な魔物なら、コモドドラゴンだろう。

猪の様な魔物なら、考えられるのはワイルド・ボアに違いない。

アーマード・ボアなら、ゴブリンが乗りこなすとは考えられないからだ。


「うむ

 報告では毛むくじゃらの猪の様な魔物だと言っておった」

「ならそれは、恐らくはワイルド・ボアです」

「ワイルド・ボアとな?」

「はい」


ギルバートは国王の言葉に頷く。


「ワイルド・ボアとは猪に似た毛むくじゃらの獣で、四足歩行の獣型の魔物です

 頑丈な毛皮と鋭い牙が特徴で、素材は武具に使えます」

「ううむ

 獣の魔物か」

「はい」


「確か、そなたが献上してくれた魔物が居たな」

「アレはアーマード・ボアと言って、ワイルド・ボアの上位の魔物です

 ワイルド・ボアはそこまで強くありませんが、ゴブリンが飼っているのなら気性は荒いでしょう」

「なるほど

 あの魔物に近いのか」


「ええっと

 あまり似てませんよ

 アーマード・ボアは硬質な鱗を持っていますが、ワイルド・ボアは毛皮です

 それにアーマード・ボアに比べれば、ワイルド・ボアは格下になります」

「そうか」

「それに、肉の旨味もアーマード・ボアの方が上ですね」


「ワイルド・ボアも食べられるのか?」

「はい

 アーマード・ボアほどではありませんが、普通の猪や豚よりは旨いですね」

「そうか」


国王はそう聞いて、何やら思案を始めた。


「サルザート、どう思う?」

「そうですね

 素材も肉も良い物でしたら、狙ってみるべきですかね」

「しかし兵を出そうにも、そんなに出せる余裕は無いぞ」


国王は魅力的だと考えたが、肝心の討伐する兵士が居なかった。

出せなくは無いが、そうすれば王都の守りが薄くなるからだ。


「それでしたら

 こういうのはどうでしょうか?

 騎士団を遠征として出されてみては?」

「騎士団をか?」

「はい

 魔物が30体ほどでしたら、その倍の60名でなんとかなると思います」

「ううむ」


国王は悩んでいた。

60名となると、何とか出せない数では無かった。

近衛騎士団と護衛の騎士団、それと守備隊から騎士を回せば何とかなりそうではあった。

しかし虎の子の騎士達に何かあっては、それこそ王都の防備が薄くなる。

それならいっそう、守備隊の兵士を出した方が良いのでは?


「兵士では駄目なのか?」

「そうですね

 ゴブリンが魔物に乗っている以上、歩兵では不利でしょう」

「そうか

 魔物に乗っているのか」


国王は頭を抱えた。

確かに騎乗している敵に、歩兵を向けても返り討ちに合うだけだ。


「ダーナの様に騎兵が居れば良かったんですが…」

「そうじゃな

 ここでは騎兵は抱えておらん」


騎士団が整備されているので、王都近郊では騎兵部隊はほとんど居なかった。

これは王都とダーナでは地形が違う事もあった。

王都の周りは平地が多くて、ダーナの様な森や山岳は少なかったからだ。


「どうされますか?

 私は出来れば、討ち取りたいと思いますが」

「何故じゃ?」

「ゴブリン自体には興味はありません

 しかしワイルド・ボアは、肉と素材が魅力的です」

「そうじゃな」


「それにゴブリンを放っておけば、周辺の農産物を奪われます」

「ふむ

 被害が出る前に倒せと」

「ええ」


国王は宰相の方を向いたが、宰相も頷いていた。


「分かった

 すぐに手配しよう」


国王の合図で、すぐさまサルザートは書類に書き込み始めた。

兵士は宰相から書類を受け取ると、すぐさま駆け出した。

その書類を持って騎士団の宿舎に向かう為だ。


「これで良いじゃろう」

「はい

 後は吉報を待つだけです」


ギルバートが頷いていると、国王が思い出した様に言った。


「吉報と言えば…」

「そうですね」

「?」


「ダガー将軍から伝令が届いた」

「将軍からですか?」

「うむ

 ゴブリンの大半を蹴散らして、無事に山脈に入ったそうじゃ」

「ゴブリンに勝ったんですね」

「ああ」


「さすがは王都を守る将軍です」

「うむ

 それにそなたらの忠告も利いた様じゃな」

「忠告ですか?」

「ああ」


「王都に向かう際に、町でギルドに顔を出しておったじゃろう」

「はい

 確かにギルドには立ち寄りましたが…」


ギルバートとアーネストは、ボルやノフカに立ち寄った際にギルドには行っていた。

しかしそれが将軍の勝利にどう関係するかは分からなかった。


「お前達が立ち寄ったギルドの冒険者と魔術師が手伝ってくれたのじゃ」

「冒険者達がですか?」

「ああ

 何でもお前に助けられたという冒険者が居てな

 彼等が主導して助けに向かってくれたんじゃ」


ギルバートが旅をする際に、同行した冒険者達が居た。

彼等の名前は憶えていなかったが、確かパーティー名は聞いていた。


「ええっと…

 確か『ノルドの風』でしたか?」

「おお、そうじゃ

 そのノルドの風が手配してくれたのじゃ」


彼等は確かに一緒に旅をしていたが、その彼等が一体何故、魔物の討伐を指揮していたのか。

ギルバートには思い当たる事は無かった。


「何でもお前達から、内戦が起きる可能性を言われたと言っておってな

 それでボルのギルドに働きかけて、兵士を募っておったそうじゃ」

「ああ

 それがどうして討伐に?」


「彼等が冒険者を集めて、内戦に備えて軍備を整えておった

 そこには魔物の素材もあったので、冒険者が戦う準備が出来ておった

 結果として、彼等の活躍で魔物は退けられた」

「へえ

 彼等は低ランクの冒険者だと思っていましたが、随分活躍したんですね?」

「そうじゃな

 どうやら強化の魔法を修得しておったのと、ダーナでの経験が役立ったそうじゃ」


「ダーナの?」

「うむ

 オーガは戦った事は無かったが、ゴブリンやコボルトの討伐の経験があった

 それが竜の背骨山脈で採れた魔物の素材で強化出来た」

「素材ですか」

「ああ

 同行した商人が、ノフカの職人に依頼したらしい

 狼や大トカゲの素材を使ってな、武具を作ったそうじゃ」

「あー…

 ナンディか」


確かにナンディに素材を譲っていた。

その素材を流用して装備を整えたのだ。

それに、熟練では無かったが身体強化を取得させていた。

それが効果を持って、魔物の討伐に役立ったのだ。


「それでその冒険者は?」

「うむ

 商人はそのままボルに残ったが、冒険者は将軍に同行しておる

 どうやら行方不明の隊商を探しておってな

 そこは聞いておらなんだか?」

「いえ

 確かに依頼していました

 その報酬として素材を渡しましたので」

「うむ

 報告書通りじゃな」


国王は満足気に頷き、報告書を手渡した。

ギルバートがそれを読むと、確かに書かれていた。


私達『ノルドの風』は、ギルバート殿の同行パーティーとして訪れました

竜の背骨山脈において、多数の隊商が行方不明になっています

私達は彼等の捜索を依頼されて、この場に留まる事になりました

報酬はロックリザードやフォレスト・ウルフの素材

それと道中に見掛けた隊商の馬車の残骸から回収した素材です

これらの一部は隊商のナンディ殿にも渡しましたが、捜索の為の装備として加工する事となりました

私達が山脈へ向かおうとした折に、魔物の出現の報がありました

丁度将軍が駐留されていましたので、将軍が対処されていましたが苦戦しておりました

差し出がましいとは思いましたが、ダーナでの経験がございました

将軍に注進して討伐軍に加わらせていただきました


ノルドの風の報告書には、その様な事が書かれていた。

そうしてもう一つの報告書は将軍からであった。


ノルドの風の忠告を聞き、魔物の群れを囲んで撃破出来た。

彼等の協力が無ければもう一週間は掛かっただろうと書かれていた。

また、その下にはこう書かれていた。


「え?

 将軍の軍に同行するんですか?」

「うむ

 その許可を求めた書類じゃ」


将軍に同行しては、そのままノルドの町に向かう事となる。

それは危険な旅になる可能性があった。

しかし彼等は、隊商の行方を探している。

竜の背骨山脈に入るには、将軍の軍に同行するのが安全だろう。


「隊商を探すのなら、同行も止む無いのか…」

「それに、ノルドの町が攻められているのなら、彼等も協力できるであろう」

「それはどういう事です?」


「うむ

 冒険者であるなら、怪しまれず近付けるであろう」

「いえ、それは無いかと」

「ん?」


「あの町はダモンが支配しています

 それに通行する者から不当な税を取り立てています

 迂闊に近付いては襲われる可能性もあります」

「ううむ

 それほどなのか?」

「ええ」


ギルバートの言葉を聞いて、サルザートは書類にメモを取っていた。

ノルドの風に注意する様に言伝を書いたのだ。


「あちらは開戦しているか、その前で緊張しています

 例え冒険者でも、迂闊に近付くのは危険でしょう」

「そうじゃな」

「しかし、隊商を探すのなら将軍の軍は強力な援軍になります」


「お前はノルドの町も、隊商の件に関わっていると思うのか?」

「はい

 ガモン商会が関わっているんです

 恐らくはダモンもグルでしょう」

「そうか…」


「その件は後でまた話すとして

 どうじゃ?

 彼等は同行させるべきか?」

「ええ

 冒険者は兵士とは視点が違います

 同行させれば良い協力関係が築けると思います」

「そうか

 ならば同行する様に、早急に将軍に伝えよう」


国王の言葉を聞いて、サルザートは書類に書き込んで行く。

それを兵士に手渡すと、ヘイゼルに使い魔を出す様に要請した。

兵士は書類を持つと、すぐさま部屋を後にした。


「あのう?」

「なんじゃ?」

「使い魔が処分されていた件は大丈夫なんでしょうか?」

「うむ

 関わったと思われる者は処分した

 今は正常に運行されておる」


どうやら王宮に暗躍していた賊は捕らえられ、使い魔は問題無く行き来している様だ。

ギルバートは安堵して頷いた。


「それなら良かったです

 まだ邪魔する者が居るのなら、混乱が生じますから」

「そうじゃな

 怪しい者は全員投獄しておる

 これ以上は起きんじゃろうて」


国王はそう言うと、執務机に腰を下ろした。


「さて、ノルドの件はこれで良いじゃろう」

「はい」


「後はフランドールがどこまで進軍しておるかじゃな」

「そうですね」


ギルバートはそこまで話していて、ふと気になる事があった。


「そう言えば

 陛下はどうやって進軍をお知りになられたんですか?」

「ん?」


「使い魔に関しては妨害が成されていたんですよね?」

「ああ、その事か」


「実はお前が拉致された時にな、使い魔の件もすぐさま捜索させたんじゃ

 その際にな、ノルドの町とのやり取りも見付かった

 それでフランドールの挙兵が判明したわけじゃ」

「え?

 それならば虚偽の書類の可能性もあったのでは?」

「いや、それは無いじゃろう

 書類はダーナとノルドの両方の物が見付かった

 それを見て挙兵したと判断されたんじゃ」


国王の話を聞いて、ギルバートは考え込んだ。


「それでは…

 両軍の位置や状況は不明なんですね」

「…」

「フランドール殿が挙兵した日時は書かれていますか」

「それは書かれておらなんだ

 慌てて書かれたのか、殴り書きの書類があっただけじゃ」


「それなら、既にノルドの町は囲まれているかも知れません」

「そうじゃろうな」


「しかし状況を判断しようにも、山脈を越えねば見えんであろう

 後は将軍からの報告を待つしか無い」

「そうですね…」


ギルバートは何か見落としている気がしたが、これ以上は分からなかった。

分からない以上は迂闊な発言も出来ない。

不安に思いながらも、続報が届くのを待つしか無かった。

まだまだ続きます。

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