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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第192話

今までの訓練と違い、冒険者達は最初から聞き耳を立てている

何がどうしてそうなったかは分からないが、取り敢えずは方法は聞いてもらえそうだった

どうやらギルドマスターが事前に説明していたのだろう

さっそくギルドの訓練場に移動して、具体的な説明を始めた

ギルバートは身体強化などの方法を説明すると、魔力が高い者を先ず集めた

これは冒険者達が、騎士達と違って日頃から魔道具を多用しているからだ

騎士は鍛錬で肉体を鍛えており、魔道具は軟弱な者が使うと思っていた

だから火付けの魔道具なども、従者や見習いが主に扱っていた

魔力の込め方を説明すると、数名の冒険者はさっそく身体強化を使えた

使えたと言っても少し強化された程度だが、それでも効果が確認出来た

それに喜んだのか、冒険者達は必死になって学ぼうとしていた

それは冒険者達が、騎士や兵士に比べると身体能力が低かったからだ

その為に志願も出来ず、志願しても振り落とされていた


「これは…」

「軽い

 軽々と剣が振れるぞ」


今までは剣を振るうのもやっとだった者が、楽に振れる様になる。

それだけでも嬉しかったのだろう。

しかしギルバートとしては、何でこんなに差があるのかが不思議だった。


「あのう

 どうして剣が振れなかったんですか?」

「え?

 そう言われましても…」

「そうですよ

 元々力が足りないから振れないわけですから」


「訓練はしなかったんですか?」

「しましたよ」

「当然ですよ

 それでも身に着かないから、こうして冒険者なんかしてるんです」

「おい

 なんかなんて言うなよ」


苦笑いをしているが、彼もまた仕方が無く冒険者をしている口であった。

兵士にもなれないで、家業を継ぐ事も出来ない。

そうした者達が冒険者ギルドの門を叩くのだ。

だから冒険者は、非力な者や荒くれ者が多い。

非力な者は非力なりに、薬草採取や雑用の手伝いが出来るからだ。


「この街に限らず、冒険者という者は非力な者が多いんです

 兵士になる事も出来ず

 かと言って他に仕事が出来るわけでもない

 そういった者達が、簡単な依頼をこなす為にギルドに所属しています」

「そうですか」


事情が分かったものの、それならば強化もあまり意味が無いだろう。

確かにマシにはなったが、非力な事には変わりが無いからだ。


「身体強化は、出来る人のを見た通り、身体能力を強化する魔法です

 元の基礎が出来て無いと不完全ですし、魔力が切れても使えなくなります」

「それでも、魔力がある間は力が上がるんだろう?

 それなら訓練する事も出来るし、鍛える事も出来るんじゃないか?」

「それはそうですが…」


冒険者達は前向きであったが、正直そんなに効果があるのか疑わしかった。

それでも教えると約束した以上、教えるしか無かった。


「魔力切れを起こしたら頭痛がします

 それ以上無理をしたら意識を失い、最悪命を落とす事もあります

 くれぐれも無理はしないでください」


ギルバートは注意をしたが、既に数人が頭を抱えて座っていた。

中には意識を失いかけた者もいる。

これ以上は危険と判断して、別の訓練の話をする。


「他にも…

 これはある程度戦える事が前提になりますが、スキルとジョブという物があります」

「それは何ですか?」

「先ず、ジョブですが

 これは職業みたいな物ですね

 魔法が使える者が魔法使いである様に、戦う者は戦士というジョブがあります」

「え?

 冒険者とは違うんですか?」


「そうですね

 これは実際の職業とは違って、女神様から授かる称号みたいなものですね」

「へえ…」


「魔物と戦っていると、その経験から戦士のジョブが授けられています」

「魔物と戦わないと駄目なんですか?」

「そうですね

 今のところは、魔物との戦闘の後でしか確認出来ていません」


「それはどの様な物なんですか?」

「戦士は筋力や生命力の強化と、一部のスキルが使える様になります

 まあ、まだ検証途中ですので、他にもあるかも知れませんが」


他にも魔術師などもあったが、ここでは説明しなかった。

そもそも、魔術師なら魔術師ギルドで説明すべきだし、冒険者には関係無さそうだったからだ。


「筋力が上がるのか

 それなら重たい武器も持てる様になる」

「その前に、お前は魔物と戦えないだろう」

「う…」


「そうですね

 いきなり魔物と戦おうとしても無理でしょう

 ですから、先ずは身体を鍛えていって、十分に力を身に着けてから戦うべきでしょう」


ギルバートの説明に、冒険者達は納得して頷いた。


次にギルバートは、狩人や荒くれ者の冒険者達の前に来た。

彼等は先の冒険者と違って、筋力や戦う能力は十分に持っていた。

ただ粗野な態度で兵士になれない者や、狩猟をする為に登録している者達の集まりであった。


狩人に関しては簡単であった。

訓練は素直に聞くし、弓で戦うとは言え、魔物を倒せるだけの力量も持っていた。

問題は荒くれ者の方だった。


彼等も訓練の話は素直に聞いたが、いかんせん力が有り余っていた。

すぐに魔物を倒しに行くと言う者までいて、説得をしなけらばならなかった。

今向かわれても、前線の兵士の邪魔にしかならないからだ。


「なあ、殿下さんよ

 オレ等だけで戦っても良いだろう?」

「駄目です」

「そう言うなよ

 オレ等は兵士にはなれなかったが、腕っ節には自信があるんだぜ」

「そうだよ

 魔物だか何だか知らねえが、オレ達がぶっ倒してやるぜ」

「駄目と言ったら駄目です」


「何で駄目なんだ」

「今、魔物の前に居るのは、討伐の為に集まった兵士達です

 そこへあなた達が向かってどうするんです

 却って混乱させて迷惑を掛けるだけでしょう?」


ギルバートにそう言われて、男達は黙った。

思い当たる事があるのか、中には視線を逸らす者も居た。

ギルバートは溜息を吐きながら続けた。


「あなた達に訓練を教えるのは、この街に魔物が迫った時の為です」

「この王都にですか?」

「ええ

 決して他人事では無いんですよ

 いつ魔物が攻めて来るのか分からない

 ですから鍛えておいて欲しいんです

 この街を守る為に」


男達は暫く黙っていたが、意を決した様に頷いた。


「分かりました

 オレ達もこの街は気に入っている

 魔物なんかにどうにかされたくない」

「いざという時には、オレ達に声を掛けてください」


男達は暑苦しいポーズを決めながら、力強く宣言した。


「私達も頼ってください」

「この腕で魔物を仕留めてみせます」


狩人達もそう言うと、頷いてみせた。


「はい

 その時は是非ともお願いします」


ギルバートも頷いて返事をした。


「それでは、それまでに力を身に着ける為に訓練をお願いします」


ギルバートは説明を始めたが、こちらは思う様には行かなかった。

狩人は多少は魔力を持っていたが、荒くれ者達はそもそも魔力がほとんど無かった。

その為に身体強化を教えようにも、そもそも魔道具が使えなかった。


「弱ったな」


撓体強化が使えない以上、強力な魔物と戦う事は出来ないだろう。

精々オーク辺りで限界が来てしまう。


「スキルを身に着けたとしても、基礎の体力に限界があるか」


ギルバートが呟くと、冒険者が質問してきた。


「そのスキルってのは何なんです?」

「ああ

 説明していなかったか」


「スキルと言うのは、技や技術みたいな物かな」


「例えば…

 スラッシュ」

シュバッ!


ギルバートは試しとしてスラッシュを使って見せる。


「この様に、特殊な技を使える能力と思ってもらえば良い」

「魔術師の魔法みたいな物ですか?」

「ああ

 その方が分かり易いか」


「無理に口に出す必要は無いが、自然に身体が動いて出せる事が便利だね」

「自然にですか?」

「ああ

 最初は動きを覚えて

 何度も練習する必要がある」


言いながら、ギルバートはスラッシュの構えから振り抜くまでを繰り返して見せる。


「スキルに関しては、ギルドマスターに書物を渡してある

 後で見せてもらうといい」


そう言って、離れた場所から見ているギルドマスターを見る。

ギルドマスターも頷いて了承した。


「便利な技があるのは分かったが、必要あるのか?」


荒くれ者達は怪訝な顔をして聞いてきた。

彼等にすれば、力任せにどうにか出来ると思っているのだろう。

しかし実際には、スキルは強力な技もあり、いざという時には大いに役立つ。

それに一般の冒険者からすれば、技の一つでもあれば戦い易くなるだろう。


「スキルは使い様によっては隙が無く使えます

 それに一撃が強力な技もあるので、強い魔物と戦うには必要ですよ」

「そうなのか?」


荒くれ者達は半信半疑だったが、他の冒険者達は強力な技と聞いて目を輝かしていた。


「技か…」

「覚えてみたいな」


「ただ振るうだけなら、型を覚えれば出来ます

 しかしジョブもスキルも、本当に身に着く時は声が聞こえます」

「声ですか?」

「はい

 頭の中に声が聞こえるんです

 まるで天から授かった様に」

「なるほど

 それで女神様が授けてくださると」


ギルバートは説明をしながら、幾つかのスキルの型を見せた。

しかし、一度見たぐらいではなかなか覚えられない。

ギルバートも最初の頃は、1年近く掛けて何度も素振りをして覚えたのだ。

そんなに簡単に出来るものではないだろう。


みなが素振りを始めたのを見て、ギルバートはギルドマスターの元へ向かった。


「どうですか?」

「そうですね

 基礎から鍛える必要はありますが、2年ぐらい続ければどうにかなるでしょう」

「2年ですか」


どうにかなると聞いて、ギルドマスターは安堵の表情を浮かべた。

しかし2年と聞くと、些か落胆していた。

それは楽観的に見てなのだが、それでも不満な様子だった。

ギルドマスターとしても、なるべく早く戦える様にしたかった様だった。


「あくまで順調に仕上がってですよ」

「そうでしょうね

 しかしそうなると、魔物が攻めて来た時に間に合うのでしょうか?」

「そこは騎士団や兵士のみなさんに期待するしかないでしょう

 ダーナでも主力は兵士や騎士でしたから」

「そうですか」


ギルバートとしても、冒険者達にも期待はしたかった。

しかし戦闘を生業にしている兵士と、雑用が主な冒険者ではどうしても差が付く。

無理では無いにしても、時間は掛かるだろう。


「あくまで冒険者のみなさんには、自衛の為の訓練になるでしょう

 そのうち王都の周りにも、魔物が現れる様になるでしょう

 その時に薬草採取をするにしても、戦う力が必要になります」

「そうでしょうね

 しかしギルドマスターとしては、街を守る力にもなって欲しいものです」


ギルドマスターは溜息を吐いていたが、こればかりは仕方が無い。

非力な冒険者を鍛えるにしても、どうしても時間は必要であった。


「どうにか短期間で鍛えれませんか?」

「難しいですね

 身体強化を身に着けたとしても、基礎を鍛える必要がありますから」


鍛えてある者が使えば、身体強化も効果が期待出来る。

しかし基礎が出来ていなければ、少々上がっても効果は期待出来ない。

せめて訓練で身体強化の効果を上げれれば期待できるが、それでも訓練する時間は掛かるだろう。


「何度も使って慣れてくれば、身体強化の効果も上がります

 それでもそこまでの訓練時間は掛かりますし…

 それなら基礎から鍛える方が良いでしょう」

「そうですね」


「欲張らずに、地道に鍛えた方がよろしいでしょう」

「分かりました

 通常の依頼を果たす必要はありますが、空き時間で鍛える機会を持たせましょう

 それで少しでも訓練が出来るのなら、冒険者の危険も減りますし」


ギルドマスターも了承したので、ギルバートは後を任せる事にした。

一通りの内容を説明していたので、訓練はギルドの主導に任せる事にしたのだ。


「私はこれで帰りますので」

「はい

 こちらに任せてください」

「では、何かありましたら連絡してください」

「はい」


ギルバートがギルドを出た頃には、周囲は既に暗くなっていた。

そのまま王城に向かおうとしたが、ギルドの近くに待機していた兵士達が慌てて駆け寄って来た。


「殿下、終わりましたか?」

「ええ」


ギルバートはさすがに帰っていたと思っていたので、兵士の登場に驚いていた。


「待っていてくださったんですか?」

「ええ

 これが私の仕事ですから」


兵士達はそう言ったが、ギルドに入ってからも結構な時間が経っている。

いくら護衛と言っても待ち時間は大変だっただろう。


「無事に終わりましたか」

「はい

 しかし交代したとは言え、退屈ではありませんか?」


あちこち回ったので、護衛は途中で何度か変わっていた。

しかし今居る彼は、ギルドに入る前から着いて来ていた。


「それは教えていただいた訓練をしていましたから」


話しを聞いてみると、彼は身体強化の訓練をしていた。

待ち時間を使って、ずっと訓練をしていたのだ。


「魔力切れは?」

「それは大丈夫です

 どうやら私は、魔力は結構多くあるみたいです

 効果は低いんですが…」


兵士は身体強化を使いながら、脇にあった資材の入った箱を持ち上げた。

中身の入った箱は重そうだったが、兵士は軽々と持ち上げてみせた。


「今まではこれぐらい重いと、持ち上げるのもやっとだったんですが」

「そうですね

 効果が出ているようですから、後は繰り返して使って、いつでも無意識に使える様になれば良いですね」

「無意識ですか」

「ええ」


「意識して使うのも良いんですが、戦闘中ではそうはいかないでしょう」

「ああ、なるほど」


「それに無意識に使うって事は、普段から使うという事です

 それだけ使っていれば、自然と魔力も鍛えられます」

「魔力ですか」

「ええ

 魔力の量もですが、使う魔力を抑えて使うコツも身に着きます」

「それは良いですね」


消費魔力を抑えて、魔力の保有量も増えれば、それだけ長時間使う事が出来る。

加えて効果も高くなれば、より戦闘が楽になるだろう。


「殿下も毎日訓練されているんですか?」

「ええ

 今も使っていますよ」

「え?」

「私はまだ、成人したばかりですよ

 それがこれだけ体力があるのは変でしょう」

「あ…」


兵士もギルバートが強いと思っていたが、それは身体強化を使っているからだったのだ。


「あなたも鍛えれば、常に使える様になりますよ」

「はあ…」


兵士は改めて、ギルバートの実力に驚いていた。

そのまま兵士は、ギルバートに色々質問しながら王城へと向かった。

まだまだ続きます。

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