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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第188話

隊長が休息を取っている頃、リュバンニの町では騒然としていた

警戒する為に向かった兵士が、負傷して帰って来たからだ

バルトフェルドは渋い顔をして、マーリンと地図を睨んでいた

報告で魔物の動向は知れたが、思ったより攻撃的だった

このまま負傷者が増える様なら、一旦後退させるしかなかった

砦の兵士達も、報告を聞いて騒然としていた

まだ死者は出ていないが、重傷者も出ていたからだ

これから向かう予定だった者も、それを聞いて尻込みをしていた

それは見張りだけで済むと思っていたのに、思ったより状況が良く無いからだ


「どうする?」

「どうするって言ったって、行くしか無いだろう?」

「ああ

 だけど報告を聞く限り、分が悪いだろう」


いきなり魔物に襲われたと聞いたので、自分達も無事で済まないだろうと思ったのだ。

しかし十分に対策を練れば、何とか撃退も出来るのだ。

事実、隊長は使者を出さずに魔物を撃退していた。

しかし報告が来ていないので、兵士達はそれを知らなかった。


兵士達が不安になっていると、領主が作戦本部である会議室に現れた。


「諸君

 既に報告を受け取っていると思うが、斥候に出た者達が魔物に襲撃された」


バルトフェルドの言葉に、兵士達は騒然とした。

バルトフェルドは暫く待ち、兵士達が落ち着くのを待った。


「幸い死者は出ていない

 しかし負傷者が多数出たので、交代の人員を送る必要がある」

「バルトフェルド様

 どのぐらい出すつもりですか?」


発言をしたのは、街の警備を担当する隊長であった。


「うむ

 出来れば現状で出されている、120名よりは増やそうと思っている」

「そうなると、リュバンニの軍のほとんどが出払う事になりますが?」

「うむ

 負傷した者が戻ったとしても、傷が癒えるまでは戦えないだろう

 それを踏まえて、200名は送ろうと思う」


そこで再び、兵士達が騒然としだした。

200名となると、今この場に居る兵士のほとんどが出る事になる。


「うちの者は出せませんよ?」

「そうだな

 警備の者はこれ以上は減らせないだろう

 それに、公道に出ている者もだ」

「しかしそうしますと、砦に詰めている兵士の大半が出払う事になります

 砦の守備はどうするんですか?」


砦の兵士は700名ではあるが、既に300名が出撃していた。

それは村の警備と、周辺の警戒に出ている。

それに加えて、200名の兵士を出すと言うのだ。

これでは、砦に何かあった時に対処が難しくなる。

だからと言って、警備兵を砦に置く事は出来ない。


「砦に関しては、徴兵を行おうと思っている」

「本気ですか?」

「ああ

 王都からの援軍が望めない以上、この街の者で何とかするしかない」


「幸い、今年は成人した者の中で徴兵免除を受けた者も多数居る

 それに控えに入った兵士も居るからな」

「しかし、控えに入った者では、戦場に立つには危険です」

「だが、そうでもしなければ支えられんだろう」


控えの兵士とは、年齢や負傷で兵役を免除された者達だ。

元が兵士なので、訓練が少なくても十分に戦える。

しかし体力や怪我の問題で、正規の兵士として扱うのは無理があるのだ。

せいぜい人数合わせか、砦での防衛ぐらいにしか使えなかった。

そんな兵士達まで出さないと、人数が足りない状況であった。


「兎も角

 今は魔物がこれ以上被害を出さない様にしなければならない

 その為には、森の周囲に兵士を出して、魔物の行動を押さえる必要がある」

「押さえるだけで…

 どうにかなるんでしょうか?」

「そうだな

 時間稼ぎにしかならんだろう」


それはバルトフェルドも分かっていた。

しかし時間を稼がなければ、徴兵した兵士を鍛える時間も無いのだ。


「少しでも時間を稼ぎ、使える兵士を用意しなければ

 そうしなければ魔物に攻め込まれるだろう」


バルトフェルドはマーリンの姿を探す。


「マーリン」

「なんじゃ?」

「すまんが徴兵の立札を出してくれ」

「良いが、条件はどうする?」


「そうじゃな

 16歳以上の健康な男子

 特に過去に徴兵の免除をされた者とするか」

「免除か?

 それなら怪我人や退役も入るぞ?」

「そこは審査が入ると書き加えておけば良いだろう

 それに、自分から進んでなりたがる者は少ないだろう?」

「それは分からんぞ」


バルトフェルドは、徴兵に参加したがる者は少ないと踏んでいた。

しかし実際は、街の危機と聞いて参加したがっている若者は多かった。

それを知っていたので、マーリンは人数の上限も確認してきた。


「それで

 徴兵は何人ぐらいを考えている」

「そうだなあ

 300人でも集まれば上々だろう」

「300人?

 えらい少ないな」

「そうでも無いさ

 それ以上に若者が出れば、街の産業にも影響が出るだろう?」


「いや

 恐らくは1000人近くは集まるぞ」

「そんなに来ないだろう?」

「いや、お前は考えが甘すぎるぞ

 街の危機だと知らされているから、500人は軽く集まるだろう

 それに退役兵まで加われば、1000人近くは集まるぞ」

「そうか?」


バルトフェルドは暫く考えて、上限を少し増やした。


「それなら500名でどうだ?」

「うむ

 それぐらいが妥当だろう」


マーリンは頷いていたが、人数の方は500名から700名と記してあった。

これは多めに集めて、訓練だけでもさせようという意図があった。

バルトフェルドには内緒にしておいて、多めの徴兵を計画しておいたのだ。


「ワシが前線に出れれば、話も違ってくるのだがな」

「それはいかんだろう

 お前が出たら、前線は崩壊するぞ」

「何故じゃ?

 年老いたとはいえ、ワシは今でも十分に戦えるぞ」

「そうでは無い」


マーリンは血気に逸るバルトフェルドを窘めた。


「お前は領主じゃろう

 フランツに言った事を忘れたのか?」

「う…」

「前線に出たお前を、守る為にどれだけの兵士が犠牲になるか

 考えればわかるだろう」


確かに、領主が先頭に立った方が士気が上がる場合もある。

しかし、今回の様な敵の陣地に踏み込む場合は、却って邪魔になる可能性が高い。

そこも含めて、マーリンは反対していた。


「魔物が攻め込んだのならいざ知らず、斥候に出すわけにはいかん」


マーリンはそう言うと、立札の草案を持って執務室を出た。

今日中に立札にして、街の要所に置く為だ。

立札には、1週間後に審査を行うと記されていた。


「人数は良いとして、戦力はどうなるか」

「それは訓練次第ですが…

 新兵は街の警備に回すべきでしょう

 その上で警備の兵士を戦場に回して…」

「しかし街の警備にしても、訓練が必要であろう

 そうでなければ何かあった時に対処出来ないのでは?」

「そこはベテランを残して対処すべきでしょう」


「街の警備が300名だが、そうなると半数しか回せないな」

「そうですな

 正規の警備が300ですから、200名を戦場に回してそこに新兵を回しましょう」


「残りはどうする?」

「残りですか?

 うーむ…」


しかし新兵を回す場所も無いので、妥協案しか無かった。


「公道の警備に関しては、新兵などは回せないだろう?」

「そうですな」

「そうなると、新兵も戦場に出さなくてはならんか」


「新兵を前線に出すわけにはいかんだろう

 出すなら後続の輜重兵か、その護衛だろう」

「そうですな

 その辺が無難でしょう」


慣れていない兵士を戦わせるよりは、補給や物資の管理をする方が安心であった。

そこでなら、すぐに攻撃される心配も無いし、いざとなればベテランがフォロー出来る。

問題があるとすれば、物資の盗難があった場合だろう。

その辺は、審査の際に慎重に選ぶしかなかった。


「若者の数は少なくして、なるべく動ける予備兵役を集めるか」

「それにしても、かなりの人数が集まるだろうな」

「本当にそうなるか?

 いくらここの人口が多いと言っても、精々500を越えれば御の字だろう?」

「いや

 人口に対して兵役に関わる人数が多い

 それに、住民も魔物に対して戦意が上がっている

 それもこれも、領主がお前だからだ」


マーリンの判断では、バルトフェルドが領主であるから、住民の信頼が高いと判断していた。

それに、退役した軍人が多いのも理由の一つだ。

魔物が現れる前は、軍縮で退役する者が多かった。

しかしバルトフェルドを慕う兵士は多く、そのままリュバンニに留まっていた。

それに加えて、他の町からの移住者にも元兵士が多かった。

これはバルトフェルドの人望もあったが、それ以上にリュバンニが重要であったからだ。


リュバンニは王都の前の最期の防衛線でもある。

それに、街からは多くの公道への警備兵が出ている。

そうなれば、兵役期間を終えた兵士達にも、復職の機会が多いと思われたのだ。

事実、兵士が足りない時には召集されていた。

農業や商業が苦手で、腕に覚えがある者からすれば、ここは復職の期待が出来る良い場所であった。


そして、マーリンの予想は初日から当たる事となった。

立札を見て、多くの志願者が集まった。

既に500名を超えており、すぐさま立札は撤去される事となった。


「数年内に退役した兵士が150名以上

 彼等は怪我ではなく、兵役期間が明けた為に辞めた者達だ」

「そうか」

「それに加えて、まだ現役で動けそうな退役軍人が80名

 これだけでも、前線の補充には十分だろう」


「うーむ

 しかし、新人も多く集まっているんだろう?」

「それは…」


即戦力になりそうな兵士が、合わせて400名以上となっていた。

それに加えて、訓練を受けていない素人が300名ほど集まっていた。

彼等は訓練を受けつつ、暫くは街の警備に就く事となる。

それ以外にも、募集を打ち切った後にも希望者が集まっていた。

彼等も正式では無いが、訓練を受ける予定にはなっていた。


「新人だけでも300名以上

 正式な登用は無いにしても、実際の訓練には500名近い希望者が集まっている」

「これだけ人数がいれば、街の防備の補強にもなるだろう」


バルトフェルドは、この際集まった者達をなるべく登用しようと思っていた。

警備兵の補充もだが、いざという時の為の防衛の兵士も増やしたかったのだ。

しかし、兵士が増えればその分予算も掛かってしまう。

その辺が気掛かりになっていた。


「この際、余った兵士は訓練して、魔物が迫った時の防備に回そうと思う」

「ワシもその方が良いと思うぞ」

「だが、問題は予算だな」


まだ多少の余裕があるものの、このまま兵士を増やせば、その分食料や予算の追加が必要だ。

いくらリュバンニが街だといっても、そこまでの予算の余裕は無かった。


「止むを得んが、来期の税は上げる必要があるな」

「いや、そこまで悲観せんでも良いじゃろう」

「ん?」


「ダーナの街が今、潤っているのは知っておるじゃろう?」

「ああ

 魔物を多く倒して、その素材で手広く商いを始めて…

 まさか?」

「ああそうじゃ

 魔物を倒したのなら、それだけ素材が手に入る」


「しかし、コボルトでは大した物は取れないのでは?」

「そうじゃな

 しかし、魔石が採れる事があるらしいからな」

「魔石か…」


コボルトでも稀に魔石を保有している。

魔石を持つ個体は他より大きかったり強かったりするが、所詮はコボルトなので弱かった。

それが魔石を持つとなれば、稼ぎは大きくなる。


「魔石が採れれば、少しは採算が合うかな?」

「少しでは無い

 魔石の価値は、まだまだ高騰しておる

 王都に持って行けば、高値で取引されておる」

「そうか

 いざとなれば、王都に持って行くか」


予算の事は、どうにかなりそうであった。

後は食料の問題である。

兵士を増やす以上、それを維持する為の食料は必須である。


「後は食料だな」

「そうじゃな

 村を二つ放棄した以上、その分の補填もせんとな」


「兵士の分も必要じゃが、増えた住民の分も確保せんとな」

「ああ

 避難民が入った分、食糧の貯蔵も不安だ

 出来れば周辺の町か王都にでも頼んで、食糧の購入が必要だな」


今までの住民の数なら、備蓄してある食料を使わなくても十分だった。

しかし兵士達に輜重する分に加えて、避難民が増えた分の食料も必要であった。

避難民自体は300名ほどと決して多くは無かったが、毎日の食料となるとそれなりの量になる。


「食料になる様な魔物であれば、そこまで悩まないんだが」

「そうですね

 ワイルド・ボアという魔物がいるそうですが、今回の魔物の群れには居ない様ですし

 もし居たとしても、我が軍が戦って勝てるかどうか…」

「うむ

 無い物を考えても仕方が無い

 先ずは徴兵した兵士を選別して、前線に出す兵士と街に残る兵士に分けんとな」


バルトフェルドはそう言うと、集まった兵士達の居る宿舎前へと向かった。

そこで兵士を選別して、指示を出す為だ。


「集まった内の230名が退役

 それに150名の他の町から来た兵士

 合わせて380名が前線に送られる事となる」


バルトフェルドに言われて、380名の兵士が一ヶ所に集まって指示を受ける。

残った280名の新兵は、そのまま警備部隊に連れられて移動した。

彼等は装備を支給されて、そのまま明日から警備兵として訓練を受ける。

他に500名近くの若者が集まっていたが、こちらは別に訓練を受ける事になる。

その後の配属は決まっていないが、先ずは訓練の日程と必要な装備の準備が指示された。


「すぐに装備を用意させたいが、生憎とそこまで用意はされていない

 後日用意され次第で渡すが、それまでは基礎訓練を受けてもらう事になる」

「はい」


一通りの手続きをすませると、訓練兵達は家へと帰って行った。

宿舎にも空きが無かったからだ。

その背中を見送りながら、バルトフェルドは感謝していた。

思った以上に多くの若者が、街の危機に集まってくれたからだ。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。


追加を書き加えました。

明日からまた投稿します。

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