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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
185/800

第185話

夕食の時間になり、バルトフェルドとギルバートは食堂に来ていた

アーネストはもう一度兵士達に集まってもらい、昼とは違う者に訓練を教えていた

マーリンは一旦執務室に向かい、仕事の進捗を確認している

二人が戻るまでの間、ギルバートはバルトフェルドと話しながら待っていた

少しでも魔物に対する情報を教えようとしていたのだ

今回現れた魔物はコボルトなので、戦力的には大した事は無い

しかしコボルトは、犬の頭をしているだけあって統率力が高い

油断していると、集団で囲まれる可能性もあった

その辺が知能の低いゴブリンに比べると、厄介なところであった


「ふむ

 そうなると、ゴブリンは増える速度が高い訳だな」

「はい

 大体成人するのに一月ぐらいですが、そこからの繁殖力が高いです

 2週間ぐらいで子供を産むそうですので、1体が4、5体生むとしたら、一月に4体は増える勘定になります」

「それがまた産んで増やすのだな

 それは厄介だな」


「もう一つ厄介な事があります

 我々が討伐していないのに、そこまで数が増えないとなると、それを襲って食っている魔物が居るという事です」

「うーむ

 確かにそうなるな

 そうすると、ボルのゴブリンの近くに、他の強力な魔物が居る可能性があるわけか」

「はい」


「それはコボルトという事は無いのか?」

「ええ」


「コボルトはそこまで強力な個体ではありません

 ゴブリンを襲うとなると、もっと強力な魔物でないと無理でしょう」

「何故だ?

 コボルトは集団で襲い掛かる魔物だろ?

 それだけでも十分に脅威だろ」

「いえ

 ゴブリンを100体襲うなら、コボルトはその倍近く居ないと難しいでしょう

 いくらゴブリンが知能が低いと言っても、そこまで馬鹿とは思えません」

「そうか…」


ボルの近くに現れた魔物が、100体ぐらいなら問題は無いだろう。

しかし1000体も現れたとなれば話が違う。

それだけ居るとなれば、他にも居る可能性が高い。


それに現れて時期もおかしかった。

偶々こちらに移動しただけかも知れないが、前回現れてから1年以上は経っている。

その間に、魔物がどこに居たのかも問題だった。

最悪の可能性としては、ゴブリンの集落を魔物が襲い、逃げた個体が再び増えたという事だ。

時期的にも、この可能性が一番高かった。


「可能性としては、2年近く前に現れたゴブリンの残党が、森の中で増えていたという事でしょう

 それがコボルトに襲われたのか、他の魔物に襲われたのかは分かりません

 しかし集落を追われて、逃げた個体が再び集落を作った」

「確かにその可能性が高いだろうな」

「ええ

 そしてその集落を、コボルトが襲って移動した

 それならば、コボルトとゴブリンの位置が近いのも納得出来ます」

「ん?

 しかし、君は先程コボルトではゴブリンを襲うのは難しいと言っていなかったか?」

「ええ

 ですので、殺すまではいかなかったが、集落を襲って食料を奪ったのではと思っています」


「なるほど

 ゴブリンを捕食するまでは出来なくとも、食糧は奪う事は出来るか

 そうすると、ゴブリンは同じ森に居て、コボルトに住処を追われた事になるな」

「そうです

 そう考えると位置関係もそうだと思えます」


確かにボルの近くには草原しか無く、ゴブリンがそこに居たのは不思議な事であった。

それが森から追い出されて、移動したとなれば納得出来る。

しかし問題は他にもあった。

それが逃げ出した集落の全てかという事だ。

もしかしたらだが、他にもゴブリンの集団が居るかも知れない。


「逃げたゴブリンが1000体ぐらいなら、森に居るコボルトもそれぐらい増えているんだろうな」

「ええ

 幾つかの集団に分かれているかと思いますが、総数は大体それぐらいかと」

「それが協力して戦うわけか

 確かに厄介だな」


「ええ

 しかし一度に相手にしなければ、何とかなるでしょう」

「それはどいう事だ?」


「実はコボルトは、あまり弓は得意ではありません

 その代わり走って剣や棍棒で襲い掛かるのが得意です

 魔法や弓で襲って、接近されたら騎兵で突っ切る

 これで数は減らせると思います」

「なるほど

 歩兵に対する戦略が有効なんだな」

「ええ

 しかし同じ戦術は、そう何度も使えません

 ゴブリンよりは賢いので、その辺は工夫が必要です」


バルトフェルドはそれを聞いて、森の位置と兵士の配置を思案し始めた。

そこは指揮官としても有能なので、色々と策がある様だった。

後はマーリンが隣に居れば、もっと有効な策が考え出されるだろう。

これでコボルトが、1000体以下なら何とかなりそうだった。


「ただ…

 総数が不明なのが不安ですね」

「そうだな

 1000体ものゴブリンを追い出したのだ、それなりの数は居るだろう」

「いえ

 1000体以上を追い出していた場合の事です」

「う…

 それは考えたくも無い事だな

 しかしその辺も視野に入れて、慎重に対処しなけらばならんか」


現在確認出来たのは、300体近い数の集団だ。

恐らくは、同規模の集団に分かれて、何組か周回しているのだろう。

その総数が分からないのが問題だった。


「アーネストの考えでは、200から300ぐらいの集団が数組居ると思われます」

「それで1000体のゴブリンを襲ったわけだな」

「ええ」


「しかし、それ以外の魔物が居た場合が問題です」

「そこだな」


「1000体近いゴブリンを追い出し、コボルトも警戒させている

 そうなってくると、相当な魔物が居ると考えられます」

「そんな魔物が居るのか?」

「はい

 オーガぐらいの魔物が数十体居れば十分です」

「オーガか…」


オーガと聞いて、バルトフェルドは顔を顰めた。

戦友であるアルベルトを殺したのもオーガであった。

それにオーガが居るとなると、現在の王都の戦力では太刀打ち出来ない。

まともに攻め込まれては、このリュバンニの砦も破壊されるし、王都の城門も無事では無いだろう。


「数体でなら、私で何とか出来ます」

「出来るのか?」

「ええ

 これでも私は、一度に5体までは倒せています」


「5体…

 それはまた…」

「はい

 父上が倒れられた時、その場に居た5体を倒しました

 それに他の者の手助けがあれば、十体ぐらいまでならなんとか」

「しかし王子である君に、そんな危険な事はさせられない!」


バルトフェルドは友であるアルベルトを殺したオーガに殺意を覚えていた。

しかし同時に、それだけ強力な魔物に対して警戒心も持っていた。

もしそんな魔物が現れたら、迂闊に攻撃せずに慎重に戦わないといけないと思っていた。

何せ相手は、アルベルトを一撃で倒した相手なのだから。


「兎に角

 オーガや他の魔物の事は、今は考えるのは止そう

 今出来る事を考えよう」

「え?」

「居るかどうか分からない魔物より、目の前の脅威に立ち向かうべきだろう」


バルトフェルドはそう言うと、深く息を吐いた。


「先ずはコボルトをどうにかしなければな」

「そうですが…」

「なあに、ここまでやってくれたんだ

 後はワシ等でどうにかするさ」


バルトフェルドがそう言っていると、食堂にマーリンが入って来た。


「そういう事なら、今夜は徹夜じゃな」

「マーリン」

「なあに、二人でやれば何とか終わるだろう」


「しかしお前はここ数日…」

「なあに、久しぶりの徹夜じゃ

 その代わり明日は休ませてくれよ

 このままじゃあ過労で死んでしまうわい」

「分かった

 さっさと済ませて、兵士達の訓練に集中しよう

 そうしないとお前も、のんびりと町に出れないからな」

「ば、馬鹿

 それは良いんじゃ」


マーリンは何かに照れながら、そっぽを向いた。


「それで、どうしますか?」

「ううむ

 当面は兵士を鍛えながら、森の周辺で魔物の監視だな

 迂闊に攻め込むには、まだ準備は整っていないからな」

「そうですぞ

 兵士の力が足りない以上、兵力の底上げが急務です

 幸い魔物が攻めて来ない以上、今は準備を整えるべきじゃ」


「そうですね

 数人は素養がありそうな兵士も見付かりました

 今は準備に専念すべきです」

「アーネスト」


アーネストも戻って来たので、一同は席に着いた。

メイドは一同が揃ったのを見て、食事の準備に向かった。

それを確認しながら、バルトフェルドは口を開いた。


「それで?

 アーネスト殿も準備が必要と考えておるんだね」

「はい

 先ほど兵士を見て来ましたが、身体強化と索敵に向いていそうな者をリストにしました

 こちらを参考にしてください」


アーネストは有用そうな者を調べて、それをリストにしていた。

それを元に、魔物の警戒をする者を決める為だ。

実力が足りない者が向かっても、魔物に殺されに行く様なものだ。

それならば、多少は使えそうな者が向かった方が良いだろう。

その方が訓練になるし、いざという時に戦闘になっても助かる見込みがあるからだ。


「なるほど、彼等を向かわせるわけだな」

「ええ

 その方が良いでしょう」

「そうだな」


話している間に料理が運ばれて来る。

焼き立てのステーキに野菜のサラダ。

肉と野菜を煮込んだスープとパンも運ばれた。


「これは何の肉ですか?」

「これは牛のステーキだ

 牛は知らないのかね?」

「ええ

 アーネストからそんな生き物がいるとは聞きましたが…」

「そうか」


バルトフェルドはニコリと笑うと、嬉しそうに言った。


「それなら、この件が片付いてからゆっくりと見てくれ

 ここの特産品の一つだからな」

「ええ

 是非とも」


ギルバートも微笑むと、バルトフェルドを見ながら頷いた。


「そうだな

 ギルが知らない事はまだまだ沢山ある

 これが終わったら、一度ゆっくりと周辺を回ろう」

「周辺を?」

「ああ

 ここだけじゃあない

 色々国内を回ってみよう

 きっと楽しいぞ」


アーネストが嬉しそうに話すのを見て、ギルバートも笑顔になっていた。

しかし照れ臭かったのか、口を突いたのは別の言葉だった。


「それはお前が見たいだけじゃ無いのか?」

「ちょっと

 お前、それは無いだろ

 ギルが見た事無いって言うから…」

「はははは

 そうだな

 若い内は色々見て回ると良い」

「そうじゃのう

 ワシ等みたいに、領地を持つと迂闊に外にも出れなくなる」


マーリンも領地経営に参加していたので、ほとんど領内から出れなくなっていた。

というか、仕事が忙しくて町中に出る事も稀だった。

そんなマーリンの言葉だけに、重みがあった。


「私達も、領地を預かると忙しくなりますかね?」

「そうだな

 殿下はそうでも無いが、アーネスト殿は忙しくなるだろう」

「有能な部下を見付けなければ、ワシみたいになるぞ」


マーリンがニヤリと笑い、バルトフェルドは顔を顰めた。


「確かに仕事を押し付けて悪いと思っているが、それは無いだろう

 部下には数人着けているぞ」

「あの程度では足りんだろう

 大体、どれだけ仕事を回して来てると思っているんだ?

 ここの経営の半分以上を…」

「ああ、分かった分かった

 今度はお前の選んだ部下を用意する

 それで良いだろ?」

「本当か?

 本当だろうな?」

「ああ」


バルトフェルドとマーリンの、いつもの遣り取りに使用人達は笑いを堪えていた。

しかしギルバートとアーネストは、その勢いに飲まれて唖然としていた。

二人は長年、こんな遣り取りを繰り返していたので、慣れていたのだ。


「あ…」

「すまんすまん

 つい、いつもの調子で」

「バルトフェルドが調子に乗るからだぞ?」

「お前もだろう」

「領主様、マーリン様」


使用人が静かに忠告する。

その声音は落ち着いていたが、それが却って怖かった。


「う、うむ」

「お客様の前ですので、はしゃぐのはほどほどにしてください」

「そうですよ

 お二人が困っています」


バルトフェルドとマーリンが、まじまじとギルバート達を見る。

そして苦笑いを浮かべているのを見て、誤魔化す様に咳払いをした。


「うおっほん」


それからはマーリンも自粛して、大人しく食事を始めた。

食事は夜半まで続き、その後バルトフェルドとマーリンは執務室へ向かった。

残った仕事を仕上げる為だ。

残されたギルバートとアーネストも、使用人に案内されて客室に向かった。

まだまだ続きます。

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