第183話
リュバンニの町は南に城門があり、そこから北に向けて町の中央に大通りがある
その大通りの先に砦があるのだが、教会は町の中央に位置してある
中央の広場に面した場所に、各種ギルドと並んで教会が建てられていた
その教会に向かって、ギルバート達は急いで向かっていた
その教会でなら、鑑定の魔法が習得出来る可能性があるからだ
アーネストを先頭にして、一行は教会の入り口を開けた
そこはそれほど大きくは無いが、小ざっぱりとした綺麗な教会であった
アーネストは一度来た事があるのか、慣れた感じで司祭に挨拶をしていた
それから司祭に案内されて、中央奥に置かれた女神像の前に移動した
「砦の女神像では不十分なのか、上手く行きませんでした
そこでここの女神像なら、女神様に十分に祈れると考えました」
アーネストの言葉を聞いて、マーリンは怪訝そうな顔をしていた。
「それで?
女神様に祈ってどうするんじゃ?」
「はい
女神様に祈る事で、鑑定の魔法を授かる事が出来ます」
「な、何じゃと!」
マーリンは驚いていた。
本には確かに、鑑定を出来る魔法は女神様から授かると書かれていた。
しかしそれが、まさか祈る事で授かるとは思っていなかったのだ。
「じゃが、あの本には書かれておらなんだが?」
「ええ
そこまで書いていたら、何かの拍子に情報が洩れるかも知れません
今のところは、この事は司祭しか知りません」
「情報が洩れる?
何か問題があるのか?」
「そうですね
実際に鑑定の魔法は、魔法が使える者が熱心に女神に祈りを捧げる事で得られます
司祭にも協力していただいて、確認は取りました」
「おお
司祭も使えるのか」
「はい
簡単な情報ですが、見られる様になったそうです」
「情報が見れるか
具体的にどの様な物が見れるのか?」
「それは魔法を修得されてみてのお楽しみです」
「しかし、どうするのじゃ?」
「祈ってください
女神像の前に跪いて、鑑定の力をお授けくださいと祈るんです」
「こうか?」
マーリンは女神像の前に膝ずくと、熱心に祈りを捧げた。
それで希少な魔法を授かると言うのなら、熱心に祈りたくもなるだろう。
暫く一心に祈っていると、急にマーリンはビクリと身体を震わせた。
「声が…
女神様の声か?」
「さあ
しかし私達は、その天の声を聞いてスキルを授かっています」
「その様じゃな
ワシもそう聞こえた」
マーリンは無事に鑑定の魔法を授かり、さっそくそれを試してみた。
「おお…
これが…」
「どうです?」
「うむ
確かにこれは便利だ
しかし…」
「ええ
便利過ぎるんです」
「便利過ぎるって?」
「ああ、そうか
ギルは持っていないんだな
どうだ?
試しに修得してみるか?」
ギルバートはアーネストに言われて、試しに女神像の前に跪いてみた。
しかし修得出来るかは懐疑的で、疑問に思っていた。
「しかし本当に修得出来るのか?」
「こら、疑うんじゃない
本当に信じて、女神様に祈りを捧げるんだ」
「でも…」
「良いから信じろ
例え信じたくない女神様でも、確かにスキルは授けてくれるからな」
「スキル?」
「ああ
鑑定の魔法とは、実際は魔法であるがスキル扱いなんだ」
「そうなのか?」
「ああ
だから、スキルを授けてくださいって祈るんだ
そうすれば、お前に資質があれば授かる筈だ」
「そうか…
分かった」
ギルバートはまだ信じられ無かったが、アーネストの言葉ならと信じてみる気になった。
そうして跪くと、熱心に祈りを捧げた。
スキルを授けてくださいと。
女神様
私はまだ、あなたを信用していない
魔物を進行させて、多くの人の命を奪ったからだ
それでも、今はあなたを信じてみようと思う
どうかこの私にスキルを授けてください
ギルバートの祈りが届いたのか、天の声が聞こえて来た。
スキル鑑定を修得しました
スキル癒しを修得しました
「ん?」
「どうだった?」
「天の声は聞こえた」
「おお」
「良かったじゃないか」
「ああ
しかし…」
「ん?」
ギルバートは鑑定を使ってみようと思ったが、何も起きなかった。
いくら念じてみても、何も起こらないのだ・
「何も起きない」
「何も?」
「ああ
どうやって使うんだ?」
「いや
頭の中で鑑定って念じるだけだぞ」
しかし、いくら念じてみても何も起こらなかった。
「何も起きない」
「おかしいな?」
「うむ
ワシも出来たぞ
え?」
マーリンはそう言いながら、ギルバートに鑑定を行った。
そこで驚いて声を上げた。
「どうしました?」
「いや、殿下のスキルなんだが…」
「スキル?」
言われてアーネストも、ギルバートに鑑定を使ってみる。
「治癒…魔法?」
「あ!
そう言えば癒しってスキルも取得したって」
「修得って、何で?」
「さあ?」
アーネストはもう一度、ギルバートの鑑定を行ってみる。
そこには鑑定のスキルの横に不思議な記号が出ていた。
ギルバート・クリサリス
年齢:11歳(13歳)
その下には数字が並んでいて、それが現在のギルバートの状態を現わしていた。
そして数字の下に、スキルや称号が並んでいた。
そこに鑑定も入っていたが、鑑定の横には―と記号が書かれていた。
他のスキルには数字が書かれているのに、そこだけは―と書かれていたのだ。
この事が鑑定が使えない理由の様だった。
それともう一つ、癒しと書かれたスキルの横に治癒魔法と書かれていた。
これはギルバートが、治癒魔法を使える事を示しているのだろうか?
アーネストは試しに、マーリンの鑑定を行ってみた。
するとマーリンのスキルの欄には、炎魔法と風魔法の項目があった。
「なるほど
使える魔法に関しては、スキルに出て来るのか」
「そうなると、殿下は治癒の魔法が使えるんですか?」
「そうだろうね」
「しかし、いくら念じてみても、治癒の魔法なんて使えないぞ」
「それはそうだろう
ギルは魔法を覚えていないだろう?
その治癒魔法というのを覚えたら、使える様になるんじゃないか?」
「それなら教えてくれよ」
「無理だ!」
「無理です」
「え?」
ギルバートは治癒の魔法が使えれば、怪我人を治療出来ると思って喜んでいた。
しかし二人の回答は、無理だと即答された。
「何で無理なんだ」
「誰も知らないからだ」
「正確には、今の時代には治癒魔法は残っていないという事です」
「え?」
「昔…
魔導王国や帝国の全盛期には居たみたいなんだが
帝国が滅びる頃には、回復術師も居なくなっていたんだ」
「恐らくは戦争で、回復術師も全滅したんでしょうな」
「そんな
それじゃあこの治癒魔法って」
「ああ
今のところは何の役にも立たない」
ギルバートは膝から崩れ落ちた。
「まあ、古い文献に残っていないか調べてみるよ」
「そうですな
ワシも調べてみます」
「問題は…
どうして修得出来たかだな」
ギルバートのスキルには、確かに治癒魔法:1と記されている。
鑑定とちがって数字が書かれているからには、呪文を覚えたら使えるのだろう。
しかし覚えたきっかけが分からなかった。
「司祭様は使えないのか?」
ギルバートは不思議に思いながら聞いた。
司祭も鑑定を覚えたと言うので、それならばと思ったのだ。
しかしアーネストは首を振った。
「いや
司祭様は持っていない」
「そもそもが、治癒魔法という物自体が忘れ去られていた
それを殿下が身に着けられたというのは、女神様に何か思惑があるのでしょう」
「そうですね」
「しかし…
スキルで覚えても、肝心の魔法が分からないのでは…」
「そうだな
それでも治癒魔法を使える様になる可能性が増えたのは、素直に喜ばしいだろう」
アーネストはそう言いながら、本にメモを掻き込み始めた。
それを見て、マーリンも先ほどの本を開いてメモを掻き込み始めた。
「さて、鑑定を覚えたので訓練場へ向かおう」
「そうですな」
「あ!」
「ん?」
「そういえば、どうして鑑定が秘密なんだ
便利なんだろう?」
「あ…」
アーネストは面倒臭そうな顔をした。
ギルバートは鑑定が使えない様なので、一から説明しなければならないのだ。
「鑑定の魔法なんだが
いや、スキルかな?」
「魔力を使いますので、魔法で問題無いでしょう」
「そうだな」
「それで、鑑定なんだが
技能が低い者なら問題は無さそうなんだ
せいぜい名前や年齢ぐらいしか見えないらしいから」
「らしい?」
「ああ
ボクやマーリン様は鑑定:5や鑑定:3だから、結構細かい所も見えるんだ
例えば体力やその残量、毒や怪我等も見える」
「何だ、便利じゃないか」
「そう、便利なんだ」
「このスキルの横の数字なんだが、どうやらスキルの技能の高さみたいなんだ
これは何度も使っていると上がるみたいなんだが…
数字が大きいと、それだけ見れる内容も多くなる
より詳しく見れるとなると、それだけ秘密の内容も見られてしまう」
「あ…」
「気が付いたか?」
「ああ」
人には知られては困る秘密や、知られたくない秘密もあるだろう。
それを簡単に見られてしまうとなると、色々と問題になるだろう。
ギルバートは理由を知って納得をした。
「じゃあ、こんどこそ行くぞ」
「ああ」
ギルバートは頷くと、教会を出る事にした。
教会を出て、砦に向かって移動する。
砦に入ると、そのまま横の訓練場に向かう。
そこには300名ほどの兵士が並んで、ギルバート達の来るのを待っていた。
先頭にはバルトフェルドも立っていて、大きな剣を持って待っていた。
「遅いぞ」
「すいません」
「それで?
鑑定魔法は修得出来たのか?」
「はい」
「ワシを誰じゃと思っている」
「それで?
ここでは何をするのかな?」
「はい
身体強化の訓練と、索敵の魔法の適性を見ます」
「なるほど」
「先ずは身体強化です
これは魔力を身体に流して、自身の身体を強化する方法です
魔力を使いますが、魔法ではなくスキルになります」
「うむ
それはどうやって修得するんだ?」
「簡単です
魔道具に魔力を流す要領で、自分の身体に魔力を流します」
「簡単って
それがどうやってやるのか…」
「最初は燭台や火付けの魔道具を持った方が良いかも知れませんね
そうして魔力を流す感覚を、少しずつ腕や足に変えて行くんです」
「なるほど
こう…か?」
バルトフェルドはそう言うと、剣を構えながら目を瞑る。
そうして意識を集中しながら、一心に集中する。
「お?
そうです、そのまま剣を振ってください」
バルトフェルドは言われるままに、そのまま剣を振ってみせる。
ゴウ!と音を立てて、大きな剣が軽々と振られる。
「こんな感じか?
しかし…あまり変わり映えがしないな」
「そうですね
成功はしています
しかし何度も繰り返さなければ、スキルとしては身に着けれません」
「何度もか…」
言われてバルトフェルドは、そのまま剣を繰り返し振り抜く。
上手く使えている時は良い音がするが、時々音が鈍くなっている。
まだ安定して使えていない様だ。
「マーリン様
バルトフェルド様がスキルを取得すれば、スキルの欄に身体強化と出ます」
「なるほど
確かに殿下には、身体強化:4と出ておるな」
「ええ
繰り返し使い、実戦で使っていれば上がります
しかしある程度上がると、訓練だけでは上がらなくなります」
「そうなると、上げる方法は無いのか?」
「それが…
危険な事になります」
「まさか?」
「ええ
強い魔物と戦う
それがスキルを上げる方法です」
「そうか…
魔物を倒す為にスキルを身に着け
魔物を倒す事でスキルを上げる
そうしてより強い魔物と戦える
そういう事じゃな」
「はい」
「それで鑑定が必要なのか」
「いえ
鑑定にはもう一つ役目があります
それは魔力量を見る事です」
アーネストはそう言うと、兵士達の方を向いた。
魔力量を見る事で、より多くの魔力がある兵士を見抜けるのだ。
索敵の魔法と言うだけあって、索敵には魔力を消費する。
基礎の魔力が高い者で無ければ、修得しても意味が無いのだ。
アーネストの言葉を聞いて、マーリンは改めて兵士達を見る。
多くの人数を見るので、精度は落として魔力量だけに注視する。
そうして見回してみると、確かに幾人か魔力の高い兵士が確認出来た。
「確かに魔力が高い者もおるが
それでどうするんじゃ?」
「それでは、その魔力が高い者を選別してください」
「分かった」
マーリンは鑑定で名前も分かっていたので、魔力が高い者の名前を呼んで集めた。
そうして17名の兵士が呼び出されて、一ヶ所に集められた。
「それではこれから、索敵の魔法を教えます」
「なんじゃ
こ奴等には身体強化は教えんのか?」
「それも訓練しますが、彼等には索敵を覚える必要があります
そっちの方が優先事項ですからね」
「まあ、確かにそうじゃな」
そこでアーネストは、索敵の魔法の説明を始めた。
「索敵の魔法ですが、やり方は簡単です
魔道具に魔力を流す感じを、今度は周りに広げる感じにするんです」
「え?
呪文は?」
「要りません」
「魔法なんですよね?」
「魔力を使うので魔法と言っていますが、これも身体強化と同じでスキルです」
「魔力を広げると言われましたが、どういう感覚か分かりません」
「そうですね
自分の周囲に魔道具が沢山囲んでいるとイメージしてください
それに魔力を流す、そんな感じで良いです」
しかし上手く出来ないのか、兵士達は首を捻っていた。
「難しい様なら目を瞑ってください
そうして少し先の様子を見る感覚で、魔力をそこへ集中させてみて…」
「う…ぐうっ」
「あ…」
そこで魔力が切れたのか、数人が頭を抱えて蹲った。
やはり魔力が少ないのか、訓練は難航しそうであった。
少し直しました。
まだまだ続きます。
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