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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
180/800

第180話

翌日の朝は、9時からの約束がある為に早めに起きた

朝の8時となると、食堂もまだ人はまばらであった

ギルバートは眠い目を擦りながら、食堂の席に腰掛けた

既にアーネストは食べ終わっており、席を立とうとしていた

ギルバートも間に合う様に、朝食を食べ始めた

アーネストは7時過ぎに起きてから、顔を洗って食堂に向かっていた

そこでは早朝とあって、使用人の数もまばらだった

しかし人が少なくなると、メイド達のヒソヒソ話も聞こえてくるわけで、今朝もそれが聞こえていた

個人の趣味をどうこう言うつもりは無いが、出来れば止めて欲しいと思った


ギルバートが起きて来たので、これ以上話題にされるのも嫌なので退出した。

アーネストは自分の部屋に戻ると、さっそく出発の準備を整えた。

今回はあくまでもバルトフェルドとの会談が目的だ。

とは言え魔物と遭遇しないとも限らない。


最低限の戦闘用の準備と、魔法に使う触媒を準備する。

その中には、先日ヘイゼルから貰った素材も幾つか入っていた。

魔物由来の素材は多くても、王都でしか買えない様な希少な素材も存在する。

特に鉱石や薬草等は、その地方でしか採れない物もある。

どうしても王都でしか探せない様な珍しい物もあるのだ。


「これで良し」


アーネストは必用な物をポーチに仕舞うと、そのまま城門へ向かって出発した。

ギルバートを待っても良かったが、メイド達を無駄に喜ばせる事になるだけだ。

そう思ってみたら、何だか無性に腹が立って来た。


「そりゃあボクだって、そろそろ女の子に興味も持つさ

 しかし…」


そう言いながらも、ダーナに残した大好きな女の子の事を思い出す。


「フィーナ…」


当のフィオーナは、フランドールに夢中になっているのだが、アーネストはそれを知らなかった。

アーネストは爵位を取れれば、フィオーナに求婚出来るかも知れないと思っていたからだ。

まさか自分が旅立った事で、フィオーナの心が離れるとは思っていなかったのだ。


城門で待っていると、護衛の任務を受けた兵士達が集まってきた。

彼等はみな20代前半で、腕こそ分からなかったが魔力は人並みだった。

内包する魔力と身体つきから、恐らくはそれなりの腕は持つだろうと想像は出来た。

しかしリュバンニに向かうだけなので、問題は腕前よりも性格だろう。

こればっかりはすぐには見抜けない。


アーネストは城門の近くに腰掛けて、兵士達の様子を見ていた。

それから数分後に、武装したギルバートが城門前に現れた。

あれほど町に行くだけだと言ったのに、ギルバートはしっかりと武装していた。


「おい…」

「おう

 アーネストは既に来ていたのか」


アーネストはギルバートの姿を見て、溜息を吐きながら言った。


「来ていたのかじゃない

 その恰好は何だ?」

「え?

 ワイルド・ベアの装備一式だが?」

「違うだろ」

「?」


「今日はバルトフェルド様に会談するだけだろ

 それが何だ?

 それではまるで、魔物の群れに突っ込む様な装備じゃないか」

「ああ

 リュバンニにも来る可能性があるんだろう?

 それなら、もしもの時の為に、装備はしっかりとしておかないと」


アーネストは頭を抱えた。


「あのなあ

 陛下からも魔物の討伐には参加するなと言われただろう」

「え?」

「え、じゃない

 魔物が出たならば、当然王都に帰還する

 そうでないと叱られるだろう」


二人の遣り取りを遠目に見ていた兵士達も、近寄って苦言を呈する。


「そうですよ

 殿下は王子ですので、危険な魔物との戦闘は避けていただかないと」

「その為に我々が護衛に着くんですから」


「そんな…」


ギルバートはガックリと肩を落とす。


「もしかして…

 どさくさに紛れて参加しようと思っていた?」

「う…」


アーネストは溜息を吐くと、少し厳しく言った。


「すぐに会談用の礼服に着替えて来る様に

 それと武器と鎧は没収だ」

「そんな…」


落ち込むギルバートを見て、兵士達は苦笑いを浮かべてフォローする。


「まあまあ

 魔術師殿も心配でしょうが、こういう事もあろうかと」


兵士は荷物から礼服を取り出す。


「宰相殿から預かっております」

「準備が良いな」

「はい

 サルザート様も予見していましたから」


それを聞いて、アーネストも苦笑いをする。

宰相にばれるぐらい、ギルバートは浮かれていたんだろう。

仕方が無いので、着替えは馬車の中で済ます事になった。

その代わり、装備は一式取り上げて、そのまま馬車に置かれる事となった。

アーネストのマジックバッグになら、それぐらいは収納出来た。

しかし敢えて馬車に置く事にして、無断に使えない様にしたのだ。


「まったく

 油断も隙も無いな」

「うう…」

「そんなに戦いたかったのか?」


「そうじゃないけど…

 オークやオーガが出たら、町の兵士や騎士では敵わないだろ」

「そりゃあそうだが」

「なるべく犠牲は出したく無いんだ」


ギルバートの言う事は尤もだった。

ギルバートの実力なら、例えオーガの集団が出ても、苦も無く倒せるだろう。

しかし、今のギルバートは王子という身分なのだ。

その王子が、守られるべきなのに、兵士を差し置いて戦うのはマズいのだ。

その辺の認識が、彼の中ではまだ出来ていないのだ。


「あのな

 なんで護衛を着けるか、分かっているか?」

「え?」

「お前が王子だからだ」


「王子であるお前に、何かあったら困るんだよ

 だから彼等はわざわざ護衛に来てくれているんだ」


アーネストは兵士達の方を指差して、力強く言う。


「それが、守る筈の護衛を、守られる筈のお前が守ってみろ

 何の為の護衛なんだ」

「え…と」


ギルバートは引き攣った笑顔を浮かべるが、さすがに今回はアーネストも容赦しなかった。


「笑って誤魔化すな」

「まあまあ」


兵士が取り成そうとするが、アーネストは鋭く睨みつけて黙らせた。


「お前はそれで良いかも知れないが、彼等の立場はどうなる?

 護衛する筈だったお前が、護衛を置いて魔物に立ち向かう

 お前は褒められるだろうが、護衛は叱責されるだろうな」

「え?」


ここで初めて、ギルバートは護衛達の立場を考えた。


「それに

 もし…

 もしお前に何かあったら、彼等は責任を取らないといけない

 お前はそこまで考えているのか?」

「あ…」


最初は庇おうとしていたが、兵士達もアーネストの言葉に頷いていた。

上に立つ者には、それだけ大きな責任が付き纏う。

アーネストは今回の件で、それを教えようとしているのだ。

それが分かったので、兵士達も黙って成り行きを見守っていた。


「お前が優しいのは、ボクも十分知っている

 だからこそ、ボクは一生お前に従おうとも思っている」

「アーネスト…」


「だがな、お前はもう少し自分の責任を自覚しないといけない

 軽はずみな行動が、周りにどれだけの影響を与えるのか

 もう少し考えてくれ」


アーネストはそう言うと、さっさと馬車に乗り込んだ。

後に残されたギルバートは、黙って下を向いていた。


「さあ

 殿下も乗ってください

 間もなく出発いたします」


兵士の優しい言葉に、ギルバートが泣きだしそうになる。

ぐっと唇を噛みながら、必死に堪えていた。


「すいません

 私の軽率な行動で…」

「いいえ

 宰相殿も気付いていたので、特に問題はありませんよ」

「それに、魔術師殿は怒っているんでは無いでしょう

 殿下を思って言ってくれているんですよ」


「私は…

 愚かだな」

「そんな

 殿下はまだ子供ですよ」

「そうですよ

 子供は大人が守って、道を間違わない様に見守るんです」

「あの魔術師殿が特別なんですよ」


兵士は肩を竦めて、アーネストの方を見た。


「普通は、あの年でここまでの事は考えれませんよ」

「そうですね」

「私達よりよっぽど大人だ」


「そうですね

 あいつは…

 アーネストは賢い」


「そのお友達の魔術師殿が、あんなにあなたの事を思って言っているんです

 その友情を大事にしないと」

「私の事を?」

「ええ

 全ては殿下の事を思ってですよ」

「そうですよ

 我々ではとても、恐れ多くて言えませんよ」


兵士達の言葉を聞いて、改めて思い返してみる。

確かにアーネストは、ギルバートに対しては厳しい。

それに言葉遣いも、人前で無ければキツイ事でも言ってくれる。

それは全て、ギルバートの事を思っての事なのだろう。

以前にもアーネストが言っていたが、下手な事を言うと不敬罪という物がある。

場合によっては死罪も在り得ると言うのだ。

それを恐れずに、自分の事を思って言ってくれているんだと改めて気付かされた。


「ありがとう」


ギルバートはそう言うと、涙を拭って馬車に乗り込んだ。

その姿を見て、兵士達は熱い友情を感じて感動していた。


「殿下もお優しい方だが、あの少年も立派だな」

「ああ

 本当に、オレ達大人顔負けの言葉だったな」

「あんな従者が傍に居るのなら、安心だな」


兵士達は頷きながら、暫し感動に浸っていた。


そしてその様子を、少し離れた場所から住民達も見ていた。

特に御婦人方が感動して、身を捩ってうっとりとしていた。


「何て素晴らしいのでしょう」

「やはり噂は、本当の様ね」

「噂?」


「知らないの

 王子は可愛い従者を連れていて、その従者とは主従を越えた絆を…」

「ああ

 主従の禁断の愛ってやつね」

「二人は互いに、愛し合っているのね」


御婦人方は、ゴシップとして変な噂を口にしていた。

それは王宮のメイド達が発信元で、二人の見た目も災いしていた。

そこそこ見た目の良い王子と従者が、主従の関係を越えている。

その様な目で見られていたのだ。


勿論、これがギルバートに婚約者でも居れば別だった。

しかし、二人共婚約者はおろか、周辺に女性の影も無かったのだ。

二人が王都に来て浅いのもあったが、それまでに婚約話を纏めて無かったのが問題であった。

普通は、貴族の子息でも成年前には、婚約者の1人や2人は居るのが当たり前だった。

それが一人も居ないものだから、話に信憑性が持たれた。


「あの魔術師の坊やが従者かね

 怒ってる顔も凛々しかったけど、まだ可愛いねえ」

「従者が主を思って叱るなんて

 それだけ愛してらっしゃるんだろうね」


王都の御婦人ともなると、家事も使用人が行っている家庭も多い。

そうなると、暇を持て余した御婦人方は、噂やゴシップに飢えていた。

そこへ運悪く、亡くなった事になっていた王子が帰還した。

それも魔術師の従者を従えてだ。


貴族間で従者に選ばれる者は、優秀な者か見た目が良い者が多い。

それは従者という者が、単なる付き人で無い場合いが多いからだ。

それでご多分に漏れず、アーネストもその様な用途の従者と思われていた。

本当は実力も優れた有能な従者なのに、メイド達の噂話に尾鰭が着いたからだ。


御婦人方の話し声は、当然兵士達にも聞こえていた。

兵士達は気まずくなって、咳払いをしてから馬に乗り込んだ。

それで御夫人方も聞こえたと気付き、そそくさとその場を離れた。


「やっと離れたか」


アーネストは馬車の窓から、御婦人方が離れて行くのを見て、ホッと溜息を吐いた。


「え?」

「何でも無い

 さっさと鎧を脱げ」


聞き返して来たギルバートに、アーネストは冷たく言い放った。

こんな言葉が聞こえていたなら、御婦人方の妄想がより一層捗っただろう。

ギルバートはしゅんとしながら鎧を脱ぐと、用意されていた礼服に着替えた。


「ごめん

 私の考えが甘かった」

「分かればよろしい」


アーネストはギルバートの反省の言葉を、短い返答で返した。


「今後お前は、王子としての立場も考えなければならない

 それは王子の使命も果たさなければならないが、周りの事も考えなければならないという事だ」

「ああ」


「住民は沢山居るが、お前は一人なんだ

 それは代えが居ないという事だ」

「代えだなんて…」

「事実だ

 何でアルベルト様が、我が子を差し出してまでお前を救ったのか

 その意味を考えてみろ」


「それは国王陛下に同情して…」

「違う

 お前が王子であるからだ」


「勿論、同情もあっただろう

 しかし一番大事なのは、お前が陛下の跡取りだという事だ」

「私が…

 王子だから?」

「ああ」


「もし、魔物が襲って来たのなら

 兵士達はお前を守る事を第一として戦う

 それが重要だからな」

「でも、兵士は国民を守る為に…」

「それはお前が安全であったらだ

 お前が安全な場所に居て、兵士達に国民を守る様に指示を出す

 それが国王や王子の務めだ

 安全が確保出来なければ、お前の安全が最優先だ」


「それは、さっき言った代えが利かないからか?」

「そうだ

 この世にクリサリス聖教王国を治める者は、陛下とその息子である王子

 お前だけなんだ」


アーネストはギルバートを指差して、少し厳しい口調で言った。


「陛下に何かあって、お前まで居なくなれば

 この王国を動かす者が居なくなる」

「でもそれは、宰相でも良いんじゃないか?」

「そうだな

 政治を動かすだけなら、宰相が居れば良い

 だがその中心には、王族が必要なんだ」

「どうしてなんだ」


「王族というのは、国を象徴する代表だ

 だから小さい頃から、代表として立てる様に教育されている

 それはお前も同じだ

 アルベルト様は、お前に国王としての素質を見出していた」

「国王としての素質?」

「ああ

 どうしてダーナの住民達は、アルベルト様に服従していたと思う?」

「え?

 それは貴族だから…」


「半分正解だが、半分違うな

 貴族でも、あまりに愚策を行う者ならば、住民は離れてその者を殺すだろう

 帝国が滅んだのはその為だ」

「じゃあ、何でみんなは父上を?」

「それは人として魅力的だったからだ

 見た目の事じゃ無いぞ

 住民を思い、正しい政策を行っていたからだ」


アーネストは一旦言葉を切り、ギルバートに視線を向けながら言った。


「王族という物は、国民を正しく導く素養が必要である

 だからしっかりと教育して、その力を身に着けるんだ」

「私には…」

「お前にも素質はある

 ダーナの住民は、フランドール殿よりお前を支持していただろう?」

「あ…」


「それが上に立つ者の素養なんだ」

「…」


「そして、そんなお前はこの世界でただ一人しか居ない」


アーネストはそう言い切ると、最後に一言付け加えた。


「そんなお前だから、誰もが付き従おうとしている

 だからお前は、無闇に前に出ないで後ろに控えていてくれ

 そうしないと兵士達が可哀想だからな」

「分かったよ」


ギルバートが十分に反省したとみて、アーネストは頷いた。


「さあ

 リュバンニへ向けて出発しよう」


そう声を掛けると、御者に出発を告げた。

こうして二人は、護衛の兵士に囲まれて王都を後にした。

まだまだ続きます。

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