表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
178/800

第178話

ギルバートが叩き切った人型を見て、兵士達は言葉を失っていた

いくら普段から練習で叩かれていたとはいえ、頑丈な鉄鎧まで切られるとは思えなかったからだ

断面は叩き割られたというより、見事に断ち切られていた

まるで鋭い斬撃で、素早く切り裂いた様だった

それも成人していない少年が、木剣で叩き切ったのだ

これに戦慄しない兵士は居ないだろう

ギルバートは些かやり過ぎたかなと思っていた

兵士にやる気を出してもらおうと思って、分かり易い結果を見せた

しかし兵士達は、言葉を失って固まっていた


しまった、やり過ぎたか?

しかしこれぐらい見せないと、大人はなかなか納得出来ないだろう


そう思いながら、恐る恐る兵士達の方を向いた。


「うわああ」

「凄えぜ!」

「さすがは強大な魔物を討伐しただけはある」


兵士達は、ギルバートを見て歓声を上げた。

それは恐怖よりも、頼れる英雄の姿を見たからだった。


「殿下

 お見事でした」


隊長も興奮していて、鼻血を出しながらうっとりとしていた。

それは見事な剣技を見て、興奮していたからだった。


「こんな見事な剣技、初めて見ました」

「いや

 ええっと…」


ギルバートは返答に困った。

努力すれば、兵士でもこれぐらい出来ると示したかったのだ。

しかし兵士達は、スキルの力よりもギルバートの評価の方が上だった。


「あの、みなさんも努力すれば、これぐらいは…」

「またまた」

「こんな事なんて、我々では…」


兵士達は口々にそう言って、ギルバートの言葉を聞こうとしなかった。

しかしギルバートは、騎士達の時の失敗を悔いていた。

そこで声を大きくして告げた。


「そんな事は無いです

 確かに身体強化だけや、スキルだけでは出来ません

 しかし努力して身に着ければ、身体強化を使いながらスキルも使えます」

「そうは仰いましても、木剣で鉄を叩き切るだなんて…」

「それは違います

 身体強化を応用出来れば、木剣でも真剣と同じ様に頑丈に出来ます

 ですから頑張れば、みなさんでも…」


ギルバートが必死に訴えるのを見て、一人の兵士が手を挙げた。


「あのう

 本当にその技術を身に着ければ、そんな芸当も出来るんでしょうか?」


兵士の言葉に、ギルバートは力強く頷く。


「はい

 ダーナの兵士達でも、数人が出来ました

 彼等は身体強化を知って、まだ日が浅いんです

 それでも出来たんですから、みなさんが最初から訓練していれば、遠からず身に着けれます」


ギルバートのその言葉を聞いて、兵士は木剣を手に取った。


「それが本当なら

 私は是非とも身に着けたい」

「デューク」


兵士の言葉に、同僚の兵士も木剣を手に取った。


「お前だけ良い恰好させないぞ」

「そうだ

 お前の親父さんの仇は、オレ達の仇でもあるんだ」


続けて数名の兵士が進み出て、木剣を握り締めた。


「彼等の上司である、ある兵士が魔物に殺されました

 彼はその上司の息子で、仇を取りたいと願って、公道の警備を志願しています」

「それは…

 マズくないですか?」

「ええ」


「ですから、彼には魔物を倒せる様になるまでは、ここで鍛えさせると言っております

 しかし、力を身に着けて危なく無いのなら…」

「それでも

 仇に固執するのは危険ですよ」

「そうですね

 しかし、その動機までは止められませんよ

 兵士の中には、そう言った目的でなる者も多いんです」


隊長はそう言うと、兵士達の前に進み出た。


「お前達

 気持ちは痛いほど分かるが、未熟な者は戦場には立たせられない

 それは分かっているな」

「はい」

「もちろんです」


兵士の答えを聞いて、隊長はニコリと微笑みながらギルバートの方を向いた。


「殿下のお気持ちは分かりますが、私はこいつ等を信じたいんです

 ですから、こいつ等が負けない様に指導してください」


ギルバートは少し躊躇ったが、隊長の言葉を信じる事にした。

木剣を再び構えると、スキルの説明を始めた。


「分かりました

 しかし当面は、基礎をしっかりと積み重ねてください

 私がここまで出来たのも、基礎をしっかりと訓練したからです」

「はい」


兵士達の返事を聞いて、ギルバートも吹っ切る事にした。

結局、修練しない事には兵力の増強は無く、兵力が強く無ければ魔物には勝てないからだ。


「みなさんには先ず、身体強化の基本である、魔力の体内循環を訓練してもらいます

 先にも申しましたが、魔道具に魔力を流す様に、腕や足に魔力を流す訓練です」


「この訓練を続ければ、魔力切れで頭痛がしてきます

 それ以上やると魔力枯渇で危険ですので、頭痛がした時は無理せず休んでください

 休憩をしていれば、時期に魔力が回復して頭痛も治まります」

「頭痛が治まらない場合は?」

「それは基礎魔力が少ない証拠です

 ポーションを飲むのも良いんですが、出来るだけ自然に回復させてください

 その方が魔力が増える量も多くなりますから」

「なるほど」


ギルバートの説明を聞いて、先の兵士達が身体強化の訓練を始める。

彼等は木剣を持って、それに魔力を流すイメージで訓練を始めた。


「そうですね

 木剣を魔道具に見立てるのは、良い練習方法かも知れません

 慣れたら木剣では無く、素手に流す様にしてください」

「はい」


兵士達は、彼等の真似をして訓練を始める。

それを見ながら、ギルバートはさらに練習方法を教えた。


「魔力が無い時は、スキルの訓練をしましょう

 最初は型を真似て、素振りをするだけで良いです」

「素振りでも良いんですか?」

「ええ

 先ずは型を覚える必要がありますから

 それが出来る様になってから、実戦訓練に入れば良いでしょう」


本当は二人に分かれて、互いに打ち合う訓練もあるが、先ずはスキルの型を覚える事が先決だった。


「うううん」

「はああ」


各々が声を上げながら、一心になって集中をする。

そうして魔力を込めていると、頭痛で蹲る者達が出て来た。


「ぐ、うう」

「が、はあはあ」


「無理はしないでください

 これは地道に繰り返す訓練です」


「頭痛が酷いな」

「ああ

 オレは気分が悪くなってきたよ」


中には魔力が少ないのか、顔色を青くして苦しむ者も居た。

そうした者達は、少し離れた場所で休憩をしていた。


「殿下

 どうでしょうか?」

「うーん

 まだ1日目ですから

 むしろ数日掛けて、結果がどうなるか見る訓練になるでしょう」

「そうですか」


「私がリュバンニから帰って来た時に、少しでも効果があれば良い方でしょう」

「思ったより、時間が掛かりそうですね」

「そうですね

 普段から魔法や魔道具で慣れていれば、少しは結果も見えてくるんですが

 そんなに数日では結果は出ないかも知れませんね」


「そうですね

 殿下さえよろしければ、また見に来ていただけますか?」

「うーん

 それも重要なんですが、他の兵士や騎士にも訓練させたいですね」

「他の者達ですか?

 それは…」


「やはり難しいですか?」

「ええ

 殿下には申し訳ありませんが、なかなかいう事を聞かないと思いますよ」

「そうですか…」


「一応、私からもそれとなく話しておきますが、期待はしないでください」

「分かりました

 お願いしますね」


ギルバートはそう言うと、再び兵士達の方を見ていた。

既に兵士達の半数が蹲り、頭痛を訴えて苦しんでいた。

騎士達に比べると、兵士達の方が耐性は引く様だった。

アラン隊長も試していたが、ジョナサンの様に結果は出せなかった。


「私はこれで、この場は去ります

 みなさんは各自で、訓練を繰り返してみてください」

「は、はい」


頭痛に苦しみながらも、兵士達は返事を返した。

騎士達に比べると、そこまで無茶していなから返事が出来たのだろう。

もう少し追い込んでも良いのだが、気絶させるわけにもいかないので、ギルバートは訓練場を後にした。


ギルバートが王城に向かっていると、アーネストが待ち構えて居た。

どうやら遠くから見ていた様で、ニヤニヤと笑っていた。


「兵士の訓練はどうだった?」

「見ていたんなら手伝えよ」

「そうは言っても、ボクは兵士の事は門外漢だからね」


「それでも魔物に関しては詳しいだろう」

「まあね」


アーネストは澄ましていたが、それでもギルバートを信用していたから見ていたのだ。

下手に横から口を出すより、ギルバートが説明した方が良いと判断したのだ。

それに、ここでギルバートが信頼を勝ち取れば、後々やり易くなるという打算もあった。

だからこそ訓練をしているのを見ても、何もしなくて見ていたのだ。


「手伝ってくれても良かったんだぜ」

「それは君の為にならない」

「それで?

 冷やかしに来たのか?」

「ああ、そうそう」


アーネストは懐を探すと、1冊の本を取り出した。

それは先日、宰相に提出した本に加筆された物だった。


「殿下が訓練の話に手間取るなら、こちらを提出しようと思ったが

 余計な心配だったかな?」

「おいおい

 殿下は止せって」

「ここは公共の場だよ?

 ボクはまだ、君の従者でしかないんだよ?

 叙爵するまでは、あまり馴れ馴れしくするわけにはいかんだろ」


アーネストはわざとらしく周囲を見回してから、ヒソヒソ声で呟く。

しかしそれは周囲に聞こえるぐらいの大きさで、あえてそうしている様に見えた。


「どうしてそんな事をするんだ?」

「ボクと君の仲を勘繰る者が居るからね

 こうして少しずつ周囲に見せているんだよ」

「何かあるのか?」

「まあね」


アーネストは溜息を吐きながら、小声でギルバートに話し掛ける。


「ここでは何だから

 少し時間はあるか?」

「ああ」

「なら、部屋で話そう」


アーネストはそう言うと、自分の泊まっている部屋へ向かった。

そして部屋に入ると、厳重に鍵を掛けてから周囲を見回す。

それはソファーやベットの角も調べる徹底ぶりで、まるで何かをさがしている様だった。


「アーネスト?」

「しっ」


暫くあちこち調べてから、布団やソファーも元に戻す。


「どうやら大丈夫な様だな」

「どうしたんだ?」

「魔道具を調べていたんだ

 盗み聞きをされていないかね」

「盗み聞き?」


「ああ

 ここ数日、盗み聞きする為に魔道具が仕掛けられていた」

「魔道具が?」

「ああ

 どこの手の者か分からないが、ボクを見張っている様だ」


「なんでまた?」

「さあ?」

「さあって…」


アーネストは平然としていたが、今度はギルバートが気になって周囲を見回した。


「もう無いと思うぞ」

「そうは言っても…」

「はははは

 落ち着けって」


アーネストは笑って周囲を見回すギルバートを宥める。

既に置けそうな場所は調べてので、安心して話せるからだ。


「それで?

 オレを呼んだのはその事でか?」


ギルバートはまだ周囲を気にしていたが、話を聞いてみる事にする。


「いや

 それは念の為だ」


アーネストはそう言うと、再び本を取り出した。


「スキルと身体強化は教えたんだよな?」

「ああ

 だが王宮の騎士と、王宮の警護の兵士だけだ」

「うん

 取っ掛かりとしては十分だ」


「しかし、ほかの騎士や兵士が素直に訓練するとは限らないぞ?」

「それは分かっているよ」


「でもな、これで実績が出れば…

 他の騎士や兵士も訓練をするだろう?」

「それは…」


「焦らなくて良いんだ

 魔物はまだ、すぐには攻めて来ないだろう

 来ても精々、ゴブリンかコボルトだろう」

「しかしそれでは、兵士達が強くなるには…」

「だからこそのスキルだろ?

 それにゴブリンやコボルトを相手にしても、多少の訓練にはなるだろう」


アーネストはそう言うと、再び本を仕舞った。

それから声を潜めて、心配そうに呟く。


「問題は今の兵力だな」

「ああ

 幾ら訓練を受けると言っても、これからだからな」


「それに西の森や平原には魔物が居るだろうね」

「それは予想だろ?」

「いや

 多分もう…」


「それは間引きがされなかったからか?」

「ああ

 簡単な計算だが、本来なら1年も放って置けば、今回の様な事が起こっても不思議じゃあ無いんだ

 それが2年近くも現れていないのなら、相当な数が育っていると思う」

「相当な数?」

「ああ

 他の魔物に殺されていないなら、数万単位で増えていた筈だ」

「それって…」


アーネストは姿勢を正すと、真面目な顔をして言った。


「考えてもみろ

 3月で1回増えるにしても、1度の出産で数匹産まれる

 それが5、6回は行われたんだ」

「そう考えるなら、魔物はかなりの数が増えているな」

「ああ」


アーネストはそこで1旦言葉を切り、言い難そうに口を開けた。


「問題は、ゴブリンやコボルトだけとは思えない事だ」

「他の魔物が居るから、奴等がそこまで増えなかった

 そう考えているのか?」

「ああ

 だから明日のバルトフェルド様との会談では、その辺も忠告しようと思う

 オークならまだ勝ち目はあるが…」

「そうだな

 オーガやワイルド・ベアみたいな魔物が居るのなら、それは危険な事になる」


ギルバートは、アーネストが盗み聞きを警戒していた理由を理解した。

こんな話を聞かれたら、無用な混乱を招くだろう。

しかしアーネストは、別な理由で警戒していた。


「他の魔物の動向も気になる

 だから明日の会談では気を付けろよ」

「分かった」

「それと…」

「それと?」


「いや、何でも無い」

「?」


アーネストは何か言い掛けたが、そのまま誤魔化す様に黙った。

その理由は分からなかったがギルバートは何か考えがあるのだろうと判断した。

無理に聞いても、こうなったら話してくれないからだ。


「明日は何時に出れば良い?」

「9時に北の城門で集合だから、それまでにここを出よう」

「分かった

 遅れない様に、今日は早く就寝しよう」

「そうだな

 今日は酒は控えてくれよ」

「おい!」


二人は笑いながら部屋を出た。

そろそろ夕食の時間になろうとしていた。

そんなアーネストの客室を、代えのシーツを持ったメイドが入って行った。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ