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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第177話

警備隊の宿舎に着いてから、先ずは隊長との面会を希望する

ここはダーナでは無いので、ギルバートは警備兵達ともほとんど面識が無いのだ

いや、警備兵だけでは無い、王宮に勤める騎士や使用人も面識が無い者が多い

それに王都に関しても、ダーナの倍以上はある大きな街だ、当然住人も多数住んでいる

住民のほとんどは、王子が帰還した話は知っていても、当の王子の姿は見ていなかった

ギルバートは宿舎の執務室に通されると、そこのソファーに座って待つ様に言われた

兵士には身分を説明していたが、廃止は不審そうにしていた

無理も無い、兵士達はまだ王子を紹介されていない

それに先日の事件もあったので、不正な貴族に対する不信感が高まっていた

王子と名乗っていたが、それを証明する事は出来ないのだ


暫く待っていると、ドアがノックされた。


コンコン!

「失礼するよ」


若い声がしてドアが開かれる。

そこには20代前半の男と、数名の兵士が立っていた。


「どうやら本物の王子の様ですね」

「あなたは…」


その男には見覚えがあった。

謁見の間にいた兵士達のひとりであった。


「ご挨拶がまだでしたね

 私は警備隊長の一人のアランと申します」


隊長はそう言うと、跪いて礼をした。


警備隊は王城と貴族街、商業区と職人街のそれぞれに分かれている。

他にも城門と公道の警備部隊もあるが、こちらは貴族が受け持っていた。

ギルバートが訪ねたのは王城の警備部隊で、王族の護衛や王城の警備を主にしている。

彼はそこの隊長をしているだけあって、一度見たギルバートの事を覚えていた。


「それでまた、王子が私達に何の御用ですか?」

「あなた達に用が有るとすれば、何か分るでしょう?」

「それは護衛ですか?」

「はい」


「そう言えば

 今日の謁見でリュバンニに向かわれると…

 その為の護衛ですか」

「ええ

 リュバンニに向かうだけなら、私とアーネストがいれば十分です

 しかし私が動くとなると…」

「そうですね

 護衛を着けていただかなければ

 なるほど、それでいらっしゃったんですね」


隊長は頷くと、一緒に入って来た兵士に指示を出した。


「明日と明後日に非番の者は?」

「ウォーレン達が明日から非番です」

「そうか

 ならば彼等に任せよう」

「はい」


兵士は返事をすると、指示の書かれた書類を持って退出した。


「護衛には6名着きますが、それでよろしいですか?」

「ええ」

「それでは明朝の9時に、王都の北の門で待たせておきます」

「はい

 それでお願いします」


ギルバートはそう言うと、執務室を出ようとした。


「そういえば

 殿下から対魔物用の訓練があると聞きましたが?」

「訓練?」

「ええ

 ジョナサンがそう言っていました」


隊長はそう言ってから、思い出した様に付け加えた。


「あ、ジョナサンは私の同期で、今は騎士の隊長を務めています」

「ああ

 あの隊長さんか」


そこでギルバートは、昨日の話を思い出した。


「訓練と言うほどではありませんよ

 ただ、スキルの修得方法や身体強化を教えたいと申しただけです」


ここでギルバートは、騎士隊長の言葉を思い出していた。

騎士や兵士の多くは、自分の力量に誇りと信念を持っていた。

だから下手に訓練と言っても、反発する可能性が高いと。

それは年若いギルバートを、侮ってしまう事も懸念しての忠告であった。


「隊長も…

 訓練は反対…」

「素晴らしい発案だと思っていますよ」

「え?」


「今の私達では、魔物と言ってもゴブリンが精々です

 中にはコボルトを討伐して、いい気になっている者も居ますが…

 本物の魔物は違うと聞いています」

「あ…

 ええ」


「殿下はそんな魔物を倒したと聞いています」

「まあ…」


「御謙遜を

 ジョナサンからも聞きましたよ

 随分と大きな剣を、軽々と振り回してらっしゃったと」

「そうですね」


そこまで聞いて、ギルバートはやっと安心した。

この隊長はジョナサンと同じで、年や見た目で考えず、力量の有る者には素直に従えると。


「隊長は訓練には賛成なんですか?」

「アランと呼んでください」


「では、アラン

 あなたも訓練は必用だと考えていますか?」

「ええ

 当然ですよ」


「他の者達はどうか知りませんが、少なくとも私とジョナサンは必用だと思っています」


隊長は力強く頷くと、是非とも教授願いたいと申し出た。

それも今すぐにという事だった。


「私は謁見には出ていませんでしたが、早急に対策をする必要があると思っています」

「それはそうですが…」


「出来れば今すぐにでも、訓練場で見てもらえませんか?」


ギルバートはアランの真剣な様子を見て、少し考えた。

確かに教えたいところではあるが、今すぐとは急だと思った。

しかしこの機会を逃すと、暫く機会は無いだろう。


「分かりました

 しかし急な事なんで、大剣は置いて来ていますが」

「ええ

 基礎的な訓練で良いです」


半ば隊長に押し切られる様に、ギルバートは訓練場に同行した。

そこでは200名ほどの兵士が集まり、一心に訓練をしていた。


「全体注目!」


隊長は訓練場に入るなり、大声で兵士を集めた。


「何だ、何だ?」

「隊長だ」

「どうしたんだ?」

「誰だ?あれ?」


兵士達は騒めき、ギルバートの姿を見てあれこれ推測を始めた。


「誰だろう?」

「新しい兵士かな?」

「馬鹿

 それにしちゃあ身綺麗だろう」


そして終いには、変な想像まで始めた。


「もしかして…」

「隊長の隠し子?」

「その前に、そもそも隊長には彼女も居ないだろ」


ヒソヒソ声で話していたが、隊長には筒抜けだった。

次第に隊長の顔には青筋が浮かんで来る。


「お前等…」

「や、やべっ」


兵士達は慌てて姿勢を直して、真面目な顔をしようとする。

しかしそれを見て、ギルバートは我慢出来なくて笑い出した。


「ぷっ、くくく…」

「殿下?」


「いや、すまない

 ダーナでの事を思い出して」

「え?」

「殿下?」


兵士達は少年が殿下と呼ばれていたのを聞いて、慌てて身を正す。


「ダーナのヘンディー将軍も、あなた達の様にしてましたから、つい」

「ヘンディー将軍ですか?

「ええ」


「あなたと兵士達の様子を見る限り、信頼されていますし、よく訓練されていますね」

「いえ、それほどでは…」


隊長は照れながらも、ギルバートがよく見ていると感心していた。

まだ成人していない年に見えるが、それにしてはよく観察をしていると感心していたのだ。


「すいません

 殿下と仰りますと、もしかして…」

「ああ

 こちらは帰還された王子のギルバート様だ」

「ええ!」

「王子様ですか」


兵士達は驚いていた。

王子が帰って来たという事は聞いていたが、まさかその王子が訓練場に来るとは思っていなかった。

一体何しに来たのだろうと、不審そうにしていた。


「お前らも聞いていると思うが、殿下は魔物の討伐に関しては我々より上だ」


隊長は一旦言葉を切り、全員の顔を見回す。


「その殿下に、魔物を倒す為の方法を教授願った

 それでわざわざここまで、お越しいただいたわけだ」

「魔物の倒し方?」

「はい」


「魔物を倒す為には、みなさんには先ず、強くなっていただかなければなりません」

「強く…」


「しかし強くと申しましても、急には強くは…」

「そうですよ

 いきなり強くなれるのであれば、我々の訓練の意味がありません」


兵士達は口々に不満を上げて、無理だと主張した。

それは訓練しても、そうそう強くなれないと限界を感じていたからだ。

ゴブリン程度なら何とかなるだろうが、それ以上となるとそう簡単にはいかないと理解しているからだろう。


「そうですね

 簡単に強くなれるなら、私も訓練などとは言いません」


ギルバートもそこは、同じ意見であった。


「私が提案したいのは、魔物を倒す方法と手段です

 今日教えるのは、その基礎になる為の物です」

「基礎…」


「身体強化という物があります

 それは純粋に自身を強化して、魔物と戦える力を得る物です」

「身体強化」

「自身を強化する?」


「みなさんも、宿舎で生活する際に魔道具は使いますよね」

「はい」


「燭台や火を点す為の魔道具

 便利ですよね?」

「ええ」

「しかし、魔道具と身体強化?

 どういう関係があるんですか?」


兵士達は理解出来ずに、疑問に思って首を傾げた。


「騎士団の中で、昨日から魔力切れで寝込んでる者が居るのは知っていますか?」

「魔力切れ?」

「騎士団もだらしが無いな」

「しかし魔力切れだろ?

 魔術師でもあるまいに」


「それはある訓練をしているからです」

「ある訓練?」

「ええ

 魔力を使う訓練です」


「まさか?」

「訓練って魔法を使うんですか?」

「私は魔力なんてほとんどありませんよ」


兵士達は驚き、魔力など無いと否定を始めた。

それを見ながら、ギルバートは騒ぎが収まるのを慎重に待った。


兵士達が落ち着くまで待ってから、改めてギルバートは方法を口にした。


「身体強化というのは、自分の魔力を魔道具にではなく、自分の身体に流します

 そうして魔道具と同じ様に、自身の身体を強化するんです」


騎士団の時には失敗したが、今度は工夫をして発言してみる。

魔力の上昇も不可欠だが、身体強化も会得出来なければ無駄になる。

だからその辺も含めて説明を繰り返す。


「実は、魔力切れを起こすまで使えば、それだけ基礎の魔力が上がります

 騎士団ではそこに目が行っていて、肝心の強化がまだなんですよね」

「魔力が上がる?」

「そうなれば、私でも魔道具が使える?」

「馬鹿、聞いていなかったのか?

 魔力が上がる必要もあるが、肝心なのはどう使うかだ」


「そうですよ

 魔力を上げる訓練も必要ですが、身体強化も必要です」


そこでギルバートは、身体強化の説明を始めた。


「身体強化とは、魔力を体内に流して、身体の力を上げる事です

 分かり易く言うなら、自分の身体に魔道具に魔力を流す様に魔力を流す

 そうして魔力が流れているのを感じたら、そのまま素振りや走り込みをします

 これを繰り返して、魔力を流しながら行動出来る様にする訓練が基本です」


「魔力を流すと言いますが、そうしたらどうなるんです?」


兵士の一人が質問する。


それに応える様に、ギルバートは重たい素振り用の鉄棒を持ち上げる。

それも真ん中ではなく、持ち上げれない様な端を掴んでだ。


「普通に持ったのであれば、こうして持ち上げる事は出来ないでしょう」


ギルバートはそう言いながら、端を持ったまま持ち上げてみせた。

それを見た兵士達は、改めてギルバートの腕力を見て驚愕していた。

大人でも真ん中を持って振るうし、端など持っても持ち上げれないだろう。

それを少年に見えるギルバートが、軽々と持ち上げたのだ。


「やってみろ」


隊長に促されて、兵士の一人が挑戦する。

しかし、やはり端を掴んでは持ち上げれなかった。

顔を真っ赤にして挑戦するが、少ししか持ち上がらない。


「無理ですよ」

「そうかな?」


隊長が代わって、鉄棒の端を掴む。

やはりそのままでは、鉄棒は持ち上がらない。


そこで隊長は、目を瞑って静かに息を吐く。


「ふうう…

 むうう」


隊長は魔力を意識しながら、鉄棒に力を込めてみせる。

するとどうだろう。

完全には持ち上がらなかったが、先ほどと違って少しだけ持ち上がった。


「こ、これは…

 なかなか…」


しかしすぐに集中が切れて鉄棒を取り落とした。


「凄い」

「本当に持ち上がった」


「気を付けないと、すぐに魔力が切れて頭痛がするな」

「ええ

 ですがこれを継続的に続ければ、魔力量も上がりますし、効果も高くなります」

「なるほど

 そうすれば長時間使えるし、意識しなくても使える様になるか」

「はい

 それがダーナの兵士達が、強力な魔物と戦える秘密です」


数人の兵士達が試すが、ほとんどの兵士は持ち上げる事も出来なかった。

しかし数人が、少しだけだが持ち上げる事が出来た。

その兵士を中心にして、他の兵士もコツを聞きながら再び挑戦していた。

すぐには結果は出ないが、数日繰り返していれば、少しずつだが効果が出て来るだろう。


「しかし良いんですか?」

「え?」

「これはダーナの兵士達の特権でしょう?

 教えを乞うたのは私ですが、簡単に教えても良かったんですか?」

「ああ

 それはそうですよ

 いずれは王都でも広める予定でしたし

 何よりも魔物が接近している可能性がある今、出し惜しみするわけにはいきませんから」


ギルバートはそう言うと、再び兵士達の方を向いていた。


「訓練はこれだけではありませんよ

 確かに腕力が上がれば、重くて強力な武具が使える様になります

 しかし、それだけでは魔物には勝てません」


そう言って木剣を手に取ると、スラッシュとブレイザーのスキルを出して見せる。


「スキルと言って、何度も意識して練習すれば、こうした強力な技も会得出来ます

 しかし、ただ振るだけでは使えません

 何度も使って実戦訓練をして、無意識にでも振れないと使えませんからね」


ギルバートが振るうスキルを見て、兵士達は息を飲んでいた。

それは素振りではあるが、実際に木剣で使われても、十分に殺傷能力がありそうに見えたからだ。

いや、見えたと言うより、実際に殺傷出来るのだ。


「本当にスキルを身に着けれた場合、天から声が聞こえて来ます」

「天から?」


これは隊長も知らなかったらしく、首を傾げていた。


「はい

 女神様の声なのか分かりませんが、スキルを身に着けたと声が聞こえます

 そうして身に着けたスキルは、本当の力を発揮します」


ギルバートはそう言うと、練習用の鉄鎧を着た人型の前に進んだ。

そうして人型の前に立つと、スキルを発動させた。


「スラッシュ」

ザシュ!


鋭い音と共に振り抜き、ギルバートは人型の横を駆け抜ける。

次の瞬間に、人型がゆっくりと横にずれて崩れ落ちた。


木製の人型の人形とはいえ、それは重くて頑丈な鉄鎧を着ていたのだ。

しかし人型は、綺麗な断面を残して真っ二つになっていた。


「え!」

「嘘だろ?」


兵士達はそれを見て、言葉を失っていた。

すいません

少し遅れてしまいました

まだまだ続きます。

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