表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
173/800

第173話

夕食までの時間が空いてしまい、ギルバートは隊長と話をしていた

それは世間話では無く、およそ子供が話す内容では無かった

ダーナではどの様な魔物が出て、どの様な戦い方をしたといった事だ

そんな話をしながら、スキルやジョブが技量を伸ばすのに重要だが、身体強化も重要だと伝えた

ダーナでは遅くなったが、早くから身に着けていれば、それだけ犠牲が少なかったからだ

ギルバートは、身体強化が筋力を上げる事よりも、生存に重要だと説明した

筋力が上がれば、それだけ頑丈な装備が扱える様になる

それに、敵の攻撃で腕が痺れたり、武器を弾かれて苦心する可能性が減るのだ

たったそれだけでも、生存する為には重要になってくる


「なるほど

 確かに鎌を落とせば、それだけ危険になりますね」

「それに、威力や速度が遅くては、無駄に空振りしたり弾かれます

 それが減るだけでも、攻撃の手数が増えますし、敵からの攻撃も少なくなります」

「確かに」


「騎士は元来、守る為に戦うという事は承知しています

 しかし魔物に対しては、守る為には戦う事も必要です

 力を増す事が出来れば、スキルの効果も高まります」

「そのスキルの事なんですが…」

「はい?」


「スキルって、そもそも何なんでしょう?」

「スキルが何なのか?」


そこでギルバートは、改めてスキルについて考えてみた。


「女神様が人間に、魔物と戦う為に…

 いや?

 そうじゃあ無いな」

「殿下?」


隊長は、ギルバートが考え込んだ事で驚いた。

てっきりギルバート達が、スキルが何なのか知っていて使っていると思っていたのだ。

しかしギルバートの様子を見ると、そうでは無いと容易に理解出来た。


「魔物で無くても、人間相手にもスキルは使えた

 そうなると、魔物を相手にする為というのは方便なのか?」

 女神様が我々に、魔物と戦う為に教えてくれたのは本当なんだろう

 しかしそれならどうして、人間にも使えるんだ?」


ギルバートは改めて、スキルという物について考えた。


「スキルは本当に…

 人間だけが使える物なのか?」

「え?」

「魔物や亜人種と呼ばれる、獣人や妖精達でも使えるんじゃないでしょうか?」


ギルバートに聞かれて、隊長は不安になった。


「それを私に聞かれても…」

「そうですね

 しかし魔物も使えるのなら、対策も必要になりますね」

「そうですが…」


ギルバートは今までの戦いを思い返し、確かにその様な力を持つ魔物が居た事を思い出す。

それは普通に現れる魔物では無く、侵攻の際に現れた特別な魔物だけであった。

しかしそう考えてみると、普通の魔物も使える可能性があるのだ。


「魔物が侵攻した際に、使徒の用意した特別な魔物が居ました

 そいつは確かに、普通の魔物とは違う力を持っていました」

「と、言いますと?」

「吹雪の様な咆哮を放つ白い熊

 強烈な斬撃を放つ魔物

 どれも強力でした」

「そんな魔物が…」


隊長はその話を聞いて、とてもじゃないが敵わないと震えていた。


「勿論、侵攻する魔物が全て、そんな力を持っているわけではありません

 むしろ普通の魔物は、そんな力を持たないので苦戦はしないでしょう

 しかしボスの様な魔物は、力を持って襲い掛かって来ます

 それに対抗するには、私達もスキルや魔法を駆使しなければ勝てませんでした」

「殿下はそんな魔物を…」

「ええ

 苦戦しましたが、何とか勝って来ました」


それだからこそ、今ここに立っているのだから。


「そんな危険な魔物に、私達が勝てますでしょうか?」

「そうですね

 本に載っている程度のスキルやジョブの力では、勝てないでしょう」

「そう…ですか」


「しかし魔物と何度も戦って、新たなスキルやジョブを得られれば

 ダーナの騎士や兵士達は、そうして生き残って来ました」

「ダーナの兵士はそんなに強いんですか?」

「ええ」


ギルバートは少し躊躇ってから、真実を話す事にした。


「ここの騎士では、恐らくオークにも辛勝でしょう

 スキルやジョブの力を得ても、オーガにも苦戦します」

「そうですか」


「ダーナの兵士達は、数人掛かりとはいえオーガを倒しています

 今のままでは、騎士や兵士の人数で勝っていても、こちらが敗退するでしょう」


ギルバートの言葉に、隊長は項垂れた。

このままでは負けると言われたのだ。

これがギルバートが見た目通りの子供なら、何を言っているんだと一笑に付しただろう。

しかしギルバートは、実際に隊長ですら簡単に退けた。

それを考えれば、その言葉には信憑性がある。


「今のままでは勝てませんか」

「はい」

「しかしスキルやジョブを身に着けて、身体強化を出来れば…」

「あるいは

 しかしそれでも、勝つのは厳しいですよ?」


全軍がそこまで強化されれば、或いは勝てるかも知れない。

しかしそれには、魔物を退けてから将軍も帰って来なければならない。

それに時間を考えれば、今も戦闘を行っているダーナの軍が、更なる力を身に着けている可能性も否定出来ないのだ。


「全軍を鍛え上げるには、魔物の様な敵が必要です

 しかしその前に…」

「先ずはスキルや身体強化を出来る必要がある

 そういう事ですか?」

「ええ」


隊長はそれを聞いて、騎士達が昼食を取っている宿舎に向かった。


弛んだ根性を叩き直してやる!


そう思って向かったのだが、騎士達はぐったりとのびていた。

みんな顔色が悪くて、たった少し前に、回復して食事に向かったのが嘘の様だった。


「これは?」

「聞いてくださいよ、隊長

 こいつら回復したと思ったら、また無茶をしたんです

 あれほど加減を間違えるなと言われたのに、昏倒するまで魔力を使ったんです」

「ああ…」


隊長は頭を抱えた。

やってしまった物は仕方が無いが、これでは訓練にはならない。

寧ろ巡回の騎士達の人数が足りるのか、そっちの方が心配だった。


「お前達な、少しは学習しろよ」


隊長は溜息を吐きながら、部下達を眺めていた。

隊長も魔力が回復したので、多少は試していた。

しかし頭痛が酷かったので、それ以上は試さなかった。


「こいつ等は今日は、そのまま休ませろ

 無理しても仕事に支障が出るだけだ」

「はい」


騎士の一人にそう命じると、隊長は溜息を吐きながら名簿を調べる。


「こいつと…こいつは街に出ていたな」

「はい」

「今日は非番なんだが、戻って来る様に伝えろ」

「あの…」


「しょうが無いだろ

 これじゃあ人手が足りなくなる」


隊長は人数が足りない部署に、急遽非番の騎士を出す事にした。

騎士にしても、普段から真面目な者は、いつでも出て来れる様に待機していた。

だから街に出ていても、すぐに連絡が着く様にしていた。

こうして隊長は、騎士達の手配を済ますと修練場に向かった。

その後に騎士達が、懲りずに訓練をしているとも知らずに。


隊長が訓練場に戻ると、ギルバートは素振りをしていた。

それは重たい大剣を振るっているとは思えない様な、素晴らしい剣捌きだった。


上段から袈裟懸けに切り下ろして、そこから反対に切り返す。

そのまま剣の重さを使って、背中に一旦下ろす。

そこから真っ直ぐに振り下ろし、地面にギリギリで止めてみせる。


パチパチパチ!


隊長は拍手をしながら修練場に入った。

ギルバートの剣捌きに感嘆したからだ。


「見事な腕前です」

「いえ」


ギルバートは剣を背中に背負うと、剣帯を締め直した。


「私も身体強化を使わなければ、この剣は満足に振れません」

「しかしそれが振れるのは、今のところ殿下だけですよね?」

「いえ

 ダーナに居るヘンディー将軍なら、あるいは使えるかと」

「将軍が?」

「ええ

 将軍も少しは身体強化を使えます

 あのまま鍛えているのなら、今ではこの剣と同じ物を振れるでしょう」


隊長はそれを聞き、腕利きの将軍がそれを振るう姿を想像して身震いした。

ただでさえ剛腕と言われているヘンディーが、この様な大きな剣を振り回して暴れる。

敵には回したくないと素直に感じた。


「我々にも…使えるだろうか?」

「そうですね

 2年ぐらい魔物と戦って慣れてくれば、可能かと

「2年か…」

「ええ

 ダーナにでも最初は、みんな満足に剣を振れていませんでした

 それが生きる為に剣を取り、必死になって戦って身に着けたんです」


それを聞いて、隊長はますますダーナとの差を感じていた。

その様子を見て、ギルバートは慰める様に言った。


「しかし、今とあの頃とでは状況が違います」

「と言いますと?」

「今はポーションも上質な物が出来ていますし、魔物の素材があれば良い武器が出来ます

 問題はその魔物が、この王都近郊では現れていない事ですね」


「強い魔物が現れれば、それだけ戦力を上げれる…か」

「ええ」


言葉で言うのは簡単だ。

しかし強い魔物が現れれば、それだけ兵士に犠牲が出るし、住民達にも危険が及ぶ。

出来れば魔物など、このまま出ないにこした事は無い。


「殿下は…」

「ん?」

「魔物が出た方が…よろしいですか?」

「いや

 出ない方が良いかな」


ギルバートは躊躇する事無く答えた。

それで隊長は安心した。

しかしギルバートは言葉を続けた。


「でも、王都の周辺で出たならば

 私が討伐しますよ」

「殿下?」

「騎士団ではまだ無理だから、私が代わりに討伐します

 なあに、オーガやワイルド・ベアでも倒せるんですよ

 そこらの魔物には後れを取りませんよ」


ギルバートはそう言うと、再び背中の大剣を振り回した。

鋭い風切り音を起こして、大剣は軽々と振り回された。

それから一頻り振るった後、ギルバートは大剣を隊長に差し出した。


「どうです?」

「いや、私は…」


隊長は昨日、この剣を持ち上げようとして無理だった事を思い出す。

今受け取っても、そのまま重さで取り落としてしまうだろう。


「隊長

 まだ魔力に余力はありますか?」

「え?」


「もし、まだ余力があるのなら、腕に力を込める様にして持ってみてください」

「腕に?」

「ええ

 燭台に魔力を込める様に

 腕に魔力を込めて持ってください」

「魔力を…」


隊長は言われるままに、腕に力を込めながら剣に手を伸ばす。

慣れていない為、魔力というか力が込められていた。


伸ばした腕に、ずしりと剣の重さが伝わる。

しかし昨日と違って、剣に引き摺られる事は無く無事に持ち上げる事が出来た。


「これ…は」

「どうです?

 まだそこまでは強化されてませんが、持ち上げる事ぐらいは出来るでしょう」

「これが身体強化…」


隊長は力を込める事を意識しながら、剣を苦心して持ち上げる。

まだ振る事は出来ないが、何とか持つ事が出来た。


「あなたが鍛錬に耐え続ける事が出来れば、いずれはその剣も…

 振るえる日が来るでしょう」

「殿下…」


隊長は大剣を返しながら、心の中で誓っていた。


このお方に着いて行こう

例えそれがどんなに困難な道でも、このお方ならきっと乗り越えられるだろう

だから私は、このお方に降り掛かる災難を、張る事が出来る盾になるんだ


隊長はそう自身に誓い、女神にゲッシュを捧げた。


「殿下

 国王様の許可が出ましたら、私を殿下の騎士に任命させていただけませんか?」

「え?」

「私のこの剣を…」


隊長は腰の剣を引き抜くと、刃先を持って柄をギルバートに差し出す。


「あなた様の為に振るわせてください」

「ちょ!

 待ってください

 私はそんな大それた…」

「いえ

 あなたは王太子です

 いずれはこの国を導く、国王様になられるのです」

「そりゃあそうですが…」


「ですから、私をあなた様をお守りする、騎士に任命してください」


騎士団の一隊長とは言え、大の大人が跪いて願いを乞う。

修練場で人目はほとんど無かったが、ギルバートは慌てて周囲を見回す。

このまま人目に着いてしまったら、とても恥ずかしい。

しかし隊長は自分に酔っていて、羞恥心など感じていなかった。


「う…」

「どうか

 どうか私を…」

「隊長…」

「ジョナサンです」


ギルバートは躊躇ったが、遂に決心した。

このまま諭しても、隊長の意思は変わらないだろう。

それならば…。


「分かりました

 それならば、国王様がお許しになられたら、ですよ?」

「はい」


ジョナサンは感激して涙ぐんでいた。

しかしギルバートは、その剣は下げさせた。


「それはまだ、国王様に捧げてください

 私が必要になったら、その時はもう一度捧げてください」

「殿下?」

「今はまだ、私はただのギルバートです

 王太子になれたわけではないのですから」


ギルバートはそう言って、剣を下げさせた。


「分かりました

 では、あなたが王太子になられた暁には、私をあなたの騎士にしてください」

「はい」

「約束ですよ」


隊長はようやく納得して、その剣を下げた。


「先ずは将軍の無事を確認しましょう

 魔物がどうなっているのか、どんな魔物が来ているのか

 それが分からないと王都の守備は不完全でしょうから」

「そうですね」


順調に魔術師が向かっているのなら、明後日にも将軍の駐留している戦場に到着するだろう。

そこから使い魔を飛ばせば、明後日中には状況が分かる予定だ。


「ダガー将軍が無事なら良いんですが…」

「無事でしょうか?」

「相手がゴブリンやコボルトなら

 しかしオークだったら厳しいでしょう」


「その上で、王都の守備について国王様に進言しようかと思っています」

「王都の守備ですか?」

「ええ

 先ほど話した様に、兵士にも身体強化を訓練させます

 魔物が侵攻して来る前に、少しでも戦力を上げておく必要がありますから」


ギルバートはそこまで言うと、隊長にお願いをした。


「私も訓練の様子を見に来ますが、隊長も一緒に見ていてください

 真面目に訓練をしなければ、魔物の侵攻に間に合わない可能性もあります」

「しかし、本当に魔物は来るんでしょうか?

 殿下のお話しでは、当分は来ないと言っていたんでしょう?」

「ええ

 フェイト・スピナー…

 女神様の使徒はそう言っていました」


ギルバートはそう言って頷くが、安心は出来ないと思っていた。

現にダガー将軍の進軍先に、魔物の群れが現れたからだ。


「しかし使徒が操る魔物が全てではありません

 魔物は他にも居ますから」


ギルバートはそう言うと、修練場を後にした。

まだ訓練を続けても良いが、肝心の騎士達がダウンしているのだ。

騎士達の事は隊長に任せて、他に何か出来ないか探す事にしたのだ。

まだ続きます。

ご意見ご感想がございましたらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ