表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
172/800

第172話

ギルバートは修練場を後にして、昼食を取りに王城へと戻っていた

そこには馬車が着いていて、一人の少女が入り口に立っていた

ギルバートは頭を下げてから、そこを通り過ぎようとしていた

そかし少女に声を掛けられて、立ち止まった

少女はギルバートに向かって、荷物を運んで欲しいとお願いして来た

その少女は7歳ぐらいの年齢に見えたが、年よりは大人びた言葉遣いだった

金の髪を靡かせて、可愛らしい笑顔を浮かべていた

ギルバートを使用人と勘違いしているのか、大きな旅行鞄を持つ様に言う

ギルバートはちょうど時間を持て余していたので、少女の願いを聞く事にした。


「そこのお兄さん

 私の荷物を持ってくれないかしら?」


ギルバートは声を掛けて来た少女を見て、聞き返した。


「それは私の事ですか?」

「ええ、そうよ

 こんな小さな女の子が、大きな荷物を抱えて困っているのよ

 手助けするのは当然でしょう?」


ギルバートは答えに困って苦笑いを浮かべた。


「君はこの城に住んでいるのかい?」

「ええ

 あなたは私の事を知らないのかしら?」


「すまない

 私は一昨日に王都に着いたばかりで、君の事は知らないんだ」

「あらそう」


少女はそう言いながらも、勝気な姿勢は崩さなかった。


「一昨日に来たという事は、あなたがアルベルト様の息子さん?

 それとも…

 お友達の魔術師の方かしら?」

「知っているのなら早い

 私はギルバート・クリサリス

 アルベルトの息子です」


ギルバートが自己紹介をすると、少女も腰を下げて挨拶を返した。


「これはこれは

 私は国王、ハルバートの娘

 エリザベート・クリサリスと申します

 以後お見知り置きを」


エリザベートはゆっくりと腰を落とし、スカートの裾を持ってお辞儀をした。

ギルバートも胸に右手を当てて、貴族らしく跪いて挨拶をした。


「あなたがエリザベート姫様でございますか

 お初にお目に掛かります」

「あら

 ちゃんと貴族の礼も出来るのね」

「はい」


ギルバートは苦笑いをしたまま、エリザベートの言葉に返した。


「いいわ

 それじゃあ誰か、使用人を呼んでちょうだい」

「いえ、私が運びますよ」


ギルバートはそう言うと、馬車から大きな旅行鞄を降ろした。

それは何が入っているのか、相当重たかった。


「いいわよ

 あなたを荷物持ちになんてしたら、お父様に叱られるわ」


エリザベートはそう言うと、入り口の兵士の方を向いた。

それまで二人の遣り取りを見て、苦笑をしていた兵士は、慌てて使用人を呼びに向かった。


「さあ

 あなたにはもう、用事は無いわ

 行ってちょうだい」


エリザベートはそう言いながら、あっちへ行けと手を振った。

それを見て、ギルバートは苦笑しながら荷物を置いた。


「では姫様

 またお会い出来る機会がございましたら」

「ええ

 その時は、あなたの旅の話でも聞かせてちょうだい」


ギルバートは頷くと、一礼をしてその場を黙って離れた。

ギルバートが離れたのを見て、馬車からもう一人の女の子が下りて来た。

彼女はギルバートが荷物を降ろす時は、死角に居て見えなかったのだ。


「駄目よ、ベティ

 あの人は私達のお兄様なのよ」

「ふん

 あんな田舎臭いのなんて…」

「ベティ!」


少女はエリザベートを嗜めるが、エリザベートは鼻を鳴らせて不服そうにしていた。


「だって

 マリア姉様もあんな田舎者のお兄様なんて嫌でしょう?」

「田舎者なんて…」


マリアンヌは溜息を吐きながら、腰に手を当ててエリザベートを見る。


「お兄様は学校を出ていないのよ

 貴族の学校に通えば、王都のマナーも覚えるわよ」

「そりゃあそうかも知れないけど…

 やっぱり嫌よ」

「ベティ…」


態度を改めない妹を見ながら、マリアンヌは溜息を吐く。

彼女はエリザベートの姉である、マリアンヌ姫であった。

勝気でやんちゃなエリザベートに対して、落ち着いて優しい姉のマリアンヌ。

見た目もおっとりとしたマリアンヌに比べると、エリザベートは強気でキツイ目をしていた。


「夕食の時には、お父様からお話があると思うわ

 くれぐれも粗相の無い様にね」

「それはあの、お兄様に言ってちょうだい」

「ベティ!」

「はいはい

 わかったわよ

 大人しくしますわよ」


エリザベートはそう言うと、使用人に荷物を渡した。


「お、重っ」

「え?」

「あら?

 お兄様は軽々と持っていたわよ?」

「いえ、これは…」


使用人では抱えられずに、結局兵士が運ぶ事になった。

エリザベートは気にしていなかったが、マリアンヌはその光景を不思議そうに見ていた。


ギルバートはエリザベートの元から離れた後、食堂へ向かっていた。

そこへアーネストが現れて、並んで歩き始めた。


「よう

 訓練はもう良いのか?」

「ああ

 騎士達は魔力切れを起こして、頭痛で呻いている

 あの様子では午後も無理だろう」

「そうか…」


「スキルの訓練はどうなんだ?」

「実戦で試す相手も居ないだろう?

 魔物でも討伐に向かうのなら良いけど…」

「そうか

 魔物か…」


ギルバートも魔物の討伐を考えていた。

しかし、王太子が軽々しく魔物討伐に向かうわけにはいけないのだ。


「将軍が戦っている魔物が、手強い相手なら…

 いや、それも問題があるか」

「アーネスト?」


「いや、軽々しくお前が、魔物退治に出れないだろう」

「そりゃあそうだが?」

「それに魔物を討伐に出るにしても、同行する兵士や騎士が必要だ」

「だろうな…」


「先ずは最低限の戦力を…

 兵士達を鍛えるしか無いな」

「ああ」


本格的に鍛えるには、魔物と戦うのが一番早い。

しかし魔物と戦うには、それなりに戦える力が必要だ。

そう考えれば、身体強化なり初歩的なスキルなり身に着ける必要がある。


「時間は掛かるが、地道に鍛えるしか無いな」

「そうだな」


二人は食堂に入ると、執事のドニスが姿を現した。


「昼食でございますね」

「はい」

「では、すぐに用意させます」

「お願いします」


二人は貴族用のテーブルに腰掛けて、出される昼食を待っていた。

その間にも、兵士に教えるスキルや、優先すべき訓練などの話をしていた。

その頃には、さきほど出会った少女の事など忘れていた。


メイドが食事を運び終わって、礼をして下がる。

ドニスも礼をして下がろうとしてから、思い出した様に質問した。


「そう言えば、姫様が戻られた様ですが

 お二人はお会いしましたか?」

「え?」

「ああ

 エリザベート様なら、入り口で会いましたよ」


「そうですか

 夕食の時には、お二人から挨拶があるかと思います

 その頃には王太子の話も伝わっているかと思います」


ドニスの言葉に、ギルバートは複雑な顔をした。


「妹だなんて言われても、実感が湧きません」

「そうでしょうね

 ギルバート様はダーナで暮らしていらっしゃいました

 暫くは慣れる必要があるかも知れません」

「慣れるか…」


「どんな子だったか?」


アーネストが興味津々といった様子で、ギルバートに質問してきた。


「うーん

 フィオーナに似てはいたが…」


ギルバートは先程の会話を思い出し、苦笑いを浮かべた。

正直な感想は、フィオーナよりキツイ性格だと思った。

しかし自分の事を下級の貴族と思っていたなら、あの対応も納得出来るだろう。

ギルバートは言葉を選びながら、何とか表現しようとした。


「フィオーナよりは下だけど、よっぽど貴族らしい性格だと思ったよ」

「それって…」

「少々口調がキツかったと思います」


ドニスも苦笑いを浮かべて、口元に手を当てながら呟く。

内緒にしてくれと言う事だろう。


「キツイか…」


アーネストもその言葉で、大体の様子が掴めたらしい。

キョロキョロと周りを見てから、こっそりと呟いた。


「使用人達も緊張している

 性格もキツイんですね」

「ええ」


「ギル

 くれぐれも言葉には気を付けろ」

「ああ

 先ほどもそう思ったよ」


ギルバートも頷き、両手を挙げてそれに応じた。


「しかし…

 フィオーナよりキツイって、大丈夫かな?」

「ああ

 怒らせたら怖いと思うよ」

「もう一人には会えたのか?」

「いや

 その子だけだよ」


「マリアンヌ様は、おっとりした優しい方です」

「そうか」

「フィオーナとセリアの逆だな」


アーネストも苦笑いをして、ダーナに残された姉妹を思い出していた。


「セリアか…」

「今頃、庭で花でも摘んでいるかな?」

「ああ」


ギルバートはそう答えながら、ふと気になった事を思い出した。


「そう言えば、セリアはよく庭で友達と遊んでいると言っていたな」

「友達?」

「ああ

 姉であるフィオーナではなく、友達だと言っていた」


「屋敷にはセリアが友達という様な、年の近い子は居なかっただろう?」

「そうなんだよな」


ギルバートは答えながら、何で急に、その事を思い出しているのか分からなかった。


「セリアが遊んでいたのは、庭の花畑だ」

「まさか

 精霊か妖精でも居たって言うのか?」

「うーん…」


アーネストの言葉に、ギルバートも疑問を感じていた。

何かが引っ掛かっているのだ。


「妖精

 精霊

 庭の花達…」

「おいおい

 まさか、あの子は普通の子供だぞ」

「ああ」


そう言いながらも、ギルバート変わった妹の事を思い出していた。

しかしいくら考えてみても、その友達に該当する者が思い出せなかった。


「気のせいだろ?

 姫様を見て、妹を思い出したからだろうよ」

「そうかな?」


アーネストの言葉に、ギルバートは無理矢理納得しようとして、目の前のパンに齧りついた。


「旨い」

「やっぱり焼き立てのパンは旨いな」

「ああ

 セリアにも食べさせてやりたいな」


「そうだな

 落ち着いたら、ここへ呼ぶのも良いかもな」

「ここへ?」

「ああ

 姫様の侍女として勤めるのなら、年齢的にもちょうど良いだろう」

「侍女か…」


イーセリアが侍女とは、およそ想像が出来なかった。

いつも眠そうにしていて、マイペースな妹が、あの勝気な姫様の世話をする。

想像してみて、ギルバートは思わず吹き出した。


「ぷっ

 くくくく

 あのイーセリアが、侍女だなんて」

「可哀そうだろ」

「でも、あのいつも眠そうなのが、姫様の世話を出来るのか?

 逆に世話になりそうだぞ」

「あー…

 それは否定できないな」


二人はそれから、一頻り笑っていた。

笑い疲れた頃には、ギルバートはすっかり元気になっていた。


「よし

 二人が安心して王都に来れる様に、兵士達をしっかり鍛えよう」

「その意気だ」


ギルバートは気合を入れて、パンを頬張ってからスープで飲み込む。

そうして昼食を平らげると、再び修練場に向かう事にした。


「私は騎士達の様子を見に行くが、アーネストはどうする?」

「ボクは魔術師ギルドに用があるから」


「ギルドに?」

「ああ

 魔力の強化と魔法の指導

 当面はこれに着きっきりだ」

「良いのか?」

「ああ

 魔物が来る可能性が増えたんだ

 魔術師も強化する必要がある」


それはダーナから来る途中で、二人が悩んでいた事だ。

迂闊に強化をすれば、周辺国から危険視されて、最悪攻め込まれる口実にされる。

しかし強化を怠れば、遠からず王国は魔物に攻め滅ぼされるだろう。

その辺のバランスを考えて、一先ずは騎士や兵士の強化を行う予定であった。


しかし将軍からの報せで、魔物が増えつつある事が確認出来た。

これがゴブリンやコボルトだけなら問題は無いが、オーガ等が出てからでは遅いのだ。

魔物が現れたという報告がある以上、それに備える必要があるのだ。


「今はもう、やれる事はやっておいた方が良いと思うんだ

 オーガが出てからでは、魔術師を鍛えても間に合わないかも知れないからね」

「そうか

 それならそっちは、任せたぞ」

「ああ」


二人は頷き合うと、それぞれの仕事をする為に向かった。


しかし、ギルバートが修練場に着いた頃には、騎士達は昼食に向かっていた。

行き違いになった事を残念に思いながら、ギルバートは隊長に質問した。


「騎士達は修練場ですが、兵士達はどこで訓練していますか?」

「兵士ですか?

 警備兵なら王都入り口付近の宿舎に、兵士用の訓練場があります

 しかし王都の兵士となれば、王城内の訓練場か、王城の傍の兵舎にある訓練場ですね」

「そうですか」


隊長は答えはしたが、ギルバートが何をするつもりか気になって、質問をした。


「訓練場など聞かれて、如何なさるおつもりで?」

「兵士達の訓練を見てみたいんです」

「殿下がですか?」

「はい」


「うーむ」


隊長は唸って、それは難しいと判断していた。

ダーナではどうなっているのか分からないが、王都ではそれぞれの管轄の隊長が居る。

そこへ王太子とはいえ、ギルバートが見に行くには色々と問題があった。


「事前にお話しがあれば良いのですが

 急に行けば、兵士は驚きますよ」


驚くとは言ったが、実際は嫌がると言った方が早い。

兵士や隊長にもプライドがあり、例え国王でも、気軽に見に行く事は嫌がられるのだ。


「そうですか…」

「ええ」


隊長にそう言われると、ギルバートも迂闊には訪ねられなくなる。

しかしスキルや身体強化の事を考えると、一度しっかりと指導した方が良い気がしていた。


「事前に伝える必要があるんですか?」

「はい」

「でしたら、明日にでも伺うと伝えておけば…」

「まあ、向こうが反対しなければ可能でしょう」

「そうですか」


ギルバートは、夕食の折にでも国王に相談しようと思った。

宰相が本を手配して、情報は届いているとは思う。

それでも効率を考えれば、ギルバートかアーネストが一度指導した方が良いのだ。

現に本を見ただけでは、騎士団もまともに訓練が出来ていなかった。

早急に魔物に対抗する兵力を蓄えるのなら、しっかりとした指導が必要だろう。

ギルバートはそう思って、兵士達を指導する事を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ