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聖王伝  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第167話

国王と少し話してから、ギルバートは貴族との歓談をしていた

それは王都での暮らし方と、ダーナでの魔物との戦いの話であった

特に年若い貴族にとっては、ギルバートは憧れの存在であった

強力な魔物の話も魅力的であったが、それよりも魔物との戦いの話に興奮していたのだ

その代わりに、ギルバートは王都での生活で気を付けるべき事を教わっていた

そうして暫く歓談を楽しみ、時刻はそろそろ夕刻になろうかとしていた

昼に始まったパーティーも、夕刻でお開きとなった

貴族達は各々の部屋に戻って、部下達から報告を受けていた

ギルバートも部屋に戻ると、アーネストと話し合いをしていた

謁見は終わったが、まだ報告する事が残っているからだ


「本当に良かったのか?」

「ん?」


「国王様に…

 本当の父親に会えたんだぞ」

「ああ」


アーネストの問いかけに、ギルバートは寂し気な顔をして答えた。

確かに父や母に会えたのだ、嬉しくない筈が無いのだ。

しかし心の中のどこかで、まだアルベルトを父と認識している自分が居る。

こんな気持ちのままでは、父と呼ぶ事は出来なかった。


「今のままでは…」

「そうか」


アーネストはそう答えると、顔を逸らしながら呟く。


「でも、気持ちの整理が付いたら…

 その時は言ってあげてくれ」

「え?」

「言える内に言えない事は…

 きっと後悔するから」


アーネストは呟くと、顔を暫く逸らしていた。

それは泣き出しそうな顔をしているのを、親友に見られたくなかったからだ。


「アーネスト?」

「父が生きていたんだ、それだけでも十分だろ」


アーネストは幼少の頃に、父を失っていた。

だからアーネストには、父と呼べる人がもう一度現れたギルバートが、国王を父と呼べない気持ちが理解出来なかった。

羨ましいと思っていた。


「でも、私には

 オレには父上が父だったんだ」

「それはそうだが…

 失ってからでは、もう呼べないんだぞ」

「そうだが…」


アーネストの言いたい事は理解出来たが、それでも納得出来なかった。

いつかは本当に、この気持ちが整理出来るのだろうか?

ギルバートはそう思いながらも、もやもやした気持ちになっていた。


「それはそうと」


ギルバートまで沈んでいたので、アーネストは慌てて話題を変える事にした。


「国王様は、生贄の件は隠す事にした様だな」

「ん?

 ああ、そうだな」


先の貴族に話した時も、あくまでギルバートが亡くなった為に、代わりに死んだ事にしていた。

それでギルバートの代わりに、アルフリートをギルバートとして育てさせた事になっていた。

これは公式の指令書にも、その様に書かれていたので問題は無い。

問題は無いのだが、その事実は隠されたままなのだ。


「国王様の心中を考えれば、正直に話した方が気が楽だろう」

「そうなのか?」

「ああ」


「国王様は、今でもあの日の事を思い出すそうだ

 きっとお辛いだろうに…」


国王は後悔の念に駆られて、今でも苦しんでいた。

いっそ全てを告白して、王位を譲る事が出来ればどれだけ気が楽だろうか。


「罪を認めて告白出来れば…

 或いは王位を譲って下がれれば

 いつもそう思っているそうだ」

「そうか」


ギルバートはそう答えてから、ふと疑問に思った。


「そう思っているそうだって、誰から聞いたんだ?」

「ああ

 ヘイゼル様だよ

 実は今朝ね、少しお話ししたんだ」

「ヘイゼル様?

 宮廷魔術師の?」

「ああ」


アーネストは今朝の、ヘイゼルとの会話を語った。


「ヘイゼル様も、あの件の当事者だ

 ガストン老師とヘイゼル様が、君を殺させない様に封印していたんだ」

「老師と宮廷魔術師様が…」


「この後、国王様からお話があるかと思う

 その時に、あまり思い詰めないでくれよ」

「どういう意味だ?」


「それは…

 お前が守られた意味を知って、苦しまないで欲しいって事だ」

「守られた…意味?」

「ああ

 詳しくは国王様から聞いてくれ」


「待て

 お前も知っているんだろう?」

「ああ、知っている」

「なら!」

「知っているが、ボクの口からは話せない」


アーネストは答えを知りながら、それが話せないと言った。

それは国王に対する遠慮もあったが、何よりも当事者が事実を伝えるべきだからだ。

本人でなくては伝えられない事もあるからだ。


二人が話していると、ドアがノックされた。


コンコン!

「はい」


ギルバートが答えたのを確認して、ドアが開かれた。

そこには執事のドニスが立っていて、丁寧に礼をしてきた。


「ギルバート様

 アーネスト様

 国王様がお呼びです」

「分かりました」


「本当はギルだけが行くべきだが…」

「アーネスト?」


「そういうわけにも行かないか」

「当然だ

 君にも来て欲しい」

「そうだな、ボクも報告すべき事があるからな」


アーネストが頷き、二人でドニスの後を着いて行く。

そこは謁見の間ではなく、執務室の様な場所であった。


「よく来てくれた」

「お二人共、先ずはそこへお掛けください」


そこには国王だけではなく、宰相と老人が同席していた。


「彼はヘイゼルと言って、この国の宮廷魔術師である」

「ヘイゼルじゃ

 よく来なすったのう」


ヘイゼルが礼をして、一同が席に着いた。

それで準備が整ったのか、国王が話し始めた。


「さて

 集まっていただいたのは他でもない

 実は話したい事があってな」


前置きをしてから、国王は話し始めた。


「先に話した事ではあるが、ギルバートの…

 いや、ややこしいな」


少し考えた後で、国王は言い直した。


「アルフリートが亡くなった経緯について話そうと思う」

「はい」



「先ずはどうして、お前が死ななければならなかったか

 そこから話そう」


国王はそう言うと、宰相から1枚の書類を受け取った。

それを机の上に置いてから、話を続けた。


「お前が産まれた日は、国中が喜びに包まれていた」


国王はその日を思い出して、懐かしむ様に目を細めていた。


「お前が産まれる前は、エカテリーナはそれはそれは痛がってな

 ワシはハラハラしながら待っておった」


「それが産まれてすぐにな、この書面が届いたのじゃ

 出所は女神聖教の、王都の教会からじゃった」


そう言って国王は、書類をギルバートの前に置いた。

ギルバートはそれを受け取ると、書面に目を通した。


そこには女神様からの神託が降り、重要な報せがあったと記されていた。

内容を要約すると、産まれた王太子が呪われた子供で、このまま育てば国が亡びる原因になる。

その為に、すぐにでも生贄として殺す様に告げられたと記されていた。

その下に、当時の司祭からの言葉が記されている。


こんな目出度い日に、報せる内容では無いのですが、女神様からの神託でしたので無視できませんでした

私は従いたくないのですが、如何したらよろしいでしょうか?


そういった事が記されていて、司祭も苦悩していた事が窺えた。


「これは…」

「当時の教会の司祭より、急ぎの報せとして届いた」


「ワシは苦悩した

 何せやっと産まれたお前を、すぐに殺せと言われたのだ

 到底従える内容では無かった」


国王は当時を思い出し、拳を握り締めた。


「当時の宰相はサルザートでは無くてな

 その宰相と相談して、ヘイゼルとガストンに相談したんじゃ」

「そう…ですか」


ギルバートは呆然として、書類を見詰めていた。

自分が産まれた日に、殺せという神託が降されたのだ。

理解しろと言うのは無理だろう。


「ヘイゼルとガストンからの返答は、取り敢えずは封印をしようという話であった」

「そこはワシが説明しよう」


ヘイゼルが封印について話し始めた。

それはギルバートが予想していた内容とは違っていた。


「先ずは封印についてじゃが

 封印と言っても、魔物を寄せ付けなくする女神様の封印とは、また違う物じゃ」

「え?」


「封印とする事によって、その対象が生きているのか分からなくする事が出来る

 しかし封印なのでな、死んだも同然の状態になるのじゃ

 ワシ等はそうやって、取り敢えずは王子は死んだ事にしたのじゃ」

「そんな事が出来るのですか?」

「ああ

 しかし氷漬けにするのと同じで、息をする事も成長する事も無い

 ただ生きているだけで、死んでいるのと変わらない状態じゃった

 そうして時を稼ぎ、対策を練っておったのじゃ」


二人が行った封印が、本物のギルバートを犠牲にしたと聞いていた。

だからギルバートは、真実が違った事に胸を撫で下ろした。


「良かった

 父上の話では、代わりに死んだ子供が居たと聞いていました

 そんな事は無かったんですね」

「そうじゃな

 ここまでが表向きな話じゃ」

「へ?」


ヘイゼルは溜息を吐くと、カップの茶を飲み干した。

それから重苦しい雰囲気で、その話の続きを始めた。


「そもそもが封印とは、生きた者をそのままの状態で時を止める魔法なのじゃ

 そなたはそのままの状態で、赤子のまま育たないでいた

 それを悔いてな

 陛下は3年経っても目途が立たないのなら、諦めるつもりでいた…」

「諦めるって…」

「そう

 息子の命を絶ち、自らも王位を退こうと考えておった」


ヘイゼルの言葉を聞き、ギルバートは胸が張り裂けそうであった。

国王は自分を本当に愛してくれていて、自身の進退も賭けていたのだ。

そんな国王を見ると、国王は哀しそうにギルバートを見詰めていた。


「そんな折に、アルベルトからジェニファーが懐妊したと報せが届いた

 アルベルトは自分だけが幸せになるのはと、苦しみながら報告して来た」


アルベルトはギルバートが産まれる時、従弟であり親友でもある国王が苦しんでいるのを知っており、その事で負い目を感じていた。


「そこでフェイト・スピナーの登場じゃ」

「え?」


「赤い服を着た男が、耳寄りの情報があると尋ねて来たのじゃ」

「エルリック…」

「うむ」


フェイト・スピナーという予想外の名が出たが、ヘイゼルは話を続ける。


「エルリックはアルベルトに、自分の息子を犠牲にする覚悟はあるかと聞いて来た

 それを聞いたアルベルトは、一も二も無く飛び付いた

 それほどワシ等は追い詰められていたのじゃ」

「しかし、だからと言って、赤ん坊を犠牲にだなんて…」


「勿論それだけでは無いぞ

 エルリックは何でアルフリートが殺されるべきだと言われたか、それも説明してくれた

 それは帝国の血筋に関わる問題じゃった」

「血筋…

 それは一体、何なんでしょうか?」


「それはな

 ハルバート様とエカテリーナ様は、共に帝国の初代皇帝の血筋に当たったのじゃ」

「え?」

「つまりな、初代皇帝の血に秘密があったのじゃ

 それが原因でな、お前は危険な存在と認識されていたのじゃ」

「危険な存在って…」


「覇王の卵

 お前も聞き及んでおろう?」


ギルバートはアーネストの方を見る。

アーネストが頷くのを見て、既に話している事を確認した。


「ヘイゼル様は、覇王の卵の事をご存知なのでしょうか」


しかしヘイゼルは、静かに首を振った。


「ワシ等が知っておったのは、皇帝の血が強力な事だけじゃ

 古代の英雄の血筋が、何代も掛けて受け継がれたのが皇帝であった

 だからそなたの身体にも、その血が流れていると聞けば、それは納得が行く事ではあった」

「英雄の血…」


「そう

 英雄の血じゃ」

「しかし英雄の血は、時には狂気の化け物も生み出していた

 過去には破滅の王と呼ばれる男も居て、一つの国を一夜にして滅ぼしたと伝えられている

 それを思えば、女神様の神託も納得がいく物じゃった」


国王の言葉は、重みがあった。

それは物語の話だが、実際にあったのではと学者が研究している物語でもある。

物語が真実であるなら、その血は危険を孕んでいる事になる。

ギルバートは改めて、自分がアモンに向かって行った時の事を思い出していた。


「私がアモンに挑んだ時、私は私では無くなっていた

 あれが狂気の化け物と言うのなら…」

「それは違う」

「え?」

「あれは封印が生み出した予想外の産物

 フェイト・スピナーですらも、それは予見出来ていなかった」


「どういう事ですか?」


ギルバートの問いかけに、ヘイゼルは黙って腕を組んでいた。

代わりに国王が口を開き、苦しそうに呟いた。


「これから話す事は、お前には辛い事になるだろう

 恐らくワシだけではなく、アルベルトも憎む様になるかも知れない

 それでも…聞くか?」


国王の言葉に、ギルバートは唾を飲みながら頷いた。

ここまで聞いたのなら、最後まで聞く必要があった。

例えそれが、どんなに残酷な内容であっても、真実を聞く必要があるのだ。


「はい

 お願いします」

「そうか…」


国王は頷いて、ヘイゼルの方を見た、

ヘイゼルも片目を空けて頷くと、溜息を吐きながら話し始めた。


「フェイト・スピナーがもたらした情報とは、封印の解除では無かった

 封印をしたまま、生きて過ごせる方法じゃった」

「それは…」


「封印を肩代わりする者が居れば良いのじゃ」


それを聞いたギルバートは、思わず息を吐いた。

殺すのではなく、ギルバートとして産まれた赤子が、封印を肩代わりをすると思ったのだ。

しかしそれならば、何で赤子は死んだのか?

疑問に思っていると、ヘイゼルは首を振った。


「ワシ等も最初、そうだと思っていた」

「え?」


「赤子が封印を代わりに受けると聞いて、そのまま封印を移すと思っていた

 じゃが…違っておった」


ヘイゼルは辛そうに目を閉じて、あの日を思い出しながら続けた。


「封印をしたまま生かすには、直に封印するのではなく、身代わりをその者の周辺に置く

 つまり…」

「つまり?」

「赤子を殺して、その血と魂をアルフリートに捧げるのじゃ」

「な!」


「その捧げられた血が封印の代わりを果たし、魂が封印された者の身代わりとなる

 それでアルフリートは生き返り、悪しき血の封印は果たされる」

「そ、そんな事…」


「当然、許される事では無い

 ワシ等は諦めて、それは止めようと言った」

「しかしアルベルトは、それを行った」


国王は溜息を吐きながら、悲しそうに呟いた。


「アレはずっと苦しんでおった

 ワシとエカテリーナの姿を見て、どうにかしなければと思ったのじゃ

 今思えば、あの時ワシが、王城を離れていなければ」

「陛下

 それはしかたありません

 帝国が復興を果たそうと集結していました

 陛下が動いていなければ、この国は滅んでいたかも知れません」


それが何だったのかは知らないが、国王は王城を離れていた。

その事でアルベルトが暴走して、封印の儀式を行ったのだ。

聖教王国の歴史に記されていない以上、何が起きていたかは分からないが、相当な事が起きていた様だった。


「ワシが戻った時には、事は終わった後であった

 じゃから詳細は、ヘイゼルとガストン

 それからアルベルトしか知らない」


ヘイゼルが頷いて、ギルバートを正面から見詰める。


「聞くお覚悟は…」

「はい」


ギルバートが頷き、ヘイゼルはあの日の出来事を話し始めた。

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